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16歳
534 噂
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「あの人なにしてたんですか?」
伯爵の背中を見送って、ティアンが俺を振り返る。廊下でばったり鉢合わせて、そのまま俺の後をついてきたと教えてあげれば、「そもそもなんで王宮にいるんですか」と苦い顔をする。
忍び込んだ云々の件は黙っておこう。なんか面倒なことになりそうだ。
「で? なに」
伯爵がいなくなったのだからはやく続きを話せとマーティーを促せば、彼は「あぁ」と俺に向き直る。いまだに困った顔をするマーティーを横目に、ティアンがドアを開けて廊下を確認している。どうやら本当に伯爵が帰ったか確認しているようだ。そんなに疑わなくても。
ティアンがドアを閉めるのを確認してから、マーティーがようやく口を開いた。
「その、ブランシェに会ったのか?」
「うん? 会ったよ」
一体なんの話だ。
軽く肯定すれば、マーティーが「やっぱりおまえか!」と声を荒げた。突然どうしたよ。
「噂で聞いたんだ。ブランシェが惚れた美少年とやらの」
「俺は美少年だもん」
胸を張れば、「謙遜くらいしたらどうなんだ」というマーティーの冷たい声が返ってくる。
「名前はルイスだと聞いた。しかし噂だとカル先生の弟子だと言うから」
「ヴィアン家ってことは内緒にしてたからね」
やっぱりと頭を抱えるマーティーは、要するにブランシェの好きな子が俺なのではと疑っていたらしい。それを確認したかったのだ。
それにしても噂話だけでよく俺だとわかったな。
「それはその。カル先生の知り合いだと言うから。それに美少年だって話だったし」
もごもごと小声で語るマーティーは、「とにかく!」と急に大声を出す。
「ここらでカル先生と知り合いの美少年のルイスなんておまえくらいだろ!」
「どうも」
「褒めてない!」
そうなの?
無駄に力の入ったマーティーは、はぁっと大袈裟に息を吐いた。
「でも儚い美少年だという話だったから。もしかしたらおまえじゃない可能性もあったから」
「俺は儚いだろ」
「どこが」
短く吐き捨てるマーティーは失礼だと思う。
それにしても。好きな子ができたという話が早々に王族の耳に入るブランシェが可哀想。あの堅物が恋愛なんてと噂になっているとは聞いていたが。面白おかしく話題にされているブランシェがちょっと憐れである。まぁ、ブランシェは王立騎士団で働いていると言っていたから。それも関係しているのかもしれない。確かブランシェの父親は第三部隊の隊長だった。
「あまりブランシェを揶揄うな。真面目な男なんだぞ」
「揶揄ってないけど?」
なぜか俺が悪いと決めつけるマーティーに文句を言っておく。綿毛ちゃんが『喧嘩しないでぇ』と割り込んでくるが、別に喧嘩ではない。
綿毛ちゃんは人が争っていると積極的に首を突っ込みに行く厄介な犬なのだ。
綿毛ちゃんの頭をおそるおそる撫でるマーティーは、綿毛ちゃんが口を開く度にビビッて手を離している。こんな愉快な犬の何を怖がっているのだろうか。
「ブランシェのことはね。ユリスが振ったから大丈夫」
「は? ブランシェが好きなのはルイスだろ。なんでユリスが出てくる」
怪訝な顔をするマーティーに、ユリスが俺のフリをしてブランシェのことを勢いよく振ったと教えてあげる。頬を引き攣らせるマーティーは、「あのユリスがそんなことを?」と驚いている。
「おまえ、意外とユリスに好かれているんだな」
「まぁね」
ユリスが他人を気にかけるなんて珍しい。
変な目で俺を見てくるマーティーは、「今日はブランシェも来るはずだ」と教えてくれた。
「兄上が国中の貴族の子たちを招待したから」
なるほど。それでアロンのお父さんには招待状が来なかったのか。もしかして俺の両親にも来てないのかも。エリックの誘いなら行かないとふざけたことを言っていたお父様であるが、初めから招待されていなかったのだろう。
なんでも交流会という名目らしい。面白いこと好きのエリックが考えそうなことである。
「ブランシェと鉢合わせないように気を付けておけよ」
「なんで?」
「なんでって。ヴィアン家のルイスだということは内緒なんだろ?」
「そうだった」
ヴィアン家どころか貴族だというのも内緒にしていた。ブランシェはおそらく俺のことを平民の子だと思っている。貴族しか招待されていないパーティーである。俺がいたら不自然だ。
面倒なことになるのではと心配してくれるマーティーに、綿毛ちゃんを抱っこさせてあげる。「落としそう」とふざけたこと言うマーティーに、綿毛ちゃんが『落とさないでね?』と固まっている。
「心配してくれてありがとう。でもティアンがいるから大丈夫」
ね? とティアンを振り返る。任せてくださいという頼りになるひと言が返ってくると思いきや。
「無理ですよ。僕にはどうしようもないんですけど」
無茶言わないでくださいと眉を寄せるティアン。なんでそんな冷たいこと言うんだ。そこは自信満々に大丈夫と言うところだろ。
半眼になる俺に、マーティーが「本当に大丈夫なのか?」と不安そうな目を向けてきた。
伯爵の背中を見送って、ティアンが俺を振り返る。廊下でばったり鉢合わせて、そのまま俺の後をついてきたと教えてあげれば、「そもそもなんで王宮にいるんですか」と苦い顔をする。
忍び込んだ云々の件は黙っておこう。なんか面倒なことになりそうだ。
「で? なに」
伯爵がいなくなったのだからはやく続きを話せとマーティーを促せば、彼は「あぁ」と俺に向き直る。いまだに困った顔をするマーティーを横目に、ティアンがドアを開けて廊下を確認している。どうやら本当に伯爵が帰ったか確認しているようだ。そんなに疑わなくても。
ティアンがドアを閉めるのを確認してから、マーティーがようやく口を開いた。
「その、ブランシェに会ったのか?」
「うん? 会ったよ」
一体なんの話だ。
軽く肯定すれば、マーティーが「やっぱりおまえか!」と声を荒げた。突然どうしたよ。
「噂で聞いたんだ。ブランシェが惚れた美少年とやらの」
「俺は美少年だもん」
胸を張れば、「謙遜くらいしたらどうなんだ」というマーティーの冷たい声が返ってくる。
「名前はルイスだと聞いた。しかし噂だとカル先生の弟子だと言うから」
「ヴィアン家ってことは内緒にしてたからね」
やっぱりと頭を抱えるマーティーは、要するにブランシェの好きな子が俺なのではと疑っていたらしい。それを確認したかったのだ。
それにしても噂話だけでよく俺だとわかったな。
「それはその。カル先生の知り合いだと言うから。それに美少年だって話だったし」
もごもごと小声で語るマーティーは、「とにかく!」と急に大声を出す。
「ここらでカル先生と知り合いの美少年のルイスなんておまえくらいだろ!」
「どうも」
「褒めてない!」
そうなの?
無駄に力の入ったマーティーは、はぁっと大袈裟に息を吐いた。
「でも儚い美少年だという話だったから。もしかしたらおまえじゃない可能性もあったから」
「俺は儚いだろ」
「どこが」
短く吐き捨てるマーティーは失礼だと思う。
それにしても。好きな子ができたという話が早々に王族の耳に入るブランシェが可哀想。あの堅物が恋愛なんてと噂になっているとは聞いていたが。面白おかしく話題にされているブランシェがちょっと憐れである。まぁ、ブランシェは王立騎士団で働いていると言っていたから。それも関係しているのかもしれない。確かブランシェの父親は第三部隊の隊長だった。
「あまりブランシェを揶揄うな。真面目な男なんだぞ」
「揶揄ってないけど?」
なぜか俺が悪いと決めつけるマーティーに文句を言っておく。綿毛ちゃんが『喧嘩しないでぇ』と割り込んでくるが、別に喧嘩ではない。
綿毛ちゃんは人が争っていると積極的に首を突っ込みに行く厄介な犬なのだ。
綿毛ちゃんの頭をおそるおそる撫でるマーティーは、綿毛ちゃんが口を開く度にビビッて手を離している。こんな愉快な犬の何を怖がっているのだろうか。
「ブランシェのことはね。ユリスが振ったから大丈夫」
「は? ブランシェが好きなのはルイスだろ。なんでユリスが出てくる」
怪訝な顔をするマーティーに、ユリスが俺のフリをしてブランシェのことを勢いよく振ったと教えてあげる。頬を引き攣らせるマーティーは、「あのユリスがそんなことを?」と驚いている。
「おまえ、意外とユリスに好かれているんだな」
「まぁね」
ユリスが他人を気にかけるなんて珍しい。
変な目で俺を見てくるマーティーは、「今日はブランシェも来るはずだ」と教えてくれた。
「兄上が国中の貴族の子たちを招待したから」
なるほど。それでアロンのお父さんには招待状が来なかったのか。もしかして俺の両親にも来てないのかも。エリックの誘いなら行かないとふざけたことを言っていたお父様であるが、初めから招待されていなかったのだろう。
なんでも交流会という名目らしい。面白いこと好きのエリックが考えそうなことである。
「ブランシェと鉢合わせないように気を付けておけよ」
「なんで?」
「なんでって。ヴィアン家のルイスだということは内緒なんだろ?」
「そうだった」
ヴィアン家どころか貴族だというのも内緒にしていた。ブランシェはおそらく俺のことを平民の子だと思っている。貴族しか招待されていないパーティーである。俺がいたら不自然だ。
面倒なことになるのではと心配してくれるマーティーに、綿毛ちゃんを抱っこさせてあげる。「落としそう」とふざけたこと言うマーティーに、綿毛ちゃんが『落とさないでね?』と固まっている。
「心配してくれてありがとう。でもティアンがいるから大丈夫」
ね? とティアンを振り返る。任せてくださいという頼りになるひと言が返ってくると思いきや。
「無理ですよ。僕にはどうしようもないんですけど」
無茶言わないでくださいと眉を寄せるティアン。なんでそんな冷たいこと言うんだ。そこは自信満々に大丈夫と言うところだろ。
半眼になる俺に、マーティーが「本当に大丈夫なのか?」と不安そうな目を向けてきた。
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