21 / 74
君恋3
3-2
しおりを挟む……――。
『調子はどう? 店長になって初のフェアだよね。頑張ってる?』
「はい。明日は新作メニューの試食会をする予定なんです。今日も話し合いましたよ」
『そっかー。順調なら何よりだよ。やっぱり、優一に任せて正解だったね』
「ハハ。正解かどうかは分かり兼ねますが」
時刻は夜の十一時。ヨーロッパ辺りは朝方だろうか。
俺は風呂から上がり、寝る支度をしながら端末を握って、オーナーの神条さんに近況報告をしていた。
『それじゃあ、もっと良いフェアになるように、アドバイスしてあげる』
「なんですか?」
『二号店の店長と、意見交換するといいよ。僕より榊店長の方がベテランだしね』
「え……や、それはちょっと……」
『? ……どうかした?』
神条さんに言えるわけがない。
その榊さんに――。
俺は彼に告白されたことを思い出して頭を振った。
「いえ、何でもありません」
『……そう? 何かあったらいつでも相談して』
「ありがとうございます」
『あはは。電話の時くらい、敬語じゃなくてもいいんだよ?』
「いや、まあ……でも、一応仕事なんで……」
『優一は真面目さんだねー。君らしいよ』
「それより、そっちはどうなんですか? まだヨーロッパに?」
『うん。来週はアジアに立ち寄って、それから帰国かな。まあ先の事はまだ分からないけれど』
「神条さんも相変わらずですね」
彼の自由気ままな生き方に、思わず笑いが零れる。
「ああそれから、フェアのことなんですが……――」
今日出た意見を神条さんに伝え、世間話も交えてお喋りし、通話を切ったのは日付が替わる数分前だった。
そして、翌日の試食会。
二時には店を閉めてスタッフ全員に集まってもらい、木村さんが用意してくれたメニューを少しずつ食べながら意見交換をしていく。
「――と、いうわけで、他に意見のある人ー?」
「はい」
日野がスッと手を挙げた。
それに俺は頷いて意見を促す。
「あの、これにゼリーを加えてみてはどうでしょうか」
日野の言葉に促され、テーブルにあるかき氷の入ったパフェにみんなが注目した。
「ゼリーいいっスね!」
と、小笠原が賛成した。
「確かに、一口サイズにすれば女性や子供受けもするだろうし……。味もいろんな種類を提供すれば、全体的に華やぐ」
俺も意見を交えながらふむふむと頷いた。
「なら店長、一口サイズのゼリーを凍らせてみるのはどうでしょう。また違った触感のシャーベットになって楽しめると思いますよ」
「それいいっスね!」
「そうしましょう!」
木村さんの意見に小笠原と日野が声を揃えて賛成してくれて、片山さんも静かに頷いていた。
「じゃあ決まりだな。あと、昨日言っていたユニフォームの件だが、オーナーに伝えたら用意してくれるそうだ。フェアの数日前には届くから、そのつもりでいてくれ」
無事にフェアのメニューも数品決まり、予定よりも早く試食会を終わらせることができた。
「よっしゃ! じゃあこのままみんなで飲みに行きましょう!」
立ち上がって声を上げた小笠原に、他の面々が顔を見合わせる。
「僕は大丈夫です」
「自分も、特に予定は入っていないので」
日野と片山さんの賛同を得て、小笠原が更にはしゃぎ出す。
「てんちょーは強制参加ってことで!」
「おいコラ待て。何で俺だけ強制なんだ!」
「てんちょーだから」
「答えになってねーよ」
ケロッと返してくるコイツには怒りを通り越して呆れる。
俺は一つ溜息を零しながら肩を竦めた。
「分かった。ただし、明日もシフト入ってる奴は飲み過ぎないようにな」
「優ちゃんは真面目すぎー」
「お前に言ってんだ小笠原!」
仕事が終わって早々、呼び方を変えてくるちゃっかり者を俺は睨みつけた。
が、もちろん効き目はない。
「じゃあオレ場所取り行ってきまーす。いつもの店でいいっスよね」
「あ、待って。僕も行くよ」
「日野ちゃんありがと!」
着替えるためにスタッフルームへ向かう二人を見送る。
(あの二人、仲いいよなー。普段も飲みに行ってるみたいだし)
前に酔った小笠原を家まで送ったとか、日野が苦笑いを浮かべながら言っていた。
0
お気に入りに追加
31
あなたにおすすめの小説
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】
彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』
高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。
その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。
そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?
【完結】義兄に十年片想いしているけれど、もう諦めます
夏ノ宮萄玄
BL
オレには、親の再婚によってできた義兄がいる。彼に対しオレが長年抱き続けてきた想いとは。
――どうしてオレは、この不毛な恋心を捨て去ることができないのだろう。
懊悩する義弟の桧理(かいり)に訪れた終わり。
義兄×義弟。美形で穏やかな社会人義兄と、つい先日まで高校生だった少しマイナス思考の義弟の話。短編小説です。
【完結】遍く、歪んだ花たちに。
古都まとい
BL
職場の部下 和泉周(いずみしゅう)は、はっきり言って根暗でオタクっぽい。目にかかる長い前髪に、覇気のない視線を隠す黒縁眼鏡。仕事ぶりは可もなく不可もなく。そう、凡人の中の凡人である。
和泉の直属の上司である村谷(むらや)はある日、ひょんなことから繁華街のホストクラブへと連れて行かれてしまう。そこで出会ったNo.1ホスト天音(あまね)には、どこか和泉の面影があって――。
「先輩、僕のこと何も知っちゃいないくせに」
No.1ホスト部下×堅物上司の現代BL。
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
キミと2回目の恋をしよう
なの
BL
ある日、誤解から恋人とすれ違ってしまった。
彼は俺がいない間に荷物をまとめて出てってしまっていたが、俺はそれに気づかずにいつも通り家に帰ると彼はもうすでにいなかった。どこに行ったのか連絡をしたが連絡が取れなかった。
彼のお母さんから彼が病院に運ばれたと連絡があった。
「どこかに旅行だったの?」
傷だらけのスーツケースが彼の寝ている病室の隅に置いてあって俺はお母さんにその場しのぎの嘘をついた。
彼との誤解を解こうと思っていたのに目が覚めたら彼は今までの全ての記憶を失っていた。これは神さまがくれたチャンスだと思った。
彼の荷物を元通りにして共同生活を再開させたが…
彼の記憶は戻るのか?2人の共同生活の行方は?
【運命】に捨てられ捨てたΩ
諦念
BL
「拓海さん、ごめんなさい」
秀也は白磁の肌を青く染め、瞼に陰影をつけている。
「お前が決めたことだろう、こっちはそれに従うさ」
秀也の安堵する声を聞きたくなく、逃げるように拓海は音を立ててカップを置いた。
【運命】に翻弄された両親を持ち、【運命】なんて言葉を信じなくなった医大生の拓海。大学で入学式が行われた日、「一目惚れしました」と眉目秀麗、頭脳明晰なインテリ眼鏡風な新入生、秀也に突然告白された。
なんと、彼は有名な大病院の院長の一人息子でαだった。
右往左往ありながらも番を前提に恋人となった二人。卒業後、二人の前に、秀也の幼馴染で元婚約者であるαの女が突然現れて……。
前から拓海を狙っていた先輩は傷ついた拓海を慰め、ここぞとばかりに自分と同居することを提案する。
※オメガバース独自解釈です。合わない人は危険です。
縦読みを推奨します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる