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16歳
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やっぱりこのまま曖昧にしておくのはよくないと思う。
毛玉をむぎゅっと潰して考え込む。『やめてぇ』とうるさい毛玉をとりあえず椅子に置いてジャンを振り返った。
「ティアンは?」
「荷物を片付けると言っていましたよ」
「じゃあ自分の部屋にいるのか」
しばらく別邸に泊まっていたティアンである。数日ぶりにヴィアン家に戻ってきたので色々やることがあるのだろう。
猫のエリスちゃんは窓辺でのんびりお昼寝している。もうすぐ夕食の時間である。
「……どんぐり食べる?」
『食べないって』
我儘な綿毛ちゃんを見下ろして、どんぐりをテーブルの上に置いておく。あとでどこかに片付けよう。
そわそわと室内を歩き回る俺のことをジャンが気にしている。窺うような視線を察知して、おとなしく椅子に座っておくことにする。
「ねぇ、綿毛ちゃん」
『なに?』
「お風呂に入れてあげようか?」
『あ、遠慮しまーす。お構いなく』
ふるふると首を左右に振る綿毛ちゃんは呑気に欠伸をする。棚からタオルを取り出して、綿毛ちゃんに被せた。
『あ、やめてください。ジャンさん助けてぇ』
「うるさいぞ!」
『ひどい』
泣き真似する綿毛ちゃんをタオルで包んで持ち上げる。そのまま風呂場に連れて行こうとするのだが、地味に抵抗される。そのうちジャンまで寄ってきて「私がやりますから」と言い出す始末だ。なんでだ。俺が綿毛ちゃんをお風呂に入れるのがそんなにダメなのか?
「仕方ない。噴水で洗おう」
『もっとダメだよ』
我儘毛玉はついに俺の腕から脱出すると部屋の隅に逃げた。
「綿毛ちゃん。部屋の隅に丸まってると埃にそっくりだよ」
『ひどい悪口』
くるりと毛玉に背を向けて、窓辺の猫を撫でる。
無愛想な綿毛ちゃんより猫の方が断然可愛い。
「ねこ。かわいい。綿毛ちゃんよりかわいいぞ」
『ひどい』
「かわいいからおやつあげる」
『ずるい!』
隅にいた綿毛ちゃんが早足に寄ってきた。おやつという単語にピクッと反応したエリスちゃんが勢いよく鳴き始める。おやつの催促をされている。もう夕食前だけど、ちょっとならいいや。困った顔をするジャンがなにも言わないので、素早く猫のおやつを用意する。
『オレの分はどうなるんですかぁ』
「どんぐり食べていいよ」
『食べません』
ふんふん怒る綿毛ちゃんを無視してエリスちゃんにおやつをあげる。ちょうどその時、タイミング悪く部屋に戻ってきたティアンが「こら!」と大声出した。
「もうご飯の時間ですよ!」
「ちょっとだけ」
「ダメです」
さっと俺の手から猫のおやつを取り上げるティアンに、エリスちゃんが激怒している。珍しく威嚇するエリスちゃんはかわいい。
「いけ! エリスちゃん!」
頑張れと応援すればティアンが眉を吊り上げる。綿毛ちゃんはエリスちゃんの迫力にビビッて逃げていく。相変わらず弱い犬だ。
エリスちゃんの威嚇をものともしないティアンは「ダメなものはダメです」と突っぱねる。
「仕方ない。エリスちゃん、おやつは諦めろ」
というかちょっと食べただろ。
もう終わりと言うが、強気な猫はなぜか綿毛ちゃんにアタックしに行く。弱気な綿毛ちゃんが情けなく悲鳴をあげている。
再び暇になった俺は、なんとなくティアンを見遣る。視線に気がついたティアンが「なんですか?」と不思議そうな顔をするが、「なんでもない」と顔を逸らしておく。
いや、なんでもなくはない。
すぐに思い直して、ティアンを手招きする。不思議そうな顔するティアンを連れて、隣の寝室に入る。一瞬だけ躊躇するように足を止めたティアンを急かして部屋に入れた。すかさず追いかけてこようとする毛玉のことは「あっちいけ!」と追い払っておいた。『ひどい』と抗議するような声が聞こえたけど無視しておく。
バタンとドアを閉めてティアンとふたりきりになる。
「なんですか?」
怪訝な顔をするティアンに、俯いて「うーん」と足元を見つめる。ふたりになったはいいけど、話の切り出し方がわからない。
でもティアンは黙って待ってくれているので言わなければならない。
「あのさ、この間のパーティーでアロンのお父さんに会ったでしょ?」
「あぁ、はい」
それだけで言いたいことを察したらしい。
「気にしなくていいですよ」
「でもブランシェが」
「そっちも気にしなくていいです。ルイス様が気にかけるような相手じゃないので」
そんな言い方。
ちょっぴり唇を尖らせれば、ティアンが「でも」と困ったように肩をすくめた。
「そう言っても気にしてしまうのがルイス様ですもんね」
「……うん」
なんだかティアンが俺のことを理解してくれているのが嬉しい。にこっと笑えば、ティアンが「それで?」と俺から視線を外した。
「どうするんですか」
窓の外を眺めながらの問いかけに、目を瞬く。俺から逃げるような仕草だ。ティアンの顔が見えなくて隣に並ぼうとするが、なぜかそうするとティアンも動いてしまう。
「なんで逃げるの?」
「逃げてませんよ。それよりどうするんですか」
明らかに逃げているのに。
ティアンの顔を見るのは諦めて、立ち止まった。
「うん、その。アロンと話してみる」
「そう、ですか」
ちらっと俺に顔を向けたティアンは、よくわかんないけどちょっと悲しいような困ったような微妙な表情を浮かべていた。
毛玉をむぎゅっと潰して考え込む。『やめてぇ』とうるさい毛玉をとりあえず椅子に置いてジャンを振り返った。
「ティアンは?」
「荷物を片付けると言っていましたよ」
「じゃあ自分の部屋にいるのか」
しばらく別邸に泊まっていたティアンである。数日ぶりにヴィアン家に戻ってきたので色々やることがあるのだろう。
猫のエリスちゃんは窓辺でのんびりお昼寝している。もうすぐ夕食の時間である。
「……どんぐり食べる?」
『食べないって』
我儘な綿毛ちゃんを見下ろして、どんぐりをテーブルの上に置いておく。あとでどこかに片付けよう。
そわそわと室内を歩き回る俺のことをジャンが気にしている。窺うような視線を察知して、おとなしく椅子に座っておくことにする。
「ねぇ、綿毛ちゃん」
『なに?』
「お風呂に入れてあげようか?」
『あ、遠慮しまーす。お構いなく』
ふるふると首を左右に振る綿毛ちゃんは呑気に欠伸をする。棚からタオルを取り出して、綿毛ちゃんに被せた。
『あ、やめてください。ジャンさん助けてぇ』
「うるさいぞ!」
『ひどい』
泣き真似する綿毛ちゃんをタオルで包んで持ち上げる。そのまま風呂場に連れて行こうとするのだが、地味に抵抗される。そのうちジャンまで寄ってきて「私がやりますから」と言い出す始末だ。なんでだ。俺が綿毛ちゃんをお風呂に入れるのがそんなにダメなのか?
「仕方ない。噴水で洗おう」
『もっとダメだよ』
我儘毛玉はついに俺の腕から脱出すると部屋の隅に逃げた。
「綿毛ちゃん。部屋の隅に丸まってると埃にそっくりだよ」
『ひどい悪口』
くるりと毛玉に背を向けて、窓辺の猫を撫でる。
無愛想な綿毛ちゃんより猫の方が断然可愛い。
「ねこ。かわいい。綿毛ちゃんよりかわいいぞ」
『ひどい』
「かわいいからおやつあげる」
『ずるい!』
隅にいた綿毛ちゃんが早足に寄ってきた。おやつという単語にピクッと反応したエリスちゃんが勢いよく鳴き始める。おやつの催促をされている。もう夕食前だけど、ちょっとならいいや。困った顔をするジャンがなにも言わないので、素早く猫のおやつを用意する。
『オレの分はどうなるんですかぁ』
「どんぐり食べていいよ」
『食べません』
ふんふん怒る綿毛ちゃんを無視してエリスちゃんにおやつをあげる。ちょうどその時、タイミング悪く部屋に戻ってきたティアンが「こら!」と大声出した。
「もうご飯の時間ですよ!」
「ちょっとだけ」
「ダメです」
さっと俺の手から猫のおやつを取り上げるティアンに、エリスちゃんが激怒している。珍しく威嚇するエリスちゃんはかわいい。
「いけ! エリスちゃん!」
頑張れと応援すればティアンが眉を吊り上げる。綿毛ちゃんはエリスちゃんの迫力にビビッて逃げていく。相変わらず弱い犬だ。
エリスちゃんの威嚇をものともしないティアンは「ダメなものはダメです」と突っぱねる。
「仕方ない。エリスちゃん、おやつは諦めろ」
というかちょっと食べただろ。
もう終わりと言うが、強気な猫はなぜか綿毛ちゃんにアタックしに行く。弱気な綿毛ちゃんが情けなく悲鳴をあげている。
再び暇になった俺は、なんとなくティアンを見遣る。視線に気がついたティアンが「なんですか?」と不思議そうな顔をするが、「なんでもない」と顔を逸らしておく。
いや、なんでもなくはない。
すぐに思い直して、ティアンを手招きする。不思議そうな顔するティアンを連れて、隣の寝室に入る。一瞬だけ躊躇するように足を止めたティアンを急かして部屋に入れた。すかさず追いかけてこようとする毛玉のことは「あっちいけ!」と追い払っておいた。『ひどい』と抗議するような声が聞こえたけど無視しておく。
バタンとドアを閉めてティアンとふたりきりになる。
「なんですか?」
怪訝な顔をするティアンに、俯いて「うーん」と足元を見つめる。ふたりになったはいいけど、話の切り出し方がわからない。
でもティアンは黙って待ってくれているので言わなければならない。
「あのさ、この間のパーティーでアロンのお父さんに会ったでしょ?」
「あぁ、はい」
それだけで言いたいことを察したらしい。
「気にしなくていいですよ」
「でもブランシェが」
「そっちも気にしなくていいです。ルイス様が気にかけるような相手じゃないので」
そんな言い方。
ちょっぴり唇を尖らせれば、ティアンが「でも」と困ったように肩をすくめた。
「そう言っても気にしてしまうのがルイス様ですもんね」
「……うん」
なんだかティアンが俺のことを理解してくれているのが嬉しい。にこっと笑えば、ティアンが「それで?」と俺から視線を外した。
「どうするんですか」
窓の外を眺めながらの問いかけに、目を瞬く。俺から逃げるような仕草だ。ティアンの顔が見えなくて隣に並ぼうとするが、なぜかそうするとティアンも動いてしまう。
「なんで逃げるの?」
「逃げてませんよ。それよりどうするんですか」
明らかに逃げているのに。
ティアンの顔を見るのは諦めて、立ち止まった。
「うん、その。アロンと話してみる」
「そう、ですか」
ちらっと俺に顔を向けたティアンは、よくわかんないけどちょっと悲しいような困ったような微妙な表情を浮かべていた。
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