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君恋5
5-4
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「本当にお久しぶりですね。お元気してました?」
「まあ、ぼちぼち」
「ぼちぼち? 体調、崩されてたんじゃないですか」
「え……」
榊さん同様、ビール瓶を傾けてくる彼に、半分ほど減ったグラスを差し出す。
「――……聞いたのか?」
「いいえ、はっきりとは。ただ、榊店長が変にそわそわしていたので、もしかしたらと」
いっぱいになったグラスを一旦テーブルに置く。
そして相手のビール瓶を受け取り、代わりに空いているグラスを渡してそれにビールをコポコポと注ぐ。
「ありがとうございます。――でも、本当に驚きましたよ。あの榊店長がミスまでしちゃうんですから。余程大事な考え事をしていたんでしょうね」
「ミス? ……でも、それが俺の事とは限らないんじゃ……」
「いいえ、だって、一号店に寄るって言って帰ったの一度や二度じゃないですからね。少し前なんて、家で待ってる奴がいるからって、店閉めたら足早に帰って行きましたし」
「……っ」
息を呑む俺に津田がクスリと笑う。
「やっぱり、それって英店長だったんですね」
確信を持たれてしまい、グッと喉が引き攣る。
この人と話していると簡単にボロが出てしまう。
「……はぁ、まいったな」
俺は観念して頷いた。
「確かに、それは俺だ。フェアが終わった直後に店でぶっ倒れて、その場に丁度榊さんがいたから看病して貰ったんだ」
「そうだったんですね……。でも、お元気になられて良かったです」
ホッと笑む津田に、俺も内心で安堵する。
変に誤解をされなくて良かった、と。
「改めて思いましたけど、英店長ってこういう場所似合わないですよね」
お互いビールを飲みながら会話を楽しむ。
「そうか? 俺も普通のおっさんなんだけどなあ」
「あはは。まだおっさんって歳じゃないじゃないですか。それに、英店長ならいくつになってもそんな代名詞は似合いませんよ」
津田は男の俺から見ても、爽やかで言動に気品のある青年だと思う。
「そっくりそのままお返しするよ」
「それはありがとうございます。英店長に言って頂けるのは光栄です」
裏切らない爽やかな笑顔で素直に受け取られると、こっちも悪い気はしない。
「津田みたいな奴、ウチの店にも欲しいな」
「行って差し上げましょうか? 週1くらいで」
「週1かよ。相変わらず二号店が好きなんだなー」
「二号店、というより……榊店長に惚れ込んでいるので」
「!? ――ゴホッ、ゴホッ!」
「あっ。大丈夫ですか?」
サラッと零した彼の言葉に思わず咽返る。
俺の背中を擦りながら、津田が補足した。
「もちろん、変な意味はないですよ。俺もいずれ店を出せたらいいなと思っているので、榊店長の下で働けば近道になる気がするんですよね」
そういう意味だと分かってはいたが、不意を突かれると俺の頭はその変な方に変換されてしまう。
(何この思考。榊さん、侵食し過ぎでしょ……)
自分のこれから先が怖くなって身震いした。
「悪いな、ありがとう」
「いえいえ。またそっちにも顔出すので、これからも宜しくお願いします」
「こちらこそ」
軽く頭を下げて席を立った津田に頬を緩める。
(最後まで礼儀正しい奴だよな、ホント。彼がいれば榊さんの苦労も減るか)
一号店で言うならば、片山さんと同じポジションか。
「まあ、ぼちぼち」
「ぼちぼち? 体調、崩されてたんじゃないですか」
「え……」
榊さん同様、ビール瓶を傾けてくる彼に、半分ほど減ったグラスを差し出す。
「――……聞いたのか?」
「いいえ、はっきりとは。ただ、榊店長が変にそわそわしていたので、もしかしたらと」
いっぱいになったグラスを一旦テーブルに置く。
そして相手のビール瓶を受け取り、代わりに空いているグラスを渡してそれにビールをコポコポと注ぐ。
「ありがとうございます。――でも、本当に驚きましたよ。あの榊店長がミスまでしちゃうんですから。余程大事な考え事をしていたんでしょうね」
「ミス? ……でも、それが俺の事とは限らないんじゃ……」
「いいえ、だって、一号店に寄るって言って帰ったの一度や二度じゃないですからね。少し前なんて、家で待ってる奴がいるからって、店閉めたら足早に帰って行きましたし」
「……っ」
息を呑む俺に津田がクスリと笑う。
「やっぱり、それって英店長だったんですね」
確信を持たれてしまい、グッと喉が引き攣る。
この人と話していると簡単にボロが出てしまう。
「……はぁ、まいったな」
俺は観念して頷いた。
「確かに、それは俺だ。フェアが終わった直後に店でぶっ倒れて、その場に丁度榊さんがいたから看病して貰ったんだ」
「そうだったんですね……。でも、お元気になられて良かったです」
ホッと笑む津田に、俺も内心で安堵する。
変に誤解をされなくて良かった、と。
「改めて思いましたけど、英店長ってこういう場所似合わないですよね」
お互いビールを飲みながら会話を楽しむ。
「そうか? 俺も普通のおっさんなんだけどなあ」
「あはは。まだおっさんって歳じゃないじゃないですか。それに、英店長ならいくつになってもそんな代名詞は似合いませんよ」
津田は男の俺から見ても、爽やかで言動に気品のある青年だと思う。
「そっくりそのままお返しするよ」
「それはありがとうございます。英店長に言って頂けるのは光栄です」
裏切らない爽やかな笑顔で素直に受け取られると、こっちも悪い気はしない。
「津田みたいな奴、ウチの店にも欲しいな」
「行って差し上げましょうか? 週1くらいで」
「週1かよ。相変わらず二号店が好きなんだなー」
「二号店、というより……榊店長に惚れ込んでいるので」
「!? ――ゴホッ、ゴホッ!」
「あっ。大丈夫ですか?」
サラッと零した彼の言葉に思わず咽返る。
俺の背中を擦りながら、津田が補足した。
「もちろん、変な意味はないですよ。俺もいずれ店を出せたらいいなと思っているので、榊店長の下で働けば近道になる気がするんですよね」
そういう意味だと分かってはいたが、不意を突かれると俺の頭はその変な方に変換されてしまう。
(何この思考。榊さん、侵食し過ぎでしょ……)
自分のこれから先が怖くなって身震いした。
「悪いな、ありがとう」
「いえいえ。またそっちにも顔出すので、これからも宜しくお願いします」
「こちらこそ」
軽く頭を下げて席を立った津田に頬を緩める。
(最後まで礼儀正しい奴だよな、ホント。彼がいれば榊さんの苦労も減るか)
一号店で言うならば、片山さんと同じポジションか。
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