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君恋7
7-12
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黙ったままの俺に不安を覚えたのか、彼らしからぬ戸惑いの声で俺を呼んだ。
「……優一?」
「なんで、さっき機嫌悪かったんですか。神条さんの考えを読んでいたんなら、そうならないはずでしょう?」
「ならないわけないだろう。考えに気付いたのはアイツの笑った顔を見た時だし、気付いたとしてもお前に触れたことに変わりはないんだからな」
(っ……あの人は、俺が苦しむのを分かっていてあんなことをしたのか? いや、違う……苦しみを与えたのは、俺自身だ。榊さんに見られて焦ったのも確かだし、誤解、解かなきゃって……そんな必要ないはずなのに、そうじゃなかった……)
俯いたまま眉間に深く皺を刻んでいると、大きな溜息が背後から聞こえて来た。
「雪乃に言われて感情を押し付けないようにと思っていたが――もう限界だ」
「え……ちょ――!?」
呟きと共に後ろから目の前に手が伸びて来て、俺の頬に触れた。
そのままぐるんと後ろを向かされてしまい、突然変わった景色に目を丸くする。
「……優一、泣いてたのか……?」
「っっ!? あ、あんたには関係ない!」
赤くなっている目元に触れようとする指を咄嗟に払い除ける。
が、
「関係ないなら見せられるだろ」
と更に強い力で顔を掴まれて上を向かされた。
こんな顔を間近で見られちまうとか、冗談じゃない。
そう思うのに、この人の強い力と視線に身体が動かない。
「お前は、雪乃とのことを俺に見られてどう思ったんだ?」
「っ……」
「ああ、勘違いするなよ? 尋問したいわけじゃない。ただ、お前の気持ちが知りたいだけだ」
「……、……」
「俺の態度のせいで、泣いてくれた。俺はそう思いたいんだが……ダメか?」
困ったような笑みを浮かべながら、俺を見つめる瞳。
そんな訊き方は、卑怯だ。
もう今までのように、この手を払い除けることなんてできないのに……。
向き合おうって決めたのは俺だ。
「……うっ」
また涙が滲む。
苦手が、いつの間にか好きに変わった事に、はっきりと気付いてしまった。
苦しくて、認めてしまいたいと……心から思ってしまった――。
零れそうになる涙を、榊さんの舌が優しく掬う。
「お前の気持ちは分かった。これからゆっくり、言葉にしてもらうからな。覚悟しとけ」
俺に軽く口付けて、眼鏡を外した榊さんは次に激しいキスをした。
「ん……っ……ちょ、待て……」
「今まで随分待ったのに、まだダメだと言うのかお前は」
(この人、なんか色々根に持ってる?)
涙はすっかり引っ込み、呆れた顔を向ける。
「そうじゃなくて。ちょっと、気になってることがあるんですけど……」
「……何だ?」
全く見当がつかないといった顔で俺を見つめて来る。
その瞳をジッと見つめ返す。
「なんで、神条さんが俺と榊さんのこと知ってるんですか?」
「…………あー……」
「あー、じゃない!! あんた何喋ってくれたんだ!」
俺から視線を逸らした榊さんの胸倉をガッチリ掴んで揺さぶる。
「あの人にはずっと黙っておきたかったのに秘密を漏らした上に協力させるとかもうあの人に合わせる顔ねーんだけど!!?」
「ゆ、優一落ち着け……」
「落ち着いてられるか! ――あっ、まさか俺があの人のこと好きだった事まで話してないだろうなあ?」
「それは……」
(ここで言い淀むのかよ……!)
どういう神経してんだこの人は! と更にガクガクと揺さぶる。
「何してくれちゃってんだよオイ。もう店にも居られねーんだけどぉ?」
「だから、落ち着けッ」
揺する俺の手を榊さんが強く掴む。
「そのことは話していない」
「本当かよ……」
「ああ。俺が話さなくても、アイツは気付いていたからな」
(……え……?)
言っている事が良く分からない。
「……優一?」
「なんで、さっき機嫌悪かったんですか。神条さんの考えを読んでいたんなら、そうならないはずでしょう?」
「ならないわけないだろう。考えに気付いたのはアイツの笑った顔を見た時だし、気付いたとしてもお前に触れたことに変わりはないんだからな」
(っ……あの人は、俺が苦しむのを分かっていてあんなことをしたのか? いや、違う……苦しみを与えたのは、俺自身だ。榊さんに見られて焦ったのも確かだし、誤解、解かなきゃって……そんな必要ないはずなのに、そうじゃなかった……)
俯いたまま眉間に深く皺を刻んでいると、大きな溜息が背後から聞こえて来た。
「雪乃に言われて感情を押し付けないようにと思っていたが――もう限界だ」
「え……ちょ――!?」
呟きと共に後ろから目の前に手が伸びて来て、俺の頬に触れた。
そのままぐるんと後ろを向かされてしまい、突然変わった景色に目を丸くする。
「……優一、泣いてたのか……?」
「っっ!? あ、あんたには関係ない!」
赤くなっている目元に触れようとする指を咄嗟に払い除ける。
が、
「関係ないなら見せられるだろ」
と更に強い力で顔を掴まれて上を向かされた。
こんな顔を間近で見られちまうとか、冗談じゃない。
そう思うのに、この人の強い力と視線に身体が動かない。
「お前は、雪乃とのことを俺に見られてどう思ったんだ?」
「っ……」
「ああ、勘違いするなよ? 尋問したいわけじゃない。ただ、お前の気持ちが知りたいだけだ」
「……、……」
「俺の態度のせいで、泣いてくれた。俺はそう思いたいんだが……ダメか?」
困ったような笑みを浮かべながら、俺を見つめる瞳。
そんな訊き方は、卑怯だ。
もう今までのように、この手を払い除けることなんてできないのに……。
向き合おうって決めたのは俺だ。
「……うっ」
また涙が滲む。
苦手が、いつの間にか好きに変わった事に、はっきりと気付いてしまった。
苦しくて、認めてしまいたいと……心から思ってしまった――。
零れそうになる涙を、榊さんの舌が優しく掬う。
「お前の気持ちは分かった。これからゆっくり、言葉にしてもらうからな。覚悟しとけ」
俺に軽く口付けて、眼鏡を外した榊さんは次に激しいキスをした。
「ん……っ……ちょ、待て……」
「今まで随分待ったのに、まだダメだと言うのかお前は」
(この人、なんか色々根に持ってる?)
涙はすっかり引っ込み、呆れた顔を向ける。
「そうじゃなくて。ちょっと、気になってることがあるんですけど……」
「……何だ?」
全く見当がつかないといった顔で俺を見つめて来る。
その瞳をジッと見つめ返す。
「なんで、神条さんが俺と榊さんのこと知ってるんですか?」
「…………あー……」
「あー、じゃない!! あんた何喋ってくれたんだ!」
俺から視線を逸らした榊さんの胸倉をガッチリ掴んで揺さぶる。
「あの人にはずっと黙っておきたかったのに秘密を漏らした上に協力させるとかもうあの人に合わせる顔ねーんだけど!!?」
「ゆ、優一落ち着け……」
「落ち着いてられるか! ――あっ、まさか俺があの人のこと好きだった事まで話してないだろうなあ?」
「それは……」
(ここで言い淀むのかよ……!)
どういう神経してんだこの人は! と更にガクガクと揺さぶる。
「何してくれちゃってんだよオイ。もう店にも居られねーんだけどぉ?」
「だから、落ち着けッ」
揺する俺の手を榊さんが強く掴む。
「そのことは話していない」
「本当かよ……」
「ああ。俺が話さなくても、アイツは気付いていたからな」
(……え……?)
言っている事が良く分からない。
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