君だけに恋を囁く

煙々茸

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君恋7

7-2

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「お前みたいに慌てふためくと、余計怪しまれるんじゃないのか。ま、俺はどう取られても構わないが」
「んな……っ!」
(なんて奴だ! 仲間に誤解されてもいいっていうのか!?)
 怒りやら恥ずかしさやらが入り混じって顔が熱い。
 そんな俺とは反対に、榊さんの表情に変化はない。
「そもそも、津田は冗談で言っただけだろう。そうやってムキになる方がおかしいぞ。――それとも、」
 俺の耳元に榊さんの顔が寄り、
「……ムキになる理由でもあるのか?」
 と囁いた。
(~~~な、なんなんだよそれはっ!! あるわけねーだろそんな……っ)
 かあぁ、と熱が上昇し、変な震えが背中を伝った。
 何か言い返したいのに、言葉が全然出て来ない。
 息の触れた、真っ赤であろう耳を押さえて榊さんを睨むと、余裕な笑みが返って来た。
 それがまた更にムカついた。
 向かいからは津田のクスクスと笑う声が……。
「榊店長、そんなにからかったら英店長が可哀想じゃないですか」
 榊さんの言うとおり、津田は俺達の隠れた感情までは気付いちゃいない。
 だから、榊さんが俺をからかう……というより構う理由も、俺しか感じ取ることはできない。
(ムキになるなって方が無理だろ……こんなのッ。この人は、俺の事好きなわけだし。そんなこと聞かされて意識しない人間なんて……)
 ――自分も気になっているから変に意識してしまうのか……――。
(え……ちょっと待て! 今、何に気付いた? 何考えてんの俺!!)
 テーブルに置いた拳に力を入れる。
(なんか、今日の俺おかしくないか? すげぇ、息苦しい。病気か? ……小笠原が何かやらかす前兆とか……)
 混乱のあまり、まったく話に入っていない小笠原を勝手に巻き込む始末。
 (もう、どうしたらいいのか考えても無駄なのか………)
 溜息をつき、最後のクロワッサンを口に運ぶ。
 その時、誰かがこっちを見ている気がして視線を少し遠くへ巡らせた。
(……片山さん?)
 しかしその視線は直ぐ外されてしまった。
 何か言いたげな感じだったが、たまたま目が合っただけかもしれない。
 俺はあまり深く取らずに食事は再開した。

「あー、朝から食べ過ぎた~~~」
 レストランを出ると両腕を上げて伸びをしながら小笠原が零した。
「バス酔いするなよ?」
「あ、それは大丈夫っス。オレ、車酔いとかしたことないんで」
「あぁ、確かにそんな感じだよな、お前は」
(心配して損した)
 マイクロバスに乗り込んだ俺達は、旧軽井沢へと向かった。
 バスから降りて少し歩くと、一本の道を挟んで個々の店が連なった光景が広がった。
 夏休み明けて少しは空いているかと思ったが、天気がイイせいか思ったより人が出ている。
 俺の隣に並んだ木村さんが、いつもより二割増しの微笑みを浮かべた。
「こういった小ぢんまりとしたお店も、趣きがあっていいですねえ」
「そうですね。都会とはまた違った雰囲気があって和むというか……」
 俺の言葉に、木村さんがはっはっはと気持ち良く笑う。
「英店長も、分かりますか」
「ええ、普段見られるものじゃないですから、余計に」
「そうなんですよねぇ。都会も悪くはないですが、やはり、こういう風景も恋しくなりますね。――あ、ちょっとこのお店ゆっくり覗いていいですかね?」
「あ、はい、どうぞ。自由行動なので決まった時間に集合場所に来てもらえれば何処へ行っても問題ないですよ」
「それじゃあ、また後で」
 木村さんと別れて先を歩く。
 他のメンバーも各々観光を楽しんでいるようだ。
 少し前方から小笠原と高屋の声が聞こえてきた。
(やたら目立つな、アイツ等は……)
 見た目もそうだが、いろんな意味で悪目立ちしている。
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