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16歳
547 楽しかったか
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「なにしてるんだ。こんなところで」
「なにしに来た! マーティー!」
「なにって。ルイスがいないから探しに来たんだろ。わざわざ僕が出向いてやったんだ。少しは感謝したらどうなんだ」
偉そうにふんとそっぽを向くマーティーは、唐突に俺の前に姿を現した。ブランシェと別れて、ティアンと適当に会場の隅をうろうろしていた時のことである。カツカツ寄ってきたマーティーは、俺の袖を引くと人気のない方向へと歩き出す。
「今までどこにいた」
「中庭」
眉を寄せるマーティーは、真面目に参加しろと妙なことを言う。
「ケーキ食べた。食べ、ん?」
あれっと首を捻る。
そういえば俺、ティアンに二個目のケーキ持ってこいとお願いしていた。だが、戻ってきたティアンの手にケーキはなかった。
俺まだケーキ一個しか食べてないじゃん。
ハッとティアンを振り返れば、「だって仕方ないでしょ」と悪びれない顔。
「中庭に行く先輩たちの姿が見えたんですから。鉢合わせたらまずいと思って急いで駆け付けてあげたんですよ」
すごく上から目線のティアンに、マーティーが「なにがあったんだ?」と首を捻っている。
ブランシェやミュンスト伯爵について説明すると面倒なことになるので、ケーキあんまり食べられなかったとだけ伝えておく。
「あぁ。おまえの兄が悪目立ちしてたな」
ブルース兄様率いる屈強な騎士集団が原因でケーキが食べられなかったと解釈したらしいマーティーは「まだ厨房にあると思うぞ」と耳寄り情報を教えてくれた。マーティーにしては気の利く発言だな。
そろそろパーティーもお開きである。主催者のエリックが早々に引き上げたらしく、なんかもう勝手にどうぞ的な雰囲気になっている。
「僕は部屋に戻ろうと思うが。ルイスも一緒に来るか?」
「うん。そうだね」
聞けばオーガス兄様もエリックと一緒に引き上げたらしい。今頃二人で飲んでいるんじゃないか? と言うマーティーに乾いた笑いが出てくる。
散々エリックの悪口言っていたくせに。結局は一緒にいるんだ。実は仲良しなのか?
そうしてマーティーと共にエリックの部屋へと向かえば、そこには大笑いするエリックと、泣き喚くオーガス兄様がいた。
「おぉ! ルイス! おまえもこっちに来い」
大きく手招きしてくるエリックに、マーティーが頬を引き攣らせる。きっと情けないオーガス兄様を前にして引いているのだ。
「オーガス兄様。みっともないよ」
とりあえず項垂れる兄様の頭をペシッと叩いておけば、エリックがまた声をあげて笑った。楽しそうでなによりである。
「マーティーもみっともないからやめろって言ってる」
「僕はそんなこと言ってないぞ!」
慌てて口を挟んでくるマーティーは、「適当なことを言うな!」とひとりで騒がしい。ティアンが「まぁまぁ」と雑に宥めている。
「みっともなくて悪かったね!」
ガバリと顔を上げるオーガス兄様に、マーティーがビクッと肩を跳ねさせる。慌てたように俺の背中に隠れるマーティーは「僕はそんなことはひと言も」と、もごもご小声で反論している。
「ルイス。こっちに来い」
上機嫌なエリックに手招きされて、隣に座っておく。一緒についてくるマーティーも、なぜか隣に座ってくる。兄弟で俺を挟むなよ。向かいのソファーにひとりで座るオーガス兄様が可哀想だろ。
「ティアンも座れば?」
空いているオーガス兄様の隣を指差せば、ティアンが無言で座った。「あ。座るの? 別にいいけど」と、いそいそ座り直すオーガス兄様は居心地悪そうに頬を掻いている。
ぼんやりテーブルの上を見渡す。なんかお酒と食べ物が置いてある。ちらっとエリックの顔をみれば「ジュースでも持ってこさせようか?」と控えている使用人に向かって軽く手をあげた。
「ケーキも食べる」
すかさず付け足せば、エリックは「わかったわかった」と笑って応じてくれる。
「楽しかったか?」
グラスを傾けながら問いかけてくるエリックに、うんと頷いておく。「そうか」と笑いながら俺の頭を雑に撫でるエリックは心底楽しそうであった。わしゃわしゃ撫でられて、頭が持っていかれる。「やめて」とエリックの手を払えば、なぜかマーティーが俺の肩を押してきた。なんだよ。喧嘩なら買うぞ。
反射的にマーティーの頭を叩いてやれば、「なにをする!」とキレられてしまった。マーティーの兄は大笑いしてるけどな。
「王子である僕にこんな無礼なことをするのはおまえとユリスくらいだぞ!」
頭を押さえて大袈裟に被害者アピールするマーティーに、オーガス兄様が「なんかごめんね。うちの弟たちが」と眉尻を下げる。それを受けて慌てたように「あ、いえ」と大人しくなるマーティーは相変わらず気弱である。
「ずっとマーティーと一緒だったの?」
眠そうな顔を向けてくるオーガス兄様に、首を横に振っておく。
「ティアンと一緒だった」
ん、と兄様の隣に座るティアンを指差せば「あぁ、そうなんだ」という素っ気ない頷きが返ってきた。
なんだその興味なさそうな態度は。そっちが聞いてきたんでしょうが。
「なにしに来た! マーティー!」
「なにって。ルイスがいないから探しに来たんだろ。わざわざ僕が出向いてやったんだ。少しは感謝したらどうなんだ」
偉そうにふんとそっぽを向くマーティーは、唐突に俺の前に姿を現した。ブランシェと別れて、ティアンと適当に会場の隅をうろうろしていた時のことである。カツカツ寄ってきたマーティーは、俺の袖を引くと人気のない方向へと歩き出す。
「今までどこにいた」
「中庭」
眉を寄せるマーティーは、真面目に参加しろと妙なことを言う。
「ケーキ食べた。食べ、ん?」
あれっと首を捻る。
そういえば俺、ティアンに二個目のケーキ持ってこいとお願いしていた。だが、戻ってきたティアンの手にケーキはなかった。
俺まだケーキ一個しか食べてないじゃん。
ハッとティアンを振り返れば、「だって仕方ないでしょ」と悪びれない顔。
「中庭に行く先輩たちの姿が見えたんですから。鉢合わせたらまずいと思って急いで駆け付けてあげたんですよ」
すごく上から目線のティアンに、マーティーが「なにがあったんだ?」と首を捻っている。
ブランシェやミュンスト伯爵について説明すると面倒なことになるので、ケーキあんまり食べられなかったとだけ伝えておく。
「あぁ。おまえの兄が悪目立ちしてたな」
ブルース兄様率いる屈強な騎士集団が原因でケーキが食べられなかったと解釈したらしいマーティーは「まだ厨房にあると思うぞ」と耳寄り情報を教えてくれた。マーティーにしては気の利く発言だな。
そろそろパーティーもお開きである。主催者のエリックが早々に引き上げたらしく、なんかもう勝手にどうぞ的な雰囲気になっている。
「僕は部屋に戻ろうと思うが。ルイスも一緒に来るか?」
「うん。そうだね」
聞けばオーガス兄様もエリックと一緒に引き上げたらしい。今頃二人で飲んでいるんじゃないか? と言うマーティーに乾いた笑いが出てくる。
散々エリックの悪口言っていたくせに。結局は一緒にいるんだ。実は仲良しなのか?
そうしてマーティーと共にエリックの部屋へと向かえば、そこには大笑いするエリックと、泣き喚くオーガス兄様がいた。
「おぉ! ルイス! おまえもこっちに来い」
大きく手招きしてくるエリックに、マーティーが頬を引き攣らせる。きっと情けないオーガス兄様を前にして引いているのだ。
「オーガス兄様。みっともないよ」
とりあえず項垂れる兄様の頭をペシッと叩いておけば、エリックがまた声をあげて笑った。楽しそうでなによりである。
「マーティーもみっともないからやめろって言ってる」
「僕はそんなこと言ってないぞ!」
慌てて口を挟んでくるマーティーは、「適当なことを言うな!」とひとりで騒がしい。ティアンが「まぁまぁ」と雑に宥めている。
「みっともなくて悪かったね!」
ガバリと顔を上げるオーガス兄様に、マーティーがビクッと肩を跳ねさせる。慌てたように俺の背中に隠れるマーティーは「僕はそんなことはひと言も」と、もごもご小声で反論している。
「ルイス。こっちに来い」
上機嫌なエリックに手招きされて、隣に座っておく。一緒についてくるマーティーも、なぜか隣に座ってくる。兄弟で俺を挟むなよ。向かいのソファーにひとりで座るオーガス兄様が可哀想だろ。
「ティアンも座れば?」
空いているオーガス兄様の隣を指差せば、ティアンが無言で座った。「あ。座るの? 別にいいけど」と、いそいそ座り直すオーガス兄様は居心地悪そうに頬を掻いている。
ぼんやりテーブルの上を見渡す。なんかお酒と食べ物が置いてある。ちらっとエリックの顔をみれば「ジュースでも持ってこさせようか?」と控えている使用人に向かって軽く手をあげた。
「ケーキも食べる」
すかさず付け足せば、エリックは「わかったわかった」と笑って応じてくれる。
「楽しかったか?」
グラスを傾けながら問いかけてくるエリックに、うんと頷いておく。「そうか」と笑いながら俺の頭を雑に撫でるエリックは心底楽しそうであった。わしゃわしゃ撫でられて、頭が持っていかれる。「やめて」とエリックの手を払えば、なぜかマーティーが俺の肩を押してきた。なんだよ。喧嘩なら買うぞ。
反射的にマーティーの頭を叩いてやれば、「なにをする!」とキレられてしまった。マーティーの兄は大笑いしてるけどな。
「王子である僕にこんな無礼なことをするのはおまえとユリスくらいだぞ!」
頭を押さえて大袈裟に被害者アピールするマーティーに、オーガス兄様が「なんかごめんね。うちの弟たちが」と眉尻を下げる。それを受けて慌てたように「あ、いえ」と大人しくなるマーティーは相変わらず気弱である。
「ずっとマーティーと一緒だったの?」
眠そうな顔を向けてくるオーガス兄様に、首を横に振っておく。
「ティアンと一緒だった」
ん、と兄様の隣に座るティアンを指差せば「あぁ、そうなんだ」という素っ気ない頷きが返ってきた。
なんだその興味なさそうな態度は。そっちが聞いてきたんでしょうが。
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