592 / 637
16歳
550 余計なこと
しおりを挟む
「オーガス兄様はいつもこんな感じだよ。ブルース兄様がよくキレてる。でもブルース兄様はオーガス兄様のことを敬うのが好きだから、直接文句は言わないけどね」
「はぁ」
俺の説明を聞き流したマーティーは、背後でティアンに支えられているオーガス兄様をちらっと見た。兄様は多分起きてると思う。酔ってはいるけど。
「でね。ブルース兄様がよく俺に、オーガス兄様をどうにかしてくれって愚痴ってくるんだけど。俺は優しいからね。オーガス兄様にブルース兄様が困ってるよって教えてあげるんだ」
「へー」
とりあえずオーガス兄様を部屋に運ばなければならない。ガブリエルも手伝ってくれている。エリックはもう寝ると言ってついてきてくれなかった。
いそいそとついてくるマーティーは謎である。
お子様は早く寝ろよ。ついてこなくていいよと言ったのだが、ガブリエルに意味深な視線を送ったマーティーは「客人の世話も僕の仕事だからな」と偉そうに腰に手を当てていた。マーティーはなにもしてないだろうが。
「でもそうするとユリスがやってきて、オーガス兄様のこといじめるんだ」
「あいつはそんなことしてるのか」
「うん」
ユリスは、オーガス兄様が誰かに怒られているとどこからか姿を現す。タイラーが「やめなさい」と何度も注意しているのだが、ユリスはやめない。人が怒られているのは好きだけど、自分が怒られると途端に不機嫌になるのだ。
オーガス兄様に割り当てられた客室へと向かう途中。なんとなく兄弟の話をしていたのだが、やっぱり俺の頭には先程の伯爵との会話がチラついていた。
アロンがこの場にいなくてよかったと思ってしまう。アロンとどういう顔で会えばいいのか、ちょっと困ってしまう。別に普通の顔でいいと思うけどさ。アロンは伯爵の苦労を知っているのだろうか。まぁ、アロンだしな。知っていたとしても他人事のように考えていそうではある。
「……マーティーは、好きな人とかいる?」
お子様マーティーではあるが、一応俺と同じ十六歳である。気になって尋ねれば、マーティーがわかりやすく咳き込んだ。
「突然なんだ! 妙なことを訊くな!」
「別に妙でもないだろ」
なにをそんなに慌てているのか。
じとっと半眼で見つめれば、マーティーがさっと視線を外す。なんだその妙な反応は。
だが、マーティーの視線がガブリエルに注がれていることを察した俺は、ひとつの可能性に思い至った。
ティアンとガブリエルは、オーガス兄様を支えるのに忙しくてはやく歩けない。マーティーの手を取って、前方に駆け出す。「あ、ちょっと」とティアンが文句を言うが気にしない。そうしてティアンたちから距離をとった俺は、マーティーにこそっと耳打ちした。
「もしかして、ガブリエルのことが好きなのか?」
「おまえはなにを言い出すんだ」
そんなわけないだろと真顔で否定するマーティーに、すんと俺のテンションが冷める。なんだ違うのか。つまんな。
我ながら名推理だと思ったのに。
だってマーティーはガブリエルの前だと途端に格好つけるのだ。好きな子の前で格好つけたいタイプなのかと思った。
「じゃあガブリエルの前だと格好つけるのは何?」
なんだなんだとマーティーの横腹を肘で小突けば、「やめろよ」と逃げられてしまった。
「従者の前でみっともない姿を見せるわけにはいかないだろ。主人としての威厳というものがあるからな」
「そうなの?」
俺は割とジャンにみっともない姿を見せている気がする。でも別に気にしないし、ジャンも気にしてないと思う。
でもマーティーは気にするらしい。変なの。
「マーティーに威厳はないけどね」
「あるだろう! おまえは何を見ている」
ビシッと指差してくるマーティーは、相変わらずお子様である。なんだろう。雰囲気かな。十六歳になって身長も伸びたマーティーであるが、いまいち威厳はない。
エリックは堂々とした態度が様になっているのに。マーティーは、すごく無理して偉そうに振る舞っている感じがする。
微笑ましくていいと思う。
ふふっと笑えば、目敏いマーティーが「笑うな!」と無茶を言う。
「俺の部屋にも来る? 綿毛ちゃん触っていいよ」
朝も触らせてあげたけど、マーティーは「あぁ、行く」と即答してくる。
綿毛ちゃんはおとなしくしているだろうか。騒がしい毛玉なので、余計なことをしていないか心配である。こっそり部屋を抜け出して、お菓子をつまみ食いしていたらどうしよう。あの食いしん坊ならやりかねない。
さっさとオーガス兄様を部屋に運んで、綿毛ちゃんを見に行かないと。足早に兄様の部屋へと向かった俺は、ティアンたちが追いつくのを待ってからドアを開け放った。
その時である。
「あぁもう! それでいいよ! どうせオレは首輪つけて庭を散歩するようなド変態ですよ!」
やけになったような綿毛ちゃんの怒鳴り声が聞こえてきて、ぴたりと動きを止めた。いつの間にか人間姿になっている綿毛ちゃんは、なぜかニックとラッセルに囲まれていた。よく見れば、ソファーで横になるブルース兄様もいる。「うるせぇ」と低い声を出すブルース兄様は、頭を押さえて目を閉じている。
しんと静まり返る空間にて。
突然のド変態宣言にマーティーがビビっている。素早く俺の背中に隠れるマーティーは、おずおずと綿毛ちゃんを確認している。
とりあえず人間姿の綿毛ちゃんを睨みつけておく。小さく肩をすくめる毛玉は、なぜかラッセルのことを恨めしそうな目で見ている。なんでラッセルはここにいるんだ。
わる毛玉め。ちょっと目を離すとすぐ余計なことをする。
「はぁ」
俺の説明を聞き流したマーティーは、背後でティアンに支えられているオーガス兄様をちらっと見た。兄様は多分起きてると思う。酔ってはいるけど。
「でね。ブルース兄様がよく俺に、オーガス兄様をどうにかしてくれって愚痴ってくるんだけど。俺は優しいからね。オーガス兄様にブルース兄様が困ってるよって教えてあげるんだ」
「へー」
とりあえずオーガス兄様を部屋に運ばなければならない。ガブリエルも手伝ってくれている。エリックはもう寝ると言ってついてきてくれなかった。
いそいそとついてくるマーティーは謎である。
お子様は早く寝ろよ。ついてこなくていいよと言ったのだが、ガブリエルに意味深な視線を送ったマーティーは「客人の世話も僕の仕事だからな」と偉そうに腰に手を当てていた。マーティーはなにもしてないだろうが。
「でもそうするとユリスがやってきて、オーガス兄様のこといじめるんだ」
「あいつはそんなことしてるのか」
「うん」
ユリスは、オーガス兄様が誰かに怒られているとどこからか姿を現す。タイラーが「やめなさい」と何度も注意しているのだが、ユリスはやめない。人が怒られているのは好きだけど、自分が怒られると途端に不機嫌になるのだ。
オーガス兄様に割り当てられた客室へと向かう途中。なんとなく兄弟の話をしていたのだが、やっぱり俺の頭には先程の伯爵との会話がチラついていた。
アロンがこの場にいなくてよかったと思ってしまう。アロンとどういう顔で会えばいいのか、ちょっと困ってしまう。別に普通の顔でいいと思うけどさ。アロンは伯爵の苦労を知っているのだろうか。まぁ、アロンだしな。知っていたとしても他人事のように考えていそうではある。
「……マーティーは、好きな人とかいる?」
お子様マーティーではあるが、一応俺と同じ十六歳である。気になって尋ねれば、マーティーがわかりやすく咳き込んだ。
「突然なんだ! 妙なことを訊くな!」
「別に妙でもないだろ」
なにをそんなに慌てているのか。
じとっと半眼で見つめれば、マーティーがさっと視線を外す。なんだその妙な反応は。
だが、マーティーの視線がガブリエルに注がれていることを察した俺は、ひとつの可能性に思い至った。
ティアンとガブリエルは、オーガス兄様を支えるのに忙しくてはやく歩けない。マーティーの手を取って、前方に駆け出す。「あ、ちょっと」とティアンが文句を言うが気にしない。そうしてティアンたちから距離をとった俺は、マーティーにこそっと耳打ちした。
「もしかして、ガブリエルのことが好きなのか?」
「おまえはなにを言い出すんだ」
そんなわけないだろと真顔で否定するマーティーに、すんと俺のテンションが冷める。なんだ違うのか。つまんな。
我ながら名推理だと思ったのに。
だってマーティーはガブリエルの前だと途端に格好つけるのだ。好きな子の前で格好つけたいタイプなのかと思った。
「じゃあガブリエルの前だと格好つけるのは何?」
なんだなんだとマーティーの横腹を肘で小突けば、「やめろよ」と逃げられてしまった。
「従者の前でみっともない姿を見せるわけにはいかないだろ。主人としての威厳というものがあるからな」
「そうなの?」
俺は割とジャンにみっともない姿を見せている気がする。でも別に気にしないし、ジャンも気にしてないと思う。
でもマーティーは気にするらしい。変なの。
「マーティーに威厳はないけどね」
「あるだろう! おまえは何を見ている」
ビシッと指差してくるマーティーは、相変わらずお子様である。なんだろう。雰囲気かな。十六歳になって身長も伸びたマーティーであるが、いまいち威厳はない。
エリックは堂々とした態度が様になっているのに。マーティーは、すごく無理して偉そうに振る舞っている感じがする。
微笑ましくていいと思う。
ふふっと笑えば、目敏いマーティーが「笑うな!」と無茶を言う。
「俺の部屋にも来る? 綿毛ちゃん触っていいよ」
朝も触らせてあげたけど、マーティーは「あぁ、行く」と即答してくる。
綿毛ちゃんはおとなしくしているだろうか。騒がしい毛玉なので、余計なことをしていないか心配である。こっそり部屋を抜け出して、お菓子をつまみ食いしていたらどうしよう。あの食いしん坊ならやりかねない。
さっさとオーガス兄様を部屋に運んで、綿毛ちゃんを見に行かないと。足早に兄様の部屋へと向かった俺は、ティアンたちが追いつくのを待ってからドアを開け放った。
その時である。
「あぁもう! それでいいよ! どうせオレは首輪つけて庭を散歩するようなド変態ですよ!」
やけになったような綿毛ちゃんの怒鳴り声が聞こえてきて、ぴたりと動きを止めた。いつの間にか人間姿になっている綿毛ちゃんは、なぜかニックとラッセルに囲まれていた。よく見れば、ソファーで横になるブルース兄様もいる。「うるせぇ」と低い声を出すブルース兄様は、頭を押さえて目を閉じている。
しんと静まり返る空間にて。
突然のド変態宣言にマーティーがビビっている。素早く俺の背中に隠れるマーティーは、おずおずと綿毛ちゃんを確認している。
とりあえず人間姿の綿毛ちゃんを睨みつけておく。小さく肩をすくめる毛玉は、なぜかラッセルのことを恨めしそうな目で見ている。なんでラッセルはここにいるんだ。
わる毛玉め。ちょっと目を離すとすぐ余計なことをする。
853
お気に入りに追加
3,136
あなたにおすすめの小説

別れようと彼氏に言ったら泣いて懇願された挙げ句めっちゃ尽くされた
翡翠飾
BL
「い、いやだ、いや……。捨てないでっ、お願いぃ……。な、何でも!何でもするっ!金なら出すしっ、えっと、あ、ぱ、パシリになるから!」
そう言って涙を流しながら足元にすがり付くαである彼氏、霜月慧弥。ノリで告白されノリで了承したこの付き合いに、βである榊原伊織は頃合いかと別れを切り出したが、慧弥は何故か未練があるらしい。
チャライケメンα(尽くし体質)×物静かβ(尽くされ体質)の話。
とある文官のひとりごと
きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。
アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。
基本コメディで、少しだけシリアス?
エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座)
ムーンライト様でも公開しております。

イケメンチート王子に転生した俺に待ち受けていたのは予想もしない試練でした
和泉臨音
BL
文武両道、容姿端麗な大国の第二皇子に転生したヴェルダードには黒髪黒目の婚約者エルレがいる。黒髪黒目は魔王になりやすいためこの世界では要注意人物として国家で保護する存在だが、元日本人のヴェルダードからすれば黒色など気にならない。努力家で真面目なエルレを幼い頃から純粋に愛しているのだが、最近ではなぜか二人の関係に壁を感じるようになった。
そんなある日、エルレの弟レイリーからエルレの不貞を告げられる。不安を感じたヴェルダードがエルレの屋敷に赴くと、屋敷から火の手があがっており……。
* 金髪青目イケメンチート転生者皇子 × 黒髪黒目平凡の魔力チート伯爵
* 一部流血シーンがあるので苦手な方はご注意ください

その捕虜は牢屋から離れたくない
さいはて旅行社
BL
敵国の牢獄看守や軍人たちが大好きなのは、鍛え上げられた筋肉だった。
というわけで、剣や体術の訓練なんか大嫌いな魔導士で細身の主人公は、同僚の脳筋騎士たちとは違い、敵国の捕虜となっても平穏無事な牢屋生活を満喫するのであった。

愛する人
斯波良久@出来損ないΩの猫獣人発売中
BL
「ああ、もう限界だ......なんでこんなことに!!」
応接室の隙間から、頭を抱える夫、ルドルフの姿が見えた。リオンの帰りが遅いことを知っていたから気が緩み、屋敷で愚痴を溢してしまったのだろう。
三年前、ルドルフの家からの申し出により、リオンは彼と政略的な婚姻関係を結んだ。けれどルドルフには愛する男性がいたのだ。
『限界』という言葉に悩んだリオンはやがてひとつの決断をする。


実はαだった俺、逃げることにした。
るるらら
BL
俺はアルディウス。とある貴族の生まれだが今は冒険者として悠々自適に暮らす26歳!
実は俺には秘密があって、前世の記憶があるんだ。日本という島国で暮らす一般人(サラリーマン)だったよな。事故で死んでしまったけど、今は転生して自由気ままに生きている。
一人で生きるようになって数十年。過去の人間達とはすっかり縁も切れてこのまま独身を貫いて生きていくんだろうなと思っていた矢先、事件が起きたんだ!
前世持ち特級Sランク冒険者(α)とヤンデレストーカー化した幼馴染(α→Ω)の追いかけっ子ラブ?ストーリー。
!注意!
初のオメガバース作品。
ゆるゆる設定です。運命の番はおとぎ話のようなもので主人公が暮らす時代には存在しないとされています。
バースが突然変異した設定ですので、無理だと思われたらスッとページを閉じましょう。
!ごめんなさい!
幼馴染だった王子様の嘆き3 の前に
復活した俺に不穏な影1 を更新してしまいました!申し訳ありません。新たに更新しましたので確認してみてください!

学園の俺様と、辺境地の僕
そらうみ
BL
この国の三大貴族の一つであるルーン・ホワイトが、何故か僕に構ってくる。学園生活を平穏に過ごしたいだけなのに、ルーンのせいで僕は皆の注目の的となってしまった。卒業すれば関わることもなくなるのに、ルーンは一体…何を考えているんだ?
【全12話になります。よろしくお願いします。】
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる