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本編

6.親睦会

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 次の授業で、親睦会についての説明が行われた。
 近くのリゾート地に行って、野外活動をするのだという。野外活動ではご飯を作ったり、散策したりするらしい。まあ、リゾート地なので環境は整っていて、道具などは全て準備されているのだとか。
 持っていくものは、動きやすい服、着替え、靴。それ以外はなくてもどうにでもなるらしい。そのリゾート地で一泊二日を過ごす予定だということだった。
 
 部屋は班の人と一部屋使うみたい。あ、寝るところは流石に男女別々らしいけど。つまりわたしは、ノーラ様と同室ということだ。全然お話しする機会もないからすごく楽しみっ。
 注意事項と予定の書かれた栞が配られた。それによると、朝学園へ登校し、そこから点呼。その後で班ごとに馬車に乗ってリゾート地へ出発する。ついたら昼食がまず出されるので、班ごとに好きな場所で食べたら、みんなで散策する。その後で、夕食は各自材料を好きなものを選んで調理する。
 調理には料理人がついており、教えてもらえるんだとか。料理ができなくても安心だ。
 あとは寝て、起きたら朝食を食べて解散らしい。
 監督生については後日配置を決めるので、誰がつくかは当日のお楽しみだといっていた。ここ数年は特に大きな問題は起こっておらず安心していいと先生は言っていた。
 しかし、ここは乙女ゲームの中の世界。まだ始まってはいないけど何もないとは言い切れない。警戒していかないと……
 


 ーー三日後
 今日は親睦会が行われる日だ。シエル王子殿下は、相変わらずどこへ行くにもわたしの手を握ってくる。拒もうにも王家に逆らったら何されるかわからないのでおとなしくしている。いつの間にか慣れてしまって当たり前に受け入れているんだけども。おかげで友達も作れず、ノーラ様ともあまり話もできていない。
 今回の親睦会できっとチャンスはあるはずっ。
 学園に着くと、班ごとに呼び出され、監督生の紹介を受けた。わたし達の班の監督生はルドルフ様だった。昼食を食べる部屋にいつもいるがっしりした人で、騎士を目指している。どうもわたしは攻略対象の方々に囲まれる運命なのだろう。もう諦めた。
 今はこの親睦会を楽しまないと勿体無いわっ。
 四人で馬車に乗り込む。監督生は監督生同士違う馬車で来るらしい。というか馬車は四人乗りなのでそうするしかないのだけど。
 長い行列を成して、馬車は目的地のリゾートへ向かっていった。



 シエル王子殿下にエスコートされ、馬車を降りるとそこには見渡す限りの大自然。わたしは日本では都会に住んでいて全く縁がなかったので思わず感動してしまう。同じく感動しているものや虫がいて騒いでいるご令嬢もいたけれど。
 深呼吸をすると何もかも綺麗さっぱり忘れそうなくらい癒される。
 そんなわたしを見てくすくす楽しそうに笑うシエル王子殿下……長いからシエル様でいいか。心の中でだけだもの。うん、まだご機嫌みたい。というか自分の機嫌くらい自分でとって欲しいのだけど。
「では、最初は昼食だ。各班取りにくるように」
 先生の合図に生徒がわらわらと集まり出す。わたしも行こうとしたけれど、手を掴まれていて動けない。
「あの、シエル王子殿下。ご飯を取りに行かないと……」
「危ないから、ノーラとここで待っていて。ちゃんと手を繋ぐんだよ」
 先程まで握っていた手を今度はノーラ様と繋がれる。ギョッとしたわたしを見て黒い笑みを浮かべる彼。これは逆らってはいけない。ノーラ様に申し訳なく思いながら待つことにした。
「ホルスト公爵令嬢様、申し訳ありません……」
「あら、他人行儀ね。ノーラと呼んでちょうだいな。それにあなた達を見ていると楽しくて。全然気にしないでいいのよ」
 くすくすと鈴を転がすように笑うノーラ様はとても綺麗だ。こんな人が後に悪役令嬢になるなんて考えられない。というか、どのルートでも悪役になるとか無理がある。きっとゲーム制作の際、キャラクリがめんどくさかったに違いない。
 なんとしても彼女には幸せになってもらいたい。もう自分のことは置いておいて、彼女の応援をすることにする。この世界での推しだっ。
 わたし達の何気ないやりとりがノーラ様に楽しんでいただけるならいくらでも我慢しましょう!
 変な方向に熱を出したわたし。新たな目標を設定した瞬間である。


 つつみに入ったお弁当を持ってシエル様とマルド様が戻ってくる。みんな各々好きな場所で敷物を敷いて座って食べ始めている。どこで食べるのだろうかと思っていると男性陣はおもむろに歩き出す。
 手を繋いだままのわたしとノーラ様はその後ろをついていった。
 ついた場所は湖のほとり。綺麗な花が咲いていて景色も綺麗だ。マルド様が敷物を敷いてくれて、そこに靴を脱いで座る。シエル様が真ん中にお弁当を広げてくれた。
 さすが貴族学園のお弁当。とても豪華だ……
 嬉々として好きなおかずをつまむ。どれを食べてもおいしくて思わずほっぺたが緩む。他愛もない話をしながら私たちはお弁当を楽しんだ。 
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