冷酷な少年に成り代わってしまった俺の話

岩永みやび

文字の大きさ
上 下
574 / 656
16歳

535 パーティーの準備

しおりを挟む
「エリック! 久しぶり!」
「おー、ルイス。相変わらず元気だな」

 オーガス兄様に割り当てられた客室でだらだらしていれば、エリックがやってきた。憂鬱だとテーブルに突っ伏すオーガス兄様を、ニックが懸命に励ましていた時である。それを横目に俺はひたすら犬と猫を撫でていた。「毛がつくでしょ」とうるさいティアンの相手も大変だった。

 相変わらずきらきらしているエリックは、オーガス兄様に絡もうと思って来たらしい。うんざりした顔をする兄様。失礼だからやめた方がいいと思うよ。

「準備はできたのか?」

 俺とオーガス兄様を交互に眺めて、エリックが腰に手を当てる。すっかり準備が整って綺麗な格好をしているエリックは、どこからどうみても王子様だった。その無駄な大声をやめればもっと王子様っぽくなれると思うのに。

「エリック。かっこいいよ」

 とりあえず褒めておけば、エリックがニヤリと笑って隣にやってくる。そうして俺の背中に手を添えた彼は「惚れたか?」と面倒な質問をしてきた。

「いや別に」
「つれないなぁ。私に言い寄られて振り向かないのはルイスくらいだぞ」
「へー」

 俺の背中を叩いてくるエリック。見た目に似合わず仕草が豪快なのは相変わらずだ。ちょっと痛い。

「僕の前でルイスにちょっかい出さないでくれる?」

 ふと口を挟んでくるオーガス兄様は、エリックに冷たい目を向けている。それにも動じないエリックは、強い。オーガス兄様のことをなめている。

「ユリスも連れてくればよかったのに」

 そんなこと言われても。ユリスは積極的にお出かけするタイプではない。

 いまだに嫌だな、面倒だなと文句を言い続けるオーガス兄様の背中をバシバシ叩いて、エリックが豪快に笑う。

「そんな情けないことを言うな。ブルースを見習ったらどうだ。張り切って早々に手伝いに来たぞ」
「あれは張り切ってるわけじゃなくて。いやブルースのことはどうでもいいや」

 頑張れよ、オーガス兄様。
 なぜか途中で言い返すのをやめた兄様に、エリックがニヤニヤと笑っている。

 ブルース兄様はパーティーが楽しみで泊まり込んでいたわけではない。準備が間に合わないから手伝いに来いとエリックに言われて渋々足を運んだのだ。エリックだってわかっているだろうに。

 準備をしろと急かしてくるエリックに、オーガス兄様が露骨に嫌な顔をしている。以前のオーガス兄様であればエリック相手に一応気を遣っていたはずなのに、ここ最近ではその気遣いが姿を消している。多分エリックと仲良くなったんだと思う。よくわかんないけど。

「綿毛ちゃんはここで猫と待っててね」
『オレも行きたい。パーティー』
「ダメ!」
『ひどいぃ』

 しくしくと泣き真似する綿毛ちゃんを、エリックが面白そうに眺めている。お喋りする犬は珍しいもんね。気持ちはわかる。

 ニックも部屋で留守番しておくと言っていた。オーガス兄様の側にいてあげればいいのに、ニックは「嫌ですよ、面倒臭い」とすごく冷たい。

 ティアンも招待されていたらしく、俺と一緒に参加すると言っていた。いつもの騎士服ではなくきちんとした正装だ。なんだか珍しい。

「ルイス。僕から離れないでね」
「オーガス兄様は友達いないの?」
「いないんだよ、これが」

 びっくりでしょ? と肩をすくめる兄様は情けない。エリックも「おまえはすぐにそういう情けない発言をする」と腕を組んでちょっぴり呆れている。

 オーガス兄様は結構偉い立場なのにまったく偉そうにしない。それが不思議でたまらない。

「ブルース兄様と一緒にいなよ。俺は忙しいから」
「話が違うだろ!」

 突然大声を出すオーガス兄様は、「ルイスが一緒にいてくれるって言うから僕は参加を決めたんだけど!?」と勢いよく抗議してくる。

 いやまぁ。言ったけどさ。
 でもあれは参加を渋るオーガス兄様がみっともないから言ってみただけ。当日になれば兄様も勝手に楽しむだろうと思っていたのに、まさか真に受けていたとは。

「でも俺忙しい」
「忙しくないだろ!?」
「忙しいよ。マーティーと遊んであげなきゃいけないし」
「マーティーはどうでもよくない!?」

 よくないよ。
 だってマーティーはお子様だもん。パーティーでひとりにしたらきっと泣いちゃう。

「僕も泣きそう」
「兄様は大人でしょ?」
「大人になりたくてなったわけじゃない」

 なんでこんなに情けないのだろうか。ブルース兄様が聞いたら怒ると思う。

 眉を寄せるエリックは、テーブルに突っ伏すオーガス兄様の頭をガシガシと遠慮なく撫でまわした。

「どれ。だったら私が隣にいてやろう」
「それだけは嫌だ」

 ははっと笑うエリックは、軽く肩をすくめる。

 エリックはどう考えても今夜のパーティーで中心に据えられる。そんなところに身を置きたくない兄様は「僕は会場の隅でひとり大人しくしておくよ」と情けない宣言をした。

 無理だと思うけどな。おそらく他の参加者が兄様を放っておかないだろう。
 パーティーにはキャンベルも参加する。キャンベルの前だと途端に見栄を張るオーガス兄様である。きっと大丈夫だと思う。

「ニック。ちゃんと犬と猫のお世話しといてね」
「あ、嫌です」

 冷たいニックとしばし睨み合いをするが、折れる気配がない。

「仕方ない。綿毛ちゃん、自分のことは自分でどうにかしてね」
『オレもパーティー行きたいでーす』

 ダメって言ってるでしょうが。
 しつこい毛玉をペシッと叩いて、俺はパーティーの準備に取り掛かった。
しおりを挟む
感想 474

あなたにおすすめの小説

とある文官のひとりごと

きりか
BL
貧乏な弱小子爵家出身のノア・マキシム。 アシュリー王国の花形騎士団の文官として、日々頑張っているが、学生の頃からやたらと絡んでくるイケメン部隊長であるアベル・エメを大の苦手というか、天敵認定をしていた。しかし、ある日、父の借金が判明して…。 基本コメディで、少しだけシリアス? エチシーンところか、チュッどまりで申し訳ございません(土下座) ムーンライト様でも公開しております。

十二年付き合った彼氏を人気清純派アイドルに盗られて絶望してたら、幼馴染のポンコツ御曹司に溺愛されたので、奴らを見返してやりたいと思います

塔原 槇
BL
会社員、兎山俊太郎(とやま しゅんたろう)はある日、「やっぱり女の子が好きだわ」と言われ別れを切り出される。彼氏の売れないバンドマン、熊井雄介(くまい ゆうすけ)は人気上昇中の清純派アイドル、桃澤久留美(ももざわ くるみ)と付き合うのだと言う。ショックの中で俊太郎が出社すると、幼馴染の有栖川麗音(ありすがわ れおん)が中途採用で入社してきて……?

なり代わり貴妃は皇弟の溺愛から逃げられません

めがねあざらし
BL
貴妃・蘇璃月が後宮から忽然と姿を消した。 家門の名誉を守るため、璃月の双子の弟・煌星は、彼女の身代わりとして後宮へ送り込まれる。 しかし、偽りの貴妃として過ごすにはあまりにも危険が多すぎた。 調香師としての鋭い嗅覚を武器に、後宮に渦巻く陰謀を暴き、皇帝・景耀を狙う者を探り出せ――。 だが、皇帝の影に潜む男・景翊の真意は未だ知れず。 煌星は龍の寝所で生き延びることができるのか、それとも――!? /////////////////////////////// ※以前に掲載していた「成り代わり貴妃は龍を守る香」を加筆修正したものです。 ///////////////////////////////

【完結】相談する相手を、間違えました

ryon*
BL
長い間片想いしていた幼なじみの結婚を知らされ、30歳の誕生日前日に失恋した大晴。 自棄になり訪れた結婚相談所で、高校時代の同級生にして学内のカースト最上位に君臨していた男、早乙女 遼河と再会して・・・ *** 執着系美形攻めに、あっさりカラダから堕とされる自称平凡地味陰キャ受けを書きたかった。 ただ、それだけです。 *** 他サイトにも、掲載しています。 てんぱる1様の、フリー素材を表紙にお借りしています。 *** エブリスタで2022/5/6~5/11、BLトレンドランキング1位を獲得しました。 ありがとうございました。 *** 閲覧への感謝の気持ちをこめて、5/8 遼河視点のSSを追加しました。 ちょっと闇深い感じですが、楽しんで頂けたら幸いです(*´ω`*) *** 2022/5/14 エブリスタで保存したデータが飛ぶという不具合が出ているみたいで、ちょっとこわいのであちらに置いていたSSを念のためこちらにも転載しておきます。

神獣様の森にて。

しゅ
BL
どこ、ここ.......? 俺は橋本 俊。 残業終わり、会社のエレベーターに乗ったはずだった。 そう。そのはずである。 いつもの日常から、急に非日常になり、日常に変わる、そんなお話。 7話完結。完結後、別のペアの話を更新致します。

出戻り聖女はもう泣かない

たかせまこと
BL
西の森のとば口に住むジュタは、元聖女。 男だけど元聖女。 一人で静かに暮らしているジュタに、王宮からの使いが告げた。 「王が正室を迎えるので、言祝ぎをお願いしたい」 出戻りアンソロジー参加作品に加筆修正したものです。 ムーンライト・エブリスタにも掲載しています。 表紙絵:CK2さま

囚われた元王は逃げ出せない

スノウ
BL
異世界からひょっこり召喚されてまさか国王!?でも人柄が良く周りに助けられながら10年もの間、国王に準じていた そうあの日までは 忠誠を誓ったはずの仲間に王位を剥奪され次々と手篭めに なんで俺にこんな事を 「国王でないならもう俺のものだ」 「僕をあなたの側にずっといさせて」 「君のいない人生は生きられない」 「私の国の王妃にならないか」 いやいや、みんな何いってんの?

祝福という名の厄介なモノがあるんですけど

野犬 猫兄
BL
魔導研究員のディルカには悩みがあった。 愛し愛される二人の証しとして、同じ場所に同じアザが発現するという『花祝紋』が独り身のディルカの身体にいつの間にか現れていたのだ。 それは女神の祝福とまでいわれるアザで、そんな大層なもの誰にも見せられるわけがない。  ディルカは、そんなアザがあるものだから、誰とも恋愛できずにいた。 イチャイチャ……イチャイチャしたいんですけど?! □■ 少しでも楽しんでいただけたら嬉しいです! 完結しました。 応援していただきありがとうございます! □■ 第11回BL大賞では、ポイントを入れてくださった皆様、またお読みくださった皆様、どうもありがとうございましたm(__)m

処理中です...