上 下
24 / 30
本編

24.文化祭本番っ

しおりを挟む
 お化け屋敷を出て、ほっと一息つく。や、やっと終わった……
「役得だったね。もう一回入る?」
「遠慮しますっ」
 中からは女生徒の悲鳴が聞こえてくる。もう、いい……
 くすくす笑っている彼を軽く睨みつけて、手を引っ張って次に行くように促した。

 そういえば、そろそろお腹がすいたなぁ……
 ちらりと横を見ると食べ物の屋台のようだ。メニューは見事に揚げ物のオンパレードで。唐揚げ、ポテト、ドーナツ。
 ああ。茶色い食べ物ってカロリー高いけど美味しいんだよね……
 でもカロリーが……お肉が……
 いつの間にかじっと見つめてしまっていたのだろう。それを察した彼がスタスタとお店に入っていく。
「何食べる?」
 ああ、どれも懐かしくて恋しい……でも一つにしないと絶対太る……
 葛藤している間に彼が全て一つずつ彼が買ってしまっていた。
「食べたそうにしてたから全部買ってみたけど。上で食べよう」
 食い意地張ってるって思われたみたいで恥ずかしい……
 ちょっと俯きながら彼に手を引かれて生徒会室へ向かった。


「食べたことないけど、意外と美味しいね」
「そうですね。茶色いものは全部美味しいです。太るけど……」
 二人で分け合って食べる。この国ではあまりない調理法で作られたそれらを彼は物珍しそうに口にしていた。そうでしょうよ。日本人ならではのものだもの……
「ルシアはもう少し太った方がいいと思うけど。気にしなくていいんじゃない?」
「うっ。ちょっと太っただけでドレスが入らなくなるっていつも侍女に言われるんですっ。あまり太ると怒られます……」
「そう。女性は大変なんだね。でも今日一日食べ過ぎたくらいじゃ簡単に太らないよ。はい、あーん」
 ナチュラルに食べさせてくるシエル様を拒めず、ついつい口を開ける。はっ。食べてしまった……
 でも、美味しいっ。
 あまりに自然すぎて、世間一般的に人前だと恥ずかしい行為だと言うことをわたしは気づかずにいた。



 ちょっと休憩して、わたし達のクラスへ向かう。展示の受付係だ。中にも数人生徒がいて、作品が傷つかないように見守る係がいる。
 二つ並んだ椅子に腰掛けて、ペンを持つ。受付といっても、人数を男女別に数えるだけなんだけど。わたし達が席に座った瞬間に、たくさんの生徒や外部の人が押し寄せる。
「あ、あの、中見ていいですかっ」
 頬を染めたたくさんの淑女達。どうやら彼女達の目的はシエル様のようだ。彼はそんな彼女達に笑顔のみで答えて次々中に押し込んだ。
 中がぎゅうぎゅうになっているがそこはいいのだろうか……
 わたしはといえばひたすら数を数えていた。彼から「何も喋らなくていいよ。数だけ数えてて」と言われたので大人しく従う。
 おかげで教室前の廊下には長蛇の列ができている。しかし幸いなことに彼女達の目当ては彼と彼の作品のみ。大変回転率が良く、一時間わたしはひたすら数を数えていた。
 時間になって交代の生徒達がくると、さっと引こうとした行列に彼はにこりと作った笑みを貼り付けて「せっかく来ていただいたので是非見ていってくださいね」って後押しをしてわたしと共に教室を後にした。
 ファンサービスも王子の仕事のうちなのかしら。なんて呑気に考えていた。



