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16歳

525 ついに言ったよ

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「俺は先に行く」
「もう? ブルース兄様。パーティーは明後日だよ。いくら楽しみだからって今から行くのは早過ぎない?」
「仕事だ、仕事! 誰があんな妙な催し物を楽しみにしているっていうんだ」

 妙な催し物て。

 エリックにより突然の開催が宣言されたパーティーが明後日に迫った日。

 朝から忙しそうにしていたブルース兄様を不思議に思って追いかければ、そんな不機嫌そうな言葉が返ってきた。

 なんでも王宮内の警備やら何やらで人手がいるから加勢に来いとエリックから言われたらしい。直前になって何を慌ただしく準備しているのかとブルース兄様が怒っていた。

 エリックはちょっと自己中な部分もある。今回だって当然のようにブルース兄様の助けを期待している。これがオーガス兄様だったら「知らないよ!」と冷たく切り捨てただろうに。

 ブルース兄様は目上の人を敬うことが好きなので。たとえ相手がどんな無茶振りをしてきたとしても、文句を言いつつきちんと頼まれ事をこなしてしまう。そんなんだからエリックの我儘がエスカレートするんだと思うけど。

 今から行って当日まで王宮に泊まり込むという。副団長であるロニーを中心とした騎士の一部も引き連れていくらしい。ヴィアン家のことは団長であるセドリックに任せると言っていた。

 ぶつぶつと不満をこぼしつつもテキパキ準備を進めたブルース兄様は、颯爽と出かけて行った。「留守は任せたぞ」と言い置く兄様に「任せておけ!」と胸を叩いておいた。

 というわけで。
 ブルース兄様不在の屋敷を任された俺は、張り切って屋敷を見回ってみる。背後をついてくるティアンが「そんなに張り切らなくても」と苦笑している。

「セドリックには任せておけないから」
「大丈夫ですよ。ああ見えて仕事はきちんとやる人ですから」

 それはそうだけど。
 俺のイメージするセドリックはどんな時でも極力動かないようにと変な方向に努力している。団長になって俺の知らない間に改善したのだろうか。セドリックが団長になってから特にこれといった大きな騒ぎは生じていない。ティアンの言うように、案外大丈夫なのかもしれない。

 だが、俺は暇を持て余していたのでセドリックのもとを訪れてみようと思う。シャノンは俺が突然来なくなったことをどう思っているのだろうか。せめて最後に挨拶くらいしておきたかったのだが、カル先生が反対した。ユリスがよほどまずい対応をしたに違いない。

「セドリック? なにしてんの?」

 早足に騎士棟へと突撃する。
 あっさり発見できたセドリックは、訓練場のど真ん中でひとり立ち尽くしていた。いや、マジでなにをしているの?

 ティアンもちょっと引いている。訓練も終わり誰もいない訓練場である。いくら面倒くさがりのセドリックとはいえ、まさか訓練終わりに帰るのが面倒になって突っ立っているわけでもあるまい。

「セドリック?」

 近寄って袖を引けば、ようやく彼が動いた。ほんの僅かに眉を寄せた彼は、何やら訓練場から見える木々を凝視しているようであった。

「何かあるんですか?」

 ティアンも不思議そうに木々の方向を眺める。そうしてすぐに「あ」と声を上げた。つられて顔を上げると、木陰に隠れるようにして佇む人影を発見した。

「……ニック?」

 目を凝らせば、その人影は間違いなくニックであった。またセドリックのことを追いかけているのか。

 セドリックは、ニックに追いかけ回されているにも関わらず長年それを放置している。面と向かってニックに文句を言って、そこから騒動に発展するのが嫌なのだ。極力面倒を避けるセドリックらしい対処法である。対処というか、単なる放置だけど。

 だが、本日のセドリックはなにやら違う。じっとニックの姿を凝視して、やがて何かを決意するかのように手招きした。これにはティアンが「え」と目を丸くする。騎士であるティアンは、団長であるセドリックと顔を合わせる機会が多い。これまでずっとニックのことを見て見ぬふりをしていたセドリックである。呼び寄せたことが衝撃らしい。

 それはニックも同様だったようだ。
 そろそろと木陰から出てきたニックは、警戒心をあらわにした顔で徐々に距離を詰めてきた。

「なんですか、団長」

 向き合うセドリックとニックに、俺とティアンもこっそり息を呑む。緊張漂う空気に、自然と拳を握ってしまう。

「私を追いかけまわすのはやめてくれないか」

 ついに言ったよ。言っちゃったよ。

 セドリックとしても我慢の限界にきたのだろう。はっきりと発せられた言葉に、ニックが一体どういう反応を返すのか。

 静かに見守っていると、眉間に力を入れたニックが力強くセドリックを見据えた。

「嫌です」

 シンプルな拒絶に、俺たちはただただ見守ることしかできなかった。
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