62 / 74
君恋7
7-1
しおりを挟む社員旅行二日目。
まずは朝食をとる為、1号店2号店の面々で深緑に囲まれた感じのいいレストランを訪れた。
「結局、神条オーナーは今日の午後合流なんですか」
俺の向かいに座った津田が緩く肩を竦めて呟いた。
「そう連絡はあったけど……、どうかしたのか?」
「いえ、なかなかお会い出来る機会がないので、できれば早いうちから会えてたらなって」
「ああ見えて多忙な人だからな。夜にでもじっくり話すといい。いろいろ聞きたい事あるんだろ?」
「そうなんですよねー。海外での知識ってなかなか得られるものじゃないですし」
将来、自分の店を持ちたいという津田の気持ちを考えればこういった機会は貴重なものだろう。
(俺も昔はいろいろ考えてたけど、今はアンティークのこと以外考えてる余裕ないからな……。俺って青春とかしたっけ?)
全く記憶にない。
そもそも青春って何? って話だ。
「そういえば、英店長もオーナーとお会いするの久し振りなんですよね?」
「まあな。たまに電話で話すくらいで、現れる時はいつも突然だ」
「ふふ。でも、声が聞けるだけいいじゃないですか。俺なんて電話を掛ける事すら恐れ多くて」
津田の言葉には少し首を捻る。
(オーナーとはいえ、あの人だし……。気負う必要はないと思うけどなぁ)
幼馴染という立場を棚に上げてそんなことを思う。
目の前に運ばれてきたサラダとスープ、クロワッサンとハムエッグに、腹がキュルルと音を立てた。
(このスープにパンをつけて食べると美味いんだよなー)
千切ったクロワッサンを好きなように食べる。
「相変わらず朝は小食なんだな」
「っ!?」
突然耳元で囁かれて肩が跳ね上がった。
前にお粥を作ってくれた時のことを思い出してしまい頭を左右に振る。
「わ、悪いですか」
「そうは言ってないだろ。いちいち突っかかるな」
俺の朝食を覗き込む榊さんにムッと顔を顰めた。
よりによって隣が榊さんとは、平穏に過ごしたい希望がもうなくなってしまった。
「榊さんは、ちゃんと朝食食べるんですね」
「当たり前だろう。俺を何だと思ってるんだ」
「……どっちが突っかかってるんだか」
ただ、一緒に朝食を食べることが新鮮過ぎて、違和感から出た言葉だった。
「今日は歩くんだから、しっかりコレも食べろ」
小さく呟いた文句は綺麗にスルーされた。
そして俺の皿に乗せられたのは、箸で半分に割られた焼き魚だった。
「洋食に焼き魚って……合わないじゃないですかっ」
「そんなことはないぞ。地元で獲れた新鮮な川魚らしいからな。栄養はいいはずだ」
「そういう問題じゃないですよ! まったくッ。……これじゃあ折角の香ばしいクロワッサンが台無しだ」
「なら、俺も手伝ってやろうか?」
「なんでこういう話だけ聞いてるんですか! ――ちょ、本当に取った!? しっかり食べろって言ったのはどこの誰だっ!」
クロワッサンを一つ摘み上げた榊さんが、お構いなしにそれを齧る。
「ん、なかなか美味いな。まだ温かいし、焼き立てか?」
「あんた、人の話聞いてないだろ」
ああ言えばこう言うで、まるで子供の喧嘩だ。
そこへ、津田の笑い声が割り入って来た。
「あはは。なんかお二人、痴話喧嘩してるみたいですね」
(痴話――!?)
「全然違う!」
と、俺は全否定したが、榊さんは黙って食事を続けている。
「ちょっと、榊さんも否定くらいして下さいよ。言い返さないなんてあんたらしくもない」
ピタリ。
榊さんの箸が止まった。
0
お気に入りに追加
29
あなたにおすすめの小説
兄が届けてくれたのは
くすのき伶
BL
海の見える宿にやってきたハル(29)。そこでタカ(31)という男と出会います。タカは、ある目的があってこの地にやってきました。
話が進むにつれ分かってくるハルとタカの意外な共通点、そしてハルの兄が届けてくれたもの。それは、決して良いものだけではありませんでした。
ハルの過去や兄の過去、複雑な人間関係や感情が良くも悪くも絡み合います。
ハルのいまの苦しみに影響を与えていること、そしてハルの兄が遺したものとタカに見せたもの。
ハルは知らなかった真実を次々と知り、そしてハルとタカは互いに苦しみもがきます。己の複雑な感情に押しつぶされそうにもなります。
でも、そこには確かな愛がちゃんと存在しています。
-----------
シリアスで重めの人間ドラマですが、霊能など不思議な要素も含まれます。メインの2人はともに社会人です。
BLとしていますが、前半はラブ要素ゼロです。この先も現時点ではキスや抱擁はあっても過激な描写を描く予定はありません。家族や女性(元カノ)も登場します。
人間の複雑な関係や心情を書きたいと思ってます。
ここまで読んでくださりありがとうございます。
目が覚めたら、カノジョの兄に迫られていた件
水野七緒
BL
ワケあってクラスメイトの女子と交際中の青野 行春(あおの ゆきはる)。そんな彼が、ある日あわや貞操の危機に。彼を襲ったのは星井夏樹(ほしい なつき)──まさかの、交際中のカノジョの「お兄さん」。だが、どうも様子がおかしくて──
※「目が覚めたら、妹の彼氏とつきあうことになっていた件」の続編(サイドストーリー)です。
※前作を読まなくてもわかるように執筆するつもりですが、前作も読んでいただけると有り難いです。
※エンドは1種類の予定ですが、2種類になるかもしれません。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
カフェと雪の女王と、多分、恋の話
凍星
BL
親の店を継ぎ、運河沿いのカフェで見習店長をつとめる高槻泉水には、人に言えない悩みがあった。
誰かを好きになっても、踏み込んだ関係になれない。つまり、SEXが苦手で体の関係にまで進めないこと。
それは過去の手酷い失恋によるものなのだが、それをどうしたら解消できるのか分からなくて……
呪いのような心の傷と、二人の男性との出会い。自分を変えたい泉水の葛藤と、彼を好きになった年下ホスト蓮のもだもだした両片想いの物語。BLです。
「*」マーク付きの話は、性的描写ありです。閲覧にご注意ください。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる