嫌われ令息に成り代わった俺、なぜか過保護に愛でられています

岩永みやび

文字の大きさ
569 / 930
16歳

601 嫌なんですけど

しおりを挟む
 アロンがいなくなったのはお母様のせいじゃないよと誤解をといて、部屋に戻る。準備をジャンに任せっきりにしてしまっている。そろそろ俺も手伝わないと。ジャンだって自分の荷物を準備しないといけないんだし。

 バタバタ部屋に駆け込めば、ちょうど部屋から出てこようとしたティアンとぶつかりそうになって「うわ!」と足を止める。驚いたティアンが、咄嗟に俺の肩を掴んで衝突を阻止してくれた。

「……すみません」
「う、うん。こっちこそ。ありがとう」
「……」
「……」

 なんか気まずい沈黙が流れて、それから逃げるように部屋に入る。なぜかティアンも一緒についてくる。今まさに部屋を出ようとしていたのに。

「どこか行くんじゃないの?」

 不思議に思って訊けば、ティアンが「いえ」と苦笑した。

「ルイス様を探しに行こうとしていたので」
「あ、ごめん。兄様に会ってたの」

 突然部屋を出て行って戻らない俺を心配してくれていたらしい。申し訳ないと頬をかく俺に、ティアンが「いえ、お気になさらず」と優しく微笑んでくれる。

「ティアンはもう準備終わった?」
「えぇ、たいして荷物はないので」
「そっか」

 一応伯爵家にお泊まりする予定になっている。勝手にそんな予定を立てて伯爵に怒られないか心配だが、アリアが大丈夫と言い張るので彼女を信じておくことにする。アロンに逃げられてもまずいので、アポなしで飛び込むのだ。

 アロンとの一件は、ティアンにはまだ教えていない。でもなんとなく彼は察していそうな気がする。アロンが姿を消して以降、ティアンはずっと俺に何か言いたそうな目を向けているのだ。でも俺のほうがそれを見て見ぬふりしている状態。だってなんか気まずいのだ。どう説明していいのかわからないのだ。

 しかし兄様たちに教えてしまった以上、ティアンの耳にもすぐに入ることだ。その前に俺の口から説明したほうがいい気もする。俺がティアンの立場だったら、なにも説明がないと気になって仕方ないと思うから。

「あのさ、ティアン」
「なんですか?」

 ジャンの荷造りをぼけっと眺めて、次にティアンへと視線を移した。椅子に座って足元に寄ってきた綿毛ちゃんを少し撫でておく。呑気に寝そべる綿毛ちゃんは、俺とティアンを交互に眺めて黙っている。

「あの、アロンのことなんだけど」
「はい。迎えに行くんですよね」
「うん。それで、なんでアロンがいなくなったのかって話だけどさ」

 一旦言葉を切って、ティアンの顔を確認する。どこか困ったような顔で俺の言葉を待つティアンは、おそらく次に続く言葉を知っている。

「俺がアロンを振ったんだ」

 沈黙がおりた。背後で荷造りを進めていたジャンもぴたりと手を止めているらしい。

 やがてティアンが「そうですか」と静かに頷いた。しかしそれ以上の言及をしないティアンは、「明日の出発は何時ですか?」と露骨に話題を逸らしにきた。

 別に語りたいわけではないけど、こうもあっさり流されるとちょっと拍子抜けだ。もっと色々訊かれると思っていたのに。ホッとしたような残念なような。なんか複雑な気分。

「時間はわかんないけど。あ、でもラッセルも一緒に行くってよ」
「え、なんで」

 本気で驚いたような顔するティアンは、「嫌なんですけど!」と声を大きくする。嫌なの? なんで?

 突然拒否されたラッセルが可哀想。しかしなぜかこれに綿毛ちゃんがのってきた。

『オレも嫌でーす。ラッセルさん苦手ぇ』
「なんで!?」

 ラッセルは忖度お兄さんだけどいい人だ。オーガス兄様の友達をやってあげるくらいにはいい人。だが綿毛ちゃんは彼と色々揉めたことがある。人間姿の綿毛ちゃんをうっかりラッセルに目撃されたのが原因だ。

 だから綿毛ちゃんがラッセルに苦手意識を持つのはわかるけど、ティアンはなんでなの。

「ラッセルってティアンの師匠なんでしょ?」
「違います。学園で少し教わった程度です」

 多方面にいい顔をする忖度お兄さんは、王立騎士団の仕事のほかに様々な雑用を請け負っている。その関係で、ティアンが通っていた学園で剣術の指導も引き受けていたらしい。だからてっきり仲良しだと思っていたのだが、ティアンの反応を見る限りそうでもないのかもしれない。

「でももう決まったし。オーガス兄様もそっちのほうが安心だってさ」
「オーガス様がそうおっしゃるなら」

 渋々といった様子で頷くティアン。一方の綿毛ちゃんは『オレは行くのやめようかなぁ』とぐちぐち言っている。綿毛ちゃんは俺の暇潰し相手だから行かないとダメ。バッグに詰めて持っていくもんね。

 我儘毛玉を持ち上げて、ジャンが荷物を詰めているバッグに横から押し込んでおく。『やめてぇ、ジャンさん助けて』と情けない声を出す毛玉に、ジャンが困った顔をする。

「邪魔したらダメですよ」

 大股で寄ってきたティアンが綿毛ちゃんを持って行ってしまう。

『ティアンさん、ありがとう』

 へらへらお礼を言う綿毛ちゃんは『坊ちゃんは相変わらずなにするかわかんないね』と俺の悪口を言った。生意気毛玉め。
しおりを挟む
感想 724

あなたにおすすめの小説

竜帝陛下の愛が重すぎて身代わりの落ちこぼれ薬師は今日も腰が砕けそうです 〜呪いを解いたら一生離さないと宣言されました〜

レイ
BL
「死ぬ覚悟はできています。でも、その前に……お口、あーんしてください」 魔力を持たない「無能」として実家で虐げられていた薬師のエリアン。 彼に下されたのは、触れるものすべてを焼き尽くす「死の竜帝」ヴァレリウスへの、身代わりの婚姻だった。

冤罪で堕とされた最強騎士、狂信的な男たちに包囲される

マンスーン
BL
​王国最強の聖騎士団長から一転、冤罪で生存率0%の懲罰部隊へと叩き落とされたレオン。 泥にまみれてもなお気高く、圧倒的な強さを振るう彼に、狂った執着を抱く男たちが集結する。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。初夜で抱かれたら身代わりがばれてしまいます💦

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
逃げた弟の身代わりとなり、 隣国の国王である溺愛アルファに嫁いだオメガ。 しかし実は、我儘で結婚から逃げ出した双子の弟の身代わりなのです… オメガだからと王宮で冷遇されていたので、身代わり結婚にも拒否権が なかたのでした。 本当の花嫁じゃない。 だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだん王様に惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

美形×平凡の子供の話

めちゅう
BL
 美形公爵アーノルドとその妻で平凡顔のエーリンの間に生まれた双子はエリック、エラと名付けられた。エリックはアーノルドに似た美形、エラはエーリンに似た平凡顔。平凡なエラに幸せはあるのか? ────────────────── お読みくださりありがとうございます。 お楽しみいただけましたら幸いです。 お話を追加いたしました。

将軍の宝玉

なか
BL
国内外に怖れられる将軍が、いよいよ結婚するらしい。 強面の不器用将軍と箱入り息子の結婚生活のはじまり。 一部修正再アップになります

勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました

鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」 そう言ったのは、王太子アレス。 そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。 外交も財政も軍備も―― すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。 けれど功績はすべて王太子のもの。 感謝も敬意も、ただの一度もない。 そして迎えた舞踏会の夜。 「便利だったが、飾りには向かん」 公開婚約破棄。 それならば、とレイナは微笑む。 「では業務も終了でよろしいですね?」 王太子が望んだ通り、 彼女は“確認”をやめた。 保証を外し、責任を返し、 そして最後に―― 「ご確認を」と差し出した書類に、 彼は何も読まずに署名した。 国は契約で成り立っている。 確認しない者に、王の資格はない。 働きたくない公爵令嬢と、 責任を理解しなかった王太子。 静かな契約ざまぁ劇、開幕。 ---

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。