冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

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16歳

閑話24 誕生日

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「あ。そういえば、今日はロニーの誕生日らしいですよ」
「え!」

 ケイシーに綿毛ちゃんを見せに行った帰り。
 今まで興味なさそうにぼんやりしていたニックが、思い出したと言わんばかりに声を上げた。

 その内容に、俺は抱っこしていた綿毛ちゃんを勢いよく手放してニックに詰め寄る。『オレの扱いが雑』と、着地した綿毛ちゃんはオーガス兄様に『そう思わない?』と同意を求めている。

「それ本当!?」

 はいと頷くニックは、「本人がそう言ってましたけど」と付け足した。

 なんてこった。これは大変だ。
 お祝いしないと。

「綿毛ちゃん! ロニーのお祝いするぞ!」
『いぇい! お祝いお祝い!』

 忙しく駆けまわる毛玉を引き連れて、オーガス兄様の部屋を後にする。「それ本当なの?」と、なぜかニックに疑いの目を向けていたオーガス兄様は、「あんまり変なことしたらダメだよ?」と俺に声をかけてきた。変なことってなに。お誕生日のお祝いするだけだもん。

『お祝いってなにするのぉ?』

 早足に追いかけてくる綿毛ちゃんを見下ろして、「うーん」と考える。

「プレゼントを用意する」

 やっぱり誕生日といえばプレゼントだ。
 ロニーの好きなものってなんだろう。ロニーはよく俺に美味しい物を買ってきてくれる。

「でも厨房のお菓子あげるのはちょっと違うよな」
『あれ別に坊ちゃんのものじゃないもんね』

 どうしよう。むむっと悩んでいると、綿毛ちゃんが『自分がもらって嬉しいものあげたらいいよ』と、それっぽいアドバイスをしてくる。

「俺がもらって嬉しいもの」

 足を止めて、じっと綿毛ちゃんを見下ろせば、毛玉が『え。もしかしてオレ?』と前向きな発言をした。そんなわけないだろ。

 ポジティブ毛玉と共に、屋敷内を歩いてまわる。でもロニーが喜ぶプレゼントがわからない。ロニーは優しいから、きっと俺が何をあげても喜んでくれると思う。そうであるからこそ、ちゃんとロニーが喜んでくれそうな物をあげたい。

「何してるんですか。ルイス様」

 ひたすら彷徨っていれば、ちょうど外から戻ってきたらしいティアンと鉢合わせた。騎士棟での訓練に参加していたのだ。

「あのね。今日はロニーの誕生日なんだって」
「そうなんですか?」

 知りませんでした、と緩く首を傾げるティアンは「それで?」と冷たい反応をする。

「副団長が誕生日だからなんですか」
「お祝いするの!」
『おいわーい! わーい』

 バタバタうるさい綿毛ちゃんと俺を見比べて、ティアンが「はぁ?」と怪訝な顔をする。

「そんなの祝う必要ないですよ」
「なんてこと言うんだ!」

 ロニーに謝れ! と指を突きつければ、「だってルイス様。僕の誕生日祝ってくれないじゃないですか」と文句を言われてしまった。

 そんなこと言われても。
 俺はまめな性格ではないので。みんなの誕生日とか覚えていない。今日はたまたまロニーの誕生日だと耳にしたからお祝いしようと思い至っただけだ。

「じゃあティアンも誕生日の時は教えてよ。そしたらお祝いするから」
「誕生日くらい覚えてくださいよ」
「無理。他に覚えることいっぱいあるから」
『オレも今日誕生日でーす!』

 突然アピールしてくる毛玉に「嘘を吐くな!」と注意しておく。この毛玉は、しれっと嘘をつく。

「ロニーの好きな物ってなに?」

 ティアンに尋ねてみるが、「え」と目を見開いたきり黙ってしまう。知らないのか?

「まぁいいや。なんか探そう」

 だが、いいものが見つからない。
 そもそも俺がすぐに用意できるものなんて限られている。

 頭を悩ませる俺に、ティアンが「なんでもいいんじゃないですか」と投げやりな言葉を投げてくる。

 なんでもってなんだよ。

「もういいや。花でも持っていこう」
『急に雑だねぇ』

 急いで庭に出て、花壇を物色する。
 よくブルース兄様がここから花を持っていく。兄様は脳筋なのに、家族の中で一番花壇を見ていると思う。花瓶に活けたりしている。

「これにする。綿毛ちゃんにそっくり」
「どこら辺がそっくりなんですか」

 横から覗き込んできたティアンがそんな疑問を呈してくるけど無視しておく。

 白い小さな花をひとつ摘んで「行くぞ!」とティアンを振り返った。

『お花、ひとつでいいの?』
「……」
『無視しないでぇ?』

 うるさい毛玉も伴って、騎士棟に向かった。
 ロニーは、騎士棟内にある副団長室にいた。

「ロニー!」
「ルイス様」

 ノックしてから飛び込めば、にこやかに出迎えてくれるロニー。相変わらず素敵な長髪である。にこにこする俺に、ロニーは「どうかしましたか?」と優しく問いかけてきた。

「ロニー! 誕生日おめでとう!」
『おめでとー』

 勢いよくお祝いすれば、ロニーが一瞬「え」と目を見開いた。その不自然な反応に「ん?」と首を傾げる。

 けれどもすぐに「ありがとうございます」と微笑むロニーに、先程摘んだばかりの花を差し出した。

「あげる。本当はもっといいものあげたかったけど。なにがいいのかわかんなくて」

 ごめんね、と早口に言い訳して花を押し付けた。
 そっと受け取ってくれたロニーは「私に? いいんですか?」と照れたように笑う。

『オレが選びましたぁ!』
「嘘吐くな!」

 すかさず割り込んでくる嘘吐き毛玉を追い払って、ロニーの腕を掴む。ティアンが「なにしてるんですか」と手を伸ばしてくる。

「ありがとうございます。大事にしますね」
「うん!」

 優しいロニーは、ティアンをそっと制してから「ところで」と困ったように小首を傾げる。

「今日が私の誕生日だって、誰に聞いたんですか?」
「ニック」

 あぁ、と納得したように頷くロニーは、「あの人、いつも人の話をあまり聞いていませんからね」と意味深なセリフと共に苦笑した。

 え、もしかして今日は誕生日じゃないの?

 おそるおそる確認すれば、ロニーが「えぇ、実は」と困ったように眉尻を下げる。

 ニックめ! なんだあいつ! 適当言いやがって!

「ニックのこと許せない」

 半眼になる俺に、綿毛ちゃんが『あーあ』と目に見えてがっかりする。ティアンも「なんであの人の言葉を信用したんですか?」と呆れている。

「でもニックが」

 もごもご口ごもる。この件については、嘘ついたニックが全面的に悪いもん。

「ロニー。ごめんね」

 しゅんと肩を落とす俺に、ロニーは「気にしないでください」と優しい言葉をかけてくれる。

「今日は私の兄の誕生日なんですよって話をしたんです。でもずっと上の空で団長を見ていましたから」

 ニックめ。ロニーと会話する時までセドリックを気にしているのか。あいつはもうダメだ。

 ちらっとロニーの手にある花を見る。その視線に気がついたロニーが「ルイス様」と花を少し掲げた。

「なんでもない日にもらえるプレゼントほど、嬉しいものはないですね」
「ロニー!」

 嬉しくなってロニーに抱きつく。しかし、「あ、ちょっと」と焦ったようなティアンによってすぐさま引き剥がされてしまった。なにをするんだ。

『オレもプレゼントほしい』

 ぼそっと呟く綿毛ちゃんを「今度ね」と宥めて、ロニーと一緒に花瓶を用意しに向かった。
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