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悩んでいたわたくしの手を誰かが掴んでそのまま抱き寄せられた。
あれ? っと思って見てみるとそこには見覚えのある顔で。わたくしが知っている人よりもだいぶ大人になったみたいだけれど。
「僕の恋人になんか用?」
「なんだてめぇ。急に割って入りやがって」
「やってやるよ」
殴りかかってくる男達に思わず目を瞑る。なんだか聞いちゃいけない音が聞こえた後で、急に静かになってしまって目を開けてみると、見事に床に沈んでいる男が二人。
驚いて目をパチパチさせていると上から声が降ってきた。
「大丈夫?」
声の主を見上げるとやっぱりあの男の子だった。
「間違っていたらごめんなさい。あなた……アーティ?」
「正解。久しぶりだね」
よかった。あっていたわ。間違えてたら失礼だものね。無駄に記憶力のいいわたくしの頭に感謝しなくちゃっ。
「本当に久しぶりね。十歳の頃にあっただけだから……六年ぶりよね?」
「そうだね。覚えていてくれてよかったよ」
「わたくし記憶力には自信があるのよ」
二人笑い合っている間に警備兵の方がいらしてあの二人を何処かに連れて行ったわ。そういえば忘れてたわ。
「それよりなぜ一人で? 侍女も連れていないなんて危ないよ」
「そうなんだけれど、これには事情があるのよ」
長くなりそうだったので近くのカフェへ二人で入った。カフェに入った途端お店の中にいる女性達の視線が一気に彼に向かう。そうよね。とても見目麗しいもの。
それにわたくしの周りの男性陣の中には珍しい浮気性じゃない人だもの。人気なのは頷けるわ。
「何頼む?」
そこのカフェは今ご令嬢達の間でも話題のところで、何を食べても美味しいみたい。ケーキとタルト、どっちがいいかしら……迷うわ。
あ、でも今度来た時にまた違うのを頼もうかしら。
「そうねぇ、チョコレートケーキにしようかしら」
「じゃあ僕はタルトを頼もうかな。食べたかったんでしょう?」
「なんでわかったの?」
「んー、視線? まあ、とりあえず侍女がいない理由を聞いても?」
それからわたくしは我が家の事情を話したの。本当はあまり話すような内容ではないのだけれど、噂でかなり広がってしまっているし、今更隠すようなことでもない。それに家計が火の車なのは主にお母様とライラの浪費癖のせいだもの。
お父様もお母様やライラのわがままを叶えるために外で稼いでいるみたい。まあ、微々たるものなのだけれど。元々は仕事はかなり出来る人だったみたいだけれど、それを上回る浪費癖の妻と娘を持ってしまったがためにこんな目に遭うなんて、女を見る目がないのね……
わたくしも人のこと言えないんだけれど。
まだ借金をするまでに至らないのはお父様のおかげね。本当あの親子には呆れるわ……
「そんなことになっていたんだ。大変だね。アリアは大丈夫なの?」
「わたくしは十歳の頃からオリーブと一緒に商売をして稼いでいるのよ。だから大丈夫」
「そうなんだね。出会った頃からしっかりした子だなって思っていたけど、変わってないね」
「あなたこそ、歳のわりに妙に大人びていたわよ」
お互いくすくす笑い合う。なぜか一度きり、しかもあの後わたくしは意識を失っていたのにそこまで見られているなんてね。
それからわたくし達は今までのことをお互いに話し合っていた。
どうやらアーティは隣国、オルビス国から来ているみたい。どうやらお仕事できているみたいで、しばらくはこちらに滞在するみたい。
「そうだ。アリア、今日みたいに一人で出かけるなら僕も一緒に行くから声かけてよ」
「え? でも悪いわ。それにあなたへ連絡する手段がないもの」
流石にそこまでしてもらうのは申し訳ないわ。彼、お仕事で来ているみたいだし。それに一緒にいるととても目立つのよね……
あまり一緒にいるところを見られるのはよくないと思うの。腐ってもまだ、イアン王子の婚約者だもの。
「それなら、学園にアーサーっているだろう? 僕の知り合いだから彼に伝えてもらったらいいよ」
「でも……わたくし、イアン王子の婚約者なのよ? あまり異性と二人でいるのは」
「大丈夫。僕の護衛も連れてくるから」
護衛も連れてきてくれるのね。それなら、二人きりじゃないしいいかしら?
お仕事もあるし、化粧品の開発にも時間を使いたいから滅多に外出はしないと思うのだけれど、彼の好意はありがたく受け取っておくことにした。
わたくしのことを心配してくれているのよね。その気持ちを無碍にするのもまた失礼に当たってしまうもの。
「わかったわ、ありがとう」
にこりとお礼を言うと彼も笑顔を返してくれる。一瞬その笑顔にくらりとしたけれど、まだ、イアン王子の婚約者よっと気を引き締めた。
悩んでいたわたくしの手を誰かが掴んでそのまま抱き寄せられた。
あれ? っと思って見てみるとそこには見覚えのある顔で。わたくしが知っている人よりもだいぶ大人になったみたいだけれど。
「僕の恋人になんか用?」
「なんだてめぇ。急に割って入りやがって」
「やってやるよ」
殴りかかってくる男達に思わず目を瞑る。なんだか聞いちゃいけない音が聞こえた後で、急に静かになってしまって目を開けてみると、見事に床に沈んでいる男が二人。
驚いて目をパチパチさせていると上から声が降ってきた。
「大丈夫?」
声の主を見上げるとやっぱりあの男の子だった。
「間違っていたらごめんなさい。あなた……アーティ?」
「正解。久しぶりだね」
よかった。あっていたわ。間違えてたら失礼だものね。無駄に記憶力のいいわたくしの頭に感謝しなくちゃっ。
「本当に久しぶりね。十歳の頃にあっただけだから……六年ぶりよね?」
「そうだね。覚えていてくれてよかったよ」
「わたくし記憶力には自信があるのよ」
二人笑い合っている間に警備兵の方がいらしてあの二人を何処かに連れて行ったわ。そういえば忘れてたわ。
「それよりなぜ一人で? 侍女も連れていないなんて危ないよ」
「そうなんだけれど、これには事情があるのよ」
長くなりそうだったので近くのカフェへ二人で入った。カフェに入った途端お店の中にいる女性達の視線が一気に彼に向かう。そうよね。とても見目麗しいもの。
それにわたくしの周りの男性陣の中には珍しい浮気性じゃない人だもの。人気なのは頷けるわ。
「何頼む?」
そこのカフェは今ご令嬢達の間でも話題のところで、何を食べても美味しいみたい。ケーキとタルト、どっちがいいかしら……迷うわ。
あ、でも今度来た時にまた違うのを頼もうかしら。
「そうねぇ、チョコレートケーキにしようかしら」
「じゃあ僕はタルトを頼もうかな。食べたかったんでしょう?」
「なんでわかったの?」
「んー、視線? まあ、とりあえず侍女がいない理由を聞いても?」
それからわたくしは我が家の事情を話したの。本当はあまり話すような内容ではないのだけれど、噂でかなり広がってしまっているし、今更隠すようなことでもない。それに家計が火の車なのは主にお母様とライラの浪費癖のせいだもの。
お父様もお母様やライラのわがままを叶えるために外で稼いでいるみたい。まあ、微々たるものなのだけれど。元々は仕事はかなり出来る人だったみたいだけれど、それを上回る浪費癖の妻と娘を持ってしまったがためにこんな目に遭うなんて、女を見る目がないのね……
わたくしも人のこと言えないんだけれど。
まだ借金をするまでに至らないのはお父様のおかげね。本当あの親子には呆れるわ……
「そんなことになっていたんだ。大変だね。アリアは大丈夫なの?」
「わたくしは十歳の頃からオリーブと一緒に商売をして稼いでいるのよ。だから大丈夫」
「そうなんだね。出会った頃からしっかりした子だなって思っていたけど、変わってないね」
「あなたこそ、歳のわりに妙に大人びていたわよ」
お互いくすくす笑い合う。なぜか一度きり、しかもあの後わたくしは意識を失っていたのにそこまで見られているなんてね。
それからわたくし達は今までのことをお互いに話し合っていた。
どうやらアーティは隣国、オルビス国から来ているみたい。どうやらお仕事できているみたいで、しばらくはこちらに滞在するみたい。
「そうだ。アリア、今日みたいに一人で出かけるなら僕も一緒に行くから声かけてよ」
「え? でも悪いわ。それにあなたへ連絡する手段がないもの」
流石にそこまでしてもらうのは申し訳ないわ。彼、お仕事で来ているみたいだし。それに一緒にいるととても目立つのよね……
あまり一緒にいるところを見られるのはよくないと思うの。腐ってもまだ、イアン王子の婚約者だもの。
「それなら、学園にアーサーっているだろう? 僕の知り合いだから彼に伝えてもらったらいいよ」
「でも……わたくし、イアン王子の婚約者なのよ? あまり異性と二人でいるのは」
「大丈夫。僕の護衛も連れてくるから」
護衛も連れてきてくれるのね。それなら、二人きりじゃないしいいかしら?
お仕事もあるし、化粧品の開発にも時間を使いたいから滅多に外出はしないと思うのだけれど、彼の好意はありがたく受け取っておくことにした。
わたくしのことを心配してくれているのよね。その気持ちを無碍にするのもまた失礼に当たってしまうもの。
「わかったわ、ありがとう」
にこりとお礼を言うと彼も笑顔を返してくれる。一瞬その笑顔にくらりとしたけれど、まだ、イアン王子の婚約者よっと気を引き締めた。
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