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後編
告白
しおりを挟む何故か僕と目を合わせようとしない主将さんに、もう少しだけ詰め寄ってみる。
「主将さーん? もし話したくなければ無理強いはしませんから。話したくなったら教えて下さい」
そして、どっしりと主将さんの膝の上にスイカを置く。
「これ、バレー部の人達とどうぞ。こんなので元気付けられれば良いんですけど……」
「……あぁ」
「えっと、テニス部にも届けて来たんですけど、すごく喜んでくれて……」
「――テニス部?」
会話が続かないと咄嗟に持ち出した話題だったけれど、なんとか興味を持ってくれたみたいだ。
僕は大きく頷く。
「そうなんですよ! きっとお昼に食べてくれたと思うんですよねー。スイカあげることは前から約束していたので、立派に育ってくれて良かったです」
「女子テニス部か……?」
「え? そうですけど……」
どうしてそんなことを聞くのだろうか……。
主将さんの意図が分からず、黙ったまま続きが紡がれるのを待つ。
すると、主将さんらしからぬ大きな溜息が零れ落ちてきた。
「え、え? どうしたんですか? もしや具合でも……!」
慌てふためく僕に対し、今度は小さな笑みが覗いた。
「いや、具合が悪いのは寧ろお前だろう……、そうじゃない。安心したら気が抜けたんだ」
「安心ですか? ……そんなに僕、心配かけてたんですね……」
「あー、まあ心配していたのは確かだが、そうじゃあなくてな……」
どうも歯切れが悪い。
元々ハッキリ物を言うタイプの人じゃないけれど、こんなに言葉を詰まらせているのは初めて見た。
(もしかして、僕が倒れた時に何かトラブルがあったとか。実はスイカが嫌いとか……!?)
最悪なことばかりが頭に浮かび、火照っていたはずの顔がみるみる青ざめて行く。
「……? ……おい、待て。今何を考えてる?」
余程酷い顔をしていたのだろう。
僕を見た主将さんがどこか焦ったように肩を掴んできた。
「ごめんなさい!」
僕は条件反射のように頭を下げ謝罪した。
「主将さんが優しいのをイイことにスイカなんかを押しつけようとしたり、体育館では部員の方々にも多大なご迷惑を!!」
「……いや、迷惑を掛けられた覚えはない。スイカも皆喜んでくれるだろうしな」
僕にとっては思いがけない言葉に丸くした目を主将さんに向ける。
「ほ、本当ですか……?」
「ああ。当たり前だろ」
(なんだ……そっかあ……)
安心のあまり体の力がストンと抜けた。
「あれ? じゃあ、どうして溜息なんか……。そうじゃないって、他にどんな理由があるんですか?」
と、思わず突っ込んでしまってから気付く……、
(やばいっ! また無神経な事を……!!)
しかし口にしてしまったのだからなかったことにはできず……。
「あの……すみません! 言いたくなければ全然大丈夫なので……」
「今日は、謝ってばかりじゃないか? お前は何も悪い事はしていない」
謝ることなど一つも無いと、主将さんは僕の頭をそっと撫でた。
(主将さんの手……大きくて温かい……。僕はやっぱり、主将さんのこと……――)
「好きみたいだ」
(……へ? ……僕、今声出てた!?)
気持ちと耳にした音が重なって、僕は必要以上に驚いた。
けれど直ぐに僕が言ったのではないと気付く。
(今のって、主将さんだよねえ……?)
そろりと視線を向けると、言ってしまったことへの照れ隠しなのか、手で口を押さえている主将さんの姿に確信を持った。
(こ、ここはもう訊くしかない……!)
意を決して口を開く……、
「あの、好――」
「お前のこと」
僕と主将さんの言葉が重なる。
「? ……僕?」
首を傾げると、主将さんの視線が僕に向けられた。
真剣みを帯びた瞳に、僕は恥ずかしさを覚えながらも逸らせないでいた。
「いつからかは、良く分からないんだが……。気が付いたらいつもお前を目で追っていた」
「僕……ですか?」
「ああ」
(――え、ちょっと待って? 好きって……本当に、主将さんが僕の事を――!!?)
理解してもこれが現実なのか夢なのか……、一瞬頭の中が真っ白になった。
「綾野? ……悪い、いきなりで驚いただろうが……」
「あっ、いえ! はい……その、驚いたのは確かですが……」
嬉し過ぎて上手く喋れない。
でも、せっかく主将さんが打ち明けてくれたんだからちゃんと返さなくちゃと、僕は深く息を吸い込んだ。
「あのっ、僕もです」
「え……?」
「僕も主将さんのことが、好き……みたいです……ょ」
(うわっ、こんなに照れ臭いなんて……ッ)
段々とか細くなってしまった声がちゃんと主将さんに届いたのか……。
なかなか返ってこない反応に、僕は不安に思い視線を上げると――、
そこには、目を丸くして心底驚いた様子で僕を見つめる主将さんがいた。
「……本当か……?」
「もちろんです。……こんなこと、冗談で返したりなんかしませんよ。――主将さんこそ、本気なんですか……?」
お互い照れながらも、心の内を確かめ合う。
「当たり前だ。こんなことは本気でなければ言う意味ないだろ」
「……あは。知ってますよ。主将さんは真面目で誠実な人ですから」
僕の切り返しに咳払いをする主将さんが、なんだか可愛く思えた。
でもやっぱり気になることが一つ……。
(どうして機嫌悪かったのかな。聞きたいけどこの雰囲気を壊すのは気が引けるし……)
もどかしい気持ちを抱えたまま主将さんを見ていると、僕の視線に何を言わんとしているのか気付いてくれたのか主将さんが肩を竦めた。
「あー……本音を言うと、俺の態度のことは忘れてくれたら有り難いんだが……」
「無理ですよ。僕の好きな人のことですから」
「そう……だな……」
「そうですよー」
困ったように眉尻を下げながらも、口元に拳をあてがい照れた様子の彼の隣で、僕はニコニコと先を促す。
そして、打ち明けてくれる主将さんの言葉に、僕は静かに耳を傾けた。
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