君だけに恋を囁く

煙々茸

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君恋7

7-8

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「内に……?」
「はい。好きか嫌いかで考えるのではなく、自分が張っている結界の中に、入れてもイイ人間かどうかです」
「俺って結界張ってるように見えるか?」
「見えますね」
(即答!?)
「というか、誰でも張っているものですよ。ただ、英店長の場合はそれが少し厚いというか……。厄介なものではありますね」
「……そんな風に見えるのか、俺」
「きっと、プライドの高い人は特にそうなのかもしれません」
(内に入れても良いか否か、か……。仕事では信頼できる人ではある。それは認める。けど、れ、恋愛とか……? そういう気持ちで考えると……っ)
 顔が熱いのはホットレモンティーのせいだと思い込むことにして、俺は小さく息を吐いた。
「分かった。ちゃんと話してみる」
「英店長……」
「だからって、心境が変わるとは限らないけどなっ。……それでも、まあ……向き合うことくらいはする」
 そうしないと、気持ちが晴れないままだ。
「はい、是非! お願いします」
「お前にお願いされることじゃねえと思うけどな……」
 津田が妙に嬉しそうで、なんだか照れ臭い。
 首の後ろを擦って視線を彷徨わせる。
「――そういえば、神条さんとは話せたのか?」
 結局、午後合流するはずの神条さんは夕方になってしまい、夕飯を一緒にとることしか出来なかった。
「はい。まあ、まだ物足りない感はありますが、そこそこお話できましたよ」
「良かったじゃねえか。一応明日も一緒に帰る予定だから、また話せるといいな」
 そうですね、と笑う津田は少し控え目に見えた。
 やはりオーナーを前にすると緊張するということだろうか。
(そいやあ俺、前ほど神条さんと話しても何とも思わなくなったな。もちろん嫌いになったわけじゃないし、凄い人だと今も思ってるけど……。なんでだろうな)
 少し前までは気恥しさや変に嬉しくなる気持ちがあったのだが、久し振りに会ってみてその感情がぶわっと出て来ることがなかったことに驚いている。
(時間が解決してくれることもあるんだな)
 今は気持ちが凄く軽く感じる。
「そろそろ戻るか」
「そうですね。お風呂に入りそびれてしまいますから」
 飲み終わって空になった缶をゴミ箱に捨て、来た道を二人で引き返した。


 *****


「はぁ……。とりあえず、一人でゆっくり入れて良かった」
 大浴場から部屋へ戻る途中、首に掛けたタオルで髪から落ちる水滴を拭う。
(榊さんが部屋に居なかったのが幸いだな)
 心の準備をする時間が得られたのは大きい。
(でも一体どこに行ったんだ? もう部屋に戻ってきてるよな)
 前方に松の間が見えて来た。
(う……緊張すんなぁ……。ここまできて往生際の悪い。しっかりしろ! 俺!!)
 グッとタオルを握り締める。
 と、松の間の更に向こうから、知った顔が近付いてくるのが見えた。
「……神条さん?」
「あれ~? 優一じゃない! 一人でお風呂―?」
 テンション高らかに俺を呼ぶ神条さんの手には、タオルに着替えが入ってると思われる袋を抱えていた。

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