ゲノム～失われた大陸の秘密～

第二章【カバルの村編】

初戦闘

やがて、森の暗がりから巨大な影がゆっくりと姿を現した。
その瞬間、弓兵たちは息をのみ合図を待った。
ガガリアは冷静に状況を見極め、熊が射程距離に入るのを待っていた。

熊との距離が縮まり、200mを切ったその時、ガガリアは力強く
「撃て！！」
と号令をかけた。
その声に応えるように弓兵たちは矢を放ち、毒を塗った鋭い先端が熊を目掛けて飛んでいった。
一列目の弓兵が放った後、彼らは素早く後退し、二列目の弓兵が前に出て、再び矢を放った。
その連携の素晴らしさには、長い訓練と経験が感じられた。

ガガリアの手から放たれる魔法は、まるで刃のように鋭く、熊の足元を狙った。
その風は熊を大きく揺さぶり、一時的にその動きを鈍らせた。

一方、ライトは小さな手から驚くほど強力な炎の球を放った。
その球は、まるで夜空を彩る流星のように熊に向かって飛び、熊の顔面に直撃した。
ライトの放った炎魔法は、彼の内に秘めた潜在的な力の片鱗を見せつけるかのようだった。

（すごい威力と精度だな..しかもその歳で無詠唱か、何者なんだ？）

しかし、熊の生命力は想像以上に強く、矢の神経毒も彼の巨体にはあまり効いていないようだった。
毒と魔法の攻撃を受けてもなお、熊は再び動き出し、今度はより速い速度でこちらに向かってきた。
その迫力ある姿に、一瞬で緊張が走り、村人たちの間には新たな恐怖が広がった。

ベルタが戦慄を込めて叫ぶ。
「えぇ！？毒聞いてねぇのかよ！？」
その言葉に、周囲の村人たちの顔色が一層青ざめた。

その時、村田が息を切らして駆けつけ、ライトの無事を確認する。
「ライト！大丈夫か！？」
彼の声には、深い心配と安堵が入り混じっていた。

「シュン！ここだよ！」
ライトの声は元気いっぱいで、村田を見つけた喜びを隠さなかった。

しかし、村田の目に飛び込んできたのは、迫り来る巨大な熊の姿。
「よかった..ってでけぇ熊来てるし！？」
彼の声には驚きと緊張が混ざり合っていた。

グレイスは急いで村田に提案する。
「あっ村田いいところに！さっきのキノコ持ってるか？」
彼の目は、ある計画を思いついたかのように輝いていた。

村田は状況を理解し、
「それを矢に塗るんだ！毒矢を作ってくれ！」
と指示を出す。

しかし、彼はすぐに問題に気付く。
「だが、このままじゃ塗れない..」
彼の声には焦りが滲んでいた。

その時、ライトが行動を起こす。
「シュン、それ貸して」
と言って、村田からキノコを受け取る。
そして、驚くべきことに、彼はそのキノコを全て口に含んだ。

村田は驚愕し、
「ばっ..何やってんだ！？」
と叫んだ。ライトの行動には理解を超えたものがあった。
ライトは毅然として矢を渡すようにジェスチャーし、やじりに口の中のキノコの汁を吹き付けた。

毒矢が完成し、村田はそれを後方に待機する村人たちへと渡した。
「お前にしかできないわそれは..」

彼の声はライトへの感謝と尊敬を込めていた。

その毒矢が熊に放たれると、効果はすぐに現れた。
熊の動きが顕著に鈍くなり始め、その巨体が揺らぐ様子が見えた。
そこに魔法と毒矢による追撃が入り、ついに熊の動きが完全に止まった。

重い沈黙が一瞬、場を包んだ後、村人たちから安堵と勝利の声が上がった。
彼らの表情は一変し、恐怖から解放された安堵と喜びで満たされた。

ガガリアはその光景を静かに眺めながら、深い溜息をついた。
彼の顔には、苦難を乗り越えた達成感と、犠牲を払った悲しみが混在していた。
ライトはその場で小さく拳を握り、内心で村田と自分自身を励ました。