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脱却2
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俺と恋人である自覚が本当にあるのか、少し不安に思う。
兄弟という関係が長かったせいだろうから、まだ時間が必要なのも理解している。
(それでも、俺だって寂しいって思っても許されるよな……)
逸る気持ちを押させて、李煌さんに小さく笑いかける。
「俺の性格知ってるだろ? いいから、李煌さんが先に食べな」
いつかは、弟としてではなく、ちゃんと恋人として見てほしい。
李煌さんにそんなつもりはなかったとしても、抜け出せないのは確かだろうから。
「……じゃあ、先に食べるね。あとでちゃんと食べてよ?」
「分かってるよ。早く食べないと、俺が全部食べちゃうぞ」
「全部なんてダメだよ!」
慌てて食べ始める李煌さんに小さく噴き出す。
(食べろって言ったりダメって言ったり、変な人だな)
そんな変なところも全部ひっくるめて、愛おしい。
*****
歩き回って疲れた脚で帰途につく。
「今日は楽しかったねー」
白い息を吐きながら暗くなりかけている空をふたりで見上げる。
「楽しかったけど、家に着いたら悠璃に文句言われそうだな」
俺の呟きに李煌さんがアハハと苦笑した。
「でも、ちゃんとお土産も買ったから大丈夫だよ」
「それで納得するかは疑問だけど、まあ済んだことは仕方ないか」
「そうそう。悠くんには埋め合わせも今度するって話すよ」
「……というか、起きなかった奴が悪い」
自業自得だ。
「大河くんは厳しいねぇ」
クスクス笑う李煌さんを一瞥する。
(そんなこと言って、俺と二人きりになることを望んでくれてたんだよな)
照れ隠しをしていることは李煌さんの顔を見れば直ぐ分かる。
少し濡れた瞳に、はにかんだ笑顔。
(はあ……)
触れたい。
その柔らかそうな頬を、そっと、優しく――、
気が付くと、歩調を緩めてその頬に手を伸ばしていた。
「え……大河くん……?」
「……」
完全に足が止まり、視線が絡み合う。
(李煌さんの頬、冷たいな……長く歩かせすぎたか)
思ったよりも冷たくなっている頬に、少し冷静になった。
「あ、あの……大河くん」
「――李煌さん」
「え、何?」
目の前の照れたような驚いたような、戸惑いを見せる表情にフッと笑みを零す。
「寒いな。早く帰ろうか」
頬に触れていた手を下に落として李煌さんの手を取る。
少し緊張して震えた手が、そっと握り返してくれた。
「……うん。そうだね」
誰もいない帰り道に、二つの影が揺れる。
(このまま、家に着かなければいいのに。……って、俺もベタな思考が働くようになったもんだな)
思わず滲んだ笑みに、李煌さんが怪訝そうに首を傾げた。
兄弟という関係が長かったせいだろうから、まだ時間が必要なのも理解している。
(それでも、俺だって寂しいって思っても許されるよな……)
逸る気持ちを押させて、李煌さんに小さく笑いかける。
「俺の性格知ってるだろ? いいから、李煌さんが先に食べな」
いつかは、弟としてではなく、ちゃんと恋人として見てほしい。
李煌さんにそんなつもりはなかったとしても、抜け出せないのは確かだろうから。
「……じゃあ、先に食べるね。あとでちゃんと食べてよ?」
「分かってるよ。早く食べないと、俺が全部食べちゃうぞ」
「全部なんてダメだよ!」
慌てて食べ始める李煌さんに小さく噴き出す。
(食べろって言ったりダメって言ったり、変な人だな)
そんな変なところも全部ひっくるめて、愛おしい。
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歩き回って疲れた脚で帰途につく。
「今日は楽しかったねー」
白い息を吐きながら暗くなりかけている空をふたりで見上げる。
「楽しかったけど、家に着いたら悠璃に文句言われそうだな」
俺の呟きに李煌さんがアハハと苦笑した。
「でも、ちゃんとお土産も買ったから大丈夫だよ」
「それで納得するかは疑問だけど、まあ済んだことは仕方ないか」
「そうそう。悠くんには埋め合わせも今度するって話すよ」
「……というか、起きなかった奴が悪い」
自業自得だ。
「大河くんは厳しいねぇ」
クスクス笑う李煌さんを一瞥する。
(そんなこと言って、俺と二人きりになることを望んでくれてたんだよな)
照れ隠しをしていることは李煌さんの顔を見れば直ぐ分かる。
少し濡れた瞳に、はにかんだ笑顔。
(はあ……)
触れたい。
その柔らかそうな頬を、そっと、優しく――、
気が付くと、歩調を緩めてその頬に手を伸ばしていた。
「え……大河くん……?」
「……」
完全に足が止まり、視線が絡み合う。
(李煌さんの頬、冷たいな……長く歩かせすぎたか)
思ったよりも冷たくなっている頬に、少し冷静になった。
「あ、あの……大河くん」
「――李煌さん」
「え、何?」
目の前の照れたような驚いたような、戸惑いを見せる表情にフッと笑みを零す。
「寒いな。早く帰ろうか」
頬に触れていた手を下に落として李煌さんの手を取る。
少し緊張して震えた手が、そっと握り返してくれた。
「……うん。そうだね」
誰もいない帰り道に、二つの影が揺れる。
(このまま、家に着かなければいいのに。……って、俺もベタな思考が働くようになったもんだな)
思わず滲んだ笑みに、李煌さんが怪訝そうに首を傾げた。
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