君だけに恋を囁く

煙々茸

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君恋5

5-5

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(あ。榊さんのしたミスってなんだったんだろうな。聞いとけば良かった)
 少し勿体ないことをしたかと惜しく思いながら、グラスを空にした。
「優ちゃん飲んでるー?」
「ああ。お前程じゃあないけどな」
「いやいや、オレは酔い易いだけ。まだほんの二、三本しか開けてないっスもん」
「十分だろうが」
 俺の隣が空いたところで小笠原が上機嫌に腰を据えた。
「さっき話してた人って、二号店の新顔くんと津田さんっスよね」
「ああ。……って、見てたのか」
「つい視界に入っちゃうんスよ。優ちゃん目立つから、いろいろと」
「いろいろって何だ」
 それには答えずにケタケタ笑う小笠原。
(コイツ、かなり酔ってんな……。また日野に迷惑かけるんじゃないだろうなあ)
 もちろん、俺は御免だ。
 面倒だし、家に送るにしても方向が違う。
「小笠原、もう程々にしとけよ」
「えー。オレまだ優ちゃんと飲んでないっスも~ん」
「ちょ、重い……!」
 くてんと俺の肩に頭を乗せて来た。
「オレと飲んれくれるまで、離れないっスよ」
「呂律回ってねーじゃねえか!」
 押し退けようとするも、更にグリグリと頭を押しつけられて、体重を支え切れずに俺の体が傾いた。
 トンっ……。
 そのままドミノ倒しのように片山さんの肩に頭をぶつけてしまった。
「あ、すみません」
「いえいえ。大変ですね、お守も」
「ははは。まぁ、いつものことですが」
 小笠原に聞こえないように小声で話す。
 空笑いの俺に対して、片山さんはどことなく楽しそうだ。
「片山さんもちゃんと飲んでます?」
「飲んでますよ。――あ、注ぎます。店長」
「え、ああ、すみません」
 片山さんが傾けて来た物に、俺は一瞬目を丸くした。
「……ウーロン茶?」
「ええ。そろそろ、休憩したいんじゃないかと思いまして」
 確かに、さっきからビールばかり飲んでいる。
 全然酔ってはいないが。
「気が利きますね。さすが片山さんだ」
「そんな褒めることじゃないですよ」
 グラスのビールを綺麗に飲みほしてから、片山さんにウーロン茶を注いでもらう。
「ありがとうございます」
「いいえ」
 片山さんと微笑み合った俺の後ろで、小笠原が唸りを上げた。
「優ちゃんオレのことも構ってよー。構ってくれないとぉ……チューするよ」
 ぴくりと俺の片眉が跳ねた。
 肩越しにある小笠原の顔をチラリと見遣る。
「お前は、構わなくたってしようとしてくるじゃねえか」
「なぁんだぁ。分かってくれてるなら、遠慮はいらないっスね~」
「遠慮はしろ!」
「ンゴッ!!」
 今度こそ、小笠原の顔を押し退けることに成功した。
 そこへ、日野が苦笑いを浮かべながらやって来た。
「もー。絡み酒はダメだよ、清ちゃん」
「日野ちゃーんッ。優ちゃんが構ってくれなーい」
「僕が代わりに構ってあげるから、ね?」
「ひ、日野ちゃん……」
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