5 / 9
後編
スイカの配達
しおりを挟む「よいしょ……っと、さすがに重いなー」
大きく育ったスイカを膝の上に乗せて一息つく。
今日は朝から部活があるとクラスメイトの女の子から聞き、約束していたスイカを届けにテニス部の部室にやってきたのだ。
(部員って何人だったかな……。ひと玉で足りると良いんだけど)
まあ、これだけ大きいんだから大丈夫かと不安は直ぐにどこかへ行き、閉ざされた扉をノックする。
(――やっぱり誰もいないかぁ……。コートに持って行くのはさすがに邪魔になるだろうし)
困ったと眉尻を下げる。
さすがに女の子たちが使っている部室に無断で入ることもできない。
仕方ないと肩を竦め、部室の前に置いて帰ろうと腰を下ろしかけた時だ――。
「あれ? 綾野くんじゃん。どうしたの?」
「――!? あっ、良かったあ……」
振り向き、あからさまに安堵すると、約束した女の子が小さく笑いながら首を傾げた。
「何が良かったの? ……あ、もしかしてソレ?」
彼女は僕が抱えているスイカに目を落とした。
「うん。ついさっき収穫したんだよ。食べてもらいたくて持って来たんだけど、誰も居ないみたいだったから困ってたところだったんだよね」
「そっかそっか! ありがとー! 凄くおっきいスイカだねーっ」
「ずっしり重いから、きっと甘くて美味しいよ。みんなで食べてあげて」
「あはは、食べてあげてなんて、スイカくんも愛されてますねぇ」
スイカに手を伸ばした彼女は、コンコンと指で軽くノックしてくすくすと笑った。
もちろん、愛していなくちゃこんなに立派には育ちませんよと、僕も微笑み返す。
「どこに置く? 重たいから言ってもらえれば運ぶよ」
「あ、いいよいいよ! もうすぐお昼でみんなも戻ってくるから、私が預かるよ」
持っていたテニスラケットを小脇に挟み、僕からスイカを受け取った彼女は本当に重いねと小さく笑った。
「じゃあ僕は帰るよ」
「え、もう?」
「ん? ……スイカ、届けに来ただけだから。それにまだ畑に用事があるからさ」
「そ、そっかあ……うん、そうだよねッ。ごめんね、引きとめちゃって」
「ううん、大丈夫。特に多忙ってわけじゃないからさ。それじゃあまたね」
小さく手を振り踵を返し、階段に一歩足を下ろす。
「うん、またね! スイカありがと――わっ!?」
「え……」
(――っ!?)
不意に、背後から彼女の慌てた様子の声が聞こえて咄嗟に振り向くと、扉を開けた拍子にバランスを崩したのだろう彼女が後方へと倒れていく。
僕は驚き、彼女の元へと身体を戻して両手を伸ばす――、
「……ふぅ……間に合った。……大丈夫?」
間一髪のところで彼女の背中を支え、そっと押し戻す。
「び、ビックリしたーっ。綾野くんごめんね! お蔭でスイカ死守!!」
自分の腕の中にあるスイカを見てニコニコと笑う彼女。
(自分の身よりスイカを心配するなんて……このコらしいと言えば、らしいけど……)
僕は苦笑いを浮かべつつ、そっと手を差し出す。
「やっぱり僕が運ぶよ。手なんか怪我したらテニスできなくなっちゃうでしょ」
ちらりと彼女の視線が動き、数秒の沈黙の後諦めたように頷いてくれた。
「分かった。じゃあお言葉に甘えて……、そこに置いてもらえる?」
スイカを受け取り、気持ち遠慮がちに部室にお邪魔して指示された場所にスイカを下ろす。
「本当、綾野くんって紳士だよねー。それもさり気無く自然に手助けできちゃうところがまた好感度アップよね!」
「そうかな? 僕がしたくてしているだけだから、もしかしたら煩わしいって思う人もいるかもしれないよ」
「そんなことないって! みんな綾野くんのことイイなーって言ってるよ?」
「アハハ……」
「それに、最近男子バレー部の人とも仲イイ感じじゃない? 誰にでも好かれるって素敵なことだよ」
なんでそんなこと彼女が知っているのか……。
(まぁ、別に隠してるわけじゃないし……見られていたとしても気にはならないけど……――)
主将さんと、僕が仲良し……?
会話は滝本先輩との方が多いはずだけど、僕の頭にはそっちの選択肢はなくて、つい頬が緩んでしまう。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!
toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」
「すいません……」
ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪
一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。
作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。
もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿
感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_
Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109
素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)
後輩に嫌われたと思った先輩と その先輩から突然ブロックされた後輩との、その後の話し…
まゆゆ
BL
澄 真広 (スミ マヒロ) は、高校三年の卒業式の日から。
5年に渡って拗らせた恋を抱えていた。
相手は、後輩の久元 朱 (クモト シュウ) 5年前の卒業式の日、想いを告げるか迷いながら待って居たが、シュウは現れず。振られたと思い込む。
一方で、シュウは、澄が急に自分をブロックしてきた事にショックを受ける。
唯一自分を、励ましてくれた先輩からのブロックを時折思い出しては、辛くなっていた。
それは、澄も同じであの日、来てくれたら今とは違っていたはずで仮に振られたとしても、ここまで拗らせることもなかったと考えていた。
そんな5年後の今、シュウは住み込み先で失敗して追い出された途方に暮れていた。
そこへ社会人となっていた澄と再会する。
果たして5年越しの恋は、動き出すのか?
表紙のイラストは、Daysさんで作らせていただきました。
泣き虫な俺と泣かせたいお前
ことわ子
BL
大学生の八次直生(やつぎすなお)と伊場凛乃介(いばりんのすけ)は幼馴染で腐れ縁。
アパートも隣同士で同じ大学に通っている。
直生にはある秘密があり、嫌々ながらも凛乃介を頼る日々を送っていた。
そんなある日、直生は凛乃介のある現場に遭遇する。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
素直じゃない人
うりぼう
BL
平社員×会長の孫
社会人同士
年下攻め
ある日突然異動を命じられた昭仁。
異動先は社内でも特に厳しいと言われている会長の孫である千草の補佐。
厳しいだけならまだしも、千草には『男が好き』という噂があり、次の犠牲者の昭仁も好奇の目で見られるようになる。
しかし一緒に働いてみると噂とは違う千草に昭仁は戸惑うばかり。
そんなある日、うっかりあられもない姿を千草に見られてしまった事から二人の関係が始まり……
というMLものです。
えろは少なめ。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
攻められない攻めと、受けたい受けの話
雨宮里玖
BL
恋人になったばかりの高月とのデート中に、高月の高校時代の友人である唯香に遭遇する。唯香は遠慮なく二人のデートを邪魔して高月にやたらと甘えるので、宮咲はヤキモキして——。
高月(19)大学一年生。宮咲の恋人。
宮咲(18)大学一年生。高月の恋人。
唯香(19)高月の友人。性格悪。
智江(18)高月、唯香の友人。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
代わりでいいから
氷魚彰人
BL
親に裏切られ、一人で生きていこうと決めた青年『護』の隣に引っ越してきたのは強面のおっさん『岩間』だった。
不定期に岩間に晩御飯を誘われるようになり、何時からかそれが護の楽しみとなっていくが……。
ハピエンですがちょっと暗い内容ですので、苦手な方、コメディ系の明るいお話しをお求めの方はお気を付け下さいませ。
他サイトに投稿した「隣のお節介」をタイトルを変え、手直ししたものになります。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
知らないうちに実ってた
キトー
BL
※BLです。
専門学生の蓮は同級生の翔に告白をするが快い返事はもらえなかった。
振られたショックで逃げて裏路地で泣いていたら追いかけてきた人物がいて──
fujossyや小説家になろうにも掲載中。
感想など反応もらえると嬉しいです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる