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ある日、お母様とライラの様子が少しおかしくて、いつもならずっとおしゃべりしている朝食も早々に切り上げて自室へ戻っていた。
あ、もしかして……
そう思い、玄関に向かう。
「アリアちゃん! 久しぶりねぇ」
「アリア、久しぶり。元気だった?」
「オルノア伯母様、ネルト! お久しぶりですね。さ、こちらへ」
予想は的中していた。オルノア伯母様はお母様のお姉様で、隣国のオルビス国にある伯爵家へ嫁いだと聞いている。ネルトは伯母様の息子でわたくしの従兄にあたるの。
あの二人の反応の通りで、お母様は叔母様とは仲が悪いみたい。どうやら伯母様とお母様はわたくしとライラのような関係だったみたいで、わがまま放題、浪費癖の激しいお母様のことがあまり好きじゃないみたい。
そして必然的にお母様に似たライラのことも好きではないのだとか。けれど、力関係は歴然で伯母様の方が強いから何も言えずに逃げ回るというのがわたくしが物心ついた頃からの日常でもあった。
オルビス伯母様と従兄弟のネルトはわたくしにとても良くしてくれていて、こうしてたまに会いにきては近況を聞きに来てくれる良きお話相手でもあるの。
「そういえば、第三王子と婚約したと聞いたのだけれど、本当? 私心配で来てしまったのよ」
「こちらでも話題になっていてね。あの王子が婚約者を決めたと。大丈夫かい?」
ああ、なんて優しいのかしら。というかあの王子、まだ公務はあまりしていないのに噂になるなんて一体何をしているのかしら……
「少し困ったことになっていますわね。ですけれど、今いろいろとやっている最中なのです」
「まぁ……私達で協力できることがあればいくらでも協力するわ。詳しく教えてくださる?」
そこから、これまでのことを伯母様とネルトに話す。婚約者になったこと、あまり良くない人であること、妹と少し関係性があること。
ついでにもしものための資金作りに化粧水を作っていること。
伯母様が一番食いついたのが化粧水で、お試しサイズのものを一つお渡しした。肌に合わないと大変なので、少しだけ。それから従兄のネルトは少し考え込んでいる様子だったけれど。
「アリア、学園に入るまでは頑張ってもらえる? きっといい方向へ進むから」
意味深なネルトの言葉に首を傾げながらも頷く。一体どういうことかしら……
「また来るわ。何かあったらいつでもうちにいらっしゃい」
「またね」
「ありがとうございます。またお待ちしていますね。あ、あと化粧水の感想もぜひ!」
笑顔で二人を見送って玄関に戻るとそこには顰めっ面をしたお母様とライラ。
「やっと行ったわね。本当何をしに来るのかしら」
「お母様のお姉様でしょう?」
「うるさいわね。あなたこそさっさと殿下へお手紙でも書きなさいよ。婚約破棄なんてされたら家から追い出してやるんだから」
「そうですよぉ。婚約破棄されないように気をつけないとぉ」
ライラはニヤニヤしながらわたくしをみてくるけれど、一体何に対してのマウントなのかしら。全く望んでもいないし欲しいならいくらでもあげるのだけれど。
まあ、どうでもいいわ。
スタスタと去っていくわたくしにお母様とライラ様は悪態をついていた。本当そっくりな親娘ね。
そのままわたくしが向かったのは自室。棚の中に隠してある小瓶を一つ取り出し、再び門まで向かった。そこにいたのは御者のマルス。彼は良く出かけるわたくしを馬車に乗せてくれるの。
日頃のお礼も兼ねて、あるものを渡した。
「いつもありがとう。少し手が荒れているみたいだから、これ、使ってみて? 使ったら是非感想を聞かせて欲しいの」
「お嬢! こんな御者ごときにいただけるなんて……ありがてぇ」
「いいのよ。いつものお礼だもの。それより感想は正直にお願いね。いいものを作りたいのよ」
「わかりました。それでは使わせていただきます」
本当にうちの使用人達はとてもいい人ばかりで、とても暖かい。家族の中でも一人だけのけものにされているわたくしにも優しくしてくださるの。
大切にしなくちゃ。
ついでに男性向けの商品の開発も捗るし、ちょうどいいわ。
こうして、今日もマイペースに目標に向かってコツコツ商品開発を進めていった。
ある日、お母様とライラの様子が少しおかしくて、いつもならずっとおしゃべりしている朝食も早々に切り上げて自室へ戻っていた。
あ、もしかして……
そう思い、玄関に向かう。
「アリアちゃん! 久しぶりねぇ」
「アリア、久しぶり。元気だった?」
「オルノア伯母様、ネルト! お久しぶりですね。さ、こちらへ」
予想は的中していた。オルノア伯母様はお母様のお姉様で、隣国のオルビス国にある伯爵家へ嫁いだと聞いている。ネルトは伯母様の息子でわたくしの従兄にあたるの。
あの二人の反応の通りで、お母様は叔母様とは仲が悪いみたい。どうやら伯母様とお母様はわたくしとライラのような関係だったみたいで、わがまま放題、浪費癖の激しいお母様のことがあまり好きじゃないみたい。
そして必然的にお母様に似たライラのことも好きではないのだとか。けれど、力関係は歴然で伯母様の方が強いから何も言えずに逃げ回るというのがわたくしが物心ついた頃からの日常でもあった。
オルビス伯母様と従兄弟のネルトはわたくしにとても良くしてくれていて、こうしてたまに会いにきては近況を聞きに来てくれる良きお話相手でもあるの。
「そういえば、第三王子と婚約したと聞いたのだけれど、本当? 私心配で来てしまったのよ」
「こちらでも話題になっていてね。あの王子が婚約者を決めたと。大丈夫かい?」
ああ、なんて優しいのかしら。というかあの王子、まだ公務はあまりしていないのに噂になるなんて一体何をしているのかしら……
「少し困ったことになっていますわね。ですけれど、今いろいろとやっている最中なのです」
「まぁ……私達で協力できることがあればいくらでも協力するわ。詳しく教えてくださる?」
そこから、これまでのことを伯母様とネルトに話す。婚約者になったこと、あまり良くない人であること、妹と少し関係性があること。
ついでにもしものための資金作りに化粧水を作っていること。
伯母様が一番食いついたのが化粧水で、お試しサイズのものを一つお渡しした。肌に合わないと大変なので、少しだけ。それから従兄のネルトは少し考え込んでいる様子だったけれど。
「アリア、学園に入るまでは頑張ってもらえる? きっといい方向へ進むから」
意味深なネルトの言葉に首を傾げながらも頷く。一体どういうことかしら……
「また来るわ。何かあったらいつでもうちにいらっしゃい」
「またね」
「ありがとうございます。またお待ちしていますね。あ、あと化粧水の感想もぜひ!」
笑顔で二人を見送って玄関に戻るとそこには顰めっ面をしたお母様とライラ。
「やっと行ったわね。本当何をしに来るのかしら」
「お母様のお姉様でしょう?」
「うるさいわね。あなたこそさっさと殿下へお手紙でも書きなさいよ。婚約破棄なんてされたら家から追い出してやるんだから」
「そうですよぉ。婚約破棄されないように気をつけないとぉ」
ライラはニヤニヤしながらわたくしをみてくるけれど、一体何に対してのマウントなのかしら。全く望んでもいないし欲しいならいくらでもあげるのだけれど。
まあ、どうでもいいわ。
スタスタと去っていくわたくしにお母様とライラ様は悪態をついていた。本当そっくりな親娘ね。
そのままわたくしが向かったのは自室。棚の中に隠してある小瓶を一つ取り出し、再び門まで向かった。そこにいたのは御者のマルス。彼は良く出かけるわたくしを馬車に乗せてくれるの。
日頃のお礼も兼ねて、あるものを渡した。
「いつもありがとう。少し手が荒れているみたいだから、これ、使ってみて? 使ったら是非感想を聞かせて欲しいの」
「お嬢! こんな御者ごときにいただけるなんて……ありがてぇ」
「いいのよ。いつものお礼だもの。それより感想は正直にお願いね。いいものを作りたいのよ」
「わかりました。それでは使わせていただきます」
本当にうちの使用人達はとてもいい人ばかりで、とても暖かい。家族の中でも一人だけのけものにされているわたくしにも優しくしてくださるの。
大切にしなくちゃ。
ついでに男性向けの商品の開発も捗るし、ちょうどいいわ。
こうして、今日もマイペースに目標に向かってコツコツ商品開発を進めていった。
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