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君恋2
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「てんちょーお待たせしましたー……って、あれ? 榊店長?」
「あ、本当だ。応援に来て下さったんですか?」
「お早う御座います」
小笠原、日野、片山が言葉を交わし、なんとか気持ちが落ち着いた俺は、彼がココに来た経緯を説明した。
「じゃあ、オーナーは今日来られないんスね」
「そういうこと。多分今頃はヨーロッパだろうな」
「海外っスか⁉」
「取引先は八割がヨーロッパだからな。かなり忙しいんじゃねーかな……殆ど日本にいないし」
「なるほど~。大変なんスね」
納得した様子の小笠原がうんうんと頷いている。
その姿にニヤリと笑みを浮かべた。
「だから、お前もしっかり頑張らねーとな」
バーコードをスキャンして個数をカウントしていく機械を、小笠原の手にトンと置く。
「まあ手始めにアクセコーナーからやってみようか」
「ンげッ。一番細かくて面倒なとこじゃないっスか! 手始めとか優ちゃんひっでえ!」
「はい。残業けってーい」
しまった! と言わんばかりに小笠原の顔が蒼く引き攣っていった。
それが可笑しくて笑いが零れる。
その時一瞬、榊さんが視界に入って俺はハッとした。
ああ、
もしかしたら、彼が俺に意地悪をするのは、これと同じ感覚だからかもしれない。
(だからって、からかいたくなるような性格はしてねーつもりなんだけどな。俺は)
今までの事が愛情表現だったとしたら……。
(仲間としてでも、なんか複雑だな……)
フゥ、と小さく溜息一つ。
「それじゃあ、始めようか」
気持ちを切りかえて、俺は一人一人に指示を出し、棚卸を開始した。
棚卸の最中は、ピッ、ピッ、とカウントする機械音しか聞こえてこない。
ミスを防ぐために必要以上の会話はしない。
そうみんな心に留めてくれている。
(小笠原もなんだかんだしっかりやってくれてるし、後で残業のことは冗談だって言ってやらないとな)
そんなことを思いながら、昨日棚に貼り付けてもらった紙に、棚卸済みを告げるサインを書き込んだ。
「店長」
終わるのを待っていたのか、後ろから日野が声をかけてきた。
「オーナーからお電話入ってますよ」
「神条さんから?」
「はい。電話に出られそうなら代わって欲しいそうです」
「分かった。サンキュ」
俺は店の真ん中にあるレジカウンターへ向かい、奥に設置してある店用の電話の受話器を取った。
「お電話代わりました。英です」
『神条です。忙しい所ごめんね』
「いえ、大丈夫ですが……どうしたんですか?」
少しだけ電波が悪いのか、ザーザーと機械音が耳に付く。
『今フランスにいるんだけどね。イイ感じの食器が手に入りそうなんだ。ちょっとそっちのリストをメールでいいから送ってもらえないかなと思って』
「いつも通り在庫でいいですか?」
『うんうん。今棚卸中だろうけど、英店長のことだから、そう誤差は出さないでしょう? 前のリストでいいから宜しくね』
これは俺を信頼してくれているということだろうか。
そう思うだけでテンションが上がる。
「分かりました」
『確認が取れたらこっちから新作リスト郵送するから、いつも通り入荷チェックして転送頼むよ』
「了解です。――あ、お土産、期待してますんで」
『あはは。分かった分かった。優一の好きそうなお菓子があるから、買って帰るよ』
「ハハ。すげー楽しみにしてます」
名前で呼ばれるだけで、胸がキュッとなる。
もう終わってしまった恋なのに、やっぱり神条さんのことは特別なんだって改めて思う。
受話器を置いても、口元に浮かんだ笑みは直ぐには消えなかった。
「あ、本当だ。応援に来て下さったんですか?」
「お早う御座います」
小笠原、日野、片山が言葉を交わし、なんとか気持ちが落ち着いた俺は、彼がココに来た経緯を説明した。
「じゃあ、オーナーは今日来られないんスね」
「そういうこと。多分今頃はヨーロッパだろうな」
「海外っスか⁉」
「取引先は八割がヨーロッパだからな。かなり忙しいんじゃねーかな……殆ど日本にいないし」
「なるほど~。大変なんスね」
納得した様子の小笠原がうんうんと頷いている。
その姿にニヤリと笑みを浮かべた。
「だから、お前もしっかり頑張らねーとな」
バーコードをスキャンして個数をカウントしていく機械を、小笠原の手にトンと置く。
「まあ手始めにアクセコーナーからやってみようか」
「ンげッ。一番細かくて面倒なとこじゃないっスか! 手始めとか優ちゃんひっでえ!」
「はい。残業けってーい」
しまった! と言わんばかりに小笠原の顔が蒼く引き攣っていった。
それが可笑しくて笑いが零れる。
その時一瞬、榊さんが視界に入って俺はハッとした。
ああ、
もしかしたら、彼が俺に意地悪をするのは、これと同じ感覚だからかもしれない。
(だからって、からかいたくなるような性格はしてねーつもりなんだけどな。俺は)
今までの事が愛情表現だったとしたら……。
(仲間としてでも、なんか複雑だな……)
フゥ、と小さく溜息一つ。
「それじゃあ、始めようか」
気持ちを切りかえて、俺は一人一人に指示を出し、棚卸を開始した。
棚卸の最中は、ピッ、ピッ、とカウントする機械音しか聞こえてこない。
ミスを防ぐために必要以上の会話はしない。
そうみんな心に留めてくれている。
(小笠原もなんだかんだしっかりやってくれてるし、後で残業のことは冗談だって言ってやらないとな)
そんなことを思いながら、昨日棚に貼り付けてもらった紙に、棚卸済みを告げるサインを書き込んだ。
「店長」
終わるのを待っていたのか、後ろから日野が声をかけてきた。
「オーナーからお電話入ってますよ」
「神条さんから?」
「はい。電話に出られそうなら代わって欲しいそうです」
「分かった。サンキュ」
俺は店の真ん中にあるレジカウンターへ向かい、奥に設置してある店用の電話の受話器を取った。
「お電話代わりました。英です」
『神条です。忙しい所ごめんね』
「いえ、大丈夫ですが……どうしたんですか?」
少しだけ電波が悪いのか、ザーザーと機械音が耳に付く。
『今フランスにいるんだけどね。イイ感じの食器が手に入りそうなんだ。ちょっとそっちのリストをメールでいいから送ってもらえないかなと思って』
「いつも通り在庫でいいですか?」
『うんうん。今棚卸中だろうけど、英店長のことだから、そう誤差は出さないでしょう? 前のリストでいいから宜しくね』
これは俺を信頼してくれているということだろうか。
そう思うだけでテンションが上がる。
「分かりました」
『確認が取れたらこっちから新作リスト郵送するから、いつも通り入荷チェックして転送頼むよ』
「了解です。――あ、お土産、期待してますんで」
『あはは。分かった分かった。優一の好きそうなお菓子があるから、買って帰るよ』
「ハハ。すげー楽しみにしてます」
名前で呼ばれるだけで、胸がキュッとなる。
もう終わってしまった恋なのに、やっぱり神条さんのことは特別なんだって改めて思う。
受話器を置いても、口元に浮かんだ笑みは直ぐには消えなかった。
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