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16歳
590 これだから
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「ルイス。今のうちにティアンの部屋を探すぞ」
「だから怒られるってば」
ティアンたちがハドリーに気を取られているこの隙を逃さないユリスは、意気揚々と屋敷の探検を始める。バレたらティアンに怒られるぞ。だがティアンのことをなめているユリスにそう言っても止まらない。
放っておくとすべての部屋に突撃しかねないので、仕方なく俺と綿毛ちゃんもあとを追う。困った顔をしたジャンもついてくる。
「ティアンの部屋はどこだ」
なぜかジャンに問いかけるユリスは心なしかうきうきしている。質問されたジャンが「えっと」と困惑した様子で辺りを見渡していた。ジャンだってここに来るのは初めてである。彼に聞いてもわかんないだろ。ここは奥の手を使うしかない。
「よし! 綿毛ちゃん行け!」
『え? なに?』
「匂いでティアンの部屋を探すんだ!」
綿毛ちゃんは犬だからね。ビシッと指差す俺に、しかし綿毛ちゃんはへにゃっと情けない顔をした。
『だから犬じゃないから無理だってぇ』
「我儘言うな!」
『なんでこれが我儘にカウントされるんだろうか』
遠い目をする綿毛ちゃんは役に立たない。
けれどもそんな時、廊下をひとりの使用人らしき女性が通りかかった。五十代くらいだろうか。ピシッと背筋を伸ばして俺たちの姿を確認するなり小さく頭を下げた。
「おい。ティアンの部屋はどこだ」
チャンスとばかりに詰め寄るユリスに、使用人さんが「坊っちゃまのお部屋ですか?」と首を傾げた。その言葉に、ユリスと顔を見合わせる。
「坊っちゃま」
思わず繰り返せば、女性が「あっ」と口元を覆った。すぐに誤魔化すような微笑みを浮かべて「ティアン様の自室ですね」と言い直す。けれども俺とユリスはバッチリ聞いてしまった。
「そうだ。坊っちゃまの部屋に案内しろ」
嬉々として坊っちゃまと繰り返すユリスは絶対に面白がっている。俺も一緒。綿毛ちゃんもニマニマしている。
しまった! という顔をする使用人さんは、愛想笑いでユリスの「坊っちゃま」連呼を流している。部屋には案内してくれるようで「こちらです」と先を行く使用人さんに、ユリスが「おたくの坊っちゃまが庭で暴れていたぞ」とここぞとばかりに揶揄っている。
なんで使用人がいるのにティアン自ら俺たちの世話を焼いているのか不思議だったのだが。おそらくこれが理由だろう。先を行く彼女の焦った様子からも、ティアンが絶対に俺たちの前で坊っちゃま呼びするなと言いつけていたことが容易に想像できてしまう。
「こちらです。何もありませんが」
案内された部屋は、彼女のいう通り何もなかった。一応ベッドや机といった最低限の家具は備え付けられているが、極端にものが少ない。まるでホテルの一室のように生活感がない。
「なにもないね」
「随分と使用していませんから」
「なるほど」
ティアンがここを使っていたのは、それこそ小さい時。俺と遊ぶためにヴィアン家の屋敷に通っていたあの時期だろう。その後は学園の寮に入っていたし、卒業してからもヴィアン家に住み込んでいるので、この別邸はもう何年も使っていないらしい。
それでこんなに生活感がないのか。
明らかにがっかりするユリスは興味をなくしたように窓の外を眺めている。
「ちょっと期待はずれ」
ね? とジャンを振り返れば、隠しもしない苦笑が返ってきた。
綿毛ちゃんを追いかけまわして遊ぶ俺。入り口付近で佇む使用人さんが小首を傾げて眺めている。
そんな中、なんだか荒々しい足音が聞こえてきた。全力で走ってくるような感じである。目を瞬いていれば、「なにしてるんですか!」という大声。
ビクッと肩を揺らす俺。
やってきたのはティアンである。
「僕の部屋はダメって言ったじゃないですか」
「ユリスがどうしてもって言うから」
すかさず責任を押しつけるが、窓の外を眺めていたユリスが「僕はそんなこと言ってない」と大嘘ついた。この野郎。
俺はダメって言ったよと主張するが、ティアンはいまいち信じてくれない。すごく疑いの目を向けられている。
「でもなにもないよ」
ティアンが必死にダメと言うから、何か怪しいものでもあるのかと疑っていたのに。一体どうして頑なに拒否するのか。俺の疑問に、ティアンはグッと息を詰まらせる。
「そ、その。なんか自分の部屋にルイス様がいるのがちょっと、えっと」
「うん?」
珍しく口ごもるティアンは「とにかくダメなものはダメなんです!」と押し切ろうとしてくる。なんだか照れたように顔が赤い。ほんとどうした。
困惑する俺に、ティアンが寄ってくる。
「ほら、戻りましょう」
「う、うん」
他人を部屋に入れたくない主義の人?
あり得るかもしれない。なんかごめんねと謝れば、ティアンが「謝るようなことでは」と顔を背けてしまう。そんなちょっぴり照れ臭いような空気をぶち壊したのはユリスであった。
「それで。例の情報屋はどうなったんだ、坊っちゃま」
「……は?」
ピシリと固まったティアンは、目を見開いてユリスを凝視している。腕を組んで偉そうに壁にもたれるユリスは器用に片眉を持ち上げる。
「どうした、坊っちゃま。なにを固まっている」
「っ!」
色々察したらしいティアンが、使用人さんを勢いよく振り返る。あらぬ方向へと視線を逸らす彼女にティアンが「ちょっと!」と悲鳴をあげた。
「それは言わないでって!」
「申し訳ありません。不意打ちでしたのでうっかり」
開き直る使用人さんはあまり申し訳ないとは思っていないらしい。
「どうした、坊っちゃま」
ここぞとばかりに坊っちゃまと繰り返すユリスに、ジャンがオロオロしている。
「これだから連れてくるの嫌だったんですよ!」
盛大に頭を抱えるティアンは間違いなく絶望していた。どんまい。
「だから怒られるってば」
ティアンたちがハドリーに気を取られているこの隙を逃さないユリスは、意気揚々と屋敷の探検を始める。バレたらティアンに怒られるぞ。だがティアンのことをなめているユリスにそう言っても止まらない。
放っておくとすべての部屋に突撃しかねないので、仕方なく俺と綿毛ちゃんもあとを追う。困った顔をしたジャンもついてくる。
「ティアンの部屋はどこだ」
なぜかジャンに問いかけるユリスは心なしかうきうきしている。質問されたジャンが「えっと」と困惑した様子で辺りを見渡していた。ジャンだってここに来るのは初めてである。彼に聞いてもわかんないだろ。ここは奥の手を使うしかない。
「よし! 綿毛ちゃん行け!」
『え? なに?』
「匂いでティアンの部屋を探すんだ!」
綿毛ちゃんは犬だからね。ビシッと指差す俺に、しかし綿毛ちゃんはへにゃっと情けない顔をした。
『だから犬じゃないから無理だってぇ』
「我儘言うな!」
『なんでこれが我儘にカウントされるんだろうか』
遠い目をする綿毛ちゃんは役に立たない。
けれどもそんな時、廊下をひとりの使用人らしき女性が通りかかった。五十代くらいだろうか。ピシッと背筋を伸ばして俺たちの姿を確認するなり小さく頭を下げた。
「おい。ティアンの部屋はどこだ」
チャンスとばかりに詰め寄るユリスに、使用人さんが「坊っちゃまのお部屋ですか?」と首を傾げた。その言葉に、ユリスと顔を見合わせる。
「坊っちゃま」
思わず繰り返せば、女性が「あっ」と口元を覆った。すぐに誤魔化すような微笑みを浮かべて「ティアン様の自室ですね」と言い直す。けれども俺とユリスはバッチリ聞いてしまった。
「そうだ。坊っちゃまの部屋に案内しろ」
嬉々として坊っちゃまと繰り返すユリスは絶対に面白がっている。俺も一緒。綿毛ちゃんもニマニマしている。
しまった! という顔をする使用人さんは、愛想笑いでユリスの「坊っちゃま」連呼を流している。部屋には案内してくれるようで「こちらです」と先を行く使用人さんに、ユリスが「おたくの坊っちゃまが庭で暴れていたぞ」とここぞとばかりに揶揄っている。
なんで使用人がいるのにティアン自ら俺たちの世話を焼いているのか不思議だったのだが。おそらくこれが理由だろう。先を行く彼女の焦った様子からも、ティアンが絶対に俺たちの前で坊っちゃま呼びするなと言いつけていたことが容易に想像できてしまう。
