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本編
18.秘密の実っ
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「秘密の実とは厄介な」
「そうねぇ。それにおそらく最近まで長期間にわたって効果のあった謎のポーションを使った形跡もあったわ」
二人で話が進んでしまってわたしは訳がわからない。秘密の実って何? それに謎のポーションって……
「ああ、ルシアが混乱してしまっているわね。まずは秘密の実の話からしましょうか」
秘密の実とは、入手困難な木の実なのだという。使うときは実を潰して絞った雫を飲むらしい。その実の効果はある特定の相手への恋心を消し去ってしまうというもので、これはつがいを持つものと紋様を持っているものにしか効果を発揮しないのだとか。この国では禁忌の実とされている。
そしてその薬の解毒薬はまだ研究中でできていないのだとか。
秘密の実の効果は絶大で、例えばつがい同士に使用すると綺麗さっぱり恋愛感情が消えてしまうのだという。他の人には人並みに反応するけど、その相手にだけは何も感じなくなるのだとか。
昔つがい同士に使われる事件も発生したことから取り締まりが強化された。その実の効果を消すためには、大事な記憶を思い出す必要があるらしい。
その実が使われたものの特徴として、一部の記憶がごっそり抜け落ちているのだという。
ちょっと待って。確かにわたしは記憶がごっそり抜けてるわ。ということは、わたしは過去にシエル様に出会っていた……? しかもなんでかその秘密の実を飲んでいるらしい。全く思い出せない……
――本当に?
誰かがわたしに話しかける。けれど全く思い出すことができない。
混乱しているわたしにノーラ様はさらにもう一つの事実を突きつける。
「それと同時に飲んでいたと思われるポーションなんだけど……効果がどのくらい続くかはわからないけど、どうやら紋様を消す効果があるみたい。紋様が消えてしまっているということは同時に匂いも消えているってことね」
紋様が消える……? 確かに十五歳までは紋様は一切なかった。わたしだってつがいがいるなんて全く気づかなかったわ。
頭が痛くなってくる。
ガンガンと強くなっていく痛み。
――思い出して……
だれ? 誰なの……
頭を抱えるわたしをシエル様が抱きしめてくれる。ああ、あったかい。
思い出さないといけない。
思い出さないと……わたしは前に進めない気がする。
「ということは、ルシアは誰かに薬を飲まされて、僕になんの感情も抱けないでいるってこと?」
「そうなるわね。おそらく秘密の実の効果を解かないと一生そのままの可能性もあるわ」
「でもきっと、彼女が忘れている記憶はあれだろう? 思い出させるのは……」
「そうなのよね。彼女はきっとあの事件の被害者。そしてその時にあなたと会っていたのね」
「……これは、どうしたものか」
うっすらとしていく意識の中、シエル様とノーラ様の会話だけがはっきり聞こえてきていて。けれどそこでわたしの意識は飛んでしまった。
「ルシア、大丈夫?」
優しげで、それでいて心配そうなシエル様の声。
あ、わたし……気を失っていたのか。
「大丈夫です……ごめんなさい」
俯くわたしの頭を撫でてくれるシエル様。なんだか物凄く安心する。
「ごめんなさい、ルシア。でもあなたには話しておかないといけないと思って」
申し訳なさそうに話すノーラ様。そんなこと気にしなくていいのに。
「いいえ。ありがとうございます。あの、わたし……思い出してみようと思います」
わたしの言葉に二人とも息を呑む。
「い、いいのか……? 多分ルシアには辛い記憶だと思う」
不安そうに揺れる目をしっかりと見て頷く。
「なんか、思い出さないといけない気がするの。そうじゃなきゃ、前に進めない気がする」
わたしの言葉に二人とも頷いてくれた。その日はとりあえず家に連絡を入れてもらってノーラ様の別荘に泊めてもらったのだった。
お泊まり道具を用意していなかったけれど、ノーラ様が貸してくれて。
次の日また来てくれたシエル様がドレスを持ってきてくれた。
「さて、今日はどこへ行こうか」
二人とも協力してくれるということで、この夏休みを利用して記憶を辿ろうと計画していた。計画したはいいが、わたしはごっそり記憶が抜けていてどうしていいかわからない。
多分、シエル様にドキドキして頭が痛くなったのは秘密の実の効果があったから。
ということはそれ以外で頭痛がしたところ……
「あ、親睦会の時の散策のところ……」
そうだ。あそこで何かを思い出しそうになって頭痛で倒れたんだった。あそこにもう一度行けば思い出すかもしれない。
「あそこへ行くには今からでは夜になるね。王家所有の別荘が近くにあるからそこに泊まろう。ルシアの家には僕から連絡しておくよ。ノーラは」
「わたくしは自分で連絡しますわ」
お互い連絡を終えて旅の準備をする。ノーラ様は使用人達に指示してテキパキ準備している。わたしも準備をと思ったけれど、「向こうに揃えてあるから大丈夫」とシエル様に言われたので、みんなの準備が終わるのをじっと待っていた。
「そうねぇ。それにおそらく最近まで長期間にわたって効果のあった謎のポーションを使った形跡もあったわ」
二人で話が進んでしまってわたしは訳がわからない。秘密の実って何? それに謎のポーションって……
「ああ、ルシアが混乱してしまっているわね。まずは秘密の実の話からしましょうか」
秘密の実とは、入手困難な木の実なのだという。使うときは実を潰して絞った雫を飲むらしい。その実の効果はある特定の相手への恋心を消し去ってしまうというもので、これはつがいを持つものと紋様を持っているものにしか効果を発揮しないのだとか。この国では禁忌の実とされている。
そしてその薬の解毒薬はまだ研究中でできていないのだとか。
秘密の実の効果は絶大で、例えばつがい同士に使用すると綺麗さっぱり恋愛感情が消えてしまうのだという。他の人には人並みに反応するけど、その相手にだけは何も感じなくなるのだとか。
昔つがい同士に使われる事件も発生したことから取り締まりが強化された。その実の効果を消すためには、大事な記憶を思い出す必要があるらしい。
その実が使われたものの特徴として、一部の記憶がごっそり抜け落ちているのだという。
ちょっと待って。確かにわたしは記憶がごっそり抜けてるわ。ということは、わたしは過去にシエル様に出会っていた……? しかもなんでかその秘密の実を飲んでいるらしい。全く思い出せない……
――本当に?
誰かがわたしに話しかける。けれど全く思い出すことができない。
混乱しているわたしにノーラ様はさらにもう一つの事実を突きつける。
「それと同時に飲んでいたと思われるポーションなんだけど……効果がどのくらい続くかはわからないけど、どうやら紋様を消す効果があるみたい。紋様が消えてしまっているということは同時に匂いも消えているってことね」
紋様が消える……? 確かに十五歳までは紋様は一切なかった。わたしだってつがいがいるなんて全く気づかなかったわ。
頭が痛くなってくる。
ガンガンと強くなっていく痛み。
――思い出して……
だれ? 誰なの……
頭を抱えるわたしをシエル様が抱きしめてくれる。ああ、あったかい。
思い出さないといけない。
思い出さないと……わたしは前に進めない気がする。
「ということは、ルシアは誰かに薬を飲まされて、僕になんの感情も抱けないでいるってこと?」
「そうなるわね。おそらく秘密の実の効果を解かないと一生そのままの可能性もあるわ」
「でもきっと、彼女が忘れている記憶はあれだろう? 思い出させるのは……」
「そうなのよね。彼女はきっとあの事件の被害者。そしてその時にあなたと会っていたのね」
「……これは、どうしたものか」
うっすらとしていく意識の中、シエル様とノーラ様の会話だけがはっきり聞こえてきていて。けれどそこでわたしの意識は飛んでしまった。
「ルシア、大丈夫?」
優しげで、それでいて心配そうなシエル様の声。
あ、わたし……気を失っていたのか。
「大丈夫です……ごめんなさい」
俯くわたしの頭を撫でてくれるシエル様。なんだか物凄く安心する。
「ごめんなさい、ルシア。でもあなたには話しておかないといけないと思って」
申し訳なさそうに話すノーラ様。そんなこと気にしなくていいのに。
「いいえ。ありがとうございます。あの、わたし……思い出してみようと思います」
わたしの言葉に二人とも息を呑む。
「い、いいのか……? 多分ルシアには辛い記憶だと思う」
不安そうに揺れる目をしっかりと見て頷く。
「なんか、思い出さないといけない気がするの。そうじゃなきゃ、前に進めない気がする」
わたしの言葉に二人とも頷いてくれた。その日はとりあえず家に連絡を入れてもらってノーラ様の別荘に泊めてもらったのだった。
お泊まり道具を用意していなかったけれど、ノーラ様が貸してくれて。
次の日また来てくれたシエル様がドレスを持ってきてくれた。
「さて、今日はどこへ行こうか」
二人とも協力してくれるということで、この夏休みを利用して記憶を辿ろうと計画していた。計画したはいいが、わたしはごっそり記憶が抜けていてどうしていいかわからない。
多分、シエル様にドキドキして頭が痛くなったのは秘密の実の効果があったから。
ということはそれ以外で頭痛がしたところ……
「あ、親睦会の時の散策のところ……」
そうだ。あそこで何かを思い出しそうになって頭痛で倒れたんだった。あそこにもう一度行けば思い出すかもしれない。
「あそこへ行くには今からでは夜になるね。王家所有の別荘が近くにあるからそこに泊まろう。ルシアの家には僕から連絡しておくよ。ノーラは」
「わたくしは自分で連絡しますわ」
お互い連絡を終えて旅の準備をする。ノーラ様は使用人達に指示してテキパキ準備している。わたしも準備をと思ったけれど、「向こうに揃えてあるから大丈夫」とシエル様に言われたので、みんなの準備が終わるのをじっと待っていた。
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