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君恋3
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「それじゃあみんな集まったんで、始めましょう!」
それぞれ飲みたい物を注文してグラスを持ち、勝手に進行する小笠原に視線を集める。
「フェアの成功を願って、かんぱーい!!」
そして小笠原の音頭でグラスを打ちつけ合った。
「……って、なんで片山さんノンアルコール⁉」
「あ、本当だ。――今日はどうしたんですか?」
彼がアルコールを避けることは珍しくはないが、それにはいつも理由がある。
「明日は俺も出勤なんで、飲まないようにしようかと」
「え……あー、アレは小笠原に言ったんですよ。気にせず飲んで下さい」
店を出る前に確かに飲み過ぎるなと言ったが、飲むなとは言っていない。
それを律儀に守ろうなんて、さすが片山さんだ。
(一番守って欲しいのはコイツなんだが……)
視線を小笠原に向けると、既にビールを半分以上呷っていたことにげんなりする。
「そうですよー。僕は明日休みですけど、片山さんが飲んでくれないと申し訳なくなるじゃないですか」
「日野もこう言っている事ですし、一杯だけでも飲んで下さい」
俺はビール瓶を片山さんの方へ傾けて勧めた。
しかし、それを片山さんは手で制した。
「俺は本当に結構なので、お構いなく」
プライベートでもこの真面目っぷりには感服する。
(いや、真面目ってより、堅過ぎるよな。店長命令って言ったところで、この人の場合そう簡単には折れないだろうし)
傾けていたビール瓶を引っ込めて、俺は日野と顔を見合わせる。
「まあ、仕方ないですね」
「そうだな」
日野と肩を竦めて小さく笑い合いながら、焼けた肉を器へ上げて行く。
夏にはビールが格別だが、どうせならビアガーデンで一杯やりたい。
牛肉を頬張り、ビールを一気に呷る。
「ぷはーっ。美味い!」
「優ちゃんも結構飲むっスよねー。オレ、最初会った時お酒ダメな人かと思ったっス」
「あ、僕も思いました。でも、カクテルとかワインが似合いそうですよね」
俺はビールを注ぎながら、二人のセリフにクツクツ笑う。
「なるほどなー。けど、こう見えて俺、結構強いんだよ。酔った記憶殆ど無ぇくらい」
「あ、ならオレ優ちゃんを酔わせてみたい!」
「僕も見てみたいです」
「店長、今日は思う存分飲んで下さい」
最後の片山さんの言葉に俺は目を丸くした。
彼まで話に乗ってくるとは思わなかったからだ。
「そうだなぁ……。あ、なら、片山さんが飲んでくれるなら、俺も今日は飲んであげてもいいですよ」
「いいえ。俺の分まで店長が飲んで下さい」
「ハハハッ。頑なですねー、片山さん」
まだ酔ってはいないが、場の空気に気持ちが緩んでテンションが上がる。
そして、追加注文した肉と野菜が運ばれてきた。
「あら? アヴェク・トワの店長さんじゃないですかぁ! お久しぶりですね」
声を掛けてきたのは若い女性スタッフ。
俺は彼女が運んできた皿を受け取りながら軽く頭を下げる。
「どうもこんにちは。客の顔を覚えてるなんて、さすがですね」
「当たり前ですよぉ。店長さんのファンの子多いですから、ここのスタッフ」
「それは知りませんでした」
瞳をキラキラさせながらキャッキャとはしゃぐ彼女が、急に眉を下げて胸の前で拳を握った。
「でも、ここのところ来てくれなくて、みんな寂しがってたんですよー?」
「ああ。この時期は書き入れ時で、なかなか店から離れられなくて。今日は店の都合で飲みに来れたけど、また忙しくなりそうで……」
「そうなんですかー……。じゃあ、私が遊びに行きますよ! お仕事頑張って下さいね!」
丁度後ろから客に声を掛けられた彼女は、話をそこそこに切り上げて離れて行った。
俺は皿に乗った野菜を一掴みして、網にパサッと乗せる。
「ここでも優ちゃんは人気者なんスね♪」
「でも、声を掛けてきたのは僕初めて見ました!」
日野が珍しく興奮気味だ。
多分酒が回って来たのだろう。
「まあ、プライベートでも前は良く来てたからな。榊さんとか神条さんに連れて来られて」
「それって優ちゃんが店長見習いしてた時の話っスか?」
何故か食いついてくる小笠原に嫌な予感を覚えた。
「オレ、優ちゃんが必死になってるとこ見てみたいんスよねー。榊店長とかオーナーに叱られたりしたんスか?」
(何だコイツは! 面白がってんのか⁉)
あからさまに言いたくないと顔を顰めたが、小笠原が遠慮をするわけもなく……。
それぞれ飲みたい物を注文してグラスを持ち、勝手に進行する小笠原に視線を集める。
「フェアの成功を願って、かんぱーい!!」
そして小笠原の音頭でグラスを打ちつけ合った。
「……って、なんで片山さんノンアルコール⁉」
「あ、本当だ。――今日はどうしたんですか?」
彼がアルコールを避けることは珍しくはないが、それにはいつも理由がある。
「明日は俺も出勤なんで、飲まないようにしようかと」
「え……あー、アレは小笠原に言ったんですよ。気にせず飲んで下さい」
店を出る前に確かに飲み過ぎるなと言ったが、飲むなとは言っていない。
それを律儀に守ろうなんて、さすが片山さんだ。
(一番守って欲しいのはコイツなんだが……)
視線を小笠原に向けると、既にビールを半分以上呷っていたことにげんなりする。
「そうですよー。僕は明日休みですけど、片山さんが飲んでくれないと申し訳なくなるじゃないですか」
「日野もこう言っている事ですし、一杯だけでも飲んで下さい」
俺はビール瓶を片山さんの方へ傾けて勧めた。
しかし、それを片山さんは手で制した。
「俺は本当に結構なので、お構いなく」
プライベートでもこの真面目っぷりには感服する。
(いや、真面目ってより、堅過ぎるよな。店長命令って言ったところで、この人の場合そう簡単には折れないだろうし)
傾けていたビール瓶を引っ込めて、俺は日野と顔を見合わせる。
「まあ、仕方ないですね」
「そうだな」
日野と肩を竦めて小さく笑い合いながら、焼けた肉を器へ上げて行く。
夏にはビールが格別だが、どうせならビアガーデンで一杯やりたい。
牛肉を頬張り、ビールを一気に呷る。
「ぷはーっ。美味い!」
「優ちゃんも結構飲むっスよねー。オレ、最初会った時お酒ダメな人かと思ったっス」
「あ、僕も思いました。でも、カクテルとかワインが似合いそうですよね」
俺はビールを注ぎながら、二人のセリフにクツクツ笑う。
「なるほどなー。けど、こう見えて俺、結構強いんだよ。酔った記憶殆ど無ぇくらい」
「あ、ならオレ優ちゃんを酔わせてみたい!」
「僕も見てみたいです」
「店長、今日は思う存分飲んで下さい」
最後の片山さんの言葉に俺は目を丸くした。
彼まで話に乗ってくるとは思わなかったからだ。
「そうだなぁ……。あ、なら、片山さんが飲んでくれるなら、俺も今日は飲んであげてもいいですよ」
「いいえ。俺の分まで店長が飲んで下さい」
「ハハハッ。頑なですねー、片山さん」
まだ酔ってはいないが、場の空気に気持ちが緩んでテンションが上がる。
そして、追加注文した肉と野菜が運ばれてきた。
「あら? アヴェク・トワの店長さんじゃないですかぁ! お久しぶりですね」
声を掛けてきたのは若い女性スタッフ。
俺は彼女が運んできた皿を受け取りながら軽く頭を下げる。
「どうもこんにちは。客の顔を覚えてるなんて、さすがですね」
「当たり前ですよぉ。店長さんのファンの子多いですから、ここのスタッフ」
「それは知りませんでした」
瞳をキラキラさせながらキャッキャとはしゃぐ彼女が、急に眉を下げて胸の前で拳を握った。
「でも、ここのところ来てくれなくて、みんな寂しがってたんですよー?」
「ああ。この時期は書き入れ時で、なかなか店から離れられなくて。今日は店の都合で飲みに来れたけど、また忙しくなりそうで……」
「そうなんですかー……。じゃあ、私が遊びに行きますよ! お仕事頑張って下さいね!」
丁度後ろから客に声を掛けられた彼女は、話をそこそこに切り上げて離れて行った。
俺は皿に乗った野菜を一掴みして、網にパサッと乗せる。
「ここでも優ちゃんは人気者なんスね♪」
「でも、声を掛けてきたのは僕初めて見ました!」
日野が珍しく興奮気味だ。
多分酒が回って来たのだろう。
「まあ、プライベートでも前は良く来てたからな。榊さんとか神条さんに連れて来られて」
「それって優ちゃんが店長見習いしてた時の話っスか?」
何故か食いついてくる小笠原に嫌な予感を覚えた。
「オレ、優ちゃんが必死になってるとこ見てみたいんスよねー。榊店長とかオーナーに叱られたりしたんスか?」
(何だコイツは! 面白がってんのか⁉)
あからさまに言いたくないと顔を顰めたが、小笠原が遠慮をするわけもなく……。
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