「こちらです。何もありませんが」
案内された部屋は、彼女のいう通り何もなかった。一応ベッドや机といった最低限の家具は備え付けられているが、極端にものが少ない。まるでホテルの一室のように生活感がない。
「なにもないね」
「随分と使用していませんから」
「なるほど」
ティアンがここを使っていたのは、それこそ小さい時。俺と遊ぶためにヴィアン家の屋敷に通っていたあの時期だろう。その後は学園の寮に入っていたし、卒業してからもヴィアン家に住み込んでいるので、この別邸はもう何年も使っていないらしい。
それでこんなに生活感がないのか。
明らかにがっかりするユリスは興味をなくしたように窓の外を眺めている。
「ちょっと期待はずれ」
ね? とジャンを振り返れば、隠しもしない苦笑が返ってきた。
綿毛ちゃんを追いかけまわして遊ぶ俺。入り口付近で佇む使用人さんが小首を傾げて眺めている。
そんな中、なんだか荒々しい足音が聞こえてきた。全力で走ってくるような感じである。目を瞬いていれば、「なにしてるんですか!」という大声。
ビクッと肩を揺らす俺。
やってきたのはティアンである。
「僕の部屋はダメって言ったじゃないですか」
「ユリスがどうしてもって言うから」
すかさず責任を押しつけるが、窓の外を眺めていたユリスが「僕はそんなこと言ってない」と大嘘ついた。この野郎。
俺はダメって言ったよと主張するが、ティアンはいまいち信じてくれない。すごく疑いの目を向けられている。
「でもなにもないよ」
ティアンが必死にダメと言うから、何か怪しいものでもあるのかと疑っていたのに。一体どうして頑なに拒否するのか。俺の疑問に、ティアンはグッと息を詰まらせる。
「そ、その。なんか自分の部屋にルイス様がいるのがちょっと、えっと」
「うん?」
珍しく口ごもるティアンは「とにかくダメなものはダメなんです!」と押し切ろうとしてくる。なんだか照れたように顔が赤い。ほんとどうした。
困惑する俺に、ティアンが寄ってくる。
「ほら、戻りましょう」
「う、うん」
他人を部屋に入れたくない主義の人?
あり得るかもしれない。なんかごめんねと謝れば、ティアンが「謝るようなことでは」と顔を背けてしまう。そんなちょっぴり照れ臭いような空気をぶち壊したのはユリスであった。
「それで。例の情報屋はどうなったんだ、坊っちゃま」
「……は?」
ピシリと固まったティアンは、目を見開いてユリスを凝視している。腕を組んで偉そうに壁にもたれるユリスは器用に片眉を持ち上げる。
「どうした、坊っちゃま。なにを固まっている」
「っ!」
色々察したらしいティアンが、使用人さんを勢いよく振り返る。あらぬ方向へと視線を逸らす彼女にティアンが「ちょっと!」と悲鳴をあげた。
「それは言わないでって!」
「申し訳ありません。不意打ちでしたのでうっかり」
開き直る使用人さんはあまり申し訳ないとは思っていないらしい。
「どうした、坊っちゃま」
ここぞとばかりに坊っちゃまと繰り返すユリスに、ジャンがオロオロしている。
「これだから連れてくるの嫌だったんですよ!」
盛大に頭を抱えるティアンは間違いなく絶望していた。どんまい。
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