46 / 74
君恋5
5-5
しおりを挟む
(あ。榊さんのしたミスってなんだったんだろうな。聞いとけば良かった)
少し勿体ないことをしたかと惜しく思いながら、グラスを空にした。
「優ちゃん飲んでるー?」
「ああ。お前程じゃあないけどな」
「いやいや、オレは酔い易いだけ。まだほんの二、三本しか開けてないっスもん」
「十分だろうが」
俺の隣が空いたところで小笠原が上機嫌に腰を据えた。
「さっき話してた人って、二号店の新顔くんと津田さんっスよね」
「ああ。……って、見てたのか」
「つい視界に入っちゃうんスよ。優ちゃん目立つから、いろいろと」
「いろいろって何だ」
それには答えずにケタケタ笑う小笠原。
(コイツ、かなり酔ってんな……。また日野に迷惑かけるんじゃないだろうなあ)
もちろん、俺は御免だ。
面倒だし、家に送るにしても方向が違う。
「小笠原、もう程々にしとけよ」
「えー。オレまだ優ちゃんと飲んでないっスも~ん」
「ちょ、重い……!」
くてんと俺の肩に頭を乗せて来た。
「オレと飲んれくれるまで、離れないっスよ」
「呂律回ってねーじゃねえか!」
押し退けようとするも、更にグリグリと頭を押しつけられて、体重を支え切れずに俺の体が傾いた。
トンっ……。
そのままドミノ倒しのように片山さんの肩に頭をぶつけてしまった。
「あ、すみません」
「いえいえ。大変ですね、お守も」
「ははは。まぁ、いつものことですが」
小笠原に聞こえないように小声で話す。
空笑いの俺に対して、片山さんはどことなく楽しそうだ。
「片山さんもちゃんと飲んでます?」
「飲んでますよ。――あ、注ぎます。店長」
「え、ああ、すみません」
片山さんが傾けて来た物に、俺は一瞬目を丸くした。
「……ウーロン茶?」
「ええ。そろそろ、休憩したいんじゃないかと思いまして」
確かに、さっきからビールばかり飲んでいる。
全然酔ってはいないが。
「気が利きますね。さすが片山さんだ」
「そんな褒めることじゃないですよ」
グラスのビールを綺麗に飲みほしてから、片山さんにウーロン茶を注いでもらう。
「ありがとうございます」
「いいえ」
片山さんと微笑み合った俺の後ろで、小笠原が唸りを上げた。
「優ちゃんオレのことも構ってよー。構ってくれないとぉ……チューするよ」
ぴくりと俺の片眉が跳ねた。
肩越しにある小笠原の顔をチラリと見遣る。
「お前は、構わなくたってしようとしてくるじゃねえか」
「なぁんだぁ。分かってくれてるなら、遠慮はいらないっスね~」
「遠慮はしろ!」
「ンゴッ!!」
今度こそ、小笠原の顔を押し退けることに成功した。
そこへ、日野が苦笑いを浮かべながらやって来た。
「もー。絡み酒はダメだよ、清ちゃん」
「日野ちゃーんッ。優ちゃんが構ってくれなーい」
「僕が代わりに構ってあげるから、ね?」
「ひ、日野ちゃん……」
少し勿体ないことをしたかと惜しく思いながら、グラスを空にした。
「優ちゃん飲んでるー?」
「ああ。お前程じゃあないけどな」
「いやいや、オレは酔い易いだけ。まだほんの二、三本しか開けてないっスもん」
「十分だろうが」
俺の隣が空いたところで小笠原が上機嫌に腰を据えた。
「さっき話してた人って、二号店の新顔くんと津田さんっスよね」
「ああ。……って、見てたのか」
「つい視界に入っちゃうんスよ。優ちゃん目立つから、いろいろと」
「いろいろって何だ」
それには答えずにケタケタ笑う小笠原。
(コイツ、かなり酔ってんな……。また日野に迷惑かけるんじゃないだろうなあ)
もちろん、俺は御免だ。
面倒だし、家に送るにしても方向が違う。
「小笠原、もう程々にしとけよ」
「えー。オレまだ優ちゃんと飲んでないっスも~ん」
「ちょ、重い……!」
くてんと俺の肩に頭を乗せて来た。
「オレと飲んれくれるまで、離れないっスよ」
「呂律回ってねーじゃねえか!」
押し退けようとするも、更にグリグリと頭を押しつけられて、体重を支え切れずに俺の体が傾いた。
トンっ……。
そのままドミノ倒しのように片山さんの肩に頭をぶつけてしまった。
「あ、すみません」
「いえいえ。大変ですね、お守も」
「ははは。まぁ、いつものことですが」
小笠原に聞こえないように小声で話す。
空笑いの俺に対して、片山さんはどことなく楽しそうだ。
「片山さんもちゃんと飲んでます?」
「飲んでますよ。――あ、注ぎます。店長」
「え、ああ、すみません」
片山さんが傾けて来た物に、俺は一瞬目を丸くした。
「……ウーロン茶?」
「ええ。そろそろ、休憩したいんじゃないかと思いまして」
確かに、さっきからビールばかり飲んでいる。
全然酔ってはいないが。
「気が利きますね。さすが片山さんだ」
「そんな褒めることじゃないですよ」
グラスのビールを綺麗に飲みほしてから、片山さんにウーロン茶を注いでもらう。
「ありがとうございます」
「いいえ」
片山さんと微笑み合った俺の後ろで、小笠原が唸りを上げた。
「優ちゃんオレのことも構ってよー。構ってくれないとぉ……チューするよ」
ぴくりと俺の片眉が跳ねた。
肩越しにある小笠原の顔をチラリと見遣る。
「お前は、構わなくたってしようとしてくるじゃねえか」
「なぁんだぁ。分かってくれてるなら、遠慮はいらないっスね~」
「遠慮はしろ!」
「ンゴッ!!」
今度こそ、小笠原の顔を押し退けることに成功した。
そこへ、日野が苦笑いを浮かべながらやって来た。
「もー。絡み酒はダメだよ、清ちゃん」
「日野ちゃーんッ。優ちゃんが構ってくれなーい」
「僕が代わりに構ってあげるから、ね?」
「ひ、日野ちゃん……」
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
この愛のすべて
高嗣水清太
BL
「妊娠しています」
そう言われた瞬間、冗談だろう?と思った。
俺はどこからどう見ても男だ。そりゃ恋人も男で、俺が受け身で、ヤることやってたけど。いきなり両性具有でした、なんて言われても困る。どうすればいいんだ――。
※この話は2014年にpixivで連載、2015年に再録発行した二次小説をオリジナルとして少し改稿してリメイクしたものになります。
両性具有や生理、妊娠、中絶等、描写はないもののそういった表現がある地雷が多い話になってます。少し生々しいと感じるかもしれません。加えて私は医学を学んだわけではありませんので、独学で調べはしましたが、両性具有者についての正しい知識は無いに等しいと思います。完全フィクションと捉えて下さいますよう、お願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる