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16歳
535 パーティーの準備
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「エリック! 久しぶり!」
「おー、ルイス。相変わらず元気だな」
オーガス兄様に割り当てられた客室でだらだらしていれば、エリックがやってきた。憂鬱だとテーブルに突っ伏すオーガス兄様を、ニックが懸命に励ましていた時である。それを横目に俺はひたすら犬と猫を撫でていた。「毛がつくでしょ」とうるさいティアンの相手も大変だった。
相変わらずきらきらしているエリックは、オーガス兄様に絡もうと思って来たらしい。うんざりした顔をする兄様。失礼だからやめた方がいいと思うよ。
「準備はできたのか?」
俺とオーガス兄様を交互に眺めて、エリックが腰に手を当てる。すっかり準備が整って綺麗な格好をしているエリックは、どこからどうみても王子様だった。その無駄な大声をやめればもっと王子様っぽくなれると思うのに。
「エリック。かっこいいよ」
とりあえず褒めておけば、エリックがニヤリと笑って隣にやってくる。そうして俺の背中に手を添えた彼は「惚れたか?」と面倒な質問をしてきた。
「いや別に」
「つれないなぁ。私に言い寄られて振り向かないのはルイスくらいだぞ」
「へー」
俺の背中を叩いてくるエリック。見た目に似合わず仕草が豪快なのは相変わらずだ。ちょっと痛い。
「僕の前でルイスにちょっかい出さないでくれる?」
ふと口を挟んでくるオーガス兄様は、エリックに冷たい目を向けている。それにも動じないエリックは、強い。オーガス兄様のことをなめている。
「ユリスも連れてくればよかったのに」
そんなこと言われても。ユリスは積極的にお出かけするタイプではない。
いまだに嫌だな、面倒だなと文句を言い続けるオーガス兄様の背中をバシバシ叩いて、エリックが豪快に笑う。
「そんな情けないことを言うな。ブルースを見習ったらどうだ。張り切って早々に手伝いに来たぞ」
「あれは張り切ってるわけじゃなくて。いやブルースのことはどうでもいいや」
頑張れよ、オーガス兄様。
なぜか途中で言い返すのをやめた兄様に、エリックがニヤニヤと笑っている。
ブルース兄様はパーティーが楽しみで泊まり込んでいたわけではない。準備が間に合わないから手伝いに来いとエリックに言われて渋々足を運んだのだ。エリックだってわかっているだろうに。
準備をしろと急かしてくるエリックに、オーガス兄様が露骨に嫌な顔をしている。以前のオーガス兄様であればエリック相手に一応気を遣っていたはずなのに、ここ最近ではその気遣いが姿を消している。多分エリックと仲良くなったんだと思う。よくわかんないけど。
「綿毛ちゃんはここで猫と待っててね」
『オレも行きたい。パーティー』
「ダメ!」
『ひどいぃ』
しくしくと泣き真似する綿毛ちゃんを、エリックが面白そうに眺めている。お喋りする犬は珍しいもんね。気持ちはわかる。
ニックも部屋で留守番しておくと言っていた。オーガス兄様の側にいてあげればいいのに、ニックは「嫌ですよ、面倒臭い」とすごく冷たい。
ティアンも招待されていたらしく、俺と一緒に参加すると言っていた。いつもの騎士服ではなくきちんとした正装だ。なんだか珍しい。
「ルイス。僕から離れないでね」
「オーガス兄様は友達いないの?」
「いないんだよ、これが」
びっくりでしょ? と肩をすくめる兄様は情けない。エリックも「おまえはすぐにそういう情けない発言をする」と腕を組んでちょっぴり呆れている。
オーガス兄様は結構偉い立場なのにまったく偉そうにしない。それが不思議でたまらない。
「ブルース兄様と一緒にいなよ。俺は忙しいから」
「話が違うだろ!」
突然大声を出すオーガス兄様は、「ルイスが一緒にいてくれるって言うから僕は参加を決めたんだけど!?」と勢いよく抗議してくる。
いやまぁ。言ったけどさ。
でもあれは参加を渋るオーガス兄様がみっともないから言ってみただけ。当日になれば兄様も勝手に楽しむだろうと思っていたのに、まさか真に受けていたとは。
「でも俺忙しい」
「忙しくないだろ!?」
「忙しいよ。マーティーと遊んであげなきゃいけないし」
「マーティーはどうでもよくない!?」
よくないよ。
だってマーティーはお子様だもん。パーティーでひとりにしたらきっと泣いちゃう。
「僕も泣きそう」
「兄様は大人でしょ?」
「大人になりたくてなったわけじゃない」
なんでこんなに情けないのだろうか。ブルース兄様が聞いたら怒ると思う。
眉を寄せるエリックは、テーブルに突っ伏すオーガス兄様の頭をガシガシと遠慮なく撫でまわした。
「どれ。だったら私が隣にいてやろう」
「それだけは嫌だ」
ははっと笑うエリックは、軽く肩をすくめる。
エリックはどう考えても今夜のパーティーで中心に据えられる。そんなところに身を置きたくない兄様は「僕は会場の隅でひとり大人しくしておくよ」と情けない宣言をした。
無理だと思うけどな。おそらく他の参加者が兄様を放っておかないだろう。
パーティーにはキャンベルも参加する。キャンベルの前だと途端に見栄を張るオーガス兄様である。きっと大丈夫だと思う。
「ニック。ちゃんと犬と猫のお世話しといてね」
「あ、嫌です」
冷たいニックとしばし睨み合いをするが、折れる気配がない。
「仕方ない。綿毛ちゃん、自分のことは自分でどうにかしてね」
『オレもパーティー行きたいでーす』
ダメって言ってるでしょうが。
しつこい毛玉をペシッと叩いて、俺はパーティーの準備に取り掛かった。
「おー、ルイス。相変わらず元気だな」
オーガス兄様に割り当てられた客室でだらだらしていれば、エリックがやってきた。憂鬱だとテーブルに突っ伏すオーガス兄様を、ニックが懸命に励ましていた時である。それを横目に俺はひたすら犬と猫を撫でていた。「毛がつくでしょ」とうるさいティアンの相手も大変だった。
相変わらずきらきらしているエリックは、オーガス兄様に絡もうと思って来たらしい。うんざりした顔をする兄様。失礼だからやめた方がいいと思うよ。
「準備はできたのか?」
俺とオーガス兄様を交互に眺めて、エリックが腰に手を当てる。すっかり準備が整って綺麗な格好をしているエリックは、どこからどうみても王子様だった。その無駄な大声をやめればもっと王子様っぽくなれると思うのに。
「エリック。かっこいいよ」
とりあえず褒めておけば、エリックがニヤリと笑って隣にやってくる。そうして俺の背中に手を添えた彼は「惚れたか?」と面倒な質問をしてきた。
「いや別に」
「つれないなぁ。私に言い寄られて振り向かないのはルイスくらいだぞ」
「へー」
俺の背中を叩いてくるエリック。見た目に似合わず仕草が豪快なのは相変わらずだ。ちょっと痛い。
「僕の前でルイスにちょっかい出さないでくれる?」
ふと口を挟んでくるオーガス兄様は、エリックに冷たい目を向けている。それにも動じないエリックは、強い。オーガス兄様のことをなめている。
「ユリスも連れてくればよかったのに」
そんなこと言われても。ユリスは積極的にお出かけするタイプではない。
いまだに嫌だな、面倒だなと文句を言い続けるオーガス兄様の背中をバシバシ叩いて、エリックが豪快に笑う。
「そんな情けないことを言うな。ブルースを見習ったらどうだ。張り切って早々に手伝いに来たぞ」
「あれは張り切ってるわけじゃなくて。いやブルースのことはどうでもいいや」
頑張れよ、オーガス兄様。
なぜか途中で言い返すのをやめた兄様に、エリックがニヤニヤと笑っている。
ブルース兄様はパーティーが楽しみで泊まり込んでいたわけではない。準備が間に合わないから手伝いに来いとエリックに言われて渋々足を運んだのだ。エリックだってわかっているだろうに。
準備をしろと急かしてくるエリックに、オーガス兄様が露骨に嫌な顔をしている。以前のオーガス兄様であればエリック相手に一応気を遣っていたはずなのに、ここ最近ではその気遣いが姿を消している。多分エリックと仲良くなったんだと思う。よくわかんないけど。
「綿毛ちゃんはここで猫と待っててね」
『オレも行きたい。パーティー』
「ダメ!」
『ひどいぃ』
しくしくと泣き真似する綿毛ちゃんを、エリックが面白そうに眺めている。お喋りする犬は珍しいもんね。気持ちはわかる。
ニックも部屋で留守番しておくと言っていた。オーガス兄様の側にいてあげればいいのに、ニックは「嫌ですよ、面倒臭い」とすごく冷たい。
ティアンも招待されていたらしく、俺と一緒に参加すると言っていた。いつもの騎士服ではなくきちんとした正装だ。なんだか珍しい。
「ルイス。僕から離れないでね」
「オーガス兄様は友達いないの?」
「いないんだよ、これが」
びっくりでしょ? と肩をすくめる兄様は情けない。エリックも「おまえはすぐにそういう情けない発言をする」と腕を組んでちょっぴり呆れている。
オーガス兄様は結構偉い立場なのにまったく偉そうにしない。それが不思議でたまらない。
「ブルース兄様と一緒にいなよ。俺は忙しいから」
「話が違うだろ!」
突然大声を出すオーガス兄様は、「ルイスが一緒にいてくれるって言うから僕は参加を決めたんだけど!?」と勢いよく抗議してくる。
いやまぁ。言ったけどさ。
でもあれは参加を渋るオーガス兄様がみっともないから言ってみただけ。当日になれば兄様も勝手に楽しむだろうと思っていたのに、まさか真に受けていたとは。
「でも俺忙しい」
「忙しくないだろ!?」
「忙しいよ。マーティーと遊んであげなきゃいけないし」
「マーティーはどうでもよくない!?」
よくないよ。
だってマーティーはお子様だもん。パーティーでひとりにしたらきっと泣いちゃう。
「僕も泣きそう」
「兄様は大人でしょ?」
「大人になりたくてなったわけじゃない」
なんでこんなに情けないのだろうか。ブルース兄様が聞いたら怒ると思う。
眉を寄せるエリックは、テーブルに突っ伏すオーガス兄様の頭をガシガシと遠慮なく撫でまわした。
「どれ。だったら私が隣にいてやろう」
「それだけは嫌だ」
ははっと笑うエリックは、軽く肩をすくめる。
エリックはどう考えても今夜のパーティーで中心に据えられる。そんなところに身を置きたくない兄様は「僕は会場の隅でひとり大人しくしておくよ」と情けない宣言をした。
無理だと思うけどな。おそらく他の参加者が兄様を放っておかないだろう。
パーティーにはキャンベルも参加する。キャンベルの前だと途端に見栄を張るオーガス兄様である。きっと大丈夫だと思う。
「ニック。ちゃんと犬と猫のお世話しといてね」
「あ、嫌です」
冷たいニックとしばし睨み合いをするが、折れる気配がない。
「仕方ない。綿毛ちゃん、自分のことは自分でどうにかしてね」
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