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16歳
閑話29 お部屋訪問
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「綿毛ちゃん。ちょっと」
『んー? なに?』
部屋でダラダラしていた綿毛ちゃんを小声で呼び寄せる。自室には現在、俺と犬猫。それにジャンがいる。エリスちゃんに飛びつかれて、遊び相手をしてあげているジャンはこちらを見ていない。
「ティアンの部屋に行くぞ」
『なんでぇ?』
首を傾げる毛玉を急かして廊下に出る。「ちょっと散歩してくる」と言えば、ジャンはついてこない。俺がひとりで散歩という名の暇つぶしをしている間、ジャンは部屋の掃除やエリスちゃんのお世話をしている。
現在ティアンは騎士棟にいる。定期的に訓練に参加しているのだ。体を動かさないと落ち着かないと言っていた。だんだんティアンがブルース兄様みたいな脳筋になっていく気がする。
「ティアンがいない隙に部屋を見る」
『怒られるよ?』
「バレなきゃ大丈夫」
『バレるよ?』
ネガティブ毛玉を従えて、ティアンの部屋の前に立つ。ティアンはケチなので、俺を部屋に入れてくれない。アロンは入れてくれるのに。これはよほど室内にまずい物を隠しているに違いない。今日こそその正体を暴いてやると意気込む俺に、綿毛ちゃんが『がんばれぇ』と雑な声援を送ってくる。
「よし! 行くぞ、綿毛ちゃん!」
意を決してノブを握る。そうしてドアを開け放とうとしたのだが、開かない。鍵がかかっている。
しばらくドアノブをガチャガチャしてみるが、やっぱり開かない。なんで。
「あいつ鍵かけてる。なんで?」
『貴重品を盗まれないように?』
「俺の部屋にも貴重品あるけど鍵はかけてない」
『坊ちゃんの部屋にそんな物あった?』
「あるもん! どんぐりとか」
『……どんぐりって貴重品なのぉ?』
違うと思うとへらへら笑う毛玉を無視して、悔しさにドアノブを強く握る。どうやら徹底的に部屋を守っているらしい。一体中になにがあるっていうんだよ。
モヤモヤしながら諦めきれずに奮闘していれば、「あ!」という咎めるような鋭い声が飛んできた。ビクッと肩を揺らして、慌ててドアノブから手を離す。しかし遅かったらしく、眉を吊り上げたティアンが大股で寄ってきた。
「なにしてるんですか! 僕の部屋には入らないでくださいって言いましたよね!?」
「入ってないもん」
「入ろうとしていましたよね?」
「してないもん」
「ルイス様?」
ガッチリと肩を掴まれて、首をすくめる。
毛玉が『オレは止めたよ? でも坊ちゃんはやめなかった』と裏切り発言をしている。
「ごめんね」
ティアンの目が怖いので、素早く謝っておく。ため息吐いたティアンは「僕の部屋なんて特に面白くもなんともないですよ」と困ったように言い聞かせてくる。面白いかどうかは俺が決める。だからとりあえず見せてみろと言ってみるが、ティアンはダメの一点張りである。
あっさり作戦が失敗した俺は、綿毛ちゃんと共にとぼとぼ自室に戻ることになった。
※※※
その日の夜中。
ぱちっと目を開けた俺は、隣ですやすや寝ていた綿毛ちゃんを叩き起こす。
「寝るな! なに寝てんだ!」
『いや、今寝る時間だから。普通に寝てるよ』
むにゃむにゃ言う綿毛ちゃんは、大きく欠伸をする。まだ眠そうな毛玉をベッドから引っ張り出して、床に落としておく。
『やめてぇ』
「よし! 行くぞ」
『……どこにぃ?』
面倒くさそうな目をする毛玉を急かして、寝室を出る。向かうはティアンの部屋である。
「夜中に行けば寝ぼけて部屋に入れてくれるかもしれない」
『……ふーん?』
短い足でついてくる綿毛ちゃんは、『ティアンさん可哀想』と意味不明なことを言う。
そうしてたどり着いたティアンの部屋。
力を込めてノックすれば、少し間を置いて中からバタバタと音が聞こえてきた。
小さくドアが開いて、怪訝な顔のティアンが出てくる。俺の姿を確認するなり、ティアンが「ちょっと!」と声を荒げた。
「なんですか!? 何かあったんですか!?」
「なにもないけど?」
「は?」
なにその剣幕。
きょろきょろ周囲を見渡すティアンは、なにもないと知って肩の力を抜いた。どうやら俺の身に何かあったのかと心配になったらしい。変な時間に押しかけてきたからな。なんか悪いことした。
しかしティアンの落ち着きがない今がチャンス。
しれっと室内にお邪魔しようとしたのだが、それを察したティアンがまたもや立ち塞がってきた。
「なにもないならお部屋に戻ってください。今何時だと思っているんですか」
『オレも眠い』
廊下に力なく横たわる綿毛ちゃんは『もう戻ろう。眠いよぉ』とうるさい。
さっと廊下に出てきてドアを閉めてしまうティアンもひどい。そんなに部屋を見られたくないのか?
寝巻き姿のティアンは、こっそり欠伸をしてから俺の背中を押してくる。
「ケチ。なんで部屋見せてくれないの?」
「夜中に人の部屋に入ったら絶対にダメですよ」
俺の質問に答えてくれないティアンは「もうこんなことやったらダメですよ」と淡々と注意してくる。
「ケチ。アロンなら入れてくれるもん!」
「あのクズを基準にされても困るんですけど」
苛立ったように吐き捨てるティアンは、アロンのことが嫌いなんだと思う。アロンがクズという意見には同意である。
「はやく寝ましょうね。おやすみなさい」
俺を寝室まで送り届けて、律儀に布団をかけてくるティアンは素早く踵を返す。その背中を見送って、横に寝転んでいた綿毛ちゃんを抱きしめる。
『やめて、苦しい』
「ティアンめ! 次は負けないもんね!」
『え? まだ諦めてないの?』
こうなったら意地でもティアンの部屋に侵入してやる。こっそり決意を固めて、俺は布団を頭まで被った。
『んー? なに?』
部屋でダラダラしていた綿毛ちゃんを小声で呼び寄せる。自室には現在、俺と犬猫。それにジャンがいる。エリスちゃんに飛びつかれて、遊び相手をしてあげているジャンはこちらを見ていない。
「ティアンの部屋に行くぞ」
『なんでぇ?』
首を傾げる毛玉を急かして廊下に出る。「ちょっと散歩してくる」と言えば、ジャンはついてこない。俺がひとりで散歩という名の暇つぶしをしている間、ジャンは部屋の掃除やエリスちゃんのお世話をしている。
現在ティアンは騎士棟にいる。定期的に訓練に参加しているのだ。体を動かさないと落ち着かないと言っていた。だんだんティアンがブルース兄様みたいな脳筋になっていく気がする。
「ティアンがいない隙に部屋を見る」
『怒られるよ?』
「バレなきゃ大丈夫」
『バレるよ?』
ネガティブ毛玉を従えて、ティアンの部屋の前に立つ。ティアンはケチなので、俺を部屋に入れてくれない。アロンは入れてくれるのに。これはよほど室内にまずい物を隠しているに違いない。今日こそその正体を暴いてやると意気込む俺に、綿毛ちゃんが『がんばれぇ』と雑な声援を送ってくる。
「よし! 行くぞ、綿毛ちゃん!」
意を決してノブを握る。そうしてドアを開け放とうとしたのだが、開かない。鍵がかかっている。
しばらくドアノブをガチャガチャしてみるが、やっぱり開かない。なんで。
「あいつ鍵かけてる。なんで?」
『貴重品を盗まれないように?』
「俺の部屋にも貴重品あるけど鍵はかけてない」
『坊ちゃんの部屋にそんな物あった?』
「あるもん! どんぐりとか」
『……どんぐりって貴重品なのぉ?』
違うと思うとへらへら笑う毛玉を無視して、悔しさにドアノブを強く握る。どうやら徹底的に部屋を守っているらしい。一体中になにがあるっていうんだよ。
モヤモヤしながら諦めきれずに奮闘していれば、「あ!」という咎めるような鋭い声が飛んできた。ビクッと肩を揺らして、慌ててドアノブから手を離す。しかし遅かったらしく、眉を吊り上げたティアンが大股で寄ってきた。
「なにしてるんですか! 僕の部屋には入らないでくださいって言いましたよね!?」
「入ってないもん」
「入ろうとしていましたよね?」
「してないもん」
「ルイス様?」
ガッチリと肩を掴まれて、首をすくめる。
毛玉が『オレは止めたよ? でも坊ちゃんはやめなかった』と裏切り発言をしている。
「ごめんね」
ティアンの目が怖いので、素早く謝っておく。ため息吐いたティアンは「僕の部屋なんて特に面白くもなんともないですよ」と困ったように言い聞かせてくる。面白いかどうかは俺が決める。だからとりあえず見せてみろと言ってみるが、ティアンはダメの一点張りである。
あっさり作戦が失敗した俺は、綿毛ちゃんと共にとぼとぼ自室に戻ることになった。
※※※
その日の夜中。
ぱちっと目を開けた俺は、隣ですやすや寝ていた綿毛ちゃんを叩き起こす。
「寝るな! なに寝てんだ!」
『いや、今寝る時間だから。普通に寝てるよ』
むにゃむにゃ言う綿毛ちゃんは、大きく欠伸をする。まだ眠そうな毛玉をベッドから引っ張り出して、床に落としておく。
『やめてぇ』
「よし! 行くぞ」
『……どこにぃ?』
面倒くさそうな目をする毛玉を急かして、寝室を出る。向かうはティアンの部屋である。
「夜中に行けば寝ぼけて部屋に入れてくれるかもしれない」
『……ふーん?』
短い足でついてくる綿毛ちゃんは、『ティアンさん可哀想』と意味不明なことを言う。
そうしてたどり着いたティアンの部屋。
力を込めてノックすれば、少し間を置いて中からバタバタと音が聞こえてきた。
小さくドアが開いて、怪訝な顔のティアンが出てくる。俺の姿を確認するなり、ティアンが「ちょっと!」と声を荒げた。
「なんですか!? 何かあったんですか!?」
「なにもないけど?」
「は?」
なにその剣幕。
きょろきょろ周囲を見渡すティアンは、なにもないと知って肩の力を抜いた。どうやら俺の身に何かあったのかと心配になったらしい。変な時間に押しかけてきたからな。なんか悪いことした。
しかしティアンの落ち着きがない今がチャンス。
しれっと室内にお邪魔しようとしたのだが、それを察したティアンがまたもや立ち塞がってきた。
「なにもないならお部屋に戻ってください。今何時だと思っているんですか」
『オレも眠い』
廊下に力なく横たわる綿毛ちゃんは『もう戻ろう。眠いよぉ』とうるさい。
さっと廊下に出てきてドアを閉めてしまうティアンもひどい。そんなに部屋を見られたくないのか?
寝巻き姿のティアンは、こっそり欠伸をしてから俺の背中を押してくる。
「ケチ。なんで部屋見せてくれないの?」
「夜中に人の部屋に入ったら絶対にダメですよ」
俺の質問に答えてくれないティアンは「もうこんなことやったらダメですよ」と淡々と注意してくる。
「ケチ。アロンなら入れてくれるもん!」
「あのクズを基準にされても困るんですけど」
苛立ったように吐き捨てるティアンは、アロンのことが嫌いなんだと思う。アロンがクズという意見には同意である。
「はやく寝ましょうね。おやすみなさい」
俺を寝室まで送り届けて、律儀に布団をかけてくるティアンは素早く踵を返す。その背中を見送って、横に寝転んでいた綿毛ちゃんを抱きしめる。
『やめて、苦しい』
「ティアンめ! 次は負けないもんね!」
『え? まだ諦めてないの?』
こうなったら意地でもティアンの部屋に侵入してやる。こっそり決意を固めて、俺は布団を頭まで被った。
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