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16歳
601 嫌なんですけど
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アロンがいなくなったのはお母様のせいじゃないよと誤解をといて、部屋に戻る。準備をジャンに任せっきりにしてしまっている。そろそろ俺も手伝わないと。ジャンだって自分の荷物を準備しないといけないんだし。
バタバタ部屋に駆け込めば、ちょうど部屋から出てこようとしたティアンとぶつかりそうになって「うわ!」と足を止める。驚いたティアンが、咄嗟に俺の肩を掴んで衝突を阻止してくれた。
「……すみません」
「う、うん。こっちこそ。ありがとう」
「……」
「……」
なんか気まずい沈黙が流れて、それから逃げるように部屋に入る。なぜかティアンも一緒についてくる。今まさに部屋を出ようとしていたのに。
「どこか行くんじゃないの?」
不思議に思って訊けば、ティアンが「いえ」と苦笑した。
「ルイス様を探しに行こうとしていたので」
「あ、ごめん。兄様に会ってたの」
突然部屋を出て行って戻らない俺を心配してくれていたらしい。申し訳ないと頬をかく俺に、ティアンが「いえ、お気になさらず」と優しく微笑んでくれる。
「ティアンはもう準備終わった?」
「えぇ、たいして荷物はないので」
「そっか」
一応伯爵家にお泊まりする予定になっている。勝手にそんな予定を立てて伯爵に怒られないか心配だが、アリアが大丈夫と言い張るので彼女を信じておくことにする。アロンに逃げられてもまずいので、アポなしで飛び込むのだ。
アロンとの一件は、ティアンにはまだ教えていない。でもなんとなく彼は察していそうな気がする。アロンが姿を消して以降、ティアンはずっと俺に何か言いたそうな目を向けているのだ。でも俺のほうがそれを見て見ぬふりしている状態。だってなんか気まずいのだ。どう説明していいのかわからないのだ。
しかし兄様たちに教えてしまった以上、ティアンの耳にもすぐに入ることだ。その前に俺の口から説明したほうがいい気もする。俺がティアンの立場だったら、なにも説明がないと気になって仕方ないと思うから。
「あのさ、ティアン」
「なんですか?」
ジャンの荷造りをぼけっと眺めて、次にティアンへと視線を移した。椅子に座って足元に寄ってきた綿毛ちゃんを少し撫でておく。呑気に寝そべる綿毛ちゃんは、俺とティアンを交互に眺めて黙っている。
「あの、アロンのことなんだけど」
「はい。迎えに行くんですよね」
「うん。それで、なんでアロンがいなくなったのかって話だけどさ」
一旦言葉を切って、ティアンの顔を確認する。どこか困ったような顔で俺の言葉を待つティアンは、おそらく次に続く言葉を知っている。
「俺がアロンを振ったんだ」
沈黙がおりた。背後で荷造りを進めていたジャンもぴたりと手を止めているらしい。
やがてティアンが「そうですか」と静かに頷いた。しかしそれ以上の言及をしないティアンは、「明日の出発は何時ですか?」と露骨に話題を逸らしにきた。
別に語りたいわけではないけど、こうもあっさり流されるとちょっと拍子抜けだ。もっと色々訊かれると思っていたのに。ホッとしたような残念なような。なんか複雑な気分。
「時間はわかんないけど。あ、でもラッセルも一緒に行くってよ」
「え、なんで」
本気で驚いたような顔するティアンは、「嫌なんですけど!」と声を大きくする。嫌なの? なんで?
突然拒否されたラッセルが可哀想。しかしなぜかこれに綿毛ちゃんがのってきた。
『オレも嫌でーす。ラッセルさん苦手ぇ』
「なんで!?」
ラッセルは忖度お兄さんだけどいい人だ。オーガス兄様の友達をやってあげるくらいにはいい人。だが綿毛ちゃんは彼と色々揉めたことがある。人間姿の綿毛ちゃんをうっかりラッセルに目撃されたのが原因だ。
だから綿毛ちゃんがラッセルに苦手意識を持つのはわかるけど、ティアンはなんでなの。
「ラッセルってティアンの師匠なんでしょ?」
「違います。学園で少し教わった程度です」
多方面にいい顔をする忖度お兄さんは、王立騎士団の仕事のほかに様々な雑用を請け負っている。その関係で、ティアンが通っていた学園で剣術の指導も引き受けていたらしい。だからてっきり仲良しだと思っていたのだが、ティアンの反応を見る限りそうでもないのかもしれない。
「でももう決まったし。オーガス兄様もそっちのほうが安心だってさ」
「オーガス様がそうおっしゃるなら」
渋々といった様子で頷くティアン。一方の綿毛ちゃんは『オレは行くのやめようかなぁ』とぐちぐち言っている。綿毛ちゃんは俺の暇潰し相手だから行かないとダメ。バッグに詰めて持っていくもんね。
我儘毛玉を持ち上げて、ジャンが荷物を詰めているバッグに横から押し込んでおく。『やめてぇ、ジャンさん助けて』と情けない声を出す毛玉に、ジャンが困った顔をする。
「邪魔したらダメですよ」
大股で寄ってきたティアンが綿毛ちゃんを持って行ってしまう。
『ティアンさん、ありがとう』
へらへらお礼を言う綿毛ちゃんは『坊ちゃんは相変わらずなにするかわかんないね』と俺の悪口を言った。生意気毛玉め。
バタバタ部屋に駆け込めば、ちょうど部屋から出てこようとしたティアンとぶつかりそうになって「うわ!」と足を止める。驚いたティアンが、咄嗟に俺の肩を掴んで衝突を阻止してくれた。
「……すみません」
「う、うん。こっちこそ。ありがとう」
「……」
「……」
なんか気まずい沈黙が流れて、それから逃げるように部屋に入る。なぜかティアンも一緒についてくる。今まさに部屋を出ようとしていたのに。
「どこか行くんじゃないの?」
不思議に思って訊けば、ティアンが「いえ」と苦笑した。
「ルイス様を探しに行こうとしていたので」
「あ、ごめん。兄様に会ってたの」
突然部屋を出て行って戻らない俺を心配してくれていたらしい。申し訳ないと頬をかく俺に、ティアンが「いえ、お気になさらず」と優しく微笑んでくれる。
「ティアンはもう準備終わった?」
「えぇ、たいして荷物はないので」
「そっか」
一応伯爵家にお泊まりする予定になっている。勝手にそんな予定を立てて伯爵に怒られないか心配だが、アリアが大丈夫と言い張るので彼女を信じておくことにする。アロンに逃げられてもまずいので、アポなしで飛び込むのだ。
アロンとの一件は、ティアンにはまだ教えていない。でもなんとなく彼は察していそうな気がする。アロンが姿を消して以降、ティアンはずっと俺に何か言いたそうな目を向けているのだ。でも俺のほうがそれを見て見ぬふりしている状態。だってなんか気まずいのだ。どう説明していいのかわからないのだ。
しかし兄様たちに教えてしまった以上、ティアンの耳にもすぐに入ることだ。その前に俺の口から説明したほうがいい気もする。俺がティアンの立場だったら、なにも説明がないと気になって仕方ないと思うから。
「あのさ、ティアン」
「なんですか?」
ジャンの荷造りをぼけっと眺めて、次にティアンへと視線を移した。椅子に座って足元に寄ってきた綿毛ちゃんを少し撫でておく。呑気に寝そべる綿毛ちゃんは、俺とティアンを交互に眺めて黙っている。
「あの、アロンのことなんだけど」
「はい。迎えに行くんですよね」
「うん。それで、なんでアロンがいなくなったのかって話だけどさ」
一旦言葉を切って、ティアンの顔を確認する。どこか困ったような顔で俺の言葉を待つティアンは、おそらく次に続く言葉を知っている。
「俺がアロンを振ったんだ」
沈黙がおりた。背後で荷造りを進めていたジャンもぴたりと手を止めているらしい。
やがてティアンが「そうですか」と静かに頷いた。しかしそれ以上の言及をしないティアンは、「明日の出発は何時ですか?」と露骨に話題を逸らしにきた。
別に語りたいわけではないけど、こうもあっさり流されるとちょっと拍子抜けだ。もっと色々訊かれると思っていたのに。ホッとしたような残念なような。なんか複雑な気分。
「時間はわかんないけど。あ、でもラッセルも一緒に行くってよ」
「え、なんで」
本気で驚いたような顔するティアンは、「嫌なんですけど!」と声を大きくする。嫌なの? なんで?
突然拒否されたラッセルが可哀想。しかしなぜかこれに綿毛ちゃんがのってきた。
『オレも嫌でーす。ラッセルさん苦手ぇ』
「なんで!?」
ラッセルは忖度お兄さんだけどいい人だ。オーガス兄様の友達をやってあげるくらいにはいい人。だが綿毛ちゃんは彼と色々揉めたことがある。人間姿の綿毛ちゃんをうっかりラッセルに目撃されたのが原因だ。
だから綿毛ちゃんがラッセルに苦手意識を持つのはわかるけど、ティアンはなんでなの。
「ラッセルってティアンの師匠なんでしょ?」
「違います。学園で少し教わった程度です」
多方面にいい顔をする忖度お兄さんは、王立騎士団の仕事のほかに様々な雑用を請け負っている。その関係で、ティアンが通っていた学園で剣術の指導も引き受けていたらしい。だからてっきり仲良しだと思っていたのだが、ティアンの反応を見る限りそうでもないのかもしれない。
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「オーガス様がそうおっしゃるなら」
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我儘毛玉を持ち上げて、ジャンが荷物を詰めているバッグに横から押し込んでおく。『やめてぇ、ジャンさん助けて』と情けない声を出す毛玉に、ジャンが困った顔をする。
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