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 歩くのもフラフラな私をソフィアが支えてくれる。ノア様が部屋の前に立っていて私の様子にくすくすと笑われた。ひどい。
「今日の練習はとりあえず延期にしよう。さ、俺の腕をとって」
 言われた通りに彼の腕に手を添える。まだ笑っている彼を思わず睨みつけていた。
「そんな顔されても、俺にとっては可愛いだけなんだが」
 とさらに笑われ、もう気にしないことにする。

 彼に連れられたのは庭だった。
「少し歩く練習をすれば、すぐに慣れるだろう」
 なるほど。確かにまずは歩けなければダンスなんてできない。それに室外の方が歩きにくいからバランスを取るちょうどいい練習になるだろう。
 長いドレスの裾を踏まないように気をつけながら庭を歩く。いつの間にか庭には黄色がかった緑色の花が増えていた。
「このお花はなんと言う花ですか?」
「グラジオラス・グリーンアイルだよ。君の瞳の色と一緒だ」
 言われてみればそうだ。
 私の目は緑色に黄色がかった色をしている。私の目の色とそっくりな花なんであったんだ。なんで感心しながら、いろいろな花を見て回った。
 どの花の事を聞いてもすぐに答えてくれて、彼の博識さに感心していた。
 元々運動神経のいいわたしはこの散歩ですっかり高いヒールにもドレスにも慣れてスムーズに歩くことができていた。
 ただお腹のコルセットは慣れなくて苦しいままだけど。世の貴族女性はこんなものをつけているなんてとてもじゃないが信じられない。夜会やお茶会で出されたお菓子や料理なんてとてもじゃないけど食べられそうにないなと思った。

 次の日にはダンスの練習をしてもいいだろうと彼から許可があり、さっそくダンスの練習に入る。基本のステップを教えてもらい、足の動きを覚える。
 基本的には男性がリードしてくれるらしいが、あまり上手でない人もいるのでしっかり覚えるようにと言われた。体を動かすのが得意なのですぐに覚えられる。先生にも褒められてしまった。昨日のわたしからは想像できないくらい上達したと思う。
 休憩していると彼が室内に入ってくる。どうしたんだろうと首を傾げていると手を取られた。
 そのまま音楽が流れてしまう。覚えたてのステップを踏んで踊る。案外スムーズに踊れていることにびっくりするけれど、多分彼が上手いのだろう。上手に踊ることができて楽しくなってしまう。
 3曲続けて踊ったところで足がもつれてしまった。
 
「さすがに疲れたか。一日でここまで出来るのは君くらいだろうな」
 微笑みながら頭を撫でてくれる。褒められて素直に嬉しくなってしまった。



 日中は勉強して、時間があれば野菜を作って、クレバーと遊んで充実した日々を過ごしていた。
 ちょっと前まで山で一人暮らししていたなんでとても想像できない。思い返してみるとなかなかハードな人生を送っているように思う。
 実家では虐げられ、山に捨てられ、崖から落ちて。それでもこうやって生きているのは、周りの人たちが温かい人たちばかりだ。恵まれていることを実感しながら助けてもらった人たちに何が返せるのか、ずっと考えていた。
 彼は時折わたしを外に連れ出してくれる。孤児院もそうだけど、普通に街を一緒に歩いて屋台の食べ歩きをしたりカフェに入ったり。わたしが気になったものはなんでも買ってしまうので困ったものだ。断ってもお決まりの文句を言われてしまっては断りきれない。それになんだかすごく嬉しそうにするので受け入れてしまっていた。
 ある時はドレスショップに連れ込まれ、サイズを測られオーダーメイドで作ってしまっていて。とても高そうな宝石をたくさんつけるよう指示しているのを見て倒れそうになってしまったり。
 なんだか貢がせている悪女のようで気が引けてしまった。

「これなんかどうだ」
 今日は装飾品店だ。わたしの耳に青いダイヤモンドのついたイヤリングがあてがわれている。思わず固まってしまった。
 これは、絶対高いやつだ。ダイヤモンドってだけでも高いのに青って……
「よし、これをいただこう」
 迷うことなく購入した彼を唖然とした表情で見つめてしまった。案の定くすくす笑っていたけれど、金銭感覚が違いすぎる。
 まぁでも、貴族の男性は、女性に対してお金を出し惜しむのは紳士的でない、恥をかかせる行為としている人も多くぽんぽん買うって聞いたことがある。それが自分の権力の誇示にもつながるのだとも。
 大人しくしておこう。ソフィアに相談した時も「そのまま笑顔で受け取ってあげてください」と言われてしまった。

「そんなに買っていただいても、つける機会がないのでは……」
 ただあまりにも買ってもらっているので気になってしまいつい聞いたことがあるのだが、
「いずれくるよ。その時までとっておいてくれ」
 と、意味深なことを言われ、首を傾げてしまった。
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