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君恋5
5-1
しおりを挟む夏フェアが終わってから数日。
打ち上げをしようということになったのだが――。
「はい? 二号店と合同で!? ……ですか」
『そ。僕も日本に帰れたらいいんだけど、ちょっと分からないんだよね』
「はぁ……」
『だから、二号店のみんなと親睦を深めるためだと思ってさ、セッティングの方お願いしたいんだよ』
「まあイイですけど……」
『じゃあ、榊店長と日取りの方相談して決めてね。決まったら一応連絡頂戴』
(あの人と……か。まだちょっと気まずいよな……)
それでも神条さんの頼みだし、仕方ないかと引き受けてしまうのだが、こんな気持ちもいい加減捨ててしまわなければと思う。
静かになったスマホをポケットに押し込み、俺は一人帰る支度をした。
電気を消して店を出ると、外は気持ちのいい風が吹いていた。
「遅かったな」
「っ!!?」
暗がりから低い声が掛かって、飛び上がるほど驚いて声の方へ目を凝らす。
「俺だ。分かるだろ?」
「……榊さん、ですね。急に声掛けないで下さいよ……」
「なら、いつ掛ければいいんだ?」
尤もな質問に言い返せない。
(まだ顔とか合わせ辛いんだけど……)
「えっと、その節はどうもありがとうございました」
足音が近付き、漸く榊さんの顔が薄らと見えてきた。
「別にいい。調子は良さそうだな」
「お蔭様で、もうすっかり元気ですよ」
俺が倒れて榊さんのマンションに運ばれた翌日、店まで送ってもらったはいいが小笠原に見つかってしまい、事情を話す破目になった。
その後、案の定他のみんなにも知られることとなり、どうして(無理をしていたことを)言ってくれなかったのかと叱られた。
でも、オーバーワークをしていたことは気付いていたのに止められなかったと、悔しそうにする仲間の顔には心底驚いた。
「みんなには心配をかけたので、打ち上げではしっかり接待するつもりです。そのことで来たんでしょう? 榊さん」
神条さんのことだ、もう榊さんにも打ち上げのことは話しているだろう。
「逃げるつもりがないなら、慌てて来る必要もなかったな」
「そんな、逃げませんって」
(……気まずいのは確かだけど)
あの日、榊さんが仕事に行ったあと、食器を片付けて律儀に言いつけを守って部屋で大人しくしていた。
寝室だと落ち着かなかったから、リビングでだったが。
(お礼に夕飯作って置いといたけど、あのあと食べてくれたのかな……。まあ冷蔵庫の物勝手に使わせてもらったから、お礼になったのか分からねぇけど)
この人の反応が気になって、チラリと様子を窺うような視線を向ける。
「なんだ?」
「あ、いえ……」
慌てて視線を逸らしたのはあからさまだったろうか。
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