染まらない花

煙々茸

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家族3

3-7

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 まあ、たまにはこういう賑やかな食事もありだと思う。
(たまには、な)
 俺も置いて行かれないように料理を頬張る。
(んっまい! さすが李煌さんだな。悠璃が手伝っていたからといって、こんな沢山の料理を半日で……)
「あ、相見」
「んー?」
「口、ついてるよ」
 頬張っている横から手が伸びて来たかと思ったら、俺の口元を濡れた布巾がそっと撫でて行った。
「よし、取れた」
 布巾を片手にニッコリと笑う唐木を呆れ半分で睨みつける。
(好きな相手だったら、照れて赤くなる場面なんだろうけど……。そうはいかないぞ)
「……よし、じゃねえよ。俺は餓鬼じゃないんだぞ。言ってくれれば自分で拭く」
「ちょ、ここはデレてもいいとこじゃないの!?」
「は? 何で俺がデレる必要があるんだ」
 予想通りの反応に笑いそうになったが、グッと堪えて平静を装う。
「ちぇ。つまんないのー」
 唇を尖らせながら肩を落とす唐木。
 コイツはこういう性格だっただろうかと少し不思議に思う。
 思い返してみれば、変わったのは俺に告白してからか……。
(コイツなりにアプローチしてるつもりなのか? 良く分からんが……)
 唐木を横目にピザに齧り付く。
 向かいで、李煌さんのくすくす笑う声が聞こえて来た。
「ふたりは仲良しなんだね~」
(あ……ちょっとまて、これは誤解されている、のか……?)
 俺が咄嗟に違うと言う前に、横からそれを阻まれた。
「相見とは中学の頃からの付き合いですからね。それはもうラブラブですよ~♪」
「そんなわけねぇだろ。冗談は家に帰ってからにしろ」
「えーっ。すぐそうやってはぐらかすんだからぁ……。この照れ屋さんめ!」
(別に照れてねえよ)
 俺は何も言わずに溜息だけを零した。
 唐木のテンションを見る限り、これを本気に捉える人間はココにはいないだろう。
 案の定、李煌さんは笑い飛ばしてくれているし、兄貴は……視線さえ合わそうとせず聞いているのかも分からない。
 悠璃に至っては、骨付きチキンと格闘している始末だ。
「わわっ。手がベタベタする!」
「悠くん、これで拭くといいよ」
「さんきゅ~。リオ兄」
 ふたりのやり取りを見ていたら、ふと昔を思い出した。
 何年も前、俺が餓鬼だったころのことを……。
(よく俺にもしてくれてたっけな。今頃何してんのか知らねぇけど……)
「んー? 相見どうかした?」
「え。……いや、別に。あまりの美味さに体が固まっただけだ」
 俺を覗き込んでくる唐木を押し返し、ピザを呑み下した。
「大河くんにそう言ってもらえて嬉しいよ。時間かけて作った甲斐、あったかな」
「それはもちろん。凄く嬉しいよ」
 今久し振りに李煌さんとちゃんと話せた気がした。
 つい頬が緩んでしまう。
 隣から注がれる視線は……無視しておこう。
 それから動画でアメリカにいる相見の両親と挨拶を済ませ、パーティーはお開きとなった。
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