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煌びやかな装飾に綺麗に盛り付けられた料理、ウエイターが銀盆にグラスを乗せて歩き回っている。お酒は飲んだことはなかったので果実水をいただいた。美味しい……
料理も美味しそうな匂いが漂っていて涎が出そう。今日は夜会の準備に駆り出されて食事をいっさい取っていなかったのでお腹がなる勢いだ。
「食べたいなら食べてきたら?」
そう言ったのは妹のアリサ。金髪のツインテールをくるくる巻いている。デビュタントの令嬢はドレスの色を指定されておりみんな白のドレスを纏っている。その中で各々刺繍や宝石、デザインなどで飾っており、一つとして同じドレスはない。
対するわたしは黒髪をそのまま垂らし、シンプルなグレーのドレスをきていくように指示された。このドレスはお婆様のお下がりである。引き立て役ということだろう。
まぁ、こんな場違いなところに連れてこられているし、目立ちたくないので逆に助かってるのだけれど。
お腹がぐーっと一回なったけれど、わたしは食事は取らなかった。大抵の夜会は食事を用意されているものの貴族令嬢として食事にがっつくのははしたないとされている。それを加味してあえて我慢しているのだ。
いつもは言われるがまま従っているが、今日は違う。
小説仕込みのマナーがどこまで通用するかはわからないけれど、アリサからのヘイトを高めるためでもあった。できないと馬鹿にするために連れてきたのに実はマナーは完璧とか彼女を怒らせるには十分だと思う。
もう準備は整った。あとは早く家から追い出してもらうだけ。あえて彼女の怒りを買う行動をその後も繰り返した。
姉妹揃って立っているとそこに一人の男性が近づいていた。キラッキラの金髪に端正な顔、豪華な衣装に身を包んだその人はこの国の王太子殿下、カーライル・グロリアだった。
なんだか気持ち悪い笑みを浮かべて近づいてくる彼に嫌悪感すら覚えた。ここの人、なんだか嫌だわ。
「麗しいレディ。お名前を伺っても?」
なぜか彼の体はわたしの方に向いている。一体なんなの。
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。わたくし、フォンティーヌ伯爵家アリサと申します」
隣に立っていたアリサが満面の笑みで挨拶する。そうそう、アリサを相手しなさいよ。こっち見なくてもいいわ。
「そちらのお嬢さんのお名前は?」
「……王太子殿下にご挨拶申し上げます。フォンティーヌ伯爵家が令嬢、セリーヌと申します。」
ずっとこちらを見ながら顎に手を当てて頷いている彼の様子を見たアリサは鬼のような形相でわたしを睨みつけてくる。お?もしかしてこれは思いがけず作戦成功なのでは?
心の中でガッツポーズしながら彼の言葉をまった。一応王太子殿下なので無碍にはできない。名前も知られてしまっているし、家の名前に泥を塗ると家族だけでなく使用人のみんなにも迷惑がかかるかもしれない。それは避けなければ。
「そうか。セリーヌというのか。覚えておこう」
側近だろうか、呼びにきた人と一緒に帰って行った。
隣のアリサはそれはもう化粧が崩れるくらい顔を顰めていて、もう帰るとのことで一緒に帰路に着いた。
馬車の中でぐちぐちと文句を言われ続けたが、わたしは疲れていたので右から左に受け流していた。その態度にさらに怒ったアリサ。もういい、覚えてなさい。と捨て台詞を吐いて部屋へ戻っていった。
部屋に戻るとテーブルの上に食事が置かれていて、ありがたく食べた。ほのかに暖かくて、帰ってくる時間を見越して作ってくれたことに気づき、何かお礼をしなければと心に決めてベッドへ入った。
流石に夜会の次の日はアリサも遅くまで寝ていたようで使用人たちの協力もあってお休みをもらった。ゆっくりしようかとも思ったけど、昨日の食事のお礼も見繕ってこようと街に出かける準備をしたのだった。
向かった先は苗や種が売られているお店。そこでいくつか買って家の裏庭へ向かった。裏庭にはわたしがこっそり使っている畑があり、そこに買ってきた種や苗を少しだけ植える。土に手を添えて一気に成長させて収穫し、裏口から厨房へ向かった。
「あれ、今日は休みだって言ったろう?」
不思議そうに首を傾げた料理長とメイドたち。そんな使用人たちにわたしは袋を差し出した。
「これ、みんなで食べて。普段からよくしてもらってるからお礼よ」
にっこり微笑んで渡すと皆一様に喜んでいた。渡したのはどれも高価な食べ物で、伯爵家といえど使用人は食べられないものばかりだったのだ。
「おお!よし、今から作るからのんびり待っててくれ。みんなにご馳走だ」
嬉しそうな料理長の様子にわたしも嬉しくなった。よかった、喜んでくれた。休憩のメイドたちとお茶をしながら料理が出来上がるのを待った。
「そういえば、お嬢様カンカンだったわよ。あんなの追い出してやるーって。セリーヌ様、もうそろそろ願いが叶うんじゃないかしら」
「ええー!セリーヌ様がいなくなったら私寂しくて泣いちゃうわっ。お嬢様しかいない家なんてストレス溜まっちゃう」
よかったわねと喜んでいるメイドもいれば、寂しがるメイドもいて。そんなみんなを見ながら、料理長特製の料理を楽しんでいた。
料理も美味しそうな匂いが漂っていて涎が出そう。今日は夜会の準備に駆り出されて食事をいっさい取っていなかったのでお腹がなる勢いだ。
「食べたいなら食べてきたら?」
そう言ったのは妹のアリサ。金髪のツインテールをくるくる巻いている。デビュタントの令嬢はドレスの色を指定されておりみんな白のドレスを纏っている。その中で各々刺繍や宝石、デザインなどで飾っており、一つとして同じドレスはない。
対するわたしは黒髪をそのまま垂らし、シンプルなグレーのドレスをきていくように指示された。このドレスはお婆様のお下がりである。引き立て役ということだろう。
まぁ、こんな場違いなところに連れてこられているし、目立ちたくないので逆に助かってるのだけれど。
お腹がぐーっと一回なったけれど、わたしは食事は取らなかった。大抵の夜会は食事を用意されているものの貴族令嬢として食事にがっつくのははしたないとされている。それを加味してあえて我慢しているのだ。
いつもは言われるがまま従っているが、今日は違う。
小説仕込みのマナーがどこまで通用するかはわからないけれど、アリサからのヘイトを高めるためでもあった。できないと馬鹿にするために連れてきたのに実はマナーは完璧とか彼女を怒らせるには十分だと思う。
もう準備は整った。あとは早く家から追い出してもらうだけ。あえて彼女の怒りを買う行動をその後も繰り返した。
姉妹揃って立っているとそこに一人の男性が近づいていた。キラッキラの金髪に端正な顔、豪華な衣装に身を包んだその人はこの国の王太子殿下、カーライル・グロリアだった。
なんだか気持ち悪い笑みを浮かべて近づいてくる彼に嫌悪感すら覚えた。ここの人、なんだか嫌だわ。
「麗しいレディ。お名前を伺っても?」
なぜか彼の体はわたしの方に向いている。一体なんなの。
「王太子殿下にご挨拶申し上げます。わたくし、フォンティーヌ伯爵家アリサと申します」
隣に立っていたアリサが満面の笑みで挨拶する。そうそう、アリサを相手しなさいよ。こっち見なくてもいいわ。
「そちらのお嬢さんのお名前は?」
「……王太子殿下にご挨拶申し上げます。フォンティーヌ伯爵家が令嬢、セリーヌと申します。」
ずっとこちらを見ながら顎に手を当てて頷いている彼の様子を見たアリサは鬼のような形相でわたしを睨みつけてくる。お?もしかしてこれは思いがけず作戦成功なのでは?
心の中でガッツポーズしながら彼の言葉をまった。一応王太子殿下なので無碍にはできない。名前も知られてしまっているし、家の名前に泥を塗ると家族だけでなく使用人のみんなにも迷惑がかかるかもしれない。それは避けなければ。
「そうか。セリーヌというのか。覚えておこう」
側近だろうか、呼びにきた人と一緒に帰って行った。
隣のアリサはそれはもう化粧が崩れるくらい顔を顰めていて、もう帰るとのことで一緒に帰路に着いた。
馬車の中でぐちぐちと文句を言われ続けたが、わたしは疲れていたので右から左に受け流していた。その態度にさらに怒ったアリサ。もういい、覚えてなさい。と捨て台詞を吐いて部屋へ戻っていった。
部屋に戻るとテーブルの上に食事が置かれていて、ありがたく食べた。ほのかに暖かくて、帰ってくる時間を見越して作ってくれたことに気づき、何かお礼をしなければと心に決めてベッドへ入った。
流石に夜会の次の日はアリサも遅くまで寝ていたようで使用人たちの協力もあってお休みをもらった。ゆっくりしようかとも思ったけど、昨日の食事のお礼も見繕ってこようと街に出かける準備をしたのだった。
向かった先は苗や種が売られているお店。そこでいくつか買って家の裏庭へ向かった。裏庭にはわたしがこっそり使っている畑があり、そこに買ってきた種や苗を少しだけ植える。土に手を添えて一気に成長させて収穫し、裏口から厨房へ向かった。
「あれ、今日は休みだって言ったろう?」
不思議そうに首を傾げた料理長とメイドたち。そんな使用人たちにわたしは袋を差し出した。
「これ、みんなで食べて。普段からよくしてもらってるからお礼よ」
にっこり微笑んで渡すと皆一様に喜んでいた。渡したのはどれも高価な食べ物で、伯爵家といえど使用人は食べられないものばかりだったのだ。
「おお!よし、今から作るからのんびり待っててくれ。みんなにご馳走だ」
嬉しそうな料理長の様子にわたしも嬉しくなった。よかった、喜んでくれた。休憩のメイドたちとお茶をしながら料理が出来上がるのを待った。
「そういえば、お嬢様カンカンだったわよ。あんなの追い出してやるーって。セリーヌ様、もうそろそろ願いが叶うんじゃないかしら」
「ええー!セリーヌ様がいなくなったら私寂しくて泣いちゃうわっ。お嬢様しかいない家なんてストレス溜まっちゃう」
よかったわねと喜んでいるメイドもいれば、寂しがるメイドもいて。そんなみんなを見ながら、料理長特製の料理を楽しんでいた。
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