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第三章【パシフィス王国編】

恐怖

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ケイラが大柄な男と対峙している間、ライトは不安と緊張で胸がいっぱいだった。
手が微かに震え、呼吸が浅くなるのを感じた。
男二人が自分に向かって迫ってくるのを見て、心臓が早鐘のように打ち始める。

「やってみるしかない..」
ライトは小さく呟き、片手を前に突き出して魔力を集中させる。
指先が温かくなり、ファイアが一人の侵入者に向かって飛んだ。

男は素早くそれをかわし、ニヤリと笑った。
「そんなものかよ、ガキが!」
その嘲笑にライトの心はさらに不安で揺れ動いた。
突撃してくる男の目には、ライトを見下す冷たい光が宿っていた。

もう一人の男はライトに向かいウィンドを放った。
ライトは何とかウィンドを相殺するが、その隙に突撃してきた男に押し倒され、地面に叩きつけられる。
衝撃が全身を駆け抜け、息が一瞬止まった。

「お前実戦経験が無いだろ?まぁ当たり前か、ガキだもんな」
男の一人が馬鹿にしながらライトの上に覆いかぶさった。
彼の手がライトの喉元にかかり、力を込めて押さえつけた。

ライトは必死にもがきながら、喉にかかる圧力に抵抗した。
視界がぼやけ、呼吸が苦しくなる。
「がぁっ....はな..して..」
彼は全力で相手の腕を引き離そうとしたが、力の差は明らかだった。

「安心しろ、殺しはしねぇからよ」
男は冷酷な笑みを浮かべ、ライトの喉をさらに強く押さえつけた。
その言葉には軽蔑と支配の意識が込められていた。

「おいそっちの女!!動くんじゃねぇぞ、動いたらこのガキがどうなるか、わかってんな?」
男はライトを人質に取り、ケイラに向かって大声で脅すように言った。

ケイラはライトが捕まっているのを見て、心の中で焦りが広がった。
(しまった..ライト君が..!)
彼女は冷静を装いながらも、内心ではどうすれば彼を助けられるかを必死に考えていた。

「武器を捨てて両手を挙げろ」
男の命令に、ケイラは深いため息をつき、剣を捨てて両手を挙げた。
彼女の動きは無駄なく、冷静だった。

「よーし、では..服を脱いでもらおうか」
男はケイラの体を見ながら、いやらしい笑みを浮かべた。
もう一人の男も薄気味悪く笑っている。

ケイラは呆れた様子で言った。
「はぁ..欲に素直ねぇ..ま、私が言えたことではないけど」
彼女は冷静にベージュのベストを脱ぎ始める。

二人の男はその様子を注視していた。
彼らの目は欲望に輝き、ライトを抑える力が徐々に弱まっていった。

ライトは心の中で叫び、残る力を振り絞って腕を突き出した。
腕を突き出し、男の顔目掛けてファイアを放つ。

「がぁっくそがっ!」
それは男の顔に直撃し、彼は驚愕と痛みに叫び声を上げた。
男は顔を押さえながら後退し、その隙にライトは自由を取り戻した。

「てってめぇ!!」
もう一人の男が怒りに燃えた目でライトに向かい、魔法を放とうとした。

ライトは反射的に体を低くし、攻撃を避けようとしたが、
次の瞬間、ケイラが落とした剣を拾い上げ、素早く男に向かって投げた。
剣は男の左胸を貫通し突き刺さった。

「ぐあっ!」
男は驚愕の表情を浮かべ、胸を押さえながら後退した。
血が噴き出し、彼の体は力なく崩れ落ちた。
ケイラの冷静かつ迅速な行動により、男は動きを止めた。

「おねえちゃん....」
ライトの声は震えていたが、その目には感謝と安心が込められていた。

次の瞬間、ライトはケイラに抱きついた。
彼の小さな体がケイラにしがみつき、震えが伝わってくる。
「ごめんね、怖かったわよね..」
ケイラはライトの頭を優しく撫でながら、申し訳なさそうに囁いた。

(そうだった、魔人である以前にこの子はまだ子どもだった..これは私の判断ミスね)
ケイラは心の中で反省し、ライトをもっと守るべきだったと自分を責めた。

その時、
「あ、いたっ!おい、大丈夫か!!」
と聞き覚えのある声が響いた。

ライトは驚いて顔を上げ、ケイラもその方向に視線を向けた。
こちらに村田が走ってくるのが見えた。

「あら、よくここってわかったわね?」
ケイラは微笑みながら村田に声をかけた。

「路地裏に入っていくのは何とか見えたからな、とりあえず無事そうでよかった..」
村田は息を切らしながらも、安堵の表情を浮かべた。
彼の顔には心配と疲れが見え隠れしていた。

「まぁ、なんとか..ね。少し怖い思いをさせてしまったけれど..」
ケイラはライトを抱きしめながら答えた。
彼女の心には罪悪感が残っていた。

村田はライトの様子を見ながら優しく言った。
「そうか、でもありがとうな。ライトを守ってくれて」
彼の声には感謝の気持ちが込められていた。

「気にしないで。あなたには返しきれないほど借りがあるんだから」
ケイラは笑みを浮かべながら答えた。

「じゃ、二人は先に戻っていて。私はそこの奴から聞きたいことがあるから..」
ケイラはライトを押さえつけていた男に目をやりながら言った。
彼女の目は冷たく鋭く、その男を逃がさないという決意が見て取れた。

村田はライトを優しく引き寄せながら頷いた。
「わかった、気をつけてな。じゃあ行くか」
彼の声には安心感が漂い、ライトは村田の腕に導かれて歩き出した。

ケイラは二人を見送り、再び男に目を向けた。
彼女の瞳には冷酷な光が宿り、その男から情報を引き出す決意が固まっていた。
「さぁて、ちょっとばかしお話を聞かせてもらおうかしら…」
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