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16歳
閑話23 看病する
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「ブルース兄様が風邪ひいて寝てるよ!」
体調が少しよくないと言っていたブルース兄様が、本格的に風邪をひいた。早速ユリスに教えてやれば「それは本当か」と前のめりに食いついてきた。
「ほんと。部屋で寝てるよ」
「僕も見に行く」
いそいそと立ち上がるユリスに、タイラーが眉を顰める。文句を言われると思ったのだろう。ユリスが俺の手を引いてさっさと部屋を出た。
「待って! 猫持ってくる」
ユリスを廊下で待たせて、自室にかけ戻る。猫のエリスちゃんを抱っこすれば、綿毛ちゃんも『なになに。どこ行くのぉ』と後を追いかけてくる。
ユリスと合流してから二階にあがる。短い足で階段を跳ねるようにして上がる綿毛ちゃんを見て笑えば、毛玉がむすっとした。
「ブルース兄様ぁ! 元気!?」
勢いよくドアを開け放てば、「うるせぇ」という暴言が返ってきた。ひどい。
ソファーで横になるブルース兄様は、なぜか書類を手にしていた。
「なにしてるの?」
「仕事」
「なんで?」
具合が悪い時に仕事なんてするなよ。
ベッドで寝れば? と提案するが、兄様は「これだけは急ぎなんだよ」と譲らない。
「アロンに任せようと思ったんだが、あの野郎。朝から俺の調子が悪いと知って逃げやがった」
「アロンめ」
まぁクソ野郎に看病なんてできないだろうし。はじめから期待していない。
ブルース兄様の手から書類をひったくれば、兄様が「おい」と苦い声を出した。
「兄様は寝てていいよ! 仕事は俺がやっておくから!」
「無理だろ」
即座に否定するブルース兄様は、俺の手から書類を奪い返そうとしてくる。それを頑張って避けて、ユリスを振り返った。
「ユリスとやるから大丈夫!」
「僕はやらないぞ」
「裏切りユリス!」
仕方がないのでひとりで書類に目を通すが、意味不明である。
「……俺には無理かも」
へにゃっと眉尻を下げれば、ブルース兄様が「だろうな」と酷いことを言う。直後、咳き込む兄様に、なぜかユリスがニヤリと口角を上げた。綿毛ちゃんが『ブルースくん、大丈夫? いつ頃元気になる? 明日? 明後日?』とうざい絡みをしている。
「うるさいから全員出て行ってくれないか」
ブルース兄様の言葉に、ユリスがすかさず「嫌だ。僕はここにいる」と妙な主張を始める。しまいには「僕が看病してやる」と偉そうに腕を組んだ。
「ユリスは看病なんてできないだろ」
「ふざけるな。ルイスよりはマシだろ」
「はぁ!?」
俺に謝れ! と指を突きつければ、ブルース兄様が「うるせぇ」と額を押さえた。
ハッとした俺は、「静かにして!」とみんなに注意をしておく。「ルイスが一番うるさいだろ」と責任転嫁してくるユリスは放っておいて、ブルース兄様を寝室へ連れて行く。
「寝てていいよ。仕事はえっと。アロンにやれって言っておくから」
「本当に任せて大丈夫か?」
「大丈夫!」
アロンに書類を渡せばいいんだろ? それくらいなら綿毛ちゃんでもできる。
急いで猫をブルース兄様のベッドに押し込めば、「おいおい。待てこら」とブルース兄様が反発してくる。なんだ。なにがダメなんだ。
「やめろ。猫を入れるな」
「なんで? 犬がいいの? でも綿毛ちゃんはうるさいよ」
『うるさくないもん』
「犬もいらない」
なんだと。まさかひとりで寝るつもりか。
困惑していれば、ニヤニヤ顔で寄ってきたユリスが、綿毛ちゃんをベッドの中に埋めはじめた。『やめてぇ』と毛玉が騒いでいる。
「ユリス!」
大声で怒鳴ったブルース兄様であるが、直後に頭を押さえた。頭痛がするらしい。早く寝るべきだ。
「頼むからひとりにしてくれないか?」
苦々しく発せられたお願いに、俺はユリスと顔を見合わせる。
「どうする?」
「僕は残る。おまえは仕事をどうにかしろ」
「でもブルース兄様はひとりがいいって」
「なぜブルースの意見を尊重しなければならない。そんなのは無視すればいい」
「なるほどね」
うんうん頷く俺に、ブルース兄様が「納得してどうする」と頭を抱えた。
「じゃあ兄様が寝るまでは一緒にいてあげる!」
「勘弁してくれ」
どういう意味だよ。
ベッドに横たわった兄様は、布団を頭からかぶって「もう寝たからこれでいいだろ」と言い出す。なにもよくない。起きてるじゃん。
ユリスと並んで、じっとブルース兄様を見つめる。ついでに綿毛ちゃんとエリスちゃんも枕元に座って兄様を見ている。
目を閉じてじっとしていたブルース兄様であるが、やがて頬を引き攣らせて「あぁ! なんだもう!」と突然大声で体を起こした。直後に「痛っ」と頭を押さえる兄様に、ユリスが笑っている。
「なんだ。なんで全員で見つめてくる。やめろ本当に」
「兄様が寝るまで見てる」
「寝られるか!」
はやくどっか行ってくれと悲痛な声を出すブルース兄様に、「え?」と首を傾げる。
「看病してあげてるのに」
「むしろ悪化する」
「ひどい」
しゅんと肩を落とせば、ユリスが「弟を邪険にするなんてどういうつもりだ」とブルース兄様に詰め寄る。
「風邪が移ったらどうする」
出て行けと言う兄様に、「うん」と渋々頷く。
「ブルース兄様のこと心配だけど。兄様が可愛い弟に風邪移したくないって思う気持ちもわかるよ」
『ルイス坊ちゃんってすごく前向きだよねぇ』
渋るユリスの手を引いて、兄様の部屋を出る。
「ばいばい兄様! またあとで来るね!」
「もう来るなって言ってるだろ」
なんか疲れているらしい兄様。寝たら元気になるだろう。とりあえず、この書類をアロンに渡さなければならない。
「行くぞ、ユリス!」
「僕は行かない」
「裏切りユリス!」
仕方がないので、綿毛ちゃんと行こう。
行くぞと毛玉を振り返って、「あ」と声をあげる。
「エリスちゃん置いてきちゃった」
「放っておけよ」
でもエリスちゃんは気の強い猫だからな。
ブルース兄様がゆっくり眠れないかもしれない。
「ちょっと迎えに行ってくるね!」
引き返す俺に、ユリスが「だったら僕も行く」とついてくる。
「ブルース兄様! もう寝たぁ!?」
寝室に突入すれば、愕然とした表情のブルース兄様が諦めたように目を閉じた。
体調が少しよくないと言っていたブルース兄様が、本格的に風邪をひいた。早速ユリスに教えてやれば「それは本当か」と前のめりに食いついてきた。
「ほんと。部屋で寝てるよ」
「僕も見に行く」
いそいそと立ち上がるユリスに、タイラーが眉を顰める。文句を言われると思ったのだろう。ユリスが俺の手を引いてさっさと部屋を出た。
「待って! 猫持ってくる」
ユリスを廊下で待たせて、自室にかけ戻る。猫のエリスちゃんを抱っこすれば、綿毛ちゃんも『なになに。どこ行くのぉ』と後を追いかけてくる。
ユリスと合流してから二階にあがる。短い足で階段を跳ねるようにして上がる綿毛ちゃんを見て笑えば、毛玉がむすっとした。
「ブルース兄様ぁ! 元気!?」
勢いよくドアを開け放てば、「うるせぇ」という暴言が返ってきた。ひどい。
ソファーで横になるブルース兄様は、なぜか書類を手にしていた。
「なにしてるの?」
「仕事」
「なんで?」
具合が悪い時に仕事なんてするなよ。
ベッドで寝れば? と提案するが、兄様は「これだけは急ぎなんだよ」と譲らない。
「アロンに任せようと思ったんだが、あの野郎。朝から俺の調子が悪いと知って逃げやがった」
「アロンめ」
まぁクソ野郎に看病なんてできないだろうし。はじめから期待していない。
ブルース兄様の手から書類をひったくれば、兄様が「おい」と苦い声を出した。
「兄様は寝てていいよ! 仕事は俺がやっておくから!」
「無理だろ」
即座に否定するブルース兄様は、俺の手から書類を奪い返そうとしてくる。それを頑張って避けて、ユリスを振り返った。
「ユリスとやるから大丈夫!」
「僕はやらないぞ」
「裏切りユリス!」
仕方がないのでひとりで書類に目を通すが、意味不明である。
「……俺には無理かも」
へにゃっと眉尻を下げれば、ブルース兄様が「だろうな」と酷いことを言う。直後、咳き込む兄様に、なぜかユリスがニヤリと口角を上げた。綿毛ちゃんが『ブルースくん、大丈夫? いつ頃元気になる? 明日? 明後日?』とうざい絡みをしている。
「うるさいから全員出て行ってくれないか」
ブルース兄様の言葉に、ユリスがすかさず「嫌だ。僕はここにいる」と妙な主張を始める。しまいには「僕が看病してやる」と偉そうに腕を組んだ。
「ユリスは看病なんてできないだろ」
「ふざけるな。ルイスよりはマシだろ」
「はぁ!?」
俺に謝れ! と指を突きつければ、ブルース兄様が「うるせぇ」と額を押さえた。
ハッとした俺は、「静かにして!」とみんなに注意をしておく。「ルイスが一番うるさいだろ」と責任転嫁してくるユリスは放っておいて、ブルース兄様を寝室へ連れて行く。
「寝てていいよ。仕事はえっと。アロンにやれって言っておくから」
「本当に任せて大丈夫か?」
「大丈夫!」
アロンに書類を渡せばいいんだろ? それくらいなら綿毛ちゃんでもできる。
急いで猫をブルース兄様のベッドに押し込めば、「おいおい。待てこら」とブルース兄様が反発してくる。なんだ。なにがダメなんだ。
「やめろ。猫を入れるな」
「なんで? 犬がいいの? でも綿毛ちゃんはうるさいよ」
『うるさくないもん』
「犬もいらない」
なんだと。まさかひとりで寝るつもりか。
困惑していれば、ニヤニヤ顔で寄ってきたユリスが、綿毛ちゃんをベッドの中に埋めはじめた。『やめてぇ』と毛玉が騒いでいる。
「ユリス!」
大声で怒鳴ったブルース兄様であるが、直後に頭を押さえた。頭痛がするらしい。早く寝るべきだ。
「頼むからひとりにしてくれないか?」
苦々しく発せられたお願いに、俺はユリスと顔を見合わせる。
「どうする?」
「僕は残る。おまえは仕事をどうにかしろ」
「でもブルース兄様はひとりがいいって」
「なぜブルースの意見を尊重しなければならない。そんなのは無視すればいい」
「なるほどね」
うんうん頷く俺に、ブルース兄様が「納得してどうする」と頭を抱えた。
「じゃあ兄様が寝るまでは一緒にいてあげる!」
「勘弁してくれ」
どういう意味だよ。
ベッドに横たわった兄様は、布団を頭からかぶって「もう寝たからこれでいいだろ」と言い出す。なにもよくない。起きてるじゃん。
ユリスと並んで、じっとブルース兄様を見つめる。ついでに綿毛ちゃんとエリスちゃんも枕元に座って兄様を見ている。
目を閉じてじっとしていたブルース兄様であるが、やがて頬を引き攣らせて「あぁ! なんだもう!」と突然大声で体を起こした。直後に「痛っ」と頭を押さえる兄様に、ユリスが笑っている。
「なんだ。なんで全員で見つめてくる。やめろ本当に」
「兄様が寝るまで見てる」
「寝られるか!」
はやくどっか行ってくれと悲痛な声を出すブルース兄様に、「え?」と首を傾げる。
「看病してあげてるのに」
「むしろ悪化する」
「ひどい」
しゅんと肩を落とせば、ユリスが「弟を邪険にするなんてどういうつもりだ」とブルース兄様に詰め寄る。
「風邪が移ったらどうする」
出て行けと言う兄様に、「うん」と渋々頷く。
「ブルース兄様のこと心配だけど。兄様が可愛い弟に風邪移したくないって思う気持ちもわかるよ」
『ルイス坊ちゃんってすごく前向きだよねぇ』
渋るユリスの手を引いて、兄様の部屋を出る。
「ばいばい兄様! またあとで来るね!」
「もう来るなって言ってるだろ」
なんか疲れているらしい兄様。寝たら元気になるだろう。とりあえず、この書類をアロンに渡さなければならない。
「行くぞ、ユリス!」
「僕は行かない」
「裏切りユリス!」
仕方がないので、綿毛ちゃんと行こう。
行くぞと毛玉を振り返って、「あ」と声をあげる。
「エリスちゃん置いてきちゃった」
「放っておけよ」
でもエリスちゃんは気の強い猫だからな。
ブルース兄様がゆっくり眠れないかもしれない。
「ちょっと迎えに行ってくるね!」
引き返す俺に、ユリスが「だったら僕も行く」とついてくる。
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