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16歳
567 すごく忙しい
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「部屋に戻れよ」
不機嫌顔するブルース兄様は、アリアのことを追い出して有耶無耶にしようとしている。
けれどもムスッと腕を組んだアリアは出ていく気配がない。
「で? 女に興味がないって噂は本当ですか?」
「だから! なんだその妙な噂は」
「オーガス様が酔ってあちこちで言いふらしてますよ」
「兄上……!」
絶望顔で頭を抱えるブルース兄様にちょっぴり同情する。
オーガス兄様は、よく意味不明なことをする。
偉そうに仁王立ちするアリアは「それで? ブルース様は男装してる私が一番好きなんですよね?」と執拗に確認している。やめてやれよ。
「もう放っておいてくれ」
投げやりな返事をするブルース兄様の背中に、綿毛ちゃんの前足を押し当てておく。
「ブルース兄様。犬の肉球触れて嬉しいだろう」
『嬉しいの?』
首を傾げる綿毛ちゃんを無視して、ブルース兄様がアリアを部屋から追い出そうと奮闘している。
「仕方がないですね。ブルース様がそこまで言うなら、私も男装姿でいてあげますよ」
「誰も頼んでない」
「またまたぁ。照れなくてもいいのに」
ニヤッと笑顔でブルース兄様を揶揄うアリアは性格が悪い。流石アロンの妹だ。
どうやらアリアは、本気で落ち込んでいたわけではないらしい。ブルース兄様を困らせたくて、悲しいアピールしていただけのようだ。
そんなアリアは、ブルース兄様の新たなネタを握ってにこにこしている。楽しそうだな。
なんとかアリアを追い払った兄様は「どういうことだ」と俺を睨み付けてくる。
「さっきまでは本当に可愛いワンピース着てたんだよ。ね、綿毛ちゃん」
『うん。おしゃれしてたよ』
俺と毛玉の主張を信じてくれたらしいブルース兄様は、「なんだよ、あいつは」とうんざりした顔で座り込んでしまう。
「元気出して。肉球触っていいから」
『特別だよ』
へらへら笑う綿毛ちゃんが前足を差し出している。けれどもそれを無視したブルース兄様は苛々している様子であった。
「兄上はなにがしたいんだ。なんで妙な噂を流すんだ」
「オーガス兄様ね。多分なにも考えてないと思うよ」
うちの長男は気弱でちょっぴり馬鹿なことをする。ラッセルの忖度にもまったく気が付かないし、キャンベルの物言いたげな視線にも気が付かない。
「オーガス兄様にダメだよって注意しといてあげる」
任せてと胸を叩けば、兄様が半眼になってしまう。長男を敬うのが好きだから直接文句は言いたくないのだ。でも俺経由で文句を言うのもちょっとどうだろうか、という顔だ。
「大丈夫。ブルース兄様の名前は出さないから」
俺は気遣いのできる弟なので。
※※※
「ねー、ユリス。面白いことあったよ」
ブルース兄様と別れた俺は、まっすぐユリスの部屋に向かった。タイラーが「片付け終わったんですか?」と眉を寄せたけど、それは俺じゃなくてティアンとジャンに聞いてほしい。片付けは全部ふたりに任せているので。
「ブルース兄様はね、女の子に興味ないんだって。アリアの男装が一番好きって言ってた」
「そうなのか」
勢いよく立ち上がったユリスは「よくやった」と褒めてくる。えっへんと胸を張れば、綿毛ちゃんが『坊ちゃん。また適当なこと言って』と余計なことを口走る。
「静かにして!」
『ブルースくんが可哀想』
毛玉を追い払って、ユリスを振り返る。オーガス兄様のとこ行くけど一緒に来る? とお誘いすれば「行くに決まっている」という前向きな返答があった。
「タイラーは来なくていいよ」
「また変なことやるつもりですね」
オーガス様に迷惑かけたらダメですよ、と注意してくるタイラーに片手をあげて応じておいた。
「オーガス兄様ぁ! 大変だよ」
「え」
再び二階に上がってオーガス兄様の部屋に突撃する。今日の俺は忙しい。兄様たちの部屋を行ったり来たりだ。綿毛ちゃんも『忙しい忙しい』と言いながら後ろをついてくる。
「ブルース兄様が怒ってたよ!」
「え! なんで!?」
勢いよく駆け寄ってくるオーガス兄様に、ユリスが満足そうに笑っている。
「オーガス兄様が変な噂流してるから」
「変な噂?」
心当たりがないと首を捻るオーガス兄様に、例の噂について教えてあげる。ふむふむ聞いていたオーガス兄様は、やがて顔色を悪くした。
「……僕、そんなこと言ってた?」
「酔って言いふらしてるってアリアが言ってた」
「ひぇ」
ブルースに怒られると絶望する長男は情けない。ペシペシ叩いて励ませば、ユリスも真似してオーガス兄様の頭を叩き始める。でもなんか違う。ユリスのは励ましというより本気で叩きにいっている。すぐにユリスの腕を掴んで止めれば、彼は不満そうな顔をした。
「ブルース兄様に謝ったほうがいいよ」
アドバイスすれば、オーガス兄様が「うん」と弱々しく項垂れた。
「謝る時は教えろ。僕も一緒に行くから」
「じゃあ俺も一緒に行く」
ユリスに便乗すれば、オーガス兄様が「見せものじゃないんだよ」と苦い声を発した。
不機嫌顔するブルース兄様は、アリアのことを追い出して有耶無耶にしようとしている。
けれどもムスッと腕を組んだアリアは出ていく気配がない。
「で? 女に興味がないって噂は本当ですか?」
「だから! なんだその妙な噂は」
「オーガス様が酔ってあちこちで言いふらしてますよ」
「兄上……!」
絶望顔で頭を抱えるブルース兄様にちょっぴり同情する。
オーガス兄様は、よく意味不明なことをする。
偉そうに仁王立ちするアリアは「それで? ブルース様は男装してる私が一番好きなんですよね?」と執拗に確認している。やめてやれよ。
「もう放っておいてくれ」
投げやりな返事をするブルース兄様の背中に、綿毛ちゃんの前足を押し当てておく。
「ブルース兄様。犬の肉球触れて嬉しいだろう」
『嬉しいの?』
首を傾げる綿毛ちゃんを無視して、ブルース兄様がアリアを部屋から追い出そうと奮闘している。
「仕方がないですね。ブルース様がそこまで言うなら、私も男装姿でいてあげますよ」
「誰も頼んでない」
「またまたぁ。照れなくてもいいのに」
ニヤッと笑顔でブルース兄様を揶揄うアリアは性格が悪い。流石アロンの妹だ。
どうやらアリアは、本気で落ち込んでいたわけではないらしい。ブルース兄様を困らせたくて、悲しいアピールしていただけのようだ。
そんなアリアは、ブルース兄様の新たなネタを握ってにこにこしている。楽しそうだな。
なんとかアリアを追い払った兄様は「どういうことだ」と俺を睨み付けてくる。
「さっきまでは本当に可愛いワンピース着てたんだよ。ね、綿毛ちゃん」
『うん。おしゃれしてたよ』
俺と毛玉の主張を信じてくれたらしいブルース兄様は、「なんだよ、あいつは」とうんざりした顔で座り込んでしまう。
「元気出して。肉球触っていいから」
『特別だよ』
へらへら笑う綿毛ちゃんが前足を差し出している。けれどもそれを無視したブルース兄様は苛々している様子であった。
「兄上はなにがしたいんだ。なんで妙な噂を流すんだ」
「オーガス兄様ね。多分なにも考えてないと思うよ」
うちの長男は気弱でちょっぴり馬鹿なことをする。ラッセルの忖度にもまったく気が付かないし、キャンベルの物言いたげな視線にも気が付かない。
「オーガス兄様にダメだよって注意しといてあげる」
任せてと胸を叩けば、兄様が半眼になってしまう。長男を敬うのが好きだから直接文句は言いたくないのだ。でも俺経由で文句を言うのもちょっとどうだろうか、という顔だ。
「大丈夫。ブルース兄様の名前は出さないから」
俺は気遣いのできる弟なので。
※※※
「ねー、ユリス。面白いことあったよ」
ブルース兄様と別れた俺は、まっすぐユリスの部屋に向かった。タイラーが「片付け終わったんですか?」と眉を寄せたけど、それは俺じゃなくてティアンとジャンに聞いてほしい。片付けは全部ふたりに任せているので。
「ブルース兄様はね、女の子に興味ないんだって。アリアの男装が一番好きって言ってた」
「そうなのか」
勢いよく立ち上がったユリスは「よくやった」と褒めてくる。えっへんと胸を張れば、綿毛ちゃんが『坊ちゃん。また適当なこと言って』と余計なことを口走る。
「静かにして!」
『ブルースくんが可哀想』
毛玉を追い払って、ユリスを振り返る。オーガス兄様のとこ行くけど一緒に来る? とお誘いすれば「行くに決まっている」という前向きな返答があった。
「タイラーは来なくていいよ」
「また変なことやるつもりですね」
オーガス様に迷惑かけたらダメですよ、と注意してくるタイラーに片手をあげて応じておいた。
「オーガス兄様ぁ! 大変だよ」
「え」
再び二階に上がってオーガス兄様の部屋に突撃する。今日の俺は忙しい。兄様たちの部屋を行ったり来たりだ。綿毛ちゃんも『忙しい忙しい』と言いながら後ろをついてくる。
「ブルース兄様が怒ってたよ!」
「え! なんで!?」
勢いよく駆け寄ってくるオーガス兄様に、ユリスが満足そうに笑っている。
「オーガス兄様が変な噂流してるから」
「変な噂?」
心当たりがないと首を捻るオーガス兄様に、例の噂について教えてあげる。ふむふむ聞いていたオーガス兄様は、やがて顔色を悪くした。
「……僕、そんなこと言ってた?」
「酔って言いふらしてるってアリアが言ってた」
「ひぇ」
ブルースに怒られると絶望する長男は情けない。ペシペシ叩いて励ませば、ユリスも真似してオーガス兄様の頭を叩き始める。でもなんか違う。ユリスのは励ましというより本気で叩きにいっている。すぐにユリスの腕を掴んで止めれば、彼は不満そうな顔をした。
「ブルース兄様に謝ったほうがいいよ」
アドバイスすれば、オーガス兄様が「うん」と弱々しく項垂れた。
「謝る時は教えろ。僕も一緒に行くから」
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