 次に向かったのはクレープ屋さんだった。ちょうど午後のティータイムと重なっていて中の席はかなり混んでいる。でも美味しそう。食べたい……
「食べる?」
 その言葉に素直に頷いた。デザートは別腹っ。
 片手にクレープを持ちながら今度は執務室。なんで生徒会室じゃないんだろうなんて不思議に思いながら二人並んでソファへ座る。
 ほっぺたが落ちそうなくらい、美味しい……
 夢中で食べているわたしに彼は自分のクレープを差し出した。
「こっちも食べる?」
 そう、わたしと彼は違う味のクレープを買っていた。わたしはいちごチョコ、彼はコーヒー味。た、食べてみたい。カプリとかぶりつく。生クリームの甘みにコーヒーの苦さが相まってとっても美味しい。
 これもこれでありだ。
「僕にもちょうだい」
 わたしももらったから彼にもあげないと。そう思い、スッと差し出す。
「うん、甘いね」
 いやいや、あなたの顔の方が甘いです……
 というか、これは世間一般的にラブラブなバのつくカップルしかやらないんじゃ……って思ったけど、彼のご機嫌がいいので、知らないふりをしておこう。
 黙々と食べているとふと彼の指がわたしの口の端を拭う。
「ついてたよ」
 そういって彼はその指をぺろりと舐める。じっとみていたわたしは妙な色気にドキドキしてしまった。それと同時にいつもの頭痛もきて、ちょっとしたら落ち着いた。
 一体これはなんなんだろう。彼にドキドキするたびに頭痛で気持ちがひいていく。なんだか気持ち悪いな。
 そんなことを思いながら二人仲良くクレープを食べた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔性の大公の甘く淫らな執愛の檻に囚われて

アマイ
恋愛
優れた癒しの力を持つ家系に生まれながら、伯爵家当主であるクロエにはその力が発現しなかった。しかし血筋を絶やしたくない皇帝の意向により、クロエは早急に後継を作らねばならなくなった。相手を求め渋々参加した夜会で、クロエは謎めいた美貌の男・ルアと出会う。 二人は契約を交わし、割り切った体の関係を結ぶのだが――

黒の神官と夜のお世話役

苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

【R18】人気AV嬢だった私は乙ゲーのヒロインに転生したので、攻略キャラを全員美味しくいただくことにしました♪

奏音 美都
恋愛
「レイラちゃん、おつかれさまぁ。今日もよかったよ」 「おつかれさまでーす。シャワー浴びますね」 AV女優の私は、仕事を終えてシャワーを浴びてたんだけど、石鹸に滑って転んで頭を打って失神し……なぜか、乙女ゲームの世界に転生してた。 そこで、可愛くて美味しそうなDKたちに出会うんだけど、この乙ゲーって全対象年齢なのよね。 でも、誘惑に抗えるわけないでしょっ! 全員美味しくいただいちゃいまーす。

義弟の為に悪役令嬢になったけど何故か義弟がヒロインに会う前にヤンデレ化している件。

あの
恋愛
交通事故で死んだら、大好きな乙女ゲームの世界に転生してしまった。けど、、ヒロインじゃなくて攻略対象の義姉の悪役令嬢!? ゲームで推しキャラだったヤンデレ義弟に嫌われるのは胸が痛いけど幸せになってもらうために悪役になろう!と思ったのだけれど ヒロインに会う前にヤンデレ化してしまったのです。 ※初めて書くので設定などごちゃごちゃかもしれませんが暖かく見守ってください。

赤ずきんちゃんと狼獣人の甘々な初夜

真木
ファンタジー
純真な赤ずきんちゃんが狼獣人にみつかって、ぱくっと食べられちゃう、そんな甘々な初夜の物語。

ブラック企業を退職したら、極上マッサージに蕩ける日々が待ってました。

イセヤ レキ
恋愛
ブラック企業に勤める赤羽(あかばね)陽葵(ひまり)は、ある夜、退職を決意する。 きっかけは、雑居ビルのとあるマッサージ店。 そのマッサージ店の恰幅が良く朗らかな女性オーナーに新たな職場を紹介されるが、そこには無口で無表情な男の店長がいて……? ※ストーリー構成上、導入部だけシリアスです。 ※他サイトにも掲載しています。

泡風呂を楽しんでいただけなのに、空中から落ちてきた異世界騎士が「離れられないし目も瞑りたくない」とガン見してきた時の私の対応。

待鳥園子
恋愛
半年に一度仕事を頑張ったご褒美に一人で高級ラグジョアリーホテルの泡風呂を楽しんでたら、いきなり異世界騎士が落ちてきてあれこれ言い訳しつつ泡に隠れた体をジロジロ見てくる話。

処理中です...