染まらない花

煙々茸

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家族

1-7

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「えっと、急なんだけど、今週末友達を家に呼びたいんだけど……、できれば泊りで……」
 努めて平常心でそう告げると、更に李煌さんの表情が綻んだ。
「うん。全然構わないよ。部屋も余ってるし何人でも」
(予想通り、直ぐOK出たな。でも複数はダメだろうな、兄貴が許さない。俺もそんな呼ぶの嫌だし)
 とりあえず唐木に連絡しなきゃな、と心に留める。
「大河くんの友達かぁ……。どんな子?」
「んー…良く笑う奴、かな。あ、来るのは一人だから。テスト勉強に誘われて」
「あはは。誘われたのにウチなんだ?」
「変な奴だけど、一応常識人だから迷惑はかけないと思うよ」
「大丈夫。大河くんの友達なら信用できるよ」
 俺は動かしていた箸を一瞬止めた。
(ほんと、サラッとそういうこと言うんだから、この人は……)
 知らない人間を警戒するよりも、俺のことを見て他人を受け入れてくれる。
 そんな人と毎日一緒にいて、好きにならないはずがない。
 僅かに緩む口元は、引き攣っていないだろうか……。
「あ、そういえば」
(!?)
「さっき父さんたちにパーティーのこと連絡しておいたんだ」
(――ビビった……)
 一瞬笑ったところを突っ込まれるのかと焦った。
 別に見られてもいいのだが、今更って気もして照れ臭い気持ちもある。
「そっか。それで?」
「うん。やっぱり父さんたちは来られないみたいだけど、動画でお祝い言いたいって言ってたよ」
 もうザックリと節目の年だけで十分なのだが、この人がやりたいというなら、何も言うまい。
 相見家の両親は、仕事で海外へ二年ほど行っている。
 子供と別居状態なのだが、それがいつまで続くのか予定が立たないらしい。
 李煌さんと夕飯を済ませて食器をシンクに運ぶ。
「大河くんテスト近いでしょ? 片付けも俺がやるから、先にお風呂入っておいで」
「じゃあ、お言葉に甘えて」
「うんうん。――あ、水着とか洗う物あったら洗濯機のカゴに入れておいてね!」
 後半のセリフは背中で聞きながら、俺はリビングを出て風呂に入る準備をした。
 さすが李煌さんだ。
 しっかり湯が張られていて直ぐに入れる状態になっていた。
 大学に通いながら家事全般をこなしてくれている。
 もちろん俺も手伝うが、殆ど部活で彼に頼りっぱなしなのは否定できない。
 しかも今回はテスト期間で、また李煌さんに気を遣わせてしまっている。
(あの人、ちゃんと大学行ってんのかな……。まあ俺の方が朝早くに出るし、帰りも俺の方が遅いから錯覚してるだけかもしれないけど)
 俺は水着をカゴの中に入れてから、裸体を浴室に滑り込ませた。
 体を綺麗に洗ってから湯船に浸かる。
 ぶくぶくぶく……――。
 上体を沈め、口までお湯につけて空気を吐き出す。
 これをやるとなんとなく落ち着くからだ。
 ここが大浴場なら泳いでいたかもしれない。
 デカイ図体で子供っぽいと笑われようが、泳げるなら何でもいい。
(冬になったら温泉だな。李煌さんと行けたらいいけど……。来年は受験だし、今年しかチャンスないよな)
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