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家族2
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「いや、付き合ってはいない」
「そう、なんだ。でも、きっと相見くんに告白されたら、OKしちゃうんだろうなぁ」
「……さぁ。それはどうだろうな。結構手強いんだ」
相手も、それを取り巻く環境も、全てが大きな壁だ。
「相見くんに手強いって言わせるなんて、贅沢だね」
(贅沢って……、周りからどう見られてるわけ? 俺。好きな人に告白もできないチキン野郎なんだけどな、実際)
「私、後悔したくないから、言うけど……」
「?」
「相見くんのこと好きですっ」
俯いていて相手の顔は見えないが、緊張と恥ずかしさで顔を真っ赤にしているのは容易に想像ができた。
「……宮下さんの気持ちには、応えられない。ごめんな」
「ううん! 返事、くれてありがとう。これで諦めもつくし、ほんと、大丈夫だから気にしないでね!」
パッと上げた彼女の顔は、笑っているのに今にも涙が零れそうなほどに瞳が濡れていた。
少し悪いと思う気持ちも芽生えたが、ここで俺が慰めるわけにはいかない。
中途半端な優しさは、相手の覚悟を鈍らせてしまうから。
(――あぁ。俺って李煌さんにも中途半端だったんだな……。あの人は何とも思っていなくても、俺の態度は兄弟としても混乱を招く結果にしかならないわけか)
あの日の兄貴の言葉が鮮明に蘇って、僅かに眉を寄せた。
「じゃあ私、行くね? 部活頑張って! 応援してるから!」
明るくて元気な声に目を丸くする。
(……はは。女ってすげぇな)
遠ざかって行く彼女の後ろ姿を見送りながら、自分の情けなさに自嘲を滲ませた。
――……。
「今日もまた凄い泳ぎだったねー。久しぶりだったから溜まってた?」
くすくすと笑いながら俺に缶ジュースを差し出してきたのは唐木だ。
「一週間もお預けくらってたら、そりゃ溜まるだろ」
サンキュ、とジュースを受け取り、更衣室を出た。
「これ、いつの間に買って来たんだ?」
「あー違う違う。差し入れだよ」
「差し入れ?」
「相見目当ての子からね~。僕もついでにって貰っちゃった」
(ついでって……、自分で言ってて嫌にならないのか? コイツは)
唐木を横目に、誰からかも分からない差し入れだが、丁度喉が渇いていたから有り難く飲むことにした。
「宮下って子じゃないよな?」
「違う違う。一年生の子だよ。相変わらずモテますなぁ、相見殿は」
「その喋り方止めろ」
ぐしゃっと唐木の濡れた髪を掴んで乱してやる。
「ちょ、禿げる禿げる! 責任とってね!」
「嫌だ。自業自得だろ」
「あ。宮下さんとはどうだったの?」
(……またえらく飛んだな)
それでも訊いてくるだろうことは予想していたから、驚きはしないが。
「どうって言われてもな」
「やっぱり告白されたんでしょ?」
「……断った」
「なんて!? 何て言って断ったの??」
こっちに身を乗り出して来る唐木から、俺は顔を引いた。
「気持ちに応えることはできない、ごめんって」
「そう、なんだ。でも、きっと相見くんに告白されたら、OKしちゃうんだろうなぁ」
「……さぁ。それはどうだろうな。結構手強いんだ」
相手も、それを取り巻く環境も、全てが大きな壁だ。
「相見くんに手強いって言わせるなんて、贅沢だね」
(贅沢って……、周りからどう見られてるわけ? 俺。好きな人に告白もできないチキン野郎なんだけどな、実際)
「私、後悔したくないから、言うけど……」
「?」
「相見くんのこと好きですっ」
俯いていて相手の顔は見えないが、緊張と恥ずかしさで顔を真っ赤にしているのは容易に想像ができた。
「……宮下さんの気持ちには、応えられない。ごめんな」
「ううん! 返事、くれてありがとう。これで諦めもつくし、ほんと、大丈夫だから気にしないでね!」
パッと上げた彼女の顔は、笑っているのに今にも涙が零れそうなほどに瞳が濡れていた。
少し悪いと思う気持ちも芽生えたが、ここで俺が慰めるわけにはいかない。
中途半端な優しさは、相手の覚悟を鈍らせてしまうから。
(――あぁ。俺って李煌さんにも中途半端だったんだな……。あの人は何とも思っていなくても、俺の態度は兄弟としても混乱を招く結果にしかならないわけか)
あの日の兄貴の言葉が鮮明に蘇って、僅かに眉を寄せた。
「じゃあ私、行くね? 部活頑張って! 応援してるから!」
明るくて元気な声に目を丸くする。
(……はは。女ってすげぇな)
遠ざかって行く彼女の後ろ姿を見送りながら、自分の情けなさに自嘲を滲ませた。
――……。
「今日もまた凄い泳ぎだったねー。久しぶりだったから溜まってた?」
くすくすと笑いながら俺に缶ジュースを差し出してきたのは唐木だ。
「一週間もお預けくらってたら、そりゃ溜まるだろ」
サンキュ、とジュースを受け取り、更衣室を出た。
「これ、いつの間に買って来たんだ?」
「あー違う違う。差し入れだよ」
「差し入れ?」
「相見目当ての子からね~。僕もついでにって貰っちゃった」
(ついでって……、自分で言ってて嫌にならないのか? コイツは)
唐木を横目に、誰からかも分からない差し入れだが、丁度喉が渇いていたから有り難く飲むことにした。
「宮下って子じゃないよな?」
「違う違う。一年生の子だよ。相変わらずモテますなぁ、相見殿は」
「その喋り方止めろ」
ぐしゃっと唐木の濡れた髪を掴んで乱してやる。
「ちょ、禿げる禿げる! 責任とってね!」
「嫌だ。自業自得だろ」
「あ。宮下さんとはどうだったの?」
(……またえらく飛んだな)
それでも訊いてくるだろうことは予想していたから、驚きはしないが。
「どうって言われてもな」
「やっぱり告白されたんでしょ?」
「……断った」
「なんて!? 何て言って断ったの??」
こっちに身を乗り出して来る唐木から、俺は顔を引いた。
「気持ちに応えることはできない、ごめんって」
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