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御一行が去った後、妙に寂しさを感じてしまった。やっぱり誰か頼れる人がいることは安心するのだろう。
食事は満足いくまでクオリティは上がったし、住むところも快適になった。服はもとから特に執着がないから交互に着まわせるぶんを持って来ていて困ってはいない。
そこが満たされた事で次の欲求が出てくる。人って貪欲だなぁなんて思いながら、茶葉を作る。
せっせと作って、最後に茶葉を薄く広げて乾燥させたものを袋に詰めた。
「よし」
今日の分を作り終わったわたしは次に向かう。
今日は新しくもらった果物の苗木。この国は比較的暖かい気候ではあるが、日本のように四季はある。一部の地域では栽培できるらしいが、限られているために高級なのだそうだ。
そんなものが育つのかしら?半信半疑で苗木を植え、手をかざす。ぐんぐん伸びて黄色い身をつけた。
そう、今日作ったのはバナナ。栄養もあるし甘くて美味しい。これでジュースを作ってもいいわね。
でも……どうやって取ろうかしら。作ってくれた踏み台はあるけれど、届きそうにない。マルクスさんが次に来るのは十日後。それまで放置するしかないかな……せっかく美味しそうな身をつけているのに取れないのは悲しい。
しょうがないと諦めて、次に畑に向かった。
一通りの仕事を終えて、自作ハーブティーで一息つく。
そういえば、お風呂に入りたい。体は毎日洗えているが、浴槽は使ってはいない。この時代のお風呂はお湯を沸かしてせっせと浴槽に運ばなければいけないのだ。
ふと横に目を向けると騎士たちが作ってくれた台車がある。
そうだ!
大きな鍋にお湯を沸かし、台車に乗せて浴槽まで運びこむ。三回ほど運び、水も入れてちょうどいい温度になるまで入れると、立派なお風呂の完成だ。
さっそく服を脱いでお湯に浸かる。あー、最高。
やはり日本人はお風呂ね。心も体も癒される……
台車を作ってくれた彼らには感謝しかない。おかげさまでわたしのスローライフのクオリティが上がったわ。
こうして少しづつ確実に快適になっていく日々に満足していた。
数日後、こんな山奥に訪問者が現れた。マルクスさんにしては早すぎる気がするのだけど、誰だろう?そう思いながら見にいくとなんと金髪の彼、ノア様だった。驚いて目を見開いていると肩を震わせてクスクスと彼は笑っていた。
「突然すまない。様子を見に来たんだ」
「え、本当に来たんですか。遠いのにわざわざすみません」
「何か困っているんじゃないかと思ってな。何かあるか?」
顎に手を当てて考え込む。
「あ、収穫して欲しいものがあるんです」
バナナのあるところまで案内する。指をさし、あれをどうにか取れないかと聞いてみると彼はするすると木に登りバナナをとってくれた。
お礼代わりに家に招き入れる。お茶を出して今日は試しに作ってみたクッキーを添えてみた。そう、今度はお菓子作りにも手を出していた。初心者でもできそうなクッキーから。ちなみにお菓子作りもざっくりとした工程しかわからなかったのでマルクスさんにレシピを売ってもらっていた。
「これは、君が?」
クッキーを手に持ち、口に入れる。わたしは頷いて返事をする。
「うまいな。このあいだ食べたパンもうまかったが、君は料理がうまいんだな」
褒められ、素直に嬉しい。自分が認められたような気がしてこことがまた少し満たされていった。
「ところで、こないだ来た時はバナナの木はなかったはずだが。成長が早すぎないか?それにあれは一部の地域でしか育たないはずだが……」
その疑問はもっともだ。確かにわたしには何かしらの能力があると思うけれど正体はわからない。自分がわかっていない能力を多用するのは正直気がひけるけど、生きていくためには使わざるを得ないだ。お金になるようなものがあれば村でもすぐに生活していけるんだけど……
「わたしもよくわからないんですよね。実際見てもらった方が早いと思うので、何かわかったら教えて欲しいです」
再び畑へ戻り、小さな種を植えて力を使うとみるみるうちに成長する野菜に彼は目を瞠っていた。そりゃそうだ。おじいさんも最初腰を抜かしていたもの。
「……驚いたな。これは国に知られたら即保護対象だ。一生王宮に閉じ込められるぞ」
それは考えたこともなかったから、唖然としてしまう。そうか、国にとっては利用価値があるものね。でもわたしは今の暮らしを気に入っているし、とじ込められて自由がなくなるのは望んでない。
「人と関わっている時点でいつかはバレるぞ。方法はあるにはあるが……それでも君の自由を多少奪ってしまうだろう」
「そう……ですね」
もう何も考えられなかった。
また来ると言って彼は帰っていった。
一人になってから冷静になって考えてみる。平和なスローライフを送るには、人との関わりも断たなければならないということを。正直一人の力だけで生活していくことは難しいと思う。バレるまではこのままでいいとして、バレた時どうしよう。
鬱々とした気持ちで考えながらいつの間にか寝落ちしてしまった。
食事は満足いくまでクオリティは上がったし、住むところも快適になった。服はもとから特に執着がないから交互に着まわせるぶんを持って来ていて困ってはいない。
そこが満たされた事で次の欲求が出てくる。人って貪欲だなぁなんて思いながら、茶葉を作る。
せっせと作って、最後に茶葉を薄く広げて乾燥させたものを袋に詰めた。
「よし」
今日の分を作り終わったわたしは次に向かう。
今日は新しくもらった果物の苗木。この国は比較的暖かい気候ではあるが、日本のように四季はある。一部の地域では栽培できるらしいが、限られているために高級なのだそうだ。
そんなものが育つのかしら?半信半疑で苗木を植え、手をかざす。ぐんぐん伸びて黄色い身をつけた。
そう、今日作ったのはバナナ。栄養もあるし甘くて美味しい。これでジュースを作ってもいいわね。
でも……どうやって取ろうかしら。作ってくれた踏み台はあるけれど、届きそうにない。マルクスさんが次に来るのは十日後。それまで放置するしかないかな……せっかく美味しそうな身をつけているのに取れないのは悲しい。
しょうがないと諦めて、次に畑に向かった。
一通りの仕事を終えて、自作ハーブティーで一息つく。
そういえば、お風呂に入りたい。体は毎日洗えているが、浴槽は使ってはいない。この時代のお風呂はお湯を沸かしてせっせと浴槽に運ばなければいけないのだ。
ふと横に目を向けると騎士たちが作ってくれた台車がある。
そうだ!
大きな鍋にお湯を沸かし、台車に乗せて浴槽まで運びこむ。三回ほど運び、水も入れてちょうどいい温度になるまで入れると、立派なお風呂の完成だ。
さっそく服を脱いでお湯に浸かる。あー、最高。
やはり日本人はお風呂ね。心も体も癒される……
台車を作ってくれた彼らには感謝しかない。おかげさまでわたしのスローライフのクオリティが上がったわ。
こうして少しづつ確実に快適になっていく日々に満足していた。
数日後、こんな山奥に訪問者が現れた。マルクスさんにしては早すぎる気がするのだけど、誰だろう?そう思いながら見にいくとなんと金髪の彼、ノア様だった。驚いて目を見開いていると肩を震わせてクスクスと彼は笑っていた。
「突然すまない。様子を見に来たんだ」
「え、本当に来たんですか。遠いのにわざわざすみません」
「何か困っているんじゃないかと思ってな。何かあるか?」
顎に手を当てて考え込む。
「あ、収穫して欲しいものがあるんです」
バナナのあるところまで案内する。指をさし、あれをどうにか取れないかと聞いてみると彼はするすると木に登りバナナをとってくれた。
お礼代わりに家に招き入れる。お茶を出して今日は試しに作ってみたクッキーを添えてみた。そう、今度はお菓子作りにも手を出していた。初心者でもできそうなクッキーから。ちなみにお菓子作りもざっくりとした工程しかわからなかったのでマルクスさんにレシピを売ってもらっていた。
「これは、君が?」
クッキーを手に持ち、口に入れる。わたしは頷いて返事をする。
「うまいな。このあいだ食べたパンもうまかったが、君は料理がうまいんだな」
褒められ、素直に嬉しい。自分が認められたような気がしてこことがまた少し満たされていった。
「ところで、こないだ来た時はバナナの木はなかったはずだが。成長が早すぎないか?それにあれは一部の地域でしか育たないはずだが……」
その疑問はもっともだ。確かにわたしには何かしらの能力があると思うけれど正体はわからない。自分がわかっていない能力を多用するのは正直気がひけるけど、生きていくためには使わざるを得ないだ。お金になるようなものがあれば村でもすぐに生活していけるんだけど……
「わたしもよくわからないんですよね。実際見てもらった方が早いと思うので、何かわかったら教えて欲しいです」
再び畑へ戻り、小さな種を植えて力を使うとみるみるうちに成長する野菜に彼は目を瞠っていた。そりゃそうだ。おじいさんも最初腰を抜かしていたもの。
「……驚いたな。これは国に知られたら即保護対象だ。一生王宮に閉じ込められるぞ」
それは考えたこともなかったから、唖然としてしまう。そうか、国にとっては利用価値があるものね。でもわたしは今の暮らしを気に入っているし、とじ込められて自由がなくなるのは望んでない。
「人と関わっている時点でいつかはバレるぞ。方法はあるにはあるが……それでも君の自由を多少奪ってしまうだろう」
「そう……ですね」
もう何も考えられなかった。
また来ると言って彼は帰っていった。
一人になってから冷静になって考えてみる。平和なスローライフを送るには、人との関わりも断たなければならないということを。正直一人の力だけで生活していくことは難しいと思う。バレるまではこのままでいいとして、バレた時どうしよう。
鬱々とした気持ちで考えながらいつの間にか寝落ちしてしまった。
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