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第四章【メガラニア王国編】

アイス・スカルプチャー・パーク

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「時計台見るのも飽きたし....次は『アイス・スカルプチャー・パーク』よ!」
ケイラは次の観光地を提示しながら、勢いよく指さした。
彼女の声には次の目的地に向かうワクワク感が滲み出ていた。

「スカルプチャー..あぁ、氷の彫刻の公園か」
村田は少し考え、氷の彫刻をイメージしながら頷いた。

しかし、その言葉を聞いたライトは首をかしげ、不思議そうな顔をした。
「チョウコクって何?」
彼は純粋な疑問をそのまま口にした。

「多分実際に見た方が早いわ、行きましょ!」
ケイラはライトの頭を軽く撫で、いたずらっぽく微笑んでからライトの手を引くように歩き始めた。

アイス・スカルプチャー・パークに入った瞬間、三人の視界に無数の氷の彫刻が広がった。
彫刻たちは静かに並び、まるでこの場所が彼らの永遠の居場所であるかのように、冷たく美しい光を放っていた。
まるで現実ではないかのような、神秘的な空気に包まれている。

「さぁ着いたわ、これが氷の彫刻よ!」
ケイラは得意げにライトと村田に向かって腕を広げる。
その顔には、自分が見つけた素敵な場所を共有できる喜びが溢れていた。

「わぁきれいだね!これ全部氷でできてるの?」
ライトは驚きの声を上げ、目を輝かせながら彫刻を見て回る。
子供らしい好奇心がその瞳に宿り、次々と並ぶ作品に心を躍らせている。

「すげえな、今にも動き出しそうだ..」
村田もまた、彫刻に込められた細部の精巧さと、そこに込められた情熱に見入っていた。
彼の目には、その静止した氷の中に確かな動きや生命が宿っているように感じられる。

ライトは楽しそうに彫刻の間を駆け回っていたが、ある一体の彫刻の前で足を止めた。
彼は無言で見上げ、その彫刻にじっと目を凝らしている。

「..それが気になるのか?でっかいなこれ..」
村田がそっと声をかけると、ライトの視線が動かないことに気づき、同じように見上げる。
ライトが見ているのは、鳥の頭を模したヘルムを被った、身長3メートルにも及ぶ巨人の彫刻だった。

だが、ライトの表情は驚きや興味ではなく、どこか深い憎悪と不快感に染まっていた。
「どうしてここに....胸糞悪い..!」
彼は唇を強く噛み、体を震わせながらつぶやいた。
無意識のうちに手が彫刻に向かって伸びていく。
怒りで視界が歪み、気づかぬうちに手には魔力が宿り、わずかに火の粉が散っていた。

「ダメよ触っちゃ!」
ケイラが慌ててライトの手を掴み、ぎりぎりで止めた。
その表情には焦りと驚きが入り混じっている。

「もし壊れでもしたらこれ弁償よ!気をつけなさい!」
ケイラは彫刻を指さし、真剣な眼差しでライトを諭した。
彼女の手がライトの肩に添えられ、じっと見つめるその視線に、ライトは思わずたじろいでしまう。

「あ..ご、ごめんなさい..」
ライトはハッと我に返り、視線を落としてつぶやいた。

(僕..今何を..)
自分の手を見つめ、先ほどまでのことを振り返ろうとするも、
どこか記憶が途切れ途切れで、その思いをうまく思い出すことができない。

「なにもそこまで強く言わなくても..初めて見るんだ、触りたくもなるだろ」
村田がライトを擁護するように口を開き、彼の背中を軽く叩いて元気づけようとした。

しかし、ケイラはそれにさらに苛立ったように村田を睨みつける。
「こんなの彼の魔法で簡単に壊せるわ。というか..隣にいたんならあんたがちゃんと見ておきなさいよ!」
ライトの肩越しに村田を睨むケイラの視線には、少しの焦りと緊張が見て取れる。

「いや悪かったって..ライトどうした?さっきから様子がおかしい気がするんだが」
村田もケイラの剣幕に少し呆れながらも、
ライトの様子がおかしいことに気づき、心配そうにその表情を覗き込む。

「え....あ..だ、大丈夫だよ!色々見れて楽しかった!」
ライトは心配をかけないように慌てて声を張り上げ、
元気に振る舞おうとするが、その声は少し上ずっていた。

「そうか?ならいいんだが..で、ぼちぼちいい感じの時間になったな」
村田は空を見上げ、日が落ちかけていることに気づいて言った。

ケイラもまた空に目を向け、小さくため息をついた。
「あぁそうね。そろそろ宿に戻っておきましょうか、明日から忙しくなるだろうしね」

最後に一度、ライトが見ていた巨人の彫刻をチラリと一瞥した後、
三人は静かに雪が舞うパークを後にする。
そして、ライトの胸の奥にわだかまる感情のかけらが、氷の彫刻に覆われるように沈んでいった。
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