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君恋4
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神条さんに恋人が出来たことを知ってショックを受けて、それから片山さんのことに榊さんのこと。
ついでに小笠原のことも。
(まあアレのことは……良く分からんが)
どうしたって仕事があるから誰とも顔を合わせないわけにはいかないし、違う職場である榊さんとでさえココ最近出くわすことが多いのだ。
意識するなという方が無理な話で……。
(大体、なんで男を好きにならなきゃなんねえの? まあ、神条さんはガキの頃から一緒だったから、どっか抜けてるのに器用に何でもこなす姿を見てるうちに惹かれて……)
だから特別なんだと思う。
(え。じゃあ榊さんは? 憧れとかまっっったく、無かったんだけど。何? どこで気になってんの? 俺。むしろトラウマでしかねーんだけど)
鏡の中の自分が情けない顔へと崩れて行く。
確かに数ヶ月前までは毎日のように彼と顔を合わせていた。
それは俺の教育係だったからあの人も仕方なかったんだと思う。
(教育期間中はそれはもう穴が開くところがなくなるほどに睨みつけられていたさ)
ただ一緒に働く時間が長くて誰よりも視界に入ってしまうだけだったのかもしれないが、あの鋭い目は凶器だ。反則だ。
でも、そんな目で見る理由は本人の気持ちと比例していたことを知って合点がいったわけだが。
だからといって、あの目を好きになるとかあるのだろうか。
(ただ、流されているだけじゃないのか……? それか、催眠術的な……)
別にオカルトに興味はない。
ただあの人が人間であるという事実には頷き難い。
失礼な話だが、そう思わずにはいられないのだ。
「おや。店長、お疲れ様です」
突然入口から声をかけられてビクリと背筋が震えた。
「あ……木村さん。お疲れ様です」
「どうかしたんですか? なんだか浮かない顔ですねえ」
「そう見えますか」
「見えますね。フェアのことで悩みでも?」
「まあ、そんなとこです」
全然違うけど、折角勘違いしてくれたのだ、便乗しよう。
なんとか笑顔を向けると、木村さんからは苦笑を返された。
「ここで店長に倒れられては困りますからね。休憩はちゃんと取って下さい? あと、悩み相談ならいつでもどうぞ」
そんなに自分の顔色は目に見えて悪いだろうかと、不安になって再度鏡を覗き込む。
顔を十分に洗ってスッキリしたはずだから、さっきよりはマシだと思いたい。
「あ、そうだ。木村さんにもフェア用のユニフォームが届いているので、帰りにスタッフルームに置いておきますね」
「本当かい? それは楽しみですねぇ」
言葉通り、本当に楽しそうに、且つ豪快に笑う木村さんを鏡越しに見ながら、「そうですね」と俺も笑いを零した。
準備は万端。
あとは何事も無く乗り切るのみ。
夏フェア当日――。
降水確率ゼロ%。
今日も快晴。
暑さも客の熱気も視線も(?)絶好調。
「大変お待たせ致しました。二名様ですね、ご案内致します」
「は、はいぃ……」
「よろしくお願いしま~すぅ」
いつもと変わりない黄色い声だが、今日は数倍にも膨れ上がっていた。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
二十代の女性客二人を案内して、良く冷えた水をテーブルに置きながら微笑みかける。
「あ、あの!」
「はい」
片方の女性客が俺を呼び止めた。
髪をアップにして高い位置で括り、顔はもちろん、うなじから鎖骨まで露出した肌が赤い。
暑さのせいもあるかもしれないが、それだけが原因というわけではないだろう。
(予想はしてたけど、今日はこんな客ばっかだな)
微笑みを崩さないまま待っていると、言い難そうにしていた彼女が意を決したように口を開いた。
「しゃ、写真! 一枚だけ、撮らせてもらえないでしょうか……」
(やっぱりか)
消え入りそうな声に懸命さを感じたが、それに応えるわけにはいかない。
「申し訳御座いません。スタッフを呼び止めての撮影はお断りさせて頂いております」
「っ! そ、そうですか……そうですよね」
忙しいのにすみませんと言わずとも恐縮していることは彼女を見れば分かる。
小さな肩が更に縮こまっているからだ。
「お客様。宜しければこちらをお読み下さい」
「……?」
俺は持っていたメニューブックから、挟んでいた一枚のチラシをスッと差し出す。
ついでに小笠原のことも。
(まあアレのことは……良く分からんが)
どうしたって仕事があるから誰とも顔を合わせないわけにはいかないし、違う職場である榊さんとでさえココ最近出くわすことが多いのだ。
意識するなという方が無理な話で……。
(大体、なんで男を好きにならなきゃなんねえの? まあ、神条さんはガキの頃から一緒だったから、どっか抜けてるのに器用に何でもこなす姿を見てるうちに惹かれて……)
だから特別なんだと思う。
(え。じゃあ榊さんは? 憧れとかまっっったく、無かったんだけど。何? どこで気になってんの? 俺。むしろトラウマでしかねーんだけど)
鏡の中の自分が情けない顔へと崩れて行く。
確かに数ヶ月前までは毎日のように彼と顔を合わせていた。
それは俺の教育係だったからあの人も仕方なかったんだと思う。
(教育期間中はそれはもう穴が開くところがなくなるほどに睨みつけられていたさ)
ただ一緒に働く時間が長くて誰よりも視界に入ってしまうだけだったのかもしれないが、あの鋭い目は凶器だ。反則だ。
でも、そんな目で見る理由は本人の気持ちと比例していたことを知って合点がいったわけだが。
だからといって、あの目を好きになるとかあるのだろうか。
(ただ、流されているだけじゃないのか……? それか、催眠術的な……)
別にオカルトに興味はない。
ただあの人が人間であるという事実には頷き難い。
失礼な話だが、そう思わずにはいられないのだ。
「おや。店長、お疲れ様です」
突然入口から声をかけられてビクリと背筋が震えた。
「あ……木村さん。お疲れ様です」
「どうかしたんですか? なんだか浮かない顔ですねえ」
「そう見えますか」
「見えますね。フェアのことで悩みでも?」
「まあ、そんなとこです」
全然違うけど、折角勘違いしてくれたのだ、便乗しよう。
なんとか笑顔を向けると、木村さんからは苦笑を返された。
「ここで店長に倒れられては困りますからね。休憩はちゃんと取って下さい? あと、悩み相談ならいつでもどうぞ」
そんなに自分の顔色は目に見えて悪いだろうかと、不安になって再度鏡を覗き込む。
顔を十分に洗ってスッキリしたはずだから、さっきよりはマシだと思いたい。
「あ、そうだ。木村さんにもフェア用のユニフォームが届いているので、帰りにスタッフルームに置いておきますね」
「本当かい? それは楽しみですねぇ」
言葉通り、本当に楽しそうに、且つ豪快に笑う木村さんを鏡越しに見ながら、「そうですね」と俺も笑いを零した。
準備は万端。
あとは何事も無く乗り切るのみ。
夏フェア当日――。
降水確率ゼロ%。
今日も快晴。
暑さも客の熱気も視線も(?)絶好調。
「大変お待たせ致しました。二名様ですね、ご案内致します」
「は、はいぃ……」
「よろしくお願いしま~すぅ」
いつもと変わりない黄色い声だが、今日は数倍にも膨れ上がっていた。
「ご注文がお決まりになりましたらお呼び下さい」
二十代の女性客二人を案内して、良く冷えた水をテーブルに置きながら微笑みかける。
「あ、あの!」
「はい」
片方の女性客が俺を呼び止めた。
髪をアップにして高い位置で括り、顔はもちろん、うなじから鎖骨まで露出した肌が赤い。
暑さのせいもあるかもしれないが、それだけが原因というわけではないだろう。
(予想はしてたけど、今日はこんな客ばっかだな)
微笑みを崩さないまま待っていると、言い難そうにしていた彼女が意を決したように口を開いた。
「しゃ、写真! 一枚だけ、撮らせてもらえないでしょうか……」
(やっぱりか)
消え入りそうな声に懸命さを感じたが、それに応えるわけにはいかない。
「申し訳御座いません。スタッフを呼び止めての撮影はお断りさせて頂いております」
「っ! そ、そうですか……そうですよね」
忙しいのにすみませんと言わずとも恐縮していることは彼女を見れば分かる。
小さな肩が更に縮こまっているからだ。
「お客様。宜しければこちらをお読み下さい」
「……?」
俺は持っていたメニューブックから、挟んでいた一枚のチラシをスッと差し出す。
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