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16歳
553 ややこしい
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みんなの視線に居た堪れなくなったのか。人間姿の綿毛ちゃんが「今のは違うよ? みんな聞かなかったことにしよう?」と意味不明な提案をしてくる。
そんなこと言われても。バッチリ聞こえてしまった。
マーティーを見てみろ。俺の背中に隠れて、綿毛ちゃんをじっと窺っている。まるで不審者でも見るような目つきだ。
この異様な空気に、オーガス兄様が目を覚ました。ハッと顔を上げる兄様は、きょろきょろしてから「え? なに」と怯えたような表情をみせる。
「オーガス兄様。ティアンとガブリエルが運んでくれたんだよ。ちゃんとお礼言わないとダメだよ」
「え。そうなの?」
ごめんね、ありがとうと頭を掻く兄様に、ガブリエルが恐縮している。一方のティアンは「運ぶの大変でした」と素直な感想を述べる。
「ご、ごめん」
情けなく俯くオーガス兄様は、「えっと。それで?」と再び綿毛ちゃんへと視線を投げた。この不可解な状況に対する説明がほしいのだろう。それは俺も同意見。
急いで綿毛ちゃんに駆け寄って、その腕を掴む。
人間姿の綿毛ちゃんは珍しい。面倒だと言ってなかなか見せてくれないのだ。
「髪の毛結んで!」
「坊ちゃん。他に言うことないの?」
半眼になる綿毛ちゃんは、けれども素早く髪を結ぶ。俺好みの長髪。ニヤッと笑っていれば、ラッセルが物言いたげな顔をしていることに気がついた。
「なに? てかラッセルはここでなにしてるの?」
「私は酔い潰れたブルース様をここまでお連れしただけで」
ブルース兄様も酔い潰れたのかよ。なにこの酒癖悪い兄たち。ユリスが知ったら「僕も見たかった」と悔しがるに違いない。
「ブルース兄様。みっともないからやめなよ」
「……」
ソファーで横になるブルース兄様は、両手で顔を覆って無言を貫いている。無視すんな。
ひとり離れたところに立っていたニックが、そろそろとオーガス兄様の側に移動している。ラッセルから逃げるような動きである。
「……じゃあ、オレたちはこれで」
沈黙する空気を破った綿毛ちゃんは、俺の肩に手を置くと「お部屋に戻ろう」とささやいてくる。
ド変態宣言について、これ以上触れてほしくない様子である。気にはなるけど、綿毛ちゃんは俺のペットなので。俺が守ってあげないと。
わかったと頷く俺であったが、邪魔が入った。
険しい表情のラッセルが、「ユリス様」と固い声を投げてくる。
「俺、ルイスだけど」
「申し訳ありません!」
天を仰ぐラッセルは、なんで毎度俺のことをユリスと呼ぶのだろうか。このやりとり今朝もやったよな?
ラッセルは、顔だけ見ればイケメンなのに。言動がちょっとおかしい。今だって大袈裟に両膝を突いて絶望している。そのわかりやすい絶望アピールに、オーガス兄様がちょっと引いている。親友なんだろ。引いてやるなよ。
「ルイス様」
「なに?」
ゆっくり立ち上がったラッセルは、服装を整えてから俺に困った目を向けてくる。
「その者とは、どういったご関係で?」
綿毛ちゃんのこと?
首を捻る俺に、綿毛ちゃんが「坊ちゃん。いいよ、はやく行こう」と慌てて声をかけてくる。
「どうって。俺のペット」
「坊ちゃん!!」
綿毛ちゃんの悲痛な声に、マーティーがビビっている。でもガブリエルの前では格好つけたいという妙な習性を持っているマーティーは、取り繕うように表情を引き締めている。
だって綿毛ちゃんは俺が庭で捕まえたお喋り犬だもん。
なんだか状況を把握したらしいオーガス兄様が「あ、いや。それは違うよ。えっと」と半端に口を挟んで、諦めたように口を閉じている。
さっと室内を見渡したラッセルは、綿毛ちゃんを睨みつける。なんで綿毛ちゃんを目の敵にするんだろうか。単なる毛玉なのに。ちょっとうるさいくらいで害はない。
そんな中、今まで寝たふりを貫いていたブルース兄様が起き上がった。ソファーに座り直して、額を押さえるブルース兄様は、疲れた顔をしていた。
「ラッセル」
「はい。ブルース様」
「こいつのことは気にするな。おまえが首を突っ込む話ではない」
突っぱねるような物言いに、ラッセルはちらっとオーガス兄様を確認している。さっと顔を背けるオーガス兄様は情けない。ニックもオーガス兄様の背後で黙り込んでいる。
いそいそと俺に寄ってきたティアンは、「この場はブルース様に任せましょう」と耳打ちしてきた。俺は黙っておけと言いたいらしい。
こくんと頷いて、マーティーと手を繋いでやる。「なんだ。どういうつもりだ」と困惑しつつも、手を振りほどかないマーティーは、やっぱりこの状況にビビっていたらしい。お子様だな。
ふっと笑えば、マーティーが「馬鹿にするんじゃない!」と怒ってしまった。けれどもガブリエルの事を思い出したのだろう。ハッとした様子で再び黙り込んだ。そのガブリエルは、ひとり壁際で控えている。
「確かに私が首を突っ込むことではありませんが」
一旦は引き下がる姿勢を見せるラッセルであるが、オーガス兄様を気にしてグッと拳を握った。ラッセルは、オーガス兄様の親友なので。オーガス兄様のために粘ることにしたのだろう。なにを粘っているのかは不明だけど。
「世間的にもあまりよろしくないかと」
なにが?
真剣な面持ちで進言するラッセルに、ブルース兄様が「あ、なんだこのややこしい状況」と小声で呻いている。
だが、ラッセルを説得するのは面倒だと思ったのだろう。鋭い視線でラッセルを睨むブルース兄様は、力任せにラッセルを追い出そうとしている。
「余計なお世話だ」
「ブルース様はご存知なのですか?」
挑発的な問いに、ブルース兄様がすんと真顔になる。どう答えようか迷っている顔である。
「ブルース兄様、がんばれぇ!」
とりあえず兄様を応援しておく。
「おまえ、他人事みたいな顔しやがって……!」
「? 俺なんかした?」
きょとんと目を瞬けば、兄様たちがため息を吐き出した。
そんなこと言われても。バッチリ聞こえてしまった。
マーティーを見てみろ。俺の背中に隠れて、綿毛ちゃんをじっと窺っている。まるで不審者でも見るような目つきだ。
この異様な空気に、オーガス兄様が目を覚ました。ハッと顔を上げる兄様は、きょろきょろしてから「え? なに」と怯えたような表情をみせる。
「オーガス兄様。ティアンとガブリエルが運んでくれたんだよ。ちゃんとお礼言わないとダメだよ」
「え。そうなの?」
ごめんね、ありがとうと頭を掻く兄様に、ガブリエルが恐縮している。一方のティアンは「運ぶの大変でした」と素直な感想を述べる。
「ご、ごめん」
情けなく俯くオーガス兄様は、「えっと。それで?」と再び綿毛ちゃんへと視線を投げた。この不可解な状況に対する説明がほしいのだろう。それは俺も同意見。
急いで綿毛ちゃんに駆け寄って、その腕を掴む。
人間姿の綿毛ちゃんは珍しい。面倒だと言ってなかなか見せてくれないのだ。
「髪の毛結んで!」
「坊ちゃん。他に言うことないの?」
半眼になる綿毛ちゃんは、けれども素早く髪を結ぶ。俺好みの長髪。ニヤッと笑っていれば、ラッセルが物言いたげな顔をしていることに気がついた。
「なに? てかラッセルはここでなにしてるの?」
「私は酔い潰れたブルース様をここまでお連れしただけで」
ブルース兄様も酔い潰れたのかよ。なにこの酒癖悪い兄たち。ユリスが知ったら「僕も見たかった」と悔しがるに違いない。
「ブルース兄様。みっともないからやめなよ」
「……」
ソファーで横になるブルース兄様は、両手で顔を覆って無言を貫いている。無視すんな。
ひとり離れたところに立っていたニックが、そろそろとオーガス兄様の側に移動している。ラッセルから逃げるような動きである。
「……じゃあ、オレたちはこれで」
沈黙する空気を破った綿毛ちゃんは、俺の肩に手を置くと「お部屋に戻ろう」とささやいてくる。
ド変態宣言について、これ以上触れてほしくない様子である。気にはなるけど、綿毛ちゃんは俺のペットなので。俺が守ってあげないと。
わかったと頷く俺であったが、邪魔が入った。
険しい表情のラッセルが、「ユリス様」と固い声を投げてくる。
「俺、ルイスだけど」
「申し訳ありません!」
天を仰ぐラッセルは、なんで毎度俺のことをユリスと呼ぶのだろうか。このやりとり今朝もやったよな?
ラッセルは、顔だけ見ればイケメンなのに。言動がちょっとおかしい。今だって大袈裟に両膝を突いて絶望している。そのわかりやすい絶望アピールに、オーガス兄様がちょっと引いている。親友なんだろ。引いてやるなよ。
「ルイス様」
「なに?」
ゆっくり立ち上がったラッセルは、服装を整えてから俺に困った目を向けてくる。
「その者とは、どういったご関係で?」
綿毛ちゃんのこと?
首を捻る俺に、綿毛ちゃんが「坊ちゃん。いいよ、はやく行こう」と慌てて声をかけてくる。
「どうって。俺のペット」
「坊ちゃん!!」
綿毛ちゃんの悲痛な声に、マーティーがビビっている。でもガブリエルの前では格好つけたいという妙な習性を持っているマーティーは、取り繕うように表情を引き締めている。
だって綿毛ちゃんは俺が庭で捕まえたお喋り犬だもん。
なんだか状況を把握したらしいオーガス兄様が「あ、いや。それは違うよ。えっと」と半端に口を挟んで、諦めたように口を閉じている。
さっと室内を見渡したラッセルは、綿毛ちゃんを睨みつける。なんで綿毛ちゃんを目の敵にするんだろうか。単なる毛玉なのに。ちょっとうるさいくらいで害はない。
そんな中、今まで寝たふりを貫いていたブルース兄様が起き上がった。ソファーに座り直して、額を押さえるブルース兄様は、疲れた顔をしていた。
「ラッセル」
「はい。ブルース様」
「こいつのことは気にするな。おまえが首を突っ込む話ではない」
突っぱねるような物言いに、ラッセルはちらっとオーガス兄様を確認している。さっと顔を背けるオーガス兄様は情けない。ニックもオーガス兄様の背後で黙り込んでいる。
いそいそと俺に寄ってきたティアンは、「この場はブルース様に任せましょう」と耳打ちしてきた。俺は黙っておけと言いたいらしい。
こくんと頷いて、マーティーと手を繋いでやる。「なんだ。どういうつもりだ」と困惑しつつも、手を振りほどかないマーティーは、やっぱりこの状況にビビっていたらしい。お子様だな。
ふっと笑えば、マーティーが「馬鹿にするんじゃない!」と怒ってしまった。けれどもガブリエルの事を思い出したのだろう。ハッとした様子で再び黙り込んだ。そのガブリエルは、ひとり壁際で控えている。
「確かに私が首を突っ込むことではありませんが」
一旦は引き下がる姿勢を見せるラッセルであるが、オーガス兄様を気にしてグッと拳を握った。ラッセルは、オーガス兄様の親友なので。オーガス兄様のために粘ることにしたのだろう。なにを粘っているのかは不明だけど。
「世間的にもあまりよろしくないかと」
なにが?
真剣な面持ちで進言するラッセルに、ブルース兄様が「あ、なんだこのややこしい状況」と小声で呻いている。
だが、ラッセルを説得するのは面倒だと思ったのだろう。鋭い視線でラッセルを睨むブルース兄様は、力任せにラッセルを追い出そうとしている。
「余計なお世話だ」
「ブルース様はご存知なのですか?」
挑発的な問いに、ブルース兄様がすんと真顔になる。どう答えようか迷っている顔である。
「ブルース兄様、がんばれぇ!」
とりあえず兄様を応援しておく。
「おまえ、他人事みたいな顔しやがって……!」
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