564 / 577
16歳
525 ついに言ったよ
しおりを挟む
「俺は先に行く」
「もう? ブルース兄様。パーティーは明後日だよ。いくら楽しみだからって今から行くのは早過ぎない?」
「仕事だ、仕事! 誰があんな妙な催し物を楽しみにしているっていうんだ」
妙な催し物て。
エリックにより突然の開催が宣言されたパーティーが明後日に迫った日。
朝から忙しそうにしていたブルース兄様を不思議に思って追いかければ、そんな不機嫌そうな言葉が返ってきた。
なんでも王宮内の警備やら何やらで人手がいるから加勢に来いとエリックから言われたらしい。直前になって何を慌ただしく準備しているのかとブルース兄様が怒っていた。
エリックはちょっと自己中な部分もある。今回だって当然のようにブルース兄様の助けを期待している。これがオーガス兄様だったら「知らないよ!」と冷たく切り捨てただろうに。
ブルース兄様は目上の人を敬うことが好きなので。たとえ相手がどんな無茶振りをしてきたとしても、文句を言いつつきちんと頼まれ事をこなしてしまう。そんなんだからエリックの我儘がエスカレートするんだと思うけど。
今から行って当日まで王宮に泊まり込むという。副団長であるロニーを中心とした騎士の一部も引き連れていくらしい。ヴィアン家のことは団長であるセドリックに任せると言っていた。
ぶつぶつと不満をこぼしつつもテキパキ準備を進めたブルース兄様は、颯爽と出かけて行った。「留守は任せたぞ」と言い置く兄様に「任せておけ!」と胸を叩いておいた。
というわけで。
ブルース兄様不在の屋敷を任された俺は、張り切って屋敷を見回ってみる。背後をついてくるティアンが「そんなに張り切らなくても」と苦笑している。
「セドリックには任せておけないから」
「大丈夫ですよ。ああ見えて仕事はきちんとやる人ですから」
それはそうだけど。
俺のイメージするセドリックはどんな時でも極力動かないようにと変な方向に努力している。団長になって俺の知らない間に改善したのだろうか。セドリックが団長になってから特にこれといった大きな騒ぎは生じていない。ティアンの言うように、案外大丈夫なのかもしれない。
だが、俺は暇を持て余していたのでセドリックのもとを訪れてみようと思う。シャノンは俺が突然来なくなったことをどう思っているのだろうか。せめて最後に挨拶くらいしておきたかったのだが、カル先生が反対した。ユリスがよほどまずい対応をしたに違いない。
「セドリック? なにしてんの?」
早足に騎士棟へと突撃する。
あっさり発見できたセドリックは、訓練場のど真ん中でひとり立ち尽くしていた。いや、マジでなにをしているの?
ティアンもちょっと引いている。訓練も終わり誰もいない訓練場である。いくら面倒くさがりのセドリックとはいえ、まさか訓練終わりに帰るのが面倒になって突っ立っているわけでもあるまい。
「セドリック?」
近寄って袖を引けば、ようやく彼が動いた。ほんの僅かに眉を寄せた彼は、何やら訓練場から見える木々を凝視しているようであった。
「何かあるんですか?」
ティアンも不思議そうに木々の方向を眺める。そうしてすぐに「あ」と声を上げた。つられて顔を上げると、木陰に隠れるようにして佇む人影を発見した。
「……ニック?」
目を凝らせば、その人影は間違いなくニックであった。またセドリックのことを追いかけているのか。
セドリックは、ニックに追いかけ回されているにも関わらず長年それを放置している。面と向かってニックに文句を言って、そこから騒動に発展するのが嫌なのだ。極力面倒を避けるセドリックらしい対処法である。対処というか、単なる放置だけど。
だが、本日のセドリックはなにやら違う。じっとニックの姿を凝視して、やがて何かを決意するかのように手招きした。これにはティアンが「え」と目を丸くする。騎士であるティアンは、団長であるセドリックと顔を合わせる機会が多い。これまでずっとニックのことを見て見ぬふりをしていたセドリックである。呼び寄せたことが衝撃らしい。
それはニックも同様だったようだ。
そろそろと木陰から出てきたニックは、警戒心をあらわにした顔で徐々に距離を詰めてきた。
「なんですか、団長」
向き合うセドリックとニックに、俺とティアンもこっそり息を呑む。緊張漂う空気に、自然と拳を握ってしまう。
「私を追いかけまわすのはやめてくれないか」
ついに言ったよ。言っちゃったよ。
セドリックとしても我慢の限界にきたのだろう。はっきりと発せられた言葉に、ニックが一体どういう反応を返すのか。
静かに見守っていると、眉間に力を入れたニックが力強くセドリックを見据えた。
「嫌です」
シンプルな拒絶に、俺たちはただただ見守ることしかできなかった。
「もう? ブルース兄様。パーティーは明後日だよ。いくら楽しみだからって今から行くのは早過ぎない?」
「仕事だ、仕事! 誰があんな妙な催し物を楽しみにしているっていうんだ」
妙な催し物て。
エリックにより突然の開催が宣言されたパーティーが明後日に迫った日。
朝から忙しそうにしていたブルース兄様を不思議に思って追いかければ、そんな不機嫌そうな言葉が返ってきた。
なんでも王宮内の警備やら何やらで人手がいるから加勢に来いとエリックから言われたらしい。直前になって何を慌ただしく準備しているのかとブルース兄様が怒っていた。
エリックはちょっと自己中な部分もある。今回だって当然のようにブルース兄様の助けを期待している。これがオーガス兄様だったら「知らないよ!」と冷たく切り捨てただろうに。
ブルース兄様は目上の人を敬うことが好きなので。たとえ相手がどんな無茶振りをしてきたとしても、文句を言いつつきちんと頼まれ事をこなしてしまう。そんなんだからエリックの我儘がエスカレートするんだと思うけど。
今から行って当日まで王宮に泊まり込むという。副団長であるロニーを中心とした騎士の一部も引き連れていくらしい。ヴィアン家のことは団長であるセドリックに任せると言っていた。
ぶつぶつと不満をこぼしつつもテキパキ準備を進めたブルース兄様は、颯爽と出かけて行った。「留守は任せたぞ」と言い置く兄様に「任せておけ!」と胸を叩いておいた。
というわけで。
ブルース兄様不在の屋敷を任された俺は、張り切って屋敷を見回ってみる。背後をついてくるティアンが「そんなに張り切らなくても」と苦笑している。
「セドリックには任せておけないから」
「大丈夫ですよ。ああ見えて仕事はきちんとやる人ですから」
それはそうだけど。
俺のイメージするセドリックはどんな時でも極力動かないようにと変な方向に努力している。団長になって俺の知らない間に改善したのだろうか。セドリックが団長になってから特にこれといった大きな騒ぎは生じていない。ティアンの言うように、案外大丈夫なのかもしれない。
だが、俺は暇を持て余していたのでセドリックのもとを訪れてみようと思う。シャノンは俺が突然来なくなったことをどう思っているのだろうか。せめて最後に挨拶くらいしておきたかったのだが、カル先生が反対した。ユリスがよほどまずい対応をしたに違いない。
「セドリック? なにしてんの?」
早足に騎士棟へと突撃する。
あっさり発見できたセドリックは、訓練場のど真ん中でひとり立ち尽くしていた。いや、マジでなにをしているの?
ティアンもちょっと引いている。訓練も終わり誰もいない訓練場である。いくら面倒くさがりのセドリックとはいえ、まさか訓練終わりに帰るのが面倒になって突っ立っているわけでもあるまい。
「セドリック?」
近寄って袖を引けば、ようやく彼が動いた。ほんの僅かに眉を寄せた彼は、何やら訓練場から見える木々を凝視しているようであった。
「何かあるんですか?」
ティアンも不思議そうに木々の方向を眺める。そうしてすぐに「あ」と声を上げた。つられて顔を上げると、木陰に隠れるようにして佇む人影を発見した。
「……ニック?」
目を凝らせば、その人影は間違いなくニックであった。またセドリックのことを追いかけているのか。
セドリックは、ニックに追いかけ回されているにも関わらず長年それを放置している。面と向かってニックに文句を言って、そこから騒動に発展するのが嫌なのだ。極力面倒を避けるセドリックらしい対処法である。対処というか、単なる放置だけど。
だが、本日のセドリックはなにやら違う。じっとニックの姿を凝視して、やがて何かを決意するかのように手招きした。これにはティアンが「え」と目を丸くする。騎士であるティアンは、団長であるセドリックと顔を合わせる機会が多い。これまでずっとニックのことを見て見ぬふりをしていたセドリックである。呼び寄せたことが衝撃らしい。
それはニックも同様だったようだ。
そろそろと木陰から出てきたニックは、警戒心をあらわにした顔で徐々に距離を詰めてきた。
「なんですか、団長」
向き合うセドリックとニックに、俺とティアンもこっそり息を呑む。緊張漂う空気に、自然と拳を握ってしまう。
「私を追いかけまわすのはやめてくれないか」
ついに言ったよ。言っちゃったよ。
セドリックとしても我慢の限界にきたのだろう。はっきりと発せられた言葉に、ニックが一体どういう反応を返すのか。
静かに見守っていると、眉間に力を入れたニックが力強くセドリックを見据えた。
「嫌です」
シンプルな拒絶に、俺たちはただただ見守ることしかできなかった。
944
お気に入りに追加
3,003
あなたにおすすめの小説
悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!
梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!?
【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】
▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。
▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。
▼毎日18時投稿予定
主人公のライバルポジにいるようなので、主人公のカッコ可愛さを特等席で愛でたいと思います。
小鷹けい
BL
以前、なろうサイトさまに途中まであげて、結局書きかけのまま放置していたものになります(アカウントごと削除済み)タイトルさえもうろ覚え。
そのうち続きを書くぞ、の意気込みついでに数話分投稿させていただきます。
先輩×後輩
攻略キャラ×当て馬キャラ
総受けではありません。
嫌われ→からの溺愛。こちらも面倒くさい拗らせ攻めです。
ある日、目が覚めたら大好きだったBLゲームの当て馬キャラになっていた。死んだ覚えはないが、そのキャラクターとして生きてきた期間の記憶もある。
だけど、ここでひとつ問題が……。『おれ』の推し、『僕』が今まで嫌がらせし続けてきた、このゲームの主人公キャラなんだよね……。
え、イジめなきゃダメなの??死ぬほど嫌なんだけど。絶対嫌でしょ……。
でも、主人公が攻略キャラとBLしてるところはなんとしても見たい!!ひっそりと。なんなら近くで見たい!!
……って、なったライバルポジとして生きることになった『おれ(僕)』が、主人公と仲良くしつつ、攻略キャラを巻き込んでひっそり推し活する……みたいな話です。
本来なら当て馬キャラとして冷たくあしらわれ、手酷くフラれるはずの『ハルカ先輩』から、バグなのかなんなのか徐々に距離を詰めてこられて戸惑いまくる当て馬の話。
こちらは、ゆるゆる不定期更新になります。
平凡なSubの俺はスパダリDomに愛されて幸せです
おもち
BL
スパダリDom(いつもの)× 平凡Sub(いつもの)
BDSM要素はほぼ無し。
甘やかすのが好きなDomが好きなので、安定にイチャイチャ溺愛しています。
順次スケベパートも追加していきます
氷の華を溶かしたら
こむぎダック
BL
ラリス王国。
男女問わず、子供を産む事ができる世界。
前世の記憶を残したまま、転生を繰り返して来たキャニス。何度生まれ変わっても、誰からも愛されず、裏切られることに疲れ切ってしまったキャニスは、今世では、誰も愛さず何も期待しないと心に決め、笑わない氷華の貴公子と言われる様になった。
ラリス王国の第一王子ナリウスの婚約者として、王子妃教育を受けて居たが、手癖の悪い第一王子から、冷たい態度を取られ続け、とうとう婚約破棄に。
そして、密かにキャニスに、想いを寄せて居た第二王子カリストが、キャニスへの贖罪と初恋を実らせる為に奔走し始める。
その頃、母国の騒ぎから逃れ、隣国に滞在していたキャニスは、隣国の王子シェルビーからの熱烈な求愛を受けることに。
初恋を拗らせたカリストとシェルビー。
キャニスの氷った心を溶かす事ができるのは、どちらか?
そばにいてほしい。
15
BL
僕の恋人には、幼馴染がいる。
そんな幼馴染が彼はよっぽど大切らしい。
──だけど、今日だけは僕のそばにいて欲しかった。
幼馴染を優先する攻め×口に出せない受け
安心してください、ハピエンです。
もう人気者とは付き合っていられません
花果唯
BL
僕の恋人は頭も良くて、顔も良くておまけに優しい。
モテるのは当然だ。でも――。
『たまには二人だけで過ごしたい』
そう願うのは、贅沢なのだろうか。
いや、そんな人を好きになった僕の方が間違っていたのだ。
「好きなのは君だ」なんて言葉に縋って耐えてきたけど、それが間違いだったってことに、ようやく気がついた。さようなら。
ちょうど生徒会の補佐をしないかと誘われたし、そっちの方に専念します。
生徒会長が格好いいから見ていて癒やされるし、一石二鳥です。
※ライトBL学園モノ ※2024再公開・改稿中
総長の彼氏が俺にだけ優しい
桜子あんこ
BL
ビビりな俺が付き合っている彼氏は、
関東で最強の暴走族の総長。
みんなからは恐れられ冷酷で悪魔と噂されるそんな俺の彼氏は何故か俺にだけ甘々で優しい。
そんな日常を描いた話である。
なんで俺の周りはイケメン高身長が多いんだ!!!!
柑橘
BL
王道詰め合わせ。
ジャンルをお確かめの上お進み下さい。
7/7以降、サブストーリー(土谷虹の隣は決まってる!!!!)を公開しました!!読んでいただけると嬉しいです!
※目線が度々変わります。
※登場人物の紹介が途中から増えるかもです。
※火曜日20:00
金曜日19:00
日曜日17:00更新
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる