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脱却
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コイツは竹居秀善。
小学校の時のクラスメイトで、俺をスイミングスクールに誘ってくれた奴だ。
それに、俺は秀をあの日見かけていた。
一ヶ月と少し前。
パーティーの日、唐木と出かけたあのカフェで。
街を通り抜けて行く秀を……。
(あれは見間違いじゃなかったってことか)
久し振りに再会する友人だが、嬉しい半面、不思議な感覚だった。
俺は止めていたドライヤーをまた作動させる。
今は再会の感動に浸っている時間はない。
(寒い中で李煌さんを待たせる訳にいかないからな)
髪に熱風を当てながら声を張る。
「それで、俺に何か用なのか?」
また鏡越しでの会話が始まった。
「相変わらず速かったな大河。俺も久々に勝負してみたくなった」
「お前には負けるよ。高校でも上位なんだろ」
「いやいや、大河程騒がれちゃあいないさ」
「……何の話だ」
最後の俺の呟きは、ドライヤーの音にかき消されて秀には届かなかった。
「大河。さっきの――」
今度は秀の声がかき消えた。
「悪い! 何て言ったんだ?」
少し声を大きめにして訊く。
すると突然、ドライヤーのある方の手首を掴まれ、引っ張られた。
「――っ、秀……?」
強引に俺の体を反転させた秀に鋭い視線を向けられた。
(何で睨まれなきゃならないんだ?)
他愛のない話しかしていないはずだ。
睨まれっ放しも面白くはない。
何がなんだか分からないまま俺も眼光を細めた。
「……言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ」
「さっきのアレは何だ?」
「は……? さっき、って……」
分からず顔を顰める。
「プールサイドで抱き合ってたろ」
(――っ!?)
俺は見られていたことに驚きを隠しきれなかった。
「あの人、女じゃなかったはずだよなぁ……。どういう関係だ?」
――関係。
その言葉になんとか平常心を取り戻す。
「家族だ。血の繋がりはないけどな」
「…家族? 本当にそれだけかよ。俺にはそうは見えなかったぜ」
一体秀はどこまで見たのか……。
(訊くのは危険過ぎるか……)
なんとか誤魔化せればいいが、そう簡単に騙されてくれる奴じゃあない。
一度取り繕った平常心を崩さないように、相手の手を振り払う。
「何を見たのか知らないけど、薄暗かったわけだし変に勘違いされても困るんだけどな」
「勘違い? キスまでしてて、どう勘違いするってんだよ」
(!? ――っ)
取り繕った平常心は、呆気なく崩れ去った。
どう言い訳をすればいいのか分からない。
そこまで見られていたなら、もうどうこうなる問題じゃない。
俺はどう思われても構わないが、李煌さんに迷惑をかける訳にはいかない。
どうすれば……――
「はぁ……。ったく……、別に他人の恋愛に口出しするつもりはないけどよ、相手が男ってなるとさすがにな」
軽蔑されても仕方のないことだ。
それをわざわざ聞いてやるつもりはないが。
「こっちは軽い気持ちであの人といるわけじゃないんだ。中傷なら受け付けないぞ。面倒臭い」
髪をさっさと乾かして更衣室から出る。
その後ろを秀がついてきた。
小学校の時のクラスメイトで、俺をスイミングスクールに誘ってくれた奴だ。
それに、俺は秀をあの日見かけていた。
一ヶ月と少し前。
パーティーの日、唐木と出かけたあのカフェで。
街を通り抜けて行く秀を……。
(あれは見間違いじゃなかったってことか)
久し振りに再会する友人だが、嬉しい半面、不思議な感覚だった。
俺は止めていたドライヤーをまた作動させる。
今は再会の感動に浸っている時間はない。
(寒い中で李煌さんを待たせる訳にいかないからな)
髪に熱風を当てながら声を張る。
「それで、俺に何か用なのか?」
また鏡越しでの会話が始まった。
「相変わらず速かったな大河。俺も久々に勝負してみたくなった」
「お前には負けるよ。高校でも上位なんだろ」
「いやいや、大河程騒がれちゃあいないさ」
「……何の話だ」
最後の俺の呟きは、ドライヤーの音にかき消されて秀には届かなかった。
「大河。さっきの――」
今度は秀の声がかき消えた。
「悪い! 何て言ったんだ?」
少し声を大きめにして訊く。
すると突然、ドライヤーのある方の手首を掴まれ、引っ張られた。
「――っ、秀……?」
強引に俺の体を反転させた秀に鋭い視線を向けられた。
(何で睨まれなきゃならないんだ?)
他愛のない話しかしていないはずだ。
睨まれっ放しも面白くはない。
何がなんだか分からないまま俺も眼光を細めた。
「……言いたいことがあるなら、ハッキリ言えよ」
「さっきのアレは何だ?」
「は……? さっき、って……」
分からず顔を顰める。
「プールサイドで抱き合ってたろ」
(――っ!?)
俺は見られていたことに驚きを隠しきれなかった。
「あの人、女じゃなかったはずだよなぁ……。どういう関係だ?」
――関係。
その言葉になんとか平常心を取り戻す。
「家族だ。血の繋がりはないけどな」
「…家族? 本当にそれだけかよ。俺にはそうは見えなかったぜ」
一体秀はどこまで見たのか……。
(訊くのは危険過ぎるか……)
なんとか誤魔化せればいいが、そう簡単に騙されてくれる奴じゃあない。
一度取り繕った平常心を崩さないように、相手の手を振り払う。
「何を見たのか知らないけど、薄暗かったわけだし変に勘違いされても困るんだけどな」
「勘違い? キスまでしてて、どう勘違いするってんだよ」
(!? ――っ)
取り繕った平常心は、呆気なく崩れ去った。
どう言い訳をすればいいのか分からない。
そこまで見られていたなら、もうどうこうなる問題じゃない。
俺はどう思われても構わないが、李煌さんに迷惑をかける訳にはいかない。
どうすれば……――
「はぁ……。ったく……、別に他人の恋愛に口出しするつもりはないけどよ、相手が男ってなるとさすがにな」
軽蔑されても仕方のないことだ。
それをわざわざ聞いてやるつもりはないが。
「こっちは軽い気持ちであの人といるわけじゃないんだ。中傷なら受け付けないぞ。面倒臭い」
髪をさっさと乾かして更衣室から出る。
その後ろを秀がついてきた。
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