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屋敷に戻るとまたまた使用人たちがバタバタしている。そんな中ソフィアが私を部屋まで送ってくれて、湯浴みまで手伝ってくれた。なぜ朝も入ったのにまた入るのか不思議に思っていると
「このまま、セリーヌ様のお家まで向かうのです。三日ほどかかりますので、湯浴みをしてから出ましょう」
そう言われ再び眩暈がしてしまった。
何もかも早すぎてびっくりしてしまう。根回しが早すぎて使用人たちが過労で倒れないか心配してしまう。けれど彼は無理な仕事は頼まない主義で、どうやらこの後みんなにゆっくりとした休日を与えるのだという。
シンプルなワンピースを着せられ、馬車に乗り込む。そのまま私の生家へ向かって出発した。
「そういえば、どうやって私の家を?」
「ん?まぁ、部下に調べさせてただけだ」
「そうですか……王弟殿下って初めて知りました。今まで失礼な態度をとって申し訳ありません」
思い返してみるとわたしは彼のことを山の家でこき使っていた。バナナをとってもらったり釣りをしたり、力仕事全般を。さらには粗末な食事を出したりと心当たりが多すぎる。そんなわたしに彼はくすくす笑っている。
「気にしなくていい。むしろ今まで通りでいてくれ。なかなか新鮮な経験だったから楽しかったよ」
心の広い人だ。普通ならば不敬罪と言われてもおかしくないのにお咎めなしだ。陛下もそうだけど温厚そうな人で国も生き生きしている。きっといい国なんだろう。
「君の妹のことだが、こちらからの忠告を聞かなかった場合、それなりの措置をさせてもらうが……いいか?」
「はい。あの性格を矯正するのはなかなか骨が折れると思います。わたしだけでなく他の使用人にも横柄な態度ですから。何かきっかけがあれば変わるんでしょうけど」
ちっとも矯正の可能性が見えてこない妹をどうにか変えるなんて無理な話で。そもそも人を変えるなんて無理な話だ。
場合によっては致し方ないと諦めるほかないだろう。
「会いたい人はいるか?」
「屋敷の使用人たちと街にいるおじいさんに会いたいです」
「わかった」
そんな話をしながらフォンティーヌ家へ向かった。
フォンティーヌ家へ到着すると執事が出迎えに来てくれていて。先触れを出したようだが、両親も妹の姿もなかった。
応接室に通され、部屋に入るとソファにはお父様とアリサが座っていた。
「急な訪問申し訳ない。私はノア・アルメリアという。今日はセリーヌとの件でお伺いした」
お父様とアリサが挨拶をし、彼に着席を促す。わたしは立ったままだが。
その態度に眉を顰めた彼がわたしに席を外すよう促す。ちらりとお父様と妹の様子を見て退室した。
その時の妹の目がランランと輝いていて、嫌な予感がした。
退室したわたしは厨房へ向かった。久しぶりにみるそこは前とは一切変わっていなくて、なんだか安心する。料理長が一番に声をかけてくれて。
「セリーヌ嬢、元気そうでよかった」
「セリーヌ様!会いたかったですー!」
相変わらずの様子にほっと一息ついた。料理長渾身の料理がテーブルに並べられ、みんなでテーブルを囲う。いつものお喋りが始まった。
「そういえばお嬢様ったら、王太子殿下にアピールし続けて玉砕しているらしいわ。その度にイライラしているらしいの。しかも怒りの矛先がなぜかセリーヌ様なのよ。みんなで首を傾げてるわ」
「それね。なんか王太子殿下はセリーヌ様に気があるみたいよ。でも家に来てもいないからどういうことかって詰められてたわ」
「ねー。お嬢様ったら王太子殿下に構ってもらいたくてセリーヌ様をこっそり捜索させていたみたいよ」
なるほど、そういうことね。それであの場所がバレて、わたしが邪魔だったから消そうとしたのね。恋する女は何をするかわかったもんじゃないわ。
それにしてもまた王太子殿下の名前が出てきたわね。あの人一体なんなのかしら。
メイドたちの話に耳を傾けながら食事を食べているとノア様の騎士が呼びにきた。不思議に思いながらもついていくとそこは応接室。
「そういうことなので、今後一切セリーヌに近づかないように。もしこの契約が反故にされた場合は、わかってますね?」
「そんな、ノア様ぁ、そんな女よりわたくしと結婚してくださいませ」
いつもより硬い声色の彼と甘えたような猫撫で声ですがる妹、顔面蒼白になっているお父様。いったいどういう構図なのかしら。
ハッとしたお父様が慌てて妹を止め、叱りつける。妹を叱ってるお父様なんて初めて見たわ。
「さ、行こうセリーヌ」
手を差し出されたのでそのまま自分の手を重ねた。
「おじいさんに会いにいくか?」
「はい!」
一緒に歩いておじいさんのところへ向かう。おじいさんは相変わらず畑で野菜の世話をしていた。
「おお、お嬢ちゃん。しばらく見なかったから心配してたんだよ。元気だったかい?」
変わらない笑顔で声をかけてくれる。おじいさんも元気そうだ。
「元気よ!久しぶりにこっちに来たから会いに来たの」
「そうかい、そうかい。ありがたいねぇ」
しばらく話し込み、思い出話に花を咲かせていた。
「このまま、セリーヌ様のお家まで向かうのです。三日ほどかかりますので、湯浴みをしてから出ましょう」
そう言われ再び眩暈がしてしまった。
何もかも早すぎてびっくりしてしまう。根回しが早すぎて使用人たちが過労で倒れないか心配してしまう。けれど彼は無理な仕事は頼まない主義で、どうやらこの後みんなにゆっくりとした休日を与えるのだという。
シンプルなワンピースを着せられ、馬車に乗り込む。そのまま私の生家へ向かって出発した。
「そういえば、どうやって私の家を?」
「ん?まぁ、部下に調べさせてただけだ」
「そうですか……王弟殿下って初めて知りました。今まで失礼な態度をとって申し訳ありません」
思い返してみるとわたしは彼のことを山の家でこき使っていた。バナナをとってもらったり釣りをしたり、力仕事全般を。さらには粗末な食事を出したりと心当たりが多すぎる。そんなわたしに彼はくすくす笑っている。
「気にしなくていい。むしろ今まで通りでいてくれ。なかなか新鮮な経験だったから楽しかったよ」
心の広い人だ。普通ならば不敬罪と言われてもおかしくないのにお咎めなしだ。陛下もそうだけど温厚そうな人で国も生き生きしている。きっといい国なんだろう。
「君の妹のことだが、こちらからの忠告を聞かなかった場合、それなりの措置をさせてもらうが……いいか?」
「はい。あの性格を矯正するのはなかなか骨が折れると思います。わたしだけでなく他の使用人にも横柄な態度ですから。何かきっかけがあれば変わるんでしょうけど」
ちっとも矯正の可能性が見えてこない妹をどうにか変えるなんて無理な話で。そもそも人を変えるなんて無理な話だ。
場合によっては致し方ないと諦めるほかないだろう。
「会いたい人はいるか?」
「屋敷の使用人たちと街にいるおじいさんに会いたいです」
「わかった」
そんな話をしながらフォンティーヌ家へ向かった。
フォンティーヌ家へ到着すると執事が出迎えに来てくれていて。先触れを出したようだが、両親も妹の姿もなかった。
応接室に通され、部屋に入るとソファにはお父様とアリサが座っていた。
「急な訪問申し訳ない。私はノア・アルメリアという。今日はセリーヌとの件でお伺いした」
お父様とアリサが挨拶をし、彼に着席を促す。わたしは立ったままだが。
その態度に眉を顰めた彼がわたしに席を外すよう促す。ちらりとお父様と妹の様子を見て退室した。
その時の妹の目がランランと輝いていて、嫌な予感がした。
退室したわたしは厨房へ向かった。久しぶりにみるそこは前とは一切変わっていなくて、なんだか安心する。料理長が一番に声をかけてくれて。
「セリーヌ嬢、元気そうでよかった」
「セリーヌ様!会いたかったですー!」
相変わらずの様子にほっと一息ついた。料理長渾身の料理がテーブルに並べられ、みんなでテーブルを囲う。いつものお喋りが始まった。
「そういえばお嬢様ったら、王太子殿下にアピールし続けて玉砕しているらしいわ。その度にイライラしているらしいの。しかも怒りの矛先がなぜかセリーヌ様なのよ。みんなで首を傾げてるわ」
「それね。なんか王太子殿下はセリーヌ様に気があるみたいよ。でも家に来てもいないからどういうことかって詰められてたわ」
「ねー。お嬢様ったら王太子殿下に構ってもらいたくてセリーヌ様をこっそり捜索させていたみたいよ」
なるほど、そういうことね。それであの場所がバレて、わたしが邪魔だったから消そうとしたのね。恋する女は何をするかわかったもんじゃないわ。
それにしてもまた王太子殿下の名前が出てきたわね。あの人一体なんなのかしら。
メイドたちの話に耳を傾けながら食事を食べているとノア様の騎士が呼びにきた。不思議に思いながらもついていくとそこは応接室。
「そういうことなので、今後一切セリーヌに近づかないように。もしこの契約が反故にされた場合は、わかってますね?」
「そんな、ノア様ぁ、そんな女よりわたくしと結婚してくださいませ」
いつもより硬い声色の彼と甘えたような猫撫で声ですがる妹、顔面蒼白になっているお父様。いったいどういう構図なのかしら。
ハッとしたお父様が慌てて妹を止め、叱りつける。妹を叱ってるお父様なんて初めて見たわ。
「さ、行こうセリーヌ」
手を差し出されたのでそのまま自分の手を重ねた。
「おじいさんに会いにいくか?」
「はい!」
一緒に歩いておじいさんのところへ向かう。おじいさんは相変わらず畑で野菜の世話をしていた。
「おお、お嬢ちゃん。しばらく見なかったから心配してたんだよ。元気だったかい?」
変わらない笑顔で声をかけてくれる。おじいさんも元気そうだ。
「元気よ!久しぶりにこっちに来たから会いに来たの」
「そうかい、そうかい。ありがたいねぇ」
しばらく話し込み、思い出話に花を咲かせていた。
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