染まらない花

煙々茸

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脱却3

3-10

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「なんだ、その顔は。猛反対されるとでも思っていたのか?」
(そりゃ思うだろ。あれだけ釘刺しておいてサラッと認めるとか、珍しく冗談を言っているんじゃないかって思うぞ。まあ、猛反対されても譲る気は全くないけどな)
「俺はそこまで冷たい人間じゃあない」
(それこそ冗談だろ……)
「お前がどうなろうと、アイツが幸せならそれでいい」
(優しさは李煌さん限定ってことじゃねえか! どこが冷たい人間じゃない、だ)
 今度は俺が大きく溜息を吐いた。
(俺とも話すようになったのは、李煌さんの想い人だからって理由なんだろうな。まあ何でもいいけど……)
「認めてもらえたなら、良かったよ。ありがとう」
 これは大きな一歩だ。
 この人が味方なら心強い。
「それに、相手がお前じゃなかったら許していなかったしな」
(―――は? 今何て言った……?)
 驚きに開いた口が塞がらない。
「お前はまた間抜けな顔を――……俺はお前の兄でもあるんだぞ。厳しく言うのも愛情だろ。たまにはアメを与えたりな」
「っ……。あんたって、ホント読めない人だな」
「弟ごときに読まれてちゃ、兄としてどうなんだよ」
「それ、李煌さんにも言えるか? 一応あの人の方が上なんだけど」
「アイツは別だ」
「………ホント、読めねぇ」
 呟いた言葉は聞かなかったことにされ、兄貴がふと扉へ視線を送った。
「――と、言う訳だが、何か言いたい事はあるか?」
 一体誰に話しかけているのかと扉を見つめていたら、それが開いて顔を覗かせた相手に目を見開いた。
「李煌、さん……? ――まさか兄貴が呼んだのか?」
「コーヒーを頼んでおいたんだ。タイミング良く来てくれたよな」
 ニヤリと俺に笑った兄貴が椅子から立ち上がって李煌さんからコーヒーを受け取った。
(何がタイミング良くだよっ。この人絶対わざと呼んだんだろ)
 先を読んでの行動に少しばかり悔しく思うが、李煌さんが聞いていてくれたのなら話す手間が省けた。
 チラリ、と李煌さんを見ると、下で見た不安そうな顔が少しだけ柔らかくなっていた。
「ごめんね、立ち聞きしちゃって。入るに入れなくて……」
 そうさせるよう誘導したのは兄貴だが、立ち聞きという行為には素直に謝罪する辺り李煌さんらしくて安心した。
「大丈夫だよ。俺達こそ、内緒話しててごめん」
「俺達って、俺も含まれているのか」
「当然だっ」
 コーヒーを啜りながら机に舞い戻った兄貴が軽い調子で言葉を挟んでパソコンを立ち上げた。
「あとは二人で話せ。俺はこれから仕事だ。邪魔はするなよ」
 さっさと追い出された俺と李煌さんは顔を見合わせる。
「とりあえず、俺の部屋に行くか」
「……そうだね」
 困ったような、でもどこか照れたように笑う李煌さんに俺も小さく笑みを零した。
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