染まらない花

煙々茸

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脱却3

3-3

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 着替えて昇降口へと向かうと、下駄箱の端で背中を預けて携帯を弄っている唐木の姿が見えた。
 一度小さく深呼吸をしてから近付く……。
「あの、相見クン……!」
「! ……?」
 突然背後から名前を呼ばれて振り向くと、知らない女子が俺を見上げていた。
 まったく知らない顔だ。
「ちょっとだけ、時間貰えないかなぁ」
「……何?」
「ココじゃちょっと……。こっち来て」
 周囲を気にしているのか伏し目がちに視線を彷徨わせ、俺の腕を強引に掴んで引っ張って行く。
(唐木は……――)
 と視線を向けると、携帯に夢中になっているのかこっちの様子には気付いていないようだ。
(……少しなら平気か……)
 俺の腕を掴んだまま離さない――俺をクン付けする辺り同学年か三年生であろう――彼女に、小さく溜息を零した。
 連れて来られた場所は渡り廊下。
 この時間は利用する人間も少ないはずだ。
「ごめんね、突然……」
 漸く手を離した彼女は俺に向き直って呟いた。
 謝られたら文句は言えない。
「別にいいけど。人待たせてるから、出来れば手短に頼めるか?」
「え……。もしかして、女の子……とか?」
「……いや、男だけど」
「そっか……」
 あからさまにホッとされると、これから何が起こるのか嫌でも気付かされる。
「私のこと、知ってるかな……?」
「え……」
(またこのパターンか……。正直、女子の顔とか名前なんて、クラスの奴くらいしか知らないしな……)
 俺の反応にどう対応しようかと迷っているのか、彼女はこっちの出方を気にしている様子でジッと見つめて来る。
(……仕方ない、か)
 こっちが降参するしかない。
「ごめん。全然知らない」
「あ……そっかそっか。私は三年の伊藤美智」
(先輩の方だったか……)
 馴れ馴れしくタメ口をきいて拙かったかと口を押さえる。
「ん? どうかした?」
「あ、いえ……」
「……ああ! タメ口で全然いいからね。寧ろ敬語で話されると距離感じちゃうから止めて欲しいな」
(……距離を考える段階なのか不明だけど)
 まあ、この人にしてみたら気にすることなのかもしれない。
「それでね、私、相見クンのこと……――」


 *****


「遅かったね。何してたの?」
「……少し泳ぎ過ぎただけだ。悪かったな」
 嘘をついたことは申し訳なく思うが、また変に突かれても面倒だから仕方ない。
「まあいいけど。久し振りの部活だったし、まだ泳ぎ足りないって顔してるしね」
 唐木の指摘にピクリと眉が跳ねる。
「……」
「あ、図星? ……なんてね、大河のことは大体分かるよ。ずっと見て来たんだから」
 その発言をされると、少し切り出し辛くなる。
「――それで、話したい事って何?」
 少し先を歩く唐木が促してくれたことに安堵しつつ、口を開いた。
「……恋人が、出来た」
 告げた直後、少しだけ空気が変わった事に固唾を呑んでその背中を見つめる。
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