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 オリーブの実家では、様々な商品に手を出しているそうで、その中でもわたくしは精油工場にお邪魔することにした。
 なぜ精油工場なのかというと、そこであるものを使って簡単に化粧水を作ることができることを知っているから。
「いい香りね」
「そうだね。女性には需要が高いものが多いの」
 この時代の精油は様々なものに使われているの。例えば香水、体に塗るボディオイルなど。ただし、わたくしのお目当てはその精油ではなく……
「ねえ、オリーブ。この精油の製造過程で作られるフローラルウォーターはどうしてるの?」
「んー、一応使える分は使うけど、余っちゃうことが多いかな。余った分は破棄されてる」
「それ、少しもらえるかしら? あ、光毒性のあるもの以外でお願いね。バラなんかがいいわ」
「わかった。バラは需要が高いからたくさん余るのよ。いくらでも持っていって」
「それから、グリセリンとかはある? できればほしいのだけれど」
 オリーブは首を傾げて不思議そうにしながらも頷く。
 フローラルウォーターとグリセリンを入手したわたくしは早速自室に篭り、化粧水作りを始めた。
 作り方は簡単で、フローラルウォーターにグリセリンを少し混ぜるだけ。ただこれだけで手作りの化粧品が完成するの。精油をはじめにグリセリンに混ぜるとさらにいいわね。今回は家にあったバラの精油を使って作ってみたけれど、とてもいい匂い。
 皮膚が荒れるといけないから腕に塗ってみる。スッと染み込んでいって、皮膚にも艶が出ている気がするわ。一応触った手は水で洗ってみたけれど、皮膚が荒れることもないみたい。
 ちょっと使ってみたいわ。それと他の人にも試してもらいたいわね。
「カリン、ちょっとこれを試してみてほしいの。本当は顔に使うものなのだけれど、合わなかったら大変だから、はじめに見えないところで試してみて」
「アリア様の手作りですか? 私なんかが使ってもよろしいので?」
「いろんな人に試してほしいの。だから、協力してくれる?」
「もちろんです! アリア様のお役に立てるのならばっ」
 とても張り切ってくれているみたい。他の使用人やお友達にも試してみてもいいかと言ってくれて、小さい小瓶に入れたサンプルを手渡した。


 後日カリンが使ってみた感想を聞いてみると、とても良かったとご満悦だったわ。他の方々の評価も上々だったけれど、乾燥肌の女性はもう少し保水効果が高いものが欲しいといっていたみたい。
 まあ今回はお試しでバラのフローラルウォーターで作ったのよね。このフローラルウォーターを別のものに変えたら、きっと効果も変わるはず。
 そうと決まったら、いろいろ勉強しなくちゃっ。
 王子妃教育の合間に植物図鑑や、精油についての本を読み漁る。
 それから、今回の試作品をオリーブに手渡して、商品になるかどうか確認してもらったわ。そしたら「絶対売れるわ!」って張り切って商品化に向けて準備をしてくれていた。
 忘れてはいけないけれど、わたくし達はまだ十歳。わたくしに関しては前世の知識もあるし二十年以上生きていたので特に不思議ではないけれど、オリーブはというと、生粋の商人気質で普段からいろいろと手がけているみたいで、行動力もある。
 純粋にすごいわって尊敬するわ。もう一人の幼馴染であるブライアンなんて、やんちゃなのにね。やっぱり女性の方が精神年齢は高いみたい。
 そうして化粧水の商品化が進んでいき、小瓶に入れて販売することになった。なぜ小瓶なのかというとお肌の質によって合う、合わないがあるから、お試しサイズでの販売をすると同時に、早くに化粧水の評価を直接お客様から聞くことができるから。
 本当、商売に関してはオリーブには頭が上がらないわ……


 そうしてわたくしとオリーブが作った化粧水は瞬く間に貴族の間に広がり、今や入手困難な人気商品となった。
 後は意見を聞いて改良してそれぞれにあうものを何種類か作っていくだけね。
 男性向けのものも制作していきたいわ。前世では段々と男性のお肌に対する美意識が高まっていってたもの。もしかしたら、需要があるかもしれない。
 いろいろなアイディアをノートに書き留めながら、眠りについた。



 次の日、イアン王子殿下の訪問があり、わたくしは両親に準備をせかされていた。両親はこのチャンスを何がなんでもつかみたいみたいで躍起になっているわ。
 わたくしはというと大きなため息を一つ。カリンに嗜められたけれどこればかりは気が乗らないもよね……
「アリア! 元気にしてたかい? ああ、いつみても君は美しい……将来が楽しみだ」
 背筋がぞわぞわしてしまって、思わず持っていた扇で顔を隠す。目だけはにっこり笑いながら。
「そうですか。そう言っていただけて光栄ですわ」
 社交辞令さえも言いたくないけれど、一応婚約者として最低限のことはすると決めた以上、頑張らないと。
「そうか! それでは一緒に庭でも散歩しよう」
「……はい、喜んで」
 王子にエスコートされ、庭を散策する。何が悲しくてこんな浮気性の男性と一緒に庭を歩かなくてはいけないのか。思わずため息が出そうになったけれど、ここは我慢よ。当たり障りのない感じで……
「あぁっ、お姉様ぁ。こんなところにいたんですねぇ。あれ、こちらは……」
「ライラ……先にご挨拶なさいな。こちらはイアン王子殿下です」
「まぁぁ! こんなところでお会いできるなんてこうえいですぅ。お姉様の妹のライラと申しますぅ」
 ああ、妙にくねくねして猫撫で声ね。本当にわかりわすい妹だこと。そして殿下……鼻の下が伸びているわ。全く、顔が良ければ誰でもいいのかしら……
「アリアには妹がいたのか。ライラと言ったな。随分と可愛らしいな。将来の義妹になるのだ、よろしく」
「はいぃ、末長くよろしくお願いしますぅ」
 はあ……もうすっかり二人の世界ね。まあでも早くに関係を深めてくれればもしかしたら破棄が早まるかもしれないわ。我慢よ、我慢。
「あら、殿下。妹が気に入ったようですわね。どうぞ二人でお庭を散策なさったらどうです?」
「そ、そうか。アリアがいいというなら……ライラ、行こうか」
「はいっ。王子様ぁ」
 彼らに背を向けて歩き出す。ちょうどよく妹が来てくれて助かったわ。これ以上あの人と一緒にいたくなかったもの。
 仲良く庭を散策する彼らをみてほくそ笑みながら、本を開いた。
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