陰陽転化

第二章 人形の怪

【肆】ー５

　とにかく状況を把握しなければと雨月を見ると、彼は待っていたように微笑んだ。
「遠慮するな。聞きたいことがあるなら聞くと良い。その前に、コイツを片付けるのが先だろうがな」
　雨月は騰蛇が吐き出したモノに目を向けた。晴明も視線をそっちに落とすがさして驚かなかった。
「ちゃんと持ってきてくれたんですね」
「事前に言ってほしかったけどな！」
　それは今回も叶わなかったようだ。無理だと分かりながらも言わずにはいられないほど呑み込みたくない代物なのだろう。それもそのはず、強力な呪物なのだから。
　騰蛇が嫌々ながら旅館から呑み込んで運んでくれたお菊人形。
　就寝前に封印をし直したのでまだ持つだろうが、そう時間を掛けてはいられない。
「騰蛇、行きましょう」
　ここがどこだか分からないが、来れたのだから出て行くこともできるはず。
　騰蛇が吐き出すことを雨月に許可を得たことから彼の縄張りだということは察しがついている。
　何か訳があって連れてこられたのだろうが、それは騰蛇も知っているかも知れない。とにかく今は悠長に構えてはいられないのだ。
　もしここが妖界だとしたら人間界との時間の流れが違うためどんな影響が起きるか分からない。
「すみませんがここから出してもらえませんか？　今日のことは騰蛇に聞いて後日また話をさせて頂くので」
「晴明が来てくれるのか？」
「？　もちろん。君が良ければ来させてもらいます」
　そう言い切ると雨月の笑みに深みが増したように感じた。
　――気のせいじゃなければ、どこか嬉しそう……？