16 / 62
家族2
2-7
しおりを挟む
*****
三日続いたテストも無事に終わり、俺は指定された第一体育館裏に来ていた。
(まだ来てない、か……)
ここには初めて来たが、体育館に阻まれて影が落ち、少しじめっとしていて誰も寄りつかないのが良く分かる。
(誰にも見られたくないのは分かるけど、ここで話をするのはちょっと抵抗あるな。――早めに終わらせて部活に行きたい)
テストが終わった今日の放課後から、部活も再開する。
この時をどんなに待っていたか。
(あと五分待っても来なかったら、部活行く)
そう思った時、近付いてくる足音に気付いた。
「ごめんね。待たせちゃって」
視線を向けると、ぼんやりとしか浮かばなかった記憶の顔が、今クリアになった。
「……話って?」
「え、っと……来てくれてありがとう。私の事、覚えてる?」
それはどういう意味だろうか。
(話どころか対面するのも初めてだし、そう訊かれる接点は一つもないはずだけど……。俺が忘れているだけか?)
黙っていろいろ模索していると、覚えていないと取ったのか彼女が具体的な言葉を口にした。
「手紙にも書いてあったと思うけど、水泳の大会の時に見かけてから、ずっと相見くんのこと目で追ってたの」
「……」
「そ、それで……、プールにも足運んで、私のこと知っててもらえてるのかなって……思って……」
(ああ、そういうことか)
多分不安なんだろう。
もしかしたら自分だけが一方的に知っているだけで、俺は記憶にすら残していないのかもしれない、と。
「ごめんな。正直あんまり覚えてないんだ……。でも、宮下って名前と、プールに来てるってことは知ってたよ」
プールでやたら騒いでくれた仲間のことを思い出す。
しかし、掠める程度に存在を視界に入れただけだから、はっきり覚えているなんていい加減なことは言えない。
「そ、そっか! 名前、知っててもらえてたんだ……」
瞼を僅かに落としたことで長い睫毛が影を作り、頬を赤く染めた彼女は嬉しそうに笑んだ。
「相見くん、泳ぐの上手だよね。あっ、水泳部なんだし、当たり前なのかもしれないけどっ」
「他はどうか知らないけど……。ただ俺は中学より前から泳いできたから、慣れてるだけだ」
「そうなんだ? でも、相見くんの泳ぎって力強くて凄く綺麗で……、一番目立ってるよ!」
彼女の力のこもった声に少し面食らう。
「……ありがとう」
面と向かって褒められたのは初めて……ではないが、女の子からは初めてのことかもしれない。
唐木に凄い凄いと言われ慣れてしまっていて、今更どう反応したらいいのか迷う。
「あ、あの……!」
「何?」
「……相見くん、好きな人……いる?」
震えたとても小さな声だったが、なんとか聞き取れた。
「――……うん」
「そ、っか……。もしかして、もう付き合ってるとか……?」
三日続いたテストも無事に終わり、俺は指定された第一体育館裏に来ていた。
(まだ来てない、か……)
ここには初めて来たが、体育館に阻まれて影が落ち、少しじめっとしていて誰も寄りつかないのが良く分かる。
(誰にも見られたくないのは分かるけど、ここで話をするのはちょっと抵抗あるな。――早めに終わらせて部活に行きたい)
テストが終わった今日の放課後から、部活も再開する。
この時をどんなに待っていたか。
(あと五分待っても来なかったら、部活行く)
そう思った時、近付いてくる足音に気付いた。
「ごめんね。待たせちゃって」
視線を向けると、ぼんやりとしか浮かばなかった記憶の顔が、今クリアになった。
「……話って?」
「え、っと……来てくれてありがとう。私の事、覚えてる?」
それはどういう意味だろうか。
(話どころか対面するのも初めてだし、そう訊かれる接点は一つもないはずだけど……。俺が忘れているだけか?)
黙っていろいろ模索していると、覚えていないと取ったのか彼女が具体的な言葉を口にした。
「手紙にも書いてあったと思うけど、水泳の大会の時に見かけてから、ずっと相見くんのこと目で追ってたの」
「……」
「そ、それで……、プールにも足運んで、私のこと知っててもらえてるのかなって……思って……」
(ああ、そういうことか)
多分不安なんだろう。
もしかしたら自分だけが一方的に知っているだけで、俺は記憶にすら残していないのかもしれない、と。
「ごめんな。正直あんまり覚えてないんだ……。でも、宮下って名前と、プールに来てるってことは知ってたよ」
プールでやたら騒いでくれた仲間のことを思い出す。
しかし、掠める程度に存在を視界に入れただけだから、はっきり覚えているなんていい加減なことは言えない。
「そ、そっか! 名前、知っててもらえてたんだ……」
瞼を僅かに落としたことで長い睫毛が影を作り、頬を赤く染めた彼女は嬉しそうに笑んだ。
「相見くん、泳ぐの上手だよね。あっ、水泳部なんだし、当たり前なのかもしれないけどっ」
「他はどうか知らないけど……。ただ俺は中学より前から泳いできたから、慣れてるだけだ」
「そうなんだ? でも、相見くんの泳ぎって力強くて凄く綺麗で……、一番目立ってるよ!」
彼女の力のこもった声に少し面食らう。
「……ありがとう」
面と向かって褒められたのは初めて……ではないが、女の子からは初めてのことかもしれない。
唐木に凄い凄いと言われ慣れてしまっていて、今更どう反応したらいいのか迷う。
「あ、あの……!」
「何?」
「……相見くん、好きな人……いる?」
震えたとても小さな声だったが、なんとか聞き取れた。
「――……うん」
「そ、っか……。もしかして、もう付き合ってるとか……?」
1
お気に入りに追加
18
あなたにおすすめの小説
黄色い水仙を君に贈る
えんがわ
BL
──────────
「ねぇ、別れよっか……俺たち……。」
「ああ、そうだな」
「っ……ばいばい……」
俺は……ただっ……
「うわああああああああ!」
君に愛して欲しかっただけなのに……
なんか金髪超絶美形の御曹司を抱くことになったんだが
なずとず
BL
タイトル通りの軽いノリの話です
酔った勢いで知らないハーフと将来を約束してしまった勇気君視点のお話になります
攻
井之上 勇気
まだまだ若手のサラリーマン
元ヤンの過去を隠しているが、酒が入ると本性が出てしまうらしい
でも翌朝には完全に記憶がない
受
牧野・ハロルド・エリス
天才・イケメン・天然ボケなカタコトハーフの御曹司
金髪ロング、勇気より背が高い
勇気にベタ惚れの仔犬ちゃん
ユウキにオヨメサンにしてもらいたい
同作者作品の「一夜の関係」の登場人物も絡んできます
家事代行サービスにdomの溺愛は必要ありません!
灯璃
BL
家事代行サービスで働く鏑木(かぶらぎ) 慧(けい)はある日、高級マンションの一室に仕事に向かった。だが、住人の男性は入る事すら拒否し、何故かなかなか中に入れてくれない。
何度かの押し問答の後、なんとか慧は中に入れてもらえる事になった。だが、男性からは冷たくオレの部屋には入るなと言われてしまう。
仕方ないと気にせず仕事をし、気が重いまま次の日も訪れると、昨日とは打って変わって男性、秋水(しゅうすい) 龍士郎(りゅうしろう)は慧の料理を褒めた。
思ったより悪い人ではないのかもと慧が思った時、彼がdom、支配する側の人間だという事に気づいてしまう。subである慧は彼と一定の距離を置こうとするがーー。
みたいな、ゆるいdom/subユニバース。ふんわり過ぎてdom/subユニバースにする必要あったのかとか疑問に思ってはいけない。
※完結しました!ありがとうございました!
【第1章完結】悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼第2章2025年1月18日より投稿予定
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
フローブルー
とぎクロム
BL
——好きだなんて、一生、言えないままだと思ってたから…。
高二の夏。ある出来事をきっかけに、フェロモン発達障害と診断された雨笠 紺(あまがさ こん)は、自分には一生、パートナーも、子供も望めないのだと絶望するも、その後も前向きであろうと、日々を重ね、無事大学を出て、就職を果たす。ところが、そんな新社会人になった紺の前に、高校の同級生、日浦 竜慈(ひうら りゅうじ)が現れ、紺に自分の息子、青磁(せいじ)を預け(押し付け)ていく。——これは、始まり。ひとりと、ひとりの人間が、ゆっくりと、激しく、家族になっていくための…。
いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜
きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員
Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。
そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。
初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。
甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。
第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。
※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり)
※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り
初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。
【完結】運命さんこんにちは、さようなら
ハリネズミ
BL
Ωである神楽 咲(かぐら さき)は『運命』と出会ったが、知らない間に番になっていたのは別の人物、影山 燐(かげやま りん)だった。
とある誤解から思うように優しくできない燐と、番=家族だと考え、家族が欲しかったことから簡単に受け入れてしまったマイペースな咲とのちぐはぐでピュアなラブストーリー。
==========
完結しました。ありがとうございました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる