陰陽転化

第二章 人形の怪

【肆】ー４

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「――雨月……」
　自分の呟く声で目が覚めた。
　天井が記憶していたより高く広いことに違和感を覚え、一度グッと目を瞑る。
「起きたか」
「っ!?」
　不意に聞こえた声にパッと目を見開く。
　そこには見覚えのある金色の瞳がこっちを見つめていて更に驚いた。
「雨月……？」
「ふっ。さっきも呼んでいたな。俺の夢でも見ていたか」
　からかうような彼の言葉にどう返すべきか考える。
　夢は見ていたはずだが、それがどんな夢だったのか直ぐには思い出せない。
　その時、彼がまっすぐ右目ばかりを覗き込んでいることに気付き、居心地の悪さに身体を起こしながらいつものように前髪で右目をそれとなく隠した。
　――ここでこの眼を晒すのは危険だ。注意しなくては……。
　そこに騰蛇の安堵した声が聞こえてきた。
「良かった、晴明……。なかなか起きないから心配したんだぞ」
　早速白く長い身体を晴明の身体にすり寄せるように巻き付けてくる。先端についた丸く小さな瞳が濡れているのか揺れているように見えた。
「泣くほど心配させてしまいましたか……」
「別に泣いてはない。……けど、死ぬほど心配した」
「そうですか。すみません」
　泣いていようがいまいが心配していたと素直に言ってくれることが愛おしい。
　晴明は口元を緩め、肩口に乗った騰蛇の小さな頭をそっと撫でた。その時はたと気付く。確かに騰蛇の頭は小さいが、いつものサイズと比べるとやや太くなっているように思う。
「騰蛇、何か呑み込んでいますか？」
「あっ。そうだった！　――ここで吐き出していいか？」
　尋ねた先は雨月だった。彼はゆっくり腰を上げながら一つ頷き返した。
　晴明も布団から抜け出して改めて自分がいる場所を見回す。不気味なほど静かで、この場にいる三人の気配しかしない。
　最後に覚えているのは旅館の布団に入ったところまでだ。眠って目覚めたら知らない場所で何故か雨月も一緒にいる。