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朝からじーっとノア様を観察していた。今朝は早くからルカ様と共に王宮へ出かけ、仕事をしている。王弟であり王位継承権第一位ということもあり、仕事がたくさんあるようだ。
好きな人はいるのか、気になる人がいるのか観察したいのだが、王宮の中で会っているのであれば、わたしではわからない。
たまに王妃様に茶会に呼ばれるのだが必ず彼が付き添っている。途中で呼ばれない限りは一緒にお茶を楽しむのだ。
お茶会の間は彼は執務室にいるらしく姿を見かけることはない。
ならばよく知っている人に聞く他ないと思い、こっそりとルカ様を呼び出した。ノア様は今日一人で外出しているのでちょうどいい。
「セリーヌ様からお誘いいただけるとは珍しいですね。何かありました?」
戸籍上は一応兄に当たるのだけれど、口調は丁寧だ。なんだかくすぐったくて思わず言ってしまった。
「あの、戸籍上は兄になるのでセリーヌでいいですよ。なんだかむず痒いです」
「ああ、それもそうですね。わたしの義妹になったんだ。それではセリーヌと呼ばせてもらおう。私のこともお義兄様と呼んでくれ」
お互い笑い合ってお茶を啜る。なんだか和やかな雰囲気になったところで本題を切り出す。
「聞きたいことがあるんです。ノア様にはお慕いしている方はいるのですか?」
私が質問したらお義兄様は吹き出した。慌ててハンカチを差し出そうとするも手で制されてしまう。
「どうしてそんなことを?」
「もしお慕いしている方がいるなら、私は邪魔なんじゃないかなあって。ノア様の好意でここに置いてもらっているけど、彼には幸せになってほしいの」
なんだか考え込んでしまったお義兄様の言葉をじっと待つ。
「ノア様のことを少し話そうか」
そう言ってお義兄様はお話ししてくれた。
彼は前国王陛下の次男として生まれ、第二王子として生活していた。年齢を重ねるごとにたくさんの縁談が舞い込んだが、頑なに全て断っていたのだという。元々女性には興味がないのか冷ややかな態度をとっていたそうだ。国内のご令嬢はことごとくあしらわれ、今では誰も彼に近づかないのだという。
信用できるものしかそばに置かず、側近と呼べる人もお義兄様だけだったという。王位にも興味がなく、王宮でも離宮でもなく離れた王都の屋敷で生活していることもあり、王位継承権争いというものもなかったのだとか。
もちろん本人にその気はなくても周りが動いてしまうことがあったのだがが、全て潰してしまったのだという。
それもあり、現国王陛下からは信頼が厚く、かなり融通は効くらしい。そんな彼を心配した国王陛下は結婚について何度か尋ねるも彼は一貫して『自分が結婚したいと思える人とでないと結婚しない』と言い張ったのだという。
そんな事情もあり、彼の結婚に関しては誰も口を出さないのだそうだ。
「ノア様は中途半端に婚約なんてしないし、人に対しては誠実でありたいと思う人だ。だから、それはノア様の意思の現れだ。もし本当に気になる女性がいるならセリーヌに対しても、相手の女性に対しても不誠実だろう?」
お義兄様の言葉に頷く。
そうだ、彼はそんな不誠実なことはしない人。何かあればあちらから婚約の解消を申し出るに違いない。
「気になるならノア様に直接聞いてみるといいよ。きっと面白いものが見られる」
人の悪そうな笑みを浮かべるお義兄様をみてちょっと腹黒い人だなって思った。
彼本人のことを他の人から聞いてしまったことに少し罪悪感を抱きながら、部屋へ戻ろうと廊下を歩いていると彼が部屋の前に立っていた。
あれ、今日外出していたはずじゃ……
不思議に思いながら声をかけると不機嫌そうな顔の彼が腕を組んで立っている。
「ちょっと話そうか」
連れられたのは彼の部屋だった。初めて入る室内は余計なものなど置かれておらず、仕事するための部屋みたいな感じだった。ソファに座るように促される。
「さて、俺の外出中にルカと何を話してたんだ?」
お義兄様と一緒にいたことももう知ってるのね。耳が早い……
さてどうしようか。いや、正直に話すしか選択肢はないのだけれど。
「ーーノア様は、お慕いしている人はいるのですか……?」
じっと彼を見つめて答えを待つ。片手で口元を覆い俯いてしまっている。これはどういう感情なのかわからない。
変な汗が出てくる。
「いるよ」
その言葉に私は固まってしまった。ああ、自分の気持ちを伝える前に失恋してしまったようだ。
「目の前に」
ーーえ?
いつの間にか隣に座っていた彼は私の手をとると手の甲にキスをする。
出かかった涙が一瞬にして引っ込んでしまった。
「セリーヌは?」
「……わたしも、好き、です」
恥ずかしくなって小さな声で答えるわたしに彼はくすくす笑いながらわたしの頭を撫でてくれた。
その後はお義兄様と話したことを根掘り葉掘り聞かれた。
「そもそもなんとも思っていない女性を助けるために婚約までするか。そこまで出来た人間じゃない」
すごく嫌そうな顔をして話してくれた彼が面白くて、普段の仕返しにとくすくす笑った。
「こんなところで言う予定じゃなかったのに。ルカに文句言ってくる」
そう言って彼は怒ったような表情でお義兄様を探しにいった。
次の日お義兄様はニヤニヤしていて、彼は不機嫌そうな顔をしていて。何があったかはわからないけど、仲がいいなって遠巻きに見ていた。
好きな人はいるのか、気になる人がいるのか観察したいのだが、王宮の中で会っているのであれば、わたしではわからない。
たまに王妃様に茶会に呼ばれるのだが必ず彼が付き添っている。途中で呼ばれない限りは一緒にお茶を楽しむのだ。
お茶会の間は彼は執務室にいるらしく姿を見かけることはない。
ならばよく知っている人に聞く他ないと思い、こっそりとルカ様を呼び出した。ノア様は今日一人で外出しているのでちょうどいい。
「セリーヌ様からお誘いいただけるとは珍しいですね。何かありました?」
戸籍上は一応兄に当たるのだけれど、口調は丁寧だ。なんだかくすぐったくて思わず言ってしまった。
「あの、戸籍上は兄になるのでセリーヌでいいですよ。なんだかむず痒いです」
「ああ、それもそうですね。わたしの義妹になったんだ。それではセリーヌと呼ばせてもらおう。私のこともお義兄様と呼んでくれ」
お互い笑い合ってお茶を啜る。なんだか和やかな雰囲気になったところで本題を切り出す。
「聞きたいことがあるんです。ノア様にはお慕いしている方はいるのですか?」
私が質問したらお義兄様は吹き出した。慌ててハンカチを差し出そうとするも手で制されてしまう。
「どうしてそんなことを?」
「もしお慕いしている方がいるなら、私は邪魔なんじゃないかなあって。ノア様の好意でここに置いてもらっているけど、彼には幸せになってほしいの」
なんだか考え込んでしまったお義兄様の言葉をじっと待つ。
「ノア様のことを少し話そうか」
そう言ってお義兄様はお話ししてくれた。
彼は前国王陛下の次男として生まれ、第二王子として生活していた。年齢を重ねるごとにたくさんの縁談が舞い込んだが、頑なに全て断っていたのだという。元々女性には興味がないのか冷ややかな態度をとっていたそうだ。国内のご令嬢はことごとくあしらわれ、今では誰も彼に近づかないのだという。
信用できるものしかそばに置かず、側近と呼べる人もお義兄様だけだったという。王位にも興味がなく、王宮でも離宮でもなく離れた王都の屋敷で生活していることもあり、王位継承権争いというものもなかったのだとか。
もちろん本人にその気はなくても周りが動いてしまうことがあったのだがが、全て潰してしまったのだという。
それもあり、現国王陛下からは信頼が厚く、かなり融通は効くらしい。そんな彼を心配した国王陛下は結婚について何度か尋ねるも彼は一貫して『自分が結婚したいと思える人とでないと結婚しない』と言い張ったのだという。
そんな事情もあり、彼の結婚に関しては誰も口を出さないのだそうだ。
「ノア様は中途半端に婚約なんてしないし、人に対しては誠実でありたいと思う人だ。だから、それはノア様の意思の現れだ。もし本当に気になる女性がいるならセリーヌに対しても、相手の女性に対しても不誠実だろう?」
お義兄様の言葉に頷く。
そうだ、彼はそんな不誠実なことはしない人。何かあればあちらから婚約の解消を申し出るに違いない。
「気になるならノア様に直接聞いてみるといいよ。きっと面白いものが見られる」
人の悪そうな笑みを浮かべるお義兄様をみてちょっと腹黒い人だなって思った。
彼本人のことを他の人から聞いてしまったことに少し罪悪感を抱きながら、部屋へ戻ろうと廊下を歩いていると彼が部屋の前に立っていた。
あれ、今日外出していたはずじゃ……
不思議に思いながら声をかけると不機嫌そうな顔の彼が腕を組んで立っている。
「ちょっと話そうか」
連れられたのは彼の部屋だった。初めて入る室内は余計なものなど置かれておらず、仕事するための部屋みたいな感じだった。ソファに座るように促される。
「さて、俺の外出中にルカと何を話してたんだ?」
お義兄様と一緒にいたことももう知ってるのね。耳が早い……
さてどうしようか。いや、正直に話すしか選択肢はないのだけれど。
「ーーノア様は、お慕いしている人はいるのですか……?」
じっと彼を見つめて答えを待つ。片手で口元を覆い俯いてしまっている。これはどういう感情なのかわからない。
変な汗が出てくる。
「いるよ」
その言葉に私は固まってしまった。ああ、自分の気持ちを伝える前に失恋してしまったようだ。
「目の前に」
ーーえ?
いつの間にか隣に座っていた彼は私の手をとると手の甲にキスをする。
出かかった涙が一瞬にして引っ込んでしまった。
「セリーヌは?」
「……わたしも、好き、です」
恥ずかしくなって小さな声で答えるわたしに彼はくすくす笑いながらわたしの頭を撫でてくれた。
その後はお義兄様と話したことを根掘り葉掘り聞かれた。
「そもそもなんとも思っていない女性を助けるために婚約までするか。そこまで出来た人間じゃない」
すごく嫌そうな顔をして話してくれた彼が面白くて、普段の仕返しにとくすくす笑った。
「こんなところで言う予定じゃなかったのに。ルカに文句言ってくる」
そう言って彼は怒ったような表情でお義兄様を探しにいった。
次の日お義兄様はニヤニヤしていて、彼は不機嫌そうな顔をしていて。何があったかはわからないけど、仲がいいなって遠巻きに見ていた。
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