61 / 62
脱却3
3-10
しおりを挟む
「なんだ、その顔は。猛反対されるとでも思っていたのか?」
(そりゃ思うだろ。あれだけ釘刺しておいてサラッと認めるとか、珍しく冗談を言っているんじゃないかって思うぞ。まあ、猛反対されても譲る気は全くないけどな)
「俺はそこまで冷たい人間じゃあない」
(それこそ冗談だろ……)
「お前がどうなろうと、アイツが幸せならそれでいい」
(優しさは李煌さん限定ってことじゃねえか! どこが冷たい人間じゃない、だ)
今度は俺が大きく溜息を吐いた。
(俺とも話すようになったのは、李煌さんの想い人だからって理由なんだろうな。まあ何でもいいけど……)
「認めてもらえたなら、良かったよ。ありがとう」
これは大きな一歩だ。
この人が味方なら心強い。
「それに、相手がお前じゃなかったら許していなかったしな」
(―――は? 今何て言った……?)
驚きに開いた口が塞がらない。
「お前はまた間抜けな顔を――……俺はお前の兄でもあるんだぞ。厳しく言うのも愛情だろ。たまにはアメを与えたりな」
「っ……。あんたって、ホント読めない人だな」
「弟ごときに読まれてちゃ、兄としてどうなんだよ」
「それ、李煌さんにも言えるか? 一応あの人の方が上なんだけど」
「アイツは別だ」
「………ホント、読めねぇ」
呟いた言葉は聞かなかったことにされ、兄貴がふと扉へ視線を送った。
「――と、言う訳だが、何か言いたい事はあるか?」
一体誰に話しかけているのかと扉を見つめていたら、それが開いて顔を覗かせた相手に目を見開いた。
「李煌、さん……? ――まさか兄貴が呼んだのか?」
「コーヒーを頼んでおいたんだ。タイミング良く来てくれたよな」
ニヤリと俺に笑った兄貴が椅子から立ち上がって李煌さんからコーヒーを受け取った。
(何がタイミング良くだよっ。この人絶対わざと呼んだんだろ)
先を読んでの行動に少しばかり悔しく思うが、李煌さんが聞いていてくれたのなら話す手間が省けた。
チラリ、と李煌さんを見ると、下で見た不安そうな顔が少しだけ柔らかくなっていた。
「ごめんね、立ち聞きしちゃって。入るに入れなくて……」
そうさせるよう誘導したのは兄貴だが、立ち聞きという行為には素直に謝罪する辺り李煌さんらしくて安心した。
「大丈夫だよ。俺達こそ、内緒話しててごめん」
「俺達って、俺も含まれているのか」
「当然だっ」
コーヒーを啜りながら机に舞い戻った兄貴が軽い調子で言葉を挟んでパソコンを立ち上げた。
「あとは二人で話せ。俺はこれから仕事だ。邪魔はするなよ」
さっさと追い出された俺と李煌さんは顔を見合わせる。
「とりあえず、俺の部屋に行くか」
「……そうだね」
困ったような、でもどこか照れたように笑う李煌さんに俺も小さく笑みを零した。
(そりゃ思うだろ。あれだけ釘刺しておいてサラッと認めるとか、珍しく冗談を言っているんじゃないかって思うぞ。まあ、猛反対されても譲る気は全くないけどな)
「俺はそこまで冷たい人間じゃあない」
(それこそ冗談だろ……)
「お前がどうなろうと、アイツが幸せならそれでいい」
(優しさは李煌さん限定ってことじゃねえか! どこが冷たい人間じゃない、だ)
今度は俺が大きく溜息を吐いた。
(俺とも話すようになったのは、李煌さんの想い人だからって理由なんだろうな。まあ何でもいいけど……)
「認めてもらえたなら、良かったよ。ありがとう」
これは大きな一歩だ。
この人が味方なら心強い。
「それに、相手がお前じゃなかったら許していなかったしな」
(―――は? 今何て言った……?)
驚きに開いた口が塞がらない。
「お前はまた間抜けな顔を――……俺はお前の兄でもあるんだぞ。厳しく言うのも愛情だろ。たまにはアメを与えたりな」
「っ……。あんたって、ホント読めない人だな」
「弟ごときに読まれてちゃ、兄としてどうなんだよ」
「それ、李煌さんにも言えるか? 一応あの人の方が上なんだけど」
「アイツは別だ」
「………ホント、読めねぇ」
呟いた言葉は聞かなかったことにされ、兄貴がふと扉へ視線を送った。
「――と、言う訳だが、何か言いたい事はあるか?」
一体誰に話しかけているのかと扉を見つめていたら、それが開いて顔を覗かせた相手に目を見開いた。
「李煌、さん……? ――まさか兄貴が呼んだのか?」
「コーヒーを頼んでおいたんだ。タイミング良く来てくれたよな」
ニヤリと俺に笑った兄貴が椅子から立ち上がって李煌さんからコーヒーを受け取った。
(何がタイミング良くだよっ。この人絶対わざと呼んだんだろ)
先を読んでの行動に少しばかり悔しく思うが、李煌さんが聞いていてくれたのなら話す手間が省けた。
チラリ、と李煌さんを見ると、下で見た不安そうな顔が少しだけ柔らかくなっていた。
「ごめんね、立ち聞きしちゃって。入るに入れなくて……」
そうさせるよう誘導したのは兄貴だが、立ち聞きという行為には素直に謝罪する辺り李煌さんらしくて安心した。
「大丈夫だよ。俺達こそ、内緒話しててごめん」
「俺達って、俺も含まれているのか」
「当然だっ」
コーヒーを啜りながら机に舞い戻った兄貴が軽い調子で言葉を挟んでパソコンを立ち上げた。
「あとは二人で話せ。俺はこれから仕事だ。邪魔はするなよ」
さっさと追い出された俺と李煌さんは顔を見合わせる。
「とりあえず、俺の部屋に行くか」
「……そうだね」
困ったような、でもどこか照れたように笑う李煌さんに俺も小さく笑みを零した。
0
あなたにおすすめの小説
アイドルですがピュアな恋をしています。
雪 いつき
BL
人気アイドルユニットに所属する見た目はクールな隼音(しゅん)は、たまたま入ったケーキ屋のパティシエ、花楓(かえで)に恋をしてしまった。
気のせいかも、と通い続けること数ヶ月。やはりこれは恋だった。
見た目はクール、中身はフレンドリーな隼音は、持ち前の緩さで花楓との距離を縮めていく。じわりじわりと周囲を巻き込みながら。
二十歳イケメンアイドル×年上パティシエのピュアな恋のお話。
発情期のタイムリミット
なの
BL
期末試験を目前に控えた高校2年のΩ・陸。
抑制剤の効きが弱い体質のせいで、発情期が試験と重なりそうになり大パニック!
「絶対に赤点は取れない!」
「発情期なんて気合で乗り越える!」
そう強がる陸を、幼なじみでクラスメイトのα・大輝が心配する。
だが、勉強に必死な陸の周りには、ほんのり漂う甘いフェロモン……。
「俺に頼れって言ってんのに」
「頼ったら……勉強どころじゃなくなるから!」
試験か、発情期か。
ギリギリのタイムリミットの中で、二人の関係は一気に動き出していく――!
ドタバタと胸きゅんが交錯する、青春オメガバース・ラブコメディ。
*一般的なオメガバースは、発情期中はアルファとオメガを隔離したり、抑制剤や隔離部屋が管理されていたりしていますが、この物語は、日常ラブコメにオメガバース要素を混ぜた世界観になってます。
兄貴同士でキスしたら、何か問題でも?
perari
BL
挑戦として、イヤホンをつけたまま、相手の口の動きだけで会話を理解し、電話に答える――そんな遊びをしていた時のことだ。
その最中、俺の親友である理光が、なぜか俺の彼女に電話をかけた。
彼は俺のすぐそばに身を寄せ、薄い唇をわずかに結び、ひと言つぶやいた。
……その瞬間、俺の頭は真っ白になった。
口の動きで読み取った言葉は、間違いなくこうだった。
――「光希、俺はお前が好きだ。」
次の瞬間、電話の向こう側で彼女の怒りが炸裂したのだ。
ノリで付き合っただけなのに、別れてくれなくて詰んでる
cheeery
BL
告白23連敗中の高校二年生・浅海凪。失恋のショックと友人たちの悪ノリから、クラス一のモテ男で親友、久遠碧斗に勢いで「付き合うか」と言ってしまう。冗談で済むと思いきや、碧斗は「いいよ」とあっさり承諾し本気で付き合うことになってしまった。
「付き合おうって言ったのは凪だよね」
あの流れで本気だとは思わないだろおおお。
凪はなんとか碧斗に愛想を尽かされようと、嫌われよう大作戦を実行するが……?
好きな人がカッコ良すぎて俺はそろそろ天に召されるかもしれない
豆ちよこ
BL
男子校に通う棚橋学斗にはとってもとっても気になる人がいた。同じクラスの葛西宏樹。
とにかく目を惹く葛西は超絶カッコいいんだ!
神様のご褒美か、はたまた気紛れかは知らないけど、隣同士の席になっちゃったからもう大変。ついつい気になってチラチラと見てしまう。
そんな学斗に、葛西もどうやら気付いているようで……。
□チャラ王子攻め
□天然おとぼけ受け
□ほのぼのスクールBL
タイトル前に◆◇のマークが付いてるものは、飛ばし読みしても問題ありません。
◆…葛西視点
◇…てっちゃん視点
pixivで連載中の私のお気に入りCPを、アルファさんのフォントで読みたくてお引越しさせました。
所々修正と大幅な加筆を加えながら、少しづつ公開していこうと思います。転載…、というより筋書きが同じの、新しいお話になってしまったかも。支部はプロット、こちらが本編と捉えて頂けたら良いかと思います。
本気になった幼なじみがメロすぎます!
文月あお
BL
同じマンションに住む年下の幼なじみ・玲央は、イケメンで、生意気だけど根はいいやつだし、とてもモテる。
俺は失恋するたびに「玲央みたいな男に生まれたかったなぁ」なんて思う。
いいなぁ玲央は。きっと俺より経験豊富なんだろうな――と、つい出来心で聞いてしまったんだ。
「やっぱ唇ってさ、やわらけーの?」
その軽率な質問が、俺と玲央の幼なじみライフを、まるっと変えてしまった。
「忘れないでよ、今日のこと」
「唯くんは俺の隣しかだめだから」
「なんで邪魔してたか、わかんねーの?」
俺と玲央は幼なじみで。男同士で。生まれたときからずっと一緒で。
俺の恋の相手は女の子のはずだし、玲央の恋の相手は、もっと素敵な人であるはずなのに。
「素数でも数えてなきゃ、俺はふつーにこうなんだよ、唯くんといたら」
そんな必死な顔で迫ってくんなよ……メロすぎんだろーが……!
【攻め】倉田玲央(高一)×【受け】五十嵐唯(高三)
借金のカタに同居したら、毎日甘く溺愛されてます
なの
BL
父親の残した借金を背負い、掛け持ちバイトで食いつなぐ毎日。
そんな俺の前に現れたのは──御曹司の男。
「借金は俺が肩代わりする。その代わり、今日からお前は俺のものだ」
脅すように言ってきたくせに、実際はやたらと優しいし、甘すぎる……!
高級スイーツを買ってきたり、風邪をひけば看病してくれたり、これって本当に借金返済のはずだったよな!?
借金から始まる強制同居は、いつしか恋へと変わっていく──。
冷酷な御曹司 × 借金持ち庶民の同居生活は、溺愛だらけで逃げ場なし!?
短編小説です。サクッと読んでいただけると嬉しいです